秘密結社ごっこやってたら本当に秘密結社のボスに祭り上げられた話   作:コンソメ

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あけましておめでとうございます


第4話

やや微妙に倦怠感が残る目覚めだった。

 

「やっと起きたか、初めまして。若菜莉乃」

 

「え!?」

 

莉乃は恐怖と混乱を混ぜ合わせたような表情をした。自分の名前を知らない人間が知っていたのだ。恐怖と言えば恐怖だろう。

 

「すまない、自己紹介が遅れた。私のことはそうだな…笹山とよんでくれ」

 

明らかに、偽名である名前に自分だけが置いてきぼりを食っている状況、莉乃の困惑は深まるばかりだ。寝起きの頭で莉乃がこの事態を処理できるはずもなく、唯一出来たのは無言で相手を見つめることだけだった。

 

体躯はすらりとした長身で、髪型はセンター分けの直毛黒髪。特徴的なのはその眼鏡だろう。眼鏡が神経質そうな顔にあいまって、難しそうな感じを受ける。

 

「君のことは調べさせてもらった。紫苑が連れてきたとはいえ、部外者を招き入れるわけだからな。若菜莉乃。聖燐学園の高校2年生。親はカメラマンと音楽家。仕事柄家にいることが少なく、何か月も家に帰って来ないことも珍しくない。経歴的には目立ったことはなく、一般人と推測。能力は『能力解析(アナライズ)』」

 

「な、なんで………」

 

莉乃は絶句したまま声が出せなかった。背中をつららで撫でられたような感覚が莉乃の全身を襲った。そんな彼女を差し置いて淡々としゃべる笹山という男は普通では分かりえない情報を詰まることなく話していく。

 

「ここまでは我々が調べれば簡単にわかった。だが、分からないのは君が狙われた理由だ。紫苑は何かしら知っていそうな雰囲気だったが、君は心当たりがないのか?」

 

「ヒッ………」

 

莉乃は恐怖のあまり思わず、持っていた布団で視界を覆い隠す。目をギュッと瞑り肩を震わせている。そんな莉乃に救世主が現れた。

 

「笹山さん、いきなり連れてこられて知らない場所で知らない男と二人の状況で冷静になれる女の子はいませんよ」

 

聞き覚えのない女性の声に驚きつつも、莉乃は恐る恐るといった感じで布団から視線を出す。

 

 

 

押し出し式のドアを開けて入ってきたのは、莉乃と同年代位の少女だった。

 

「状況が整理できていないか…失礼。少し急き過ぎていたらしい。状況を共有しておこう」

 

「君は暴漢たちに襲われた。危機一髪のところで、紫苑に助けられた。ここまでは君の認識と同じだな?」

 

「は、はい…」

 

笹山の言動に委縮する莉乃を見かねてか、先ほど入ってきた少女が助け船を出した。

 

「笹山さん、年下をいじめる様な真似はやめてください」

 

「む?別にそんなつもりはないのだが…」

 

「威圧感があるんですよ。ただでさえ目つきが悪いんですから笑顔の一つでも浮かべてください。そんな不愛想だからインテリヤクザとか呼ばれるんですよ。スーツに金時計って狙ってるんですか?何を目指してるんですか?」

 

「ぐッ!………別に威圧したつもりは」

 

「ここからは私が説明するので、少し黙っててください」

 

少女の容赦のない言葉に撃墜された笹山は座っていたパイプ椅子を畳み莉乃から最も離れた場所に再度椅子を開いて座った。それを見届けてからベットから体を起こしている莉乃と視線を合わせるように、同じくベットに座り話し出した。

 

「とりあえず、自己紹介から始めましょう。私は氷雨と言います。どうぞ気軽に呼んでください」

 

「は、初めまして」

 

莉乃は、先ほどの笹山との会話が嘘のように穏やかに自己紹介をする目の前の少女に面食らいながらもなんとか挨拶を返す。

 

(わぁ…きれいな人。モデルですって言われても違和感ないくらいだ…)

 

「では、莉乃さん。話を続けますけど、紫苑さんに助けられた後にあなたはここに運ばれてきたんですよ」

 

「えっと、それで、ここってどこなんですか?」

 

段々と落ち着いてきたのか莉乃はずっと気になっていることを聞いた。

 

「それをお教えする前にお聞きしておかなければならないことがあるのです。…暴漢に襲われるまでの詳しい経緯をお聞かせ願えますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今タワマンの30階から夜景を見下ろしている。完全な円となった白い月が目の前に浮かんでいる。車のヘッドライトが鮮やかな川の流れとなって、街から街へと流れていた。様々な音がまじりあったやわらかなうなりが、まるで雲みたいぼおっと街の上に浮かんでいる。一言でいえば絶景だ。コーヒー片手に街並みを見下ろしていると先ほどまでの出来事が嘘のようだ。なぜこんな場所にいるか?ここがあの場所から一番近くかつ安全な場所だったからだ。

 

30階建てのマンション―――その一室。絶対に学生が一人で暮らせるような場所ではない。誰もがそんな感想を抱くようなこのマンションに住んでいるのだ。あの男は。

 

「いきなり、連絡してくるとはな。驚いたぞ」

 

黒髪長身眼鏡。そして顔の良さをすべて打ち消すほどの目つきの悪さ。この男こそがこの家の家主にして、孤児院時代からの仲間である時久だ。

 

あの後すぐに俺は氷雨に連絡を取った。警察に行くとややこしくなりそうだったので、何とかしてくれそうかつ一番まともそうな氷雨に連絡をしたのだ。ワンコール目で電話に出た氷雨は、近くに時久の家があるから現場の処理は任せて先に行っていてくれと言い残し電話を切ってしまったので、言われた通りに時久の家に出向き今に至るというわけだ。

 

いや、大変だった。気絶した彼女を背負いながら、人目につかないようにここまで運んでくるのは修羅場だった。裏路地を使い、防犯カメラを潜り抜け、悪友に教えられたあらゆる裏道を駆使してここまでたどり着いたのだ。

 

「悪いな、事情も説明せずに上がらせてもらって」

 

「それについては問題ない。だいたいの事情は氷雨から連絡を受けている。断片的な情報だが、何が起こったのかは推測できる」

 

「マジか!?それはすごいな」

 

昔から頭がいいやつだったがここまでとは!

 

「フッ、私は考えることが専門の頭脳派だからな!この程度のことなら造作もない」

 

 

「おお!」

 

眼鏡をクイッと挙げながら不敵に笑う彼を少し格好よく見える。

 

「一応彼女も候補者の中にはいたもののまさか、本当に彼女があの能力に目覚めるとは!」

 

………あの能力?時久は何を言ってるんだ?

 

「しかし、流石だな。暴漢を使い、彼女を精神的に追い詰め能力を無理やり開花させる。実に鮮やかな手際だ!」

 

「え、いや…」

 

「氷雨の話だと奴らは『ヴェクター』の残党らしいが、奴らも自分たちが利用されているとはついぞ思わなかっただろうな。憐れな奴らだ」

 

「いや、だから…」

 

「頭脳戦においては紫苑にも遅れは取らないつもりだったが、今回は一本取られたようだ。もう少しで、氷雨も来るらしい。積もる話もあるだろうが、今は休んでいてくれ。彼女の様子は俺が見ておこう。調べたいこともあるのでな」

 

そう言って、時久は向こうの部屋に消えていった。

 

話を聞けよ!!!!ていうか『ヴェクター』ってなんだよ!お菓子の名前か!?憐れなのは何の事情も分からずに放り出されてる俺だろ!!!!

 

「……コーヒーでも飲むか…」

 

予想外のことだらけで疲れ切った頭を冷やすために俺は、再度冷え切ったコーヒーを口にしてソファーに座り夜景を見下ろすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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