誰も言葉を発せず、そしてほぼ全員が視線を俺に向ける
「……ハジメ。意見はあるか?」
「いや。俺でもそうしている。てかお前は大丈夫なのか。」
「俺はもう何度も山賊を殺してきたからな。最初は吐いたけど今は大丈夫。あんまりいい気分じゃないけど。」
実際クラスメイトを殺したわけだ。……さすがに少しくるものはある
「じゃあどうして。」
先生は呆然と、死出の旅に出た清水の亡骸を見つめながら、そんな疑問の声を出す。先生の瞳には、怒りや悲しみ、疑惑に逃避、あらゆる感情が浮かんでは消え、また浮かんでは消えていく。
「また同じ惨劇が起こる可能性。いや絶対に起こることを俺は見過ごせるほど甘くはない。もうあいつは堕ちていた。……それだけだよ。」
「そんな! 清水君は……」
「先生も分かっているんだろ。」
俺は少し強めに答える。すると先生もおそらく気づいてはいるのだ。
最後の質問をしたときの清水の目は、何より雄弁に清水が〝堕ちている〟ことを物語っていた。死の淵で、殺そうとした先生になお心を向けられて、あるいは生き方が少しでも変わるのではないかって。もしそうなら、チャンスを与える事も考えていた。しかし、死に際の清水の目に、そんな兆しは微塵もなかった。
だから黙り混んでしまう。
「……俺にだって優先順位があるんだ。……どんな理由を並べても、先生が納得しないことは分かる。俺は、先生の大事な生徒を殺したからな。」
「……」
「でも殺すしかなかった。誰に何を言われようが俺はあの選択が間違っているとは思わない。」
俺はそういうと背中を向ける
「……ハジメ。」
「あぁ。先入ってろ。ウィル。ケンに付いて行ってくれ。」
「は、はい。」
ハジメは魔力駆動四輪を取り出し俺はその後部座席に乗る
手に未だに肉を切った感触が残り、手にはついてもいないのに血がついたように感じる
「パパ。」
「ん。」
俺はハナを抱きしめると少し顔を歪める
「……」
この感触だけは忘れてはいけない。そう心に刻みながら。
「……あの、本当にあのままでよかったのですか? 話すべきことがあったのでは……特に愛子殿には……」
ハジメは振り向かないまま、気のない返事をする。
「ん~? 別に、あれでいいんだよ。あれ以上、あそこにいても面倒なことにしかならないだろうし……先生も今は俺たちがいない方がいい決断が出来るだろうしな」
「……それは、そうかもしれませんが……」
「お前……ホント人がいいというか何というか……他人の事で心配し過ぎだろ?」
「お前それ褒めているわけではないよな。まぁ確かにお人好しが過ぎると思うけど。」
「……いい人」
「お兄ちゃんはいい人です。」
「いい人ですねぇ~」
「うむ、いい奴じゃな」
ウィルは、一斉に送られた言葉に複雑な表情だ。褒められている気はするのだが、女性からの〝いい人〟というのは男としては何とも微妙な評価だ。
「わ、私の事はいいのです……私は、きちんと理由を説明すべきだったのではと、そう言いたいだけで……」
「理由?」
ハナが不思議と首を傾げる
「ええ。なぜ、愛子殿とわだかまりを残すかもしれないのに、清水という少年を殺したのか……その理由です」
「……言っただろ。殺さないと惨劇がおこるからって。」
「それは、彼を〝助けない〟理由にはなっても〝殺す〟理由にはなりませんよね? だって、彼はあの時、既に致命傷を負っていて、放って置いても数分の命だったのですから……わざわざ殺したのには理由があるのですよね?」
「……意外によく見ているんだな」
ハジメは気づいているのか少し苦笑している
「……お前は自分を犠牲にしすぎだ。」
「……うっせぇ。」
「どういうことですか?」
「要は、先生が清水の死に責任を感じないように意識を逸らしたんだよ。」
シアの問いにハジメが答える
「清水は言っていた。自分が出会った魔人族の目的は、〝豊穣の女神〟である先生の殺害であると。それは取りも直さず、先生を殺すために清水を利用したということだ。最後のあの攻撃も。」
「あっ先生を殺すために。」
「もちろん、清水の死に対して先生が負うべき責任などない。清水は自分の意志と欲望のために魔人族に魂を売り渡し、その結果が自身の死だったというだけの話だ。自らの選択の結果である以上、その責任は清水自身が負うべきものであるし、そうでなくても、直接清水に致命傷を与えた例の魔人族に責任はあるというべきである。先生は責任感が強く何時でも生徒の事を一番に考えている愛子のことだ。自分に巻き込まれて清水は死んだ。すなわち、自分のせいで清水は死んだと考えたんだろ?」
「……お前エスパーかよ。」
「お前がやらなきゃ俺がやっていたからな。」
すると俺はキョトンとハジメの方を見る
そして俺はため息を吐く
「似た者同士ってわけか。」
「そういうことだ。」
「まぁ、他にも理由があるけどな。」
「……他にもか?」
そっちは気づかなかったのか。
「……先生の努力を無駄にしないためだよ。先生曰く今先生の護衛に回っている生徒、王都でトラウマになっている居残り組に後迷宮組がいるらしいんだよ。」
「あぁ。……ってそういうことか。」
「……どういうこと?」
「つまり教会が清水を裏切りの見せしめに殺すことを阻止したかったんだろ?」
「「「なっ。」」」
驚いたようにしている4人に俺は続きを話す
「あぁ。特に王都でトラウマになっている生徒には効果的だろうな。自分が教会の役に立たないと清水みたいになるって思わせることによって前線の参加を圧迫させる。それに一度それは前科があるからな。」
「……なるほど。私等じゃのう。」
ティオの言葉に頷く
「そういうことだ。見せしめを作ることによって活動を促す。絆を強くさせるのはよくあるてだ。」
「お前よくそんなこと思いつくよな。」
唖然と俺を見るハジメ。
「まぁ、どっちにしろ、先生を傷つけたことは変わりはないけど。」
「……でも、愛子は気がつくと思う」
「……なんでだ?」
俺はぶっきら棒に聞いてみる
「……愛子は、ハジメの先生。ハジメの心に残る言葉を贈れる人。なら、気がつかないはずがない……」
「……ユエ」
「……大丈夫。愛子は強い人。ハジメが望まない結果には、きっとならない」
「……俺じゃなくてハジメの信頼なんだな。」
俺は少し苦笑してしまう
「はぁ~、また二人の世界作ってます……何時になったら私もあんな雰囲気を作れるようになるのでしょう……」
「こ、これは、何とも……口の中が何だか甘く感じますね……」
「むぅ~妾は、罵ってもらう方が好みなのだが……ああいうのも悪くないのぉ……」
「パパファイトなの。」
ハナしか慰められないってなんか居心地悪いけど
「……はぁ。まぁ終わったことは仕方ない切り替えますか!!」
俺は頭を振りすぐさま思考を切り替える
「……シア。その、何だ、今回は助かった。遅くなったが……ありがとな」
「……………………誰?」
ハジメ多少照れくさくとも我慢して礼を言った結果、返ってきたのは驚愕の表情とそんな言葉だった。ハジメの額に青筋が浮かぶが、自業自得と言えばそれまでなので我慢する。
「……まぁ、そういう態度を取られても仕方ないかとは思うがな……これでも、今回は割りかしマジで感謝してるんだぞ?」
「てか元々お礼はきちんと言える奴だからなハジメは。」
「そういえばお前もシアを助けてくれてありがとな。」
「いや、仲間だしそりゃ助けるだろ。別にいい。」
「え、えっと、いえ、そんな、別に大した事ないと言いますか、そんなお礼を言われる程の事ではないといいますか、も、もう! 何ですか、いきなり。何だか、物凄く照れくさいじゃないですか………………えへへ」
てれてれと恥ずかしげに身をくねらせるシアに、ハジメは苦笑いしながらを尋ねる。
「シア。少し気になったんだが……どうしてあの時、迷わず飛び込んだんだ? 先生とは、大して話してないだろ? 身を挺するほど仲良くなっていたとは思えないんだが……」
「それは……だって、ハジメさんが気にかける人ですから」
「……それだけか」
「? ……はい、それだけですけど?」
「……そうか」
居心地悪いなぁ。すぐ甘ったるい空気を作ることに苦笑してしまう
「シア。何かして欲しい事はあるか?」
「へ? して欲しい事……ですか?」
「ああ。礼というか、ご褒美と言うか……まぁ、そんな感じだ。もちろん出来る範囲でな?」
いきなりの言葉に、少し困惑するシア。仲間として当然の事をしたと考えていたので、少々大げさではないかと思う。「う、う~ん」と唸りながら、何気なく隣のユエを見ると、ユエは優しげな表情でシアを見つめ、コクリと頷いた。ユエは、ハジメの感謝の気持ちなのだと視線で教え、素直に受け取ればいいと促す。それを正確に読み取ったシアは、少し考えた後、にへら~と笑い、ユエに笑みを浮かべて頷くとハジメに視線を転じた。なんか嫌な予感がするからハナの耳を塞いでおこう
「では、私の初めてをもらっ『却下だ』……なぜです? どう考えても、遂にデレ期キター!! の瞬間ですよね? そうですよね? 空気読んで下さいよ!」
「〝出来る範囲で〟と、そう言っただろうが」
「十分出来る範囲でしょう! さり気なく私を遠ざけてユエさんとはしてるくせに! 知っているのですからね! お二人の情事を知るたびに胸に去来する虚しさときたら! うぅ、フューレンに着いたら、また私だけお使いにでも行かせて、その隙に愛し合うんでしょ? ぐすっ、また、私だけ……一人ぼっちで時間を潰すんですね……ツヤツヤしているユエさんを見て見ぬふりしなきゃなんですね……ちくしょうですぅ……」
「いや、おまっ、何も泣かなくても……俺が惚れているのはユエなんだから、お前の事は、まぁ、大事な仲間だとは思うが恋情はなぁ……そんな相手を抱くっつうのは……」
「……ぐすっ……ハジメさんのヘタレ!」
「……おい」
「根性なし! 内面乙女のカマ野郎! 甲斐性なし! ムッツリスケベ!」
「……とりあえずシア。できれば下ネタ系はここでは言わないでくれないか?ここハナがいるから。」
「「「……あっ。」」」
すると俺はなんで耳を塞ぐのって聞いてくるハナに俺はなんでもないって言って頭を撫でる
「ご、ごめんなさい。」
「本当に頼む。俺も結構気を使っているんだから。」
「シア。もうちょいハードルを下げろ。それ以外なら……」
「……ハジメ、ダメ?」
何故かユエから援護射撃が来る。シアは、「ユエさぁ~ん」と情けない声を上げながらヒシッとユエに抱きついた。明らかに、ユエは、ハジメがシアを抱くことを容認しているようだ。
「……俺が、心から欲しいと思うのは、ユエ、お前だけなんだ。シアの事は嫌いじゃないし、仲間としては大事にしたいとは思うが……ユエと同列に扱うつもりはない。俺はな、ユエに対して独占欲を持ってる。どんな理由があろうと、他の男が傍にいるなんて許容出来そうにない。心が狭いと思うかもしれないし、勝手だとも思うかもしれないが……ユエも同じように思ってくれたらと、そう思う。だから、例え相手がシアでも、他の女との関係を勧めるというのは勘弁してくれないか?」
「……ハジメ」
「……はぁ。今はシアの話だろ。二人の世界に入るなよ。」
俺は忠告する
「……なるほど、お三人の関係が何となく分かってきました……シア殿は大変ですね」
「むぅ……ユエとの絆が深いのぅ……割り込むのは大変そうじゃが……まぁ、妾は罵って貰えればそれだけでも……」
「パパ。ティオさんは?」
「ほっとけ。見たらいけない。」
ウィルがハジメ達三人の関係を察しつつ砂糖を吐きそうな表情をする。恐らく俺もそんな顔をしているだろう
「……ハジメ、ごめんなさい。でも、シアも大切……報いて欲しいと思う。だから、町で一日付き合うくらいは……ダメ?」
「ユエさぁ~ん」
なお、ハジメにシアの事を頼むユエ。シアは、頭を撫でながら心を砕いてくれるユエに甘えるようにグリグリと顔を押し付ける。ハジメは、その様子を見て苦笑いしながら答えた。
「別に、それくらい頼まれなくても構わないさ。というか、ユエに頼まれたからってんじゃシアも微妙だろ? シアが頼むなら、それくらいは付き合うよ」
「ハジメさん……いえ、なりふり構っていられないので、既成事実が作れれば何だっていいんですけどね!」
「……ホントお前って奴は……」
「まぁ、まだそれは無理そうなので、取り敢えず好感度稼ぎにデートで我慢します。フューレンに着いたら、観光区に連れて行って下さいね?」
「ああ、わかったよ」
暗に、特別はユエだけだと改めて伝えたつもりなのだが、おそらく分かっていながら全くめげないシアに複雑な表情をしつつも、「まぁ、シアの好きにしたらいいか」とデートの申し込みを了承するハジメ。ハジメ自身、既にシアが大切な存在であることに変わりないのでだろう。ユエに頼まれたから仕方なくではなく、今回の頑張りに報いようと本心から了承した。傍らのユエが、優しげな表情で「わ~い!」と喜びを表にするシアの頭をなでなでする。
「パパ。私も観光区に行ってみたい!!」
「……ん?」
「私も行きたい。パパも気分転換で一緒に遊ぼうよ。」
「……ん〜でも買い物が。」
「それなら私がやっておく。」
するとユエがそんなことを言い出す。
「いいのか?」
「……うん。二人にはシアを助けてもらった、だから。」
「……仲間だから遠慮しないでいいのに。まぁお言葉に甘えさせてもらうってうぉ。」
すると荷台と車内をつなぐ窓から頭だけ車内に入れて、先程からちょくちょく会話に参加してくるティオがいた
「怖すぎだろこれ。」
俺の言葉に全員が頷く
「それとハジメ。ティオは連れていくことは俺が許可したから。」
「「「は?」」」
「いや。ここシア以外に前衛いないだろ?ティオの耐久力は見ての通りだし、肉壁くらいにはなる。精神対抗も寝てなければ多分俺でも通すことは不可能だし、何よりも。」
俺は呆れてはぁはぁしているティオをみて
「竜人族をあぁした責任くらい取れ。」
「……」
「確かに。」
「……自業自得。」
全員に囲まれてついに四面楚歌になったハジメは嫌々ながらティオの加入を認めるのだった。