「ヒャッハー! ですぅ!」
左側のライセン大峡谷と右側の雄大な草原に挟まれながら、魔力駆動二輪と四輪が太陽を背に西へと疾走する。街道の砂埃を巻き上げながら、それでも道に沿って進む四輪と異なり、二輪の方は、峡谷側の荒地や草原を行ったり来たりしながらご機嫌な様子で爆走していた。
「……シアのやつご機嫌だな。世紀末な野郎みたいな雄叫び上げやがって」
「……むぅ。ちょっとやってみたいかも」
「まぁ、風は気持ちよさそうだな。…ちょっとうざいけど。」
すると今度はミュウがユエの膝に乗り
「パパ! パパ! ミュウもあれやりたいの!」
シアの方を指差してハジメにおねだりを始めた
「ダメに決まってるだろ」
即答だった。
「……まぁ私たちはそら飛べるからどちらかというならば空の旅の方がいいわね。」
「空気抵抗抑えるために空間魔法必須だけどな。」
「……スースー。」
ついでにハナと紫は俺の肩の上で眠っている
「ミュウ。後で俺が乗せてやるから、それで我慢しろ」
「ふぇ? いいの?」
「ああ。シアと乗るのは断じて許さんが……俺となら構わねぇよ」
「シアお姉ちゃんはダメなの?」
「ああ、絶対ダメだ。見ろよ、あいつ。今度は、ハンドルの上で妙なポーズとりだしたぞ。何故か心に来るものがあるが……あんな危険運転するやつの乗り物に乗るなんて絶対ダメだ」
「安全第一だな。さすがにあれはダメだろ。」
俺はハジメに子供の接し方について教えることになっているのだが、ハジメの親バカっぷりはちょっとだけ異常だ。
「そもそも、二輪は危ないんだから出来れば乗せたくないんだがなぁ……二輪用のチャイルドシートとか作ってみるか? 材料は……ブツブツ」
「ユエお姉ちゃん。パパがブツブツ言ってるの。変なの」
「……ハジメパパは、ミュウが心配……意外に過保護」
「意外じゃないだろ。案外子供とかうさ耳とか普通のものが好きなハジメだし。」
「フフ、ご主人様は意外に子煩悩なのかの? ふむ、このギャップはなかなか……ハァハァ」
「ユエお姉ちゃん。ティオお姉ちゃんがハァハァしてるの」
「……不治の病だから気にしちゃダメ」
「……やっぱ連れてこない方がよかったかなぁ。」
俺はため息をつく
基本的に俺とユエが基本的にストッパーになるのだが、自重をやめないこいつらのフォローはすでに諦めているところである
「「……はぁ。」」
俺とユエの声が重なり、ミュウ専用の座席作りに思いを馳せてブツブツ呟くハジメと、遂に二輪に乗ることすらなく走らせた二輪の後部に捕まって地面を直接滑り始めたシアを見ながら、自分がしっかりしなきゃ! とちょっと虚しい決意をするのだった。
「懐かしいな。」
「あぁ。まだ4ヶ月程度しかたってないのに何年も前のような気がするな。」
「……ハジメ、大丈夫?」
複雑な表情をするハジメの腕にそっと自らの手を添えて心配そうな眼差しを向けるユエ。ハジメは、肩を竦めると、次の瞬間にはいつも通りの雰囲気に戻っていた。
「ああ、問題ない。ちょっとな、えらく濃密な時間を過ごしたもんだと思って感慨に耽っちまった。思えば、ここから始まったんだよなって……緊張と恐怖と若干の自棄を抱いて一晩過ごして、次の日に迷宮に潜って……そして落ちた」
「……」
「普通に学生だったからな。平和な国で育ってきたし、お前はステータスの関係上俺よりも怖かっただろうしな。」
ティオが、興味深げに俺たちに尋ねた。
「ふむ。ご主人様達は、やり直したいとは思わんのか? 元々の仲間がおったのじゃろ? ご主人様の境遇はある程度聞いてはいるが……皆が皆、ご主人様を傷つけたわけではあるまい? 仲の良かったものもいるのではないか?」
すると少し考え始める。俺の意見よりもとりあえずは分かりきっているハジメの意見を知りたい
「確かに、そういう奴等もいたな……でも、もし仮にあの日に戻ったとしても、俺は何度でも同じ道を辿るさ」
「ほぅ、なぜじゃ?」
ハジメの様子を見れば答えは自ずとわかるものだが、ティオは、少し面白そうな表情であえて聞いた。ハジメは、ユエから目を離さないまま、自分を掴むユエの手に自らの反対側の手を重ねて優しく握り締める。ユエの表情が僅かに綻ぶ。頬も少し赤く染まっている。
「もちろん……ユエに会いたいからだ」
「……ハジメ」
インストリートのど真ん中で、突如立ち止まり見つめ合い出すハジメとユエ。周囲のことなど知ったことかと二人の世界を作って、互いの頬に手を伸ばし、今にもキスしそうな雰囲気だ。
「ティオさん、聞きました? そこは、〝お前達に〟っていうところだと思いません? ユエさんオンリーですよ。また、二人の世界作ってますよ。もう、場所も状況もお構いなしですよ。それを傍から見てる私達にどうしろと? いい加減、あの空気を私との間にも作ってくれていいと思うんです。私は、いつでも受け入れ態勢が整っているというのに、いつまで経っても、残念キャラみたいな扱いで……いや、わかっていますよ? ユエさんが特別だということは。私も、元々はお二人の関係に憧れていたからこそ、一緒にいたいと思ったわけですし。だから、ユエさんが特別であることは当然で、それはそうあっていいと思うんですけどね。むしろ、ユエさんを蔑ろにするハジメさんなんてハジメさんじゃないですし。そんな事してユエさんを悲しませたら、むしろ私がハジメさんをぶっ殺す所存ですが。でも、でもですよ? 最近、ちょっとデレてきたなぁ~、そろそろ大人の階段上っちゃうかなぁ~って期待しているのに一向にそんなことにならないわけで、いくらユエさんが特別でも、もうちょっと目を向けてくれてもいいと思いません? 据え膳食わぬは男の恥ですよ。こんなにわかりやすくウェルカムしてるのに、グダグダ言って澄まし顔でスルーして、このヘタレ野郎が! と思ってもバチは当たらないと思うのですよ。私だってイチャイチャしたいのですよ! ベッドの上であんなことやこんなことをして欲しいのですよ! ユエさんがされてたみたいなハードなプレイを私にも! って思うのですよ! そこんとこ変態代表のティオさんはどう思います!?」
「シ、シアよ。お主が鬱憤を溜め込んでおるのはわかったから、少し落ち着くのじゃ。むしろ、公道でとんでもないこと叫んでおるお主の方が注目されとる。というか、最後さりげなく妾を罵りおったな……こんな公の場所で変態扱いされてしもうた、ハァハァ、心なし周囲の妾を見る目が冷たい気がする……ハァハァ、んっんっ」
「……はぁ。」
さすがにメンドくさいので放っておくか
「それでケンはどうなの?」
「俺はやり直すんだったらやり直したいな。」
すると全員がこっちを見る。まさかやり直したいって言葉が出るとは思っても居なかったんだろう。
「さすがに生きるために不死になったんだけど。……これからどんなことがあって身近な人が死んでいくのにそれをただ見ているだけになるっていうのはやっぱりちょっと怖いな。ハナや紫と出会えたって点ではいいところだと思うけど。それでも。八重樫や谷口は無茶しやすいから、少し心配だな。」
実際あの二人は自分がどんだけ怖かろうが前線で居続けるだろう
「お前な少しは自分のこと考えろよ。」
呆れたように俺を見るハジメ
「……お前より俺は結構気を使うんだぞ。そういう家庭でそだってきたものだから仕方ないのかもしれないけど。」
実際俺の家はほぼ俺一人で家事を回していたしな。
「家帰ったらゴミ屋敷になってないかまじで不安だよ。」
「……お前の親ひどいもんな。」
俺の雰囲気でお通夜モードのまま俺たちはギルドへ向かうのだった