うおおおおおお! オラに活力を分けてくれええええええ!
見てはいけないものを見てしまった。
いつもの帰り道、いつも見えている裏路地。
一緒に帰る友達のいない私は一人ぼっちで歩いていた。
何も面白くない下校の時間、帰ってもすることが無かった私は――偶々その路地を覗いてしまった。
いつもは電気屋さんの前のテレビ、その辺で起きた軽犯罪の野次馬、本屋さんの児童書コーナー、他の場所へ寄り道するだけ。
その日に限って変な好奇心に突き動かされて、薄暗い路地を覗きこんでしまった。
(カメラ……?)
何もないという予想に反して、高そうな一眼レフのカメラが三脚と共に置かれていた。
そしてその奥――カメラのレンズは信じられない光景を映し出していた。
チンピラじみた男を恫喝しているオールマイト。
いつものあの輝く笑顔はなりを潜め、恐ろしい表情で胸倉を掴み、チンピラからお金を巻き上げていた。
私はばれないように後ずさりし、静かに立ち去ろうとするもそこは御約束というか、落ちていた空き缶を蹴飛ばしてしまった。
「うっ……ってガキか」
オールマイトの声はテレビと大きくかけ離れていた。
まるで姿形のみが似ているだけのようで――
「ちょっとこっちに来な」
「ひ……っ!」
目にもとまらぬ速さで私を捕まえ、路地の奥へ引きずり込んだ。
「な、なにをするの……?」
「悪事を見られたならすることはただひとつ」
オールマイトの姿が変化し、スーツを着た平凡な男になる。
「口・封・じ」
その姿がまた変わり、エンデヴァーにベストジーニスト、どこかで見たことのあるヒーローに次々と変身していく。
「そんな目で見るなよぉ――少しスキャンダル作りを手伝ってもらうだけさ」
やがて変身が終わり、オールマイトの姿に戻る。
「うん、やっぱり
私の体は恐怖で震えていた。
何をされるか想像もつかないが、酷いことをされるのは分かる。
「たすけて……!」
「残念! ヒーローがみんな善人だと思うなよ!?」
カメラのセッティングを終えた偽物のオールマイトは私の方へにじり寄る。
「奴らはちょっといい“個性”を持っただけでもてはやされている運のいい人種! 人助けしてんのも親切心からだけじゃないのさ」
オールマイトの姿でオールマイトが言わないようなことを口にする。
大きな手で胸倉を掴まれた瞬間、私は咄嗟に個性を使った。
「破道の一、『衝』ッ!」
「いてっ!」
私の指先から放たれた衝撃波は、少し相手を痛がらせただけだった。
「ッ! このガキっ!!」
顔を思い切り殴られた。痛さで頭がくらくらとした。
殺される。
こんな個性で抵抗しても傷一つ負わすことができない。
大人の人に力で敵うはずもない。
そして何より――助けを呼んでくれるような、心配して探しに来てくれるような人はいない。
「予定変更だ――徹底的になぶり殺してやる」
数々のヴィランを打ち破ってきた拳が私を殴る。
お腹を殴られて息が詰まった。頭を殴られて目の前がちかちかした。
「ははっ! はははハッ! ほら! もっと泣いて! 記事に乗せるんだからもっと――てっ!?」
高そうなカメラが地面に転がった。続けざまに三脚が投げつけられるが、それは受け止められた。
「
「何だァ……テメエは」
「生憎と、悪党に名乗る安い名は持ち合わせていなくてね」
草履の音。
私は精一杯、助けてくれた人を見ようとしたが、腫れてしまっているせいか開かない。
「ううん……俺の
「口を閉じろ――時間が惜しい」
ぶつかり合う音が響く。
「見た目だけだと思うな――パワーだって本物と遜色がないんだよッ!」
「だとしても俺の仕事は変わらない。この娘を護るのみ」
私の意識はそこで途切れている。
「卍解――“花散里”」
でもこの声は忘れない。
私を助けてくれた、この人の声を。
そして現在。
雄英高校入試の日。
『ハイ、スタート!』
唐突に告げられた開始の号砲。
戸惑う受験生たち。
『どうしたぁ!? 実践にゃカウントなんざねえんだよ! 走れ走れ! 賽は投げられてんぞ!?』
突き放すかのようなアナウンスに受験生たちは大慌てで駆け出し、我先にロボットに飛びついていく。
私は一度大きく深呼吸をし、地を蹴った。
あっという間に先頭へ躍り出てヴィランロボットに出くわす。
『標的補足ブッ殺す!』
恐ろし気な風貌の顔に向け手を向けた。
あの日、何の抵抗にもならなかった技。これが通用しなければヒーローになんか絶対になれない。
「破道の一“衝”!」
衝撃波は機械の体を大きく吹き飛ばし、機能停止をさせる。
(よし……!)
確かにあの日から私は成長している。その手ごたえに浸っていると、周りでは次々とターゲットが破壊されていく。
「っ……!」
私は再び駆け出す。
ザコ敵を倒したくらいじゃ私の目標は達成されない。
ここで合格し、ヒーロー資格を入手し、あの人のように人々を助ける。
私のように、一人助けを求める人に手を差し伸べられるように。
(28――っいない!?)
試験後半、28P獲得した辺りで周りの異変に気付く。
ロボットのほとんどが姿を消している。それらは全て爆発の発生している場所――金髪頭の男子が起こす爆発に引きつけられていく。
それだけでない、地響きがする。
「うっ……!」
巨大なロボット、得点にならないただのお邪魔なギミックだ。
最悪の気分だった。得点源は一人に独占され、おこぼれを探そうにもギミックに妨害される。
私は舌打ちしそうになるのをこらえて会場を駆けまわる。
(どこか……得点を稼げる場所)
焦る私の目に蹲る人が映る。
瓦礫に体を押しつぶされそうになっているも、他の受験生たちはポイント稼ぎに勤しんでいて気付かない。
「っ……!」
私もポイントを稼ぎたい。あの人を無視してポイントを取りに行きたい。
それなのに体が勝手に動いてしまった。いや、こうせずには居れなかった。
このまま逃げたら今までの決意が、努力が、築き上げていったものが崩れていきそうな気がした。
「っし!」
腰の刀で瓦礫を真っ二つにする。
茨のような髪を持つ女子で、その髪を支柱にして耐えていたようだった。
「大丈夫?」
「は、はい。ありがとうございます」
地響きを感じる。
妨害ギミックが近づいてきている証だ。
「動ける!?」
「……すみませんっ足が」
彼女は茨の髪と自分の腕で残った瓦礫をどかそうとしているが、動く気配がない。そうこうしているうちにどんどんギミックが近づいてくる。
「分かった。少しだけ我慢してて」
迎え撃つしかない。
そもそもいきなり瓦礫を動かしたのが早計だった。ショック症状を引き起こすこともあると聞いたこともある。だったら初めからこうするべきだったかもしれない。
「――君臨者よ、血肉の仮面・万象・羽搏き・人の名を冠する者よ」
巨大ギミックを破壊する。
まずは安全を確保してから救助に当たるべきだった。
「――焦熱と騒乱、海隔てて逆巻き南へと歩を進めよ」
赤い閃光。
威力を高め、一撃で破壊する。
「破道の三十一“赤火砲”!」
放たれた火の玉はロボットを破壊し、その破片をあたりに飛び散らせる。
(しまっ――)
私は咄嗟に彼女に覆いかぶさり、破片から身を護ろうとする。
その上から更に茨が盾を作り、私たちを護る。
『終了――!』
そして無情にも、試験終了の合図が入る。
「ふふ……随分と締まらないヒーローですね」
「ぅあの、その」
構図的には私が押し倒しているようにも見える。この時は私が女であってよかったと感じた。
「私は“塩崎 茨”といいます。助けていただいてありがとうございます。
「……“
この人は――塩崎さんはきっといいヒーローになる。私はそう直感した。
「ヒューヒュー」「女子の友情……尊い」「百合展開キタコレ」
同時に、余計なヤジを入れてきたこいつらはヒーローになれない気がした。
続くか続かないかは気分次第。