精霊術師の異世界旅 更新休止   作:孤独なバカ

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清水

終戦後場所は町外れに移しており、この場にいるのは、先生と生徒達の他、護衛隊の騎士達と町の重鎮達が幾人か、それにウィルと俺達だけである。流石に、町中に今回の襲撃の首謀者を連れて行っては、騒ぎが大きくなり過ぎるだろうし、そうなれば対話も難しいだろうという理由だ。町の残った重鎮達が、現在、事後処理に東奔西走している。

首謀者であった清水はハジメの魔力駆動二輪で引き摺られてきたのでハナが回復魔法をかけた後に話し合いが行われることになっていた。

そして目覚めるとボーっとした目で周囲を見渡し、自分の置かれている状況を理解したのか、ハッとなって上体を起こす。咄嗟に、距離を取ろうして立ち上がりかけたのだが、俺が足を電撃で包まれたネットに足をからませていたことよりそれができなかった

 

「清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません……先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんなことをしたのか……どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」

膝立ちで清水に視線を合わせる先生に、清水のギョロ目が動きを止める。そして、視線を逸らして顔を俯かせるとボソボソと聞き取りにくい声で話……というより悪態をつき始めた。

「なぜ? そんな事もわかんないのかよ。だから、どいつもこいつも無能だっつうんだよ。馬鹿にしやがって……勇者、勇者うるさいんだよ。俺の方がずっと上手く出来るのに……気付きもしないで、モブ扱いしやがって……ホント、馬鹿ばっかりだ……だから俺の価値を示してやろうと思っただけだろうが……」

「てめぇ……自分の立場わかってんのかよ! 危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」

「そうよ! 馬鹿なのはアンタの方でしょ!」

「愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」

 

反省どころか、周囲への罵倒と不満を口にする清水に、玉井や園部など生徒達が憤りをあらわにして次々と反論する。その勢いに押されたのか、ますます顔を俯かせ、だんまりを決め込む清水。

 

「とりあえず落ち着け。今話しているのは先生だ。」

 

俺はエレキネットを解除するとクラスメイトが俺を睨む

 

「そう、沢山不満があったのですね……でも、清水君。みんなを見返そうというのなら、なおさら、先生にはわかりません。どうして、町を襲おうとしたのですか? もし、あのまま町が襲われて……多くの人々が亡くなっていたら……多くの魔物を従えるだけならともかく、それでは君の〝価値〟を示せません」

俺は理由は知っているのだが自分の口から話させるために俺は聞き手に回る

「……示せるさ……魔人族になら」

「なっ!?」

 

清水の口から飛び出した言葉に先生のみならず、俺達を除いた、その場の全員が驚愕を表にする。清水は、その様子に満足気な表情となり、聞き取りにくさは相変わらずだが、先程までよりは力の篭った声で話し始めた。

 

「魔物を捕まえに、一人で北の山脈地帯に行ったんだ。その時、俺は一人の魔人族と出会った。最初は、もちろん警戒したけどな……その魔人族は、俺との話しを望んだ。そして、わかってくれたのさ。俺の本当の価値ってやつを。だから俺は、そいつと……魔人族側と契約したんだよ」

「契約……ですか? それは、どのような?」

 

戦争の相手である魔人族とつながっていたという事実に愛子は動揺しながらも、きっとその魔人族が自分の生徒を誑かしたのだとフツフツと湧き上がる怒りを抑えながら聞き返す。

そんな先生に、一体何がおかしいのかニヤニヤしながら清水が衝撃の言葉を口にする。

 

「……畑山先生……あんたを殺す事だよ」 

「……え?」

 

すると予想通りの言葉が返ってくる

 

「何だよ、その間抜面。自分が魔人族から目を付けられていないとでも思ったのか? ある意味、勇者より厄介な存在を魔人族が放っておくわけないだろ……〝豊穣の女神〟……あんたを町の住人ごと殺せば、俺は、魔人族側の〝勇者〟として招かれる。そういう契約だった。俺の能力は素晴らしいってさ。勇者の下で燻っているのは勿体無いってさ。やっぱり、分かるやつには分かるんだよ。実際、超強い魔物も貸してくれたし、それで、想像以上の軍勢も作れたし……だから、だから絶対、あんたを殺せると思ったのに! 何だよ! 何なんだよっ! 何で、六万の軍勢が負けるんだよ! 何で異世界にあんな兵器があるんだよっ! お前は、お前は一体何なんだよっ!」

「……」

 

醜いな醜くてそして汚い

文句をハジメや俺にしても俺は知らん顔でハジメは厨二とか言われているのをユエに慰めている

 

「清水君。落ち着いて下さい」

「な、なんだよっ! 離せよっ!」

 

突然触れられたことにビクッとして、咄嗟に振り払おうとする清水だったが、先生は決して離さないと云わんばかりに更に力を込めてギュッと握り締める。清水は、先生の真剣な眼差しと視線を合わせることが出来ないのか、徐々に落ち着きを取り戻しつつも再び俯き、前髪で表情を隠した。

 

「清水君……君の気持ちはよく分かりました。〝特別〟でありたい。そう思う君の気持ちは間違ってなどいません。人として自然な望みです。そして、君ならきっと〝特別〟になれます。だって、方法は間違えたけれど、これだけの事が実際にできるのですから……でも、魔人族側には行ってはいけません。君の話してくれたその魔人族の方は、そんな君の思いを利用したのです。そんな人に、先生は、大事な生徒を預けるつもりは一切ありません……清水君。もう一度やり直しましょう? みんなには戦って欲しくはありませんが、清水君が望むなら、先生は応援します。君なら絶対、天之河君達とも肩を並べて戦えます。そして、いつか、みんなで日本に帰る方法を見つけ出して、一緒に帰りましょう?」

 

 清水は、先生の話しを黙って聞きながら、何時しか肩を震わせていた。生徒達も護衛隊の騎士達も、清水が先生の言葉に心を震わせ泣いているのだと思った。実は、クラス一涙脆いと評判の園部優花が、既に涙ぐんで二人の様子を見つめている。しかし俺は急に悪寒に襲われる

 

「先生。避けろ。」

「えっ。」

 

俺は先生の手を掴もうとするも距離が離れていたこともあり清水が針を引き抜き先生を人質に取る方が早かった

 

「動くなぁ! ぶっ刺すぞぉ!」

 

俺は軽く舌打ちしてしまう。直感の技能が発動したのだが間に合わなかった

 

「いいかぁ、この針は北の山脈の魔物から採った毒針だっ! 刺せば数分も持たずに苦しんで死ぬぞ! わかったら、全員、武器を捨てて手を上げろ!」

「……パパ。多分ユリヤドレ。」

 

今まで後ろに隠れていたハナが針の正体を答える

ユリヤドレ。植物性の魔物で即死性の毒針を使ってモンスターを捕食する生物

 

「……一応回復はできるか?」

「毒物ならエリクサーならできるよ。でも私じゃ毒は分解できない。」

「ん。別に責めてないから大丈夫だ。」

 

つまりハナは損傷は治せるけど毒は治せないと思っていいだろう。

 

「いや、お前、殺されたくなかったらって……そもそも、先生殺さないと魔人族側行けないんだから、どっちにしろ殺すんだろ? じゃあ、渡し損じゃねぇか」

「うるさい、うるさい、うるさい! いいから黙って全部渡しやがれ! お前らみたいな馬鹿どもは俺の言うこと聞いてればいいんだよぉ! そ、そうだ、へへ、おい、お前のその奴隷も貰ってやるよ。そいつに持ってこさせろ!」

 

冷静に返されて、更に喚き散らす清水。追い詰められすぎて、既に正常な判断が出来なくなっているらしい。

ハジメと目を合う

どうする?

俺は首を横に振り打つ手なしと答えるとハジメは下に目を向ける

なるほど銃を使うのか

俺は頷きハジメの手が下がり始めたその瞬間、事態は急変する。

 

「ッ!? ダメです! 避けて!」

 

そう叫びながら、シアは、先生に飛びかかった。

突然の事態に、清水が咄嗟に針を先生に突き刺そうとする。シアが無理やり先生を引き剥がし何かから庇うように身を捻ったのと、蒼色の水流が、清水の胸を貫通して、ついさっきまで先生の頭があった場所をレーザーの如く通過したのはほぼ同時だった。

 

「ちっ。破水。」

 

俺は瞬時で魔法を構築し放つけど感触はない。

つまりこれは俺では当てられないのであろう

 

「ハナ。シアの治療を。」

「う、うん。」

「ま、待ってください。……健太さん……私は……大丈夫……です……は、早く、先生さんを……毒針が掠っていて……」

「……っ。ハナはそのままシアの治療を。一応。」

 

俺はエリクサーを二つ取り出し1本ハナに投げる

 

「う、うん。」

「先生。」

 

見れば、愛子の表情は真っ青になっており、手足が痙攣し始めている。先生、ハナとの会話が聞こえていたのか、必死で首を振り視線でシアを先にと訴えていた。言葉にしないのは、毒素が回っていて既に話せないのだろう。もって数分、いや、先生の様子からすれば一分も持たないようだ。遅れれば遅れるほど障害も残るかもしれない。

周りのものが叫ぶが関係ないユエから先生を受け取るとエリクサーのピンを開け少しずつ流し込む。シアの方はハナに任せれば絶対に助かると断言ができるから任せたが先生はシアを優先しなかったのを咎めるような眼差しをしている。だから問答無用でエリクサーを流し込むが愛子の体は全体が痙攣を始めており思った通りに体が動かないようで、自分では上手く飲み込めないようだ。しまいには、気管に入ったようで激しくむせて吐き出してしまう。

時間がないのが分かりきっていたので迷いもなく俺の口にエリクサーを含み口移しで飲ませるしかなかった。

もう必死で周りの声はもう全て聞こえずに、ただ必死で。

舌を侵入させるとその舌を絡めとり、無理やりエリクサーを流し込んでいく。

するとコクコクと飲み込む音が聞こえるとすると先生の顔色は少しずつであるが、良くなっているのを見た俺は離れる

 

「……一応これで大丈夫だと思う。神水みたいにすぐってわけにはいかないけど精霊族お手製のエリクサーだ。1分もあれば話せるようになると思う。」

 

俺はそういうとハナも戻ってくる

 

「シアお姉ちゃんの治療も終わったよ。すぐに元気になると思う。」

「……そうか。」

「……ケン。ハナ。ありがとう。シアを助けてくれて。」

 

するとユエが頭を下げる。

回復魔法を使い完全に完治したシアはなぜが膨れていたが俺とハナに頭を下げていた

すると顔色は完全に元に戻っている先生の方を見る

 

「先生?大丈夫か?」

「……」

「先生?」

「……。」

「……いい加減起きろ。」

「ふぇっ。」

 

俺はチョップを先生の脳天に放つと結構強めにやったおかげか正気に取り戻したらしい。

 

「大丈夫か?体に異常は?」

「へ? あ、えっと、その、あの、だだ、だ、大丈夫ですよ。違和感はありません、むしろ気持ちいいくらいで……って、い、今のは違います! 決して、その、あ、ああれが気持ち良かったということではなく、薬の効果がry」

「……先生何いっているの?」

 

俺はキョトンとしているのだが非常にテンパった様子で、しどろもどろになりながら体調に異常はないことは分かった。

すると慌てたようにハジメも戻ってくる

 

「シアは?」

「ハナが治療した。一応跡も残らないって。」

 

するとドヤ顔でハジメを見るハナに少し驚いていたが

 

「ありがとな。」

 

柔らかい笑顔でそう答える。なんというか昔のハジメをみているみたいだな

 

「そういえば魔人族は?」

「悪い。逃げられた。」

「まぁ、俺も完全に忘れてたからな。」

 

俺もほおを掻いてしまう。

するとハジメは、一番清水に近い場所にいた護衛騎士の一人に声をかけた。

 

「……あんた、清水はまだ生きているか?」

 

その言葉に全員が「あっ」と今思い出したような表情をして清水の倒れている場所を振り返った。先生だけが、「えっ? えっ?」と困惑したように表情をしてキョロキョロするが、自分がシアに庇われた時の状況を思い出したのだろう。顔色を変え、慌てた様子で先生がいた場所に駆け寄る。

 

「清水君! ああ、こんな……ひどい」

 

清水の胸にはシアと同じサイズの穴がポッカリと空いていた。出血が激しく、大きな血溜まりが出来ている……おそらく、もって数分だろう。

 

「し、死にだくない……だ、だずけ……こんなはずじゃ……ウソだ……ありえない……」

 

傍らで自分の手を握る先生に、話しかけているのか、唯の独り言なのかわからない言葉をブツブツと呟く清水。先生は、周囲に助けを求めるような目を向けるが誰もがスっと目を逸らした。既に、どうしようもないということだろう。それに、助けたいと思っていないことが、ありありと表情に出ている。

先生は、藁にもすがる思いで振り返り、そこにいる俺に叫んだ。

 

「渋谷君! さっきの薬を! 今ならまだ! お願いします!」

「……」

 

俺は表情に嫌って顔が出ていたのだろうするとハジメが呆れたように言う

 

「助けたいのか、先生? 自分を殺そうとした相手だぞ? いくら何でも〝先生〟の域を超えていると思うけどな」

 

自分を殺そうとした相手を、なお生徒だからと言う理由だけで庇うことのできる、必死になれる〝先生〟というものが、果たして何人いるのだろうか。それは、もう〝先生〟としても異常なレベルだと言えるのではないだろうか。そんな意味を含めて愛子にした質問の意図を先生は正確に読み取ったようで、一瞬、瞳が揺らいだものの、毅然とした表情で答えた。

 

「確かに、そうかもしれません。いえ、きっとそうなのでしょう。でも、私がそういう先生でありたいのです。何があっても生徒の味方、そう誓って先生になったのです。だから……」

 

俺は多分そういうと思っていたのでエリクサーを取り出す

でも、

 

「一つだけ聞きたいことがある。」

「……」

「お前は助かった後どうする?」

 

清水は、卑屈な笑みを浮かべて、命乞いを始めた。

 

「お、俺、どうかしてた……もう、しない……何でもする……助けてくれたら、あ、あんたの為に軍隊だって……作って……女だって洗脳して……ち、誓うよ……あんたに忠誠を誓う……何でもするから……助けて……」

「……はぁ。」

 

こりゃダメだ。本当にダメだ。

救いようがなさすぎる。

 

「……先生ごめん。」

 

俺は呟くともうどうするのかわかったらしい

俺は氷の剣を生成し

 

「ダメェ!」

 

先生の忠告を無視して心臓部に突き刺した。


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