精霊術師の異世界旅 更新休止   作:孤独なバカ

25 / 26
魔人族

ようやく冒険者ギルドのホルアド支部に到着した。相変わらずハジメはミュウを肩車したまま、俺はハナを抱っこしながらだったのだが。ハジメはギルドの扉を開ける。他の町のギルドと違って、ホルアド支部の扉は金属製だった。重苦しい音が響き、それが人が入ってきた合図になっているようだ。

俺たちが入ると冒険者の目線が俺たちに集まる。その眼光のあまりの鋭さに、ハジメに肩車されるミュウが「ひぅ!」と悲鳴を上げ、ヒシ! とハジメの頭にしがみついた。

ハナは相変わらずこんな時でも眠っているので大物としか言えないだろう

最近めっきり過保護なパパになりつつあるハジメが、仮とは言え娘を怯えさせられて黙っているわけがなかった。既に、ハジメの額には青筋が深く深~く浮き上がっており、ミュウをなだめる手つきの優しさとは裏腹にその眼は凶悪に釣り上がっていた。

 そして……

 

ドンッ!!

 

そんな音が聞こえてきそうなほど濃密にして巨大かつ凶悪なプレッシャーが、ハジメ達を睨みつけていた冒険者達に情け容赦一切なく叩きつけられた。先程、冒険者達から送られた殺気が、まるで子供の癇癪に思えるほど絶大な圧力。既に物理的な力すらもっていそうなそれは、未熟な冒険者達の意識を瞬時に刈り取り、立ち上がっていた冒険者達の全てを触れることなく再び座席につかせる。

 

「……はぁ。やっぱりこうなった。俺受付してくるからそっちはなんとかしてろ。」

「……ん。」

 

ユエに呟くと頷く

俺は受付嬢のところに行き

 

「すいません。連れが騒ぎにしてしまって。」

「い、いえ。」

 

怯えながら震え声で対応する。

 

「……あの、本当にごめんな。後からちゃんと説教するんで。とりあえず支部長はいる? フューレンのギルド支部長から手紙を預かっているのだけど……本人に直接渡せと言われているから呼んでほしいんだけど。」

 

俺はステータスプレート。もちろんステータス表はギルドの許可も得てごまかせるようになったんだけど。

 

「は、はい。お預かりします。え、えっと、フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですか?」

 

 普通、一介の冒険者がギルド支部長から依頼を受けるなどということはありえないので、少し訝しそうな表情になる受付嬢。しかし、渡されたステータスプレートに表示されている情報を見て目を見開いた。

 

「き〝金〟ランク!?」

「最近なったばかりだから知らなくても気にしないでいいから。とりあえず気楽にね。」

「も、申し訳ありません! 本当に、申し訳ありません!」

「あ~、いや。別にいいから。取り敢えず、支部長に取り次ぎしてくれないか?」

「は、はい! 少々お待ちください!」

 

やがて、と言っても五分も経たないうち、ギルドの奥からズダダダッ! と何者かが猛ダッシュしてくる音が聞こえだした。何事だと、俺達が音の方を注目していると、カウンター横の通路から全身黒装束の少年がズザザザザザーと床を滑りながら猛烈な勢いで飛び出てきて、誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

俺は少し驚いたようにそいつを見る。どこか懐かしく、そしてこんなところで再会するとは思いもしてなかった

 

「「遠藤?」」

 

俺とハジメの呟きに〝!〟と某ダンボール好きな傭兵のゲームに出てくる敵兵のような反応をする黒装束の少年、遠藤浩介は、辺りをキョロキョロと見渡し、それでも目当ての人物が見つからないことに苛立ったように大声を出し始めた。

 

「南雲ぉ!ケン!いるのか!お前なのか!何処なんだ!南雲ぉ!ケン!生きてんなら出てきやがれぇ!」

「……ちょっと不味そうだな。」

 

ユエ達の視線が一斉にハジメの方を向く。ハジメは、未だに自分の名前を大声で連呼する遠藤に、頬をカリカリと掻くとあまり関わりたくないなぁという表情をしながらも声をかけた。

 

「あ~、遠藤? ちゃんと聞こえてるから大声で人の名前を連呼するのは止めてくれ」

「!? 南雲! どこだ!」

 

ハジメの声に反応してグリンッと顔をハジメの方に向ける遠藤。余りに必死な形相に、ハジメは思わずドン引きしている。

 

「よう。遠藤。」

 

俺が声かけるとすると遠藤は俺の方を見る

そして数十秒たって信じられないような顔を見たように俺を見た

 

「……もしかしてケンか?」

「おう。ついでにハジメもそこにいるぞ。」

 

俺は指さすとハジメの方を見る

 

「いや、どこに南雲がいるんだよ。」

「いや、目の前にいるだろうが、ど阿呆。つか、いい加減落ち着けよ。影の薄さランキング生涯世界一位」

「!? また、声が!? ていうか、誰がコンビニの自動ドアすら反応してくれない影が薄いどころか存在自体が薄くて何時か消えそうな男だ! 自動ドアくらい三回に一回はちゃんと開くわ!」

「三回中二回は開かないのか……お前流石だな」

「……てか俺以外誰も遠藤のこと見落とすからな。目の前の白髪眼帯の男がハジメだよ。」

 

遠藤は、まさかという面持ちで声をかけた。

 

「お、お前……お前が南雲……なのか?」

「はぁ……ああ、そうだ。見た目こんなだが、正真正銘南雲ハジメだ」

「久しぶりだな遠藤。俺もハジメも元気だから安心しろ。」

 

俺は笑うとすると嬉しそうに笑う遠藤。まぁ純粋にクラスメイトの生存が嬉しかったんだろう。目には涙が浮かんでいた

 

「……つまり、迷宮の深層から自力で生還できる上に、冒険者の最高ランクを貰えるくらい強いってことだよな? 信じられねぇけど……」

「まぁ、そうだな」

 

 遠藤の真剣な表情でなされた確認に肯定の意をハジメが示すと、遠藤はハジメに飛びかからんばかりの勢いで肩をつかみに掛かり、今まで以上に必死さの滲む声音で、表情を悲痛に歪めながら懇願を始めた。

 

「なら頼む! 一緒に迷宮に潜ってくれ! 早くしないと皆死んじまう! 一人でも多くの戦力が必要なんだ! 健太郎も重吾も死んじまうかもしれないんだ! 頼むよ、南雲!」

「……やっぱりこうなっていたか。」

 

俺はため息を吐く

 

「魔人族だろ?」

「……なんでそれを。」

「生憎先生を殺しにきた不届き者がいてな。紫が殺したらしいんだけど。その時に拷問をして吐かせたんだよ。てかメルド団長がいれば、二度とベヒモスの時みたいな失敗もしないだろうし……」

 

普段目立たない遠藤のあまりに切羽詰った尋常でない様子に、困惑しながら問い返す。すると、遠藤はメルド団長の名が出た瞬間、ひどく暗い表情になって膝から崩れ落ちた。そして、押し殺したような低く澱んだ声でポツリと呟く。

 

「……んだよ」

「は? 聞こえねぇよ。何だって?」

「……死んだって言ったんだ! メルド団長もアランさんも他の皆も! 迷宮に潜ってた騎士は皆死んだ! 俺を逃がすために! 俺のせいで! 死んだんだ! 死んだんだよぉ!」

「……そうか」

「……予想以上にやばいな。」

 

俺は軽くため息を吐く。そして横目にギルド長らしき人が来たのを確認して

 

「とりあえず後は中で話すぞ。ちょうどギルド長が来たらしいし。ハジメもミュウを紫とティオに預けた方がいいだろう。」

「あぁ。そうだな。ティオ。」

「うむ。承知した。」

 

と俺たちはギルドの奥に入っていった

 

 

「さて、ハジメ。イルワからの手紙でお前の事は大体分かっている。随分と大暴れしたようだな?」

「まぁ、全部成り行きだけどな」

 

全ての話を終えた後ロアとハジメは元々の仕事をしていて俺は遠藤の勇者と魔人族の話を聞いていた

 

「手紙には、お前の〝金〟ランクへの昇格に対する賛同要請と、できる限り便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていた。一応、事の概要くらいは俺も掴んではいるんだがな……たった数人で六万近い魔物の殲滅、半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅……にわかには信じられんことばかりだが、イルワの奴が適当なことをわざわざ手紙まで寄越して伝えるとは思えん……もう、お前が実は魔王だと言われても俺は不思議に思わんぞ」

ロアの言葉に、遠藤が大きく目を見開いて驚愕をあらわにする。

「オルクス大迷宮は元々200層くらいからなる大迷宮なんだよ。俺も落下した先は多分150層くらいだと思うし。」

「……そうだったのか。」

「下層になればなるほど強くなるからな。俺も山脈を越えてきたあって一応かなり強いぞ。」

「……」

 

俺は笑うと遠藤は少し乾いた声をあげる

 

「バカ言わないでくれ……魔王だなんて、そこまで弱くないつもりだぞ?」

「ふっ、魔王を雑魚扱いか? 随分な大言を吐くやつだ……だが、それが本当なら俺からの、冒険者ギルドホルアド支部長からの指名依頼を受けて欲しい」

「……勇者達の救出だな?」

「元々そのつもりで来た訳だしな。……んで依頼って形で大丈夫なんだよな?」

「あぁ。それでいい。」

「俺とハジメだけで行くのがベターか。けが人がいるとすればハナも一緒に行くのがこの場合ベストだろうな。力の差を見せつけることができ、さらにこれ以上関わりをなくすことも難しくない。」

「なっ」

「……なるほど。お前が何で勇者救出を押していたのかよく分かった。」

 

ハジメはため息を吐く

 

「遠藤。俺はともかくハジメは白崎くらいしか味方はいなかったんだぞ。勝手に、お前等の仲間にするって都合のいいこというなよ。はっきり言うけど、ハジメがお前等にもっている認識は唯の〝同郷〟の人間程度であって、それ以上でもそれ以下でもない、ただの他人と何ら変わらないと思っているんだけど。」

「お前はエスパーかよ。」

「俺は八重樫とか谷口とか遠藤とかは仲よかったけど、お前本当に俺くらいしか自発的に話さなかったしな。それにぶっちゃけ俺も八重樫や谷口がいなかったら助けてないし。」

「……だろうな。」

 

俺はあっけらかんにいうと少し思い返したようにする

 

「白崎は……彼女はまだ、無事だったか?」

「えっ?」

 

少し疑問の声がしているが

 

「あ、ああ。白崎さんは無事だ。っていうか、彼女がいなきゃ俺達が無事じゃなかった。最初の襲撃で重吾も八重樫さんも死んでたと思うし……白崎さん、マジですげぇんだ。回復魔法がとんでもないっていうか……あの日、お前が落ちたあの日から、何ていうか鬼気迫るっていうのかな? こっちが止めたくなるくらい訓練に打ち込んでいて……雰囲気も少し変わったかな? ちょっと大人っぽくなったっていうか、いつも何か考えてるみたいで、ぽわぽわした雰囲気がなくなったっていうか……」

「……そうか」

「ただ反対に八重樫さんは少し暗くなったな。余裕がなくなったっていうか。少しやけになっているっていうのか。笑顔が硬いんだ。」

「……」

 

多分俺のせいだな。八重樫の恐怖を消すために俺に依存させていたのが原因だろう。

 

「……ハジメのしたいように。私は、どこでも付いて行く」

「……ユエ」

 

慈愛に満ちた眼差しで、そっとハジメの手を取りながらそんな事をいうユエに、ハジメは、手を握り返しながら優しさと感謝を込めた眼差しを返す。

 

「わ、私も! どこまでも付いて行きますよ! ハジメさん!」

「ふむ、妾ももちろんついて行くぞ。ご主人様」

「ふぇ、えっと、えっと、ミュウもなの!」

「…相変わらずモテるわよね。」

「……ふぁぁ〜。」

 

するとハナが声で起きたのを確認する

 

「ありがとな、お前等。神に選ばれた勇者になんて、わざわざ自分から関わりたくはないし、お前達を関わらせるのも嫌なんだが……ちょっと義理を果たしたい相手がいるんだ。だから、ちょっくら助けに行こうかと思う。まぁ、あいつらの事だから、案外、自分達で何とかしそうな気もするがな」

「……八重樫が本調子じゃないんだったら無理だろ。あのパーティーは天之河よりも八重樫が引っ張っているわけだし。」

「え、えっと、結局、一緒に行ってくれるんだよな?」

「ああ、ロア支部長。一応、対外的には依頼という事にしておきたいんだが……」

「上の連中に無条件で助けてくれると思われたくないからだな?」

「そうだ。それともう一つ。帰ってくるまでミュウのために部屋貸しといてくれ」

「ああ、それくらい構わねぇよ」

 

結局、ハジメが一緒に行ってくれるということに安堵して深く息を吐く遠藤を無視して、ハジメはロアとさくさく話を進めていった。

 流石に、迷宮の深層まで子連れで行くわけにも行かないので、ミュウをギルドに預けていく事にする。その際、ミュウが置いていかれることに激しい抵抗を見せたが、何とか全員で宥めかし、ついでに子守役兼護衛役にティオと紫も置いていく事にして、ようやくハジメ達は遠藤の案内で出発することが出来た。

 

「おら、さっさと案内しやがれ、遠藤」

「うわっ、ケツを蹴るなよ! っていうかお前いろいろ変わりすぎだろ!」

「やかましい。さくっと行って、一日……いや半日で終わらせるぞ。仕方ないとは言え、ミュウを置いていくんだからな。早く帰らねぇと。」

「……お前、本当に父親やってんのな……美少女ハーレムまで作ってるし……一体、何がどうなったら、あの南雲がこんなのになるんだよ……てかハナちゃんは。」

「こいつ普通に強いから安心しろ。てかヒーラーは必要だろ?」

 

迷宮深層に向かって疾走しながら、ハジメの態度や環境についてブツブツと納得いかなさそうに呟く遠藤。強力な助っ人がいるという状況に、少し心の余裕を取り戻したようだ。

……そしてこれから先長きに渡る魔人族との戦いの幕が上がろうとしていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。