閃きませんでした、まる。
「さあ皆も考えながら見るんだぞ!」
地下のモニタールームでは待機となった面々が戦いの様子を観察していた。
オールマイトは矢継ぎ早の質問を捌きつつ戦闘の様子を採点していく。
(思ったより大変だコレ)
教師として初の授業であったがそんな様子など微塵も見せず、ひそかに冷汗をかくばかりだった。
「――そう、この訓練は圧倒的にヒーロー側が不利なんだ。そんな時こそ忘れちゃいけないアレだよ! せーの、プルス」
「あっ! かっちゃんが」
大きな動きがあったようで緑谷がモニターを指さす。
少し気まずくなりつつオールマイトはそちらに目を向ける。
(爆豪少年……聞いたところ自尊心の塊って感じだが――)
相対しているのは四楓院 旭。女子が相手にもかかわらず爆豪は容赦なく攻撃を浴びせる。
「うおっ!?」
「いまモロ入ったぞッ!?」
「容赦ねーな……」
ラリアット気味の大振りがアサヒの胸元にクリーンヒットし画面が爆炎で曇る。
「どんびいてる場合じゃないぞ少年たち。女性の
映像が戻ってくるとそこでは相手を組み伏せている爆豪が映し出される。
これで確保証明のテープを巻きつければ勝負が決まる。
しかし確保テープを巻きつけようと片手を離した瞬間に吹き飛ばされる。
画面が閃光に包まれホワイトアウトする。
(普通ああなったら諦めるもんだが)
別のカメラに逃げるアサヒの姿が映る。
息を整え、爆豪の方を見て口を動かしている。そして彼を指さし指先を動かす。拳法家が相手を挑発するかのように。
それに怒った爆豪は籠手のピンを外し引き金に手をかけた。
籠手の内部には彼の汗――ニトロのような物質が蓄積されるように設計されており、引き金を引くとそれが一斉に放出される仕組みとなっている。
BOOOMM!!
音声は通っていないはずが幻聴のように爆発音が聞こえた。
通路の壁が吹き飛んだものの、前方の爆風は防壁によって防がれている。
衝撃自体は地下にも響いてきており僅かに悲鳴が上がる。
「授業だぞコレ!?」
「でも見ろよ――瓦礫で爆豪の逃げ道が」
袋小路の道で撃った結果、爆豪は退路を断たれ閉じ込められてしまっている。
そんなことに構わず瓦礫を吹き飛ばして強行突破するも、待ち構えていたアサヒの掌底が叩きこまれる。彼は苦悶の表情を浮かべるもすぐさま受け身を取り、体勢を整える。
続けざまに確保証明のテープが飛来し、焦った爆豪はそれを跳んで躱す。
空中で身動きが取れないところに刀の峰が迫る。しかしそれは当たらず、代わりにアサヒの体が瓦礫に突っ込んだ。
(爆破で軌道修正して回り込み、背後から蹴りを入れる……口で言うのは簡単だがそれを土壇場で実行するのは難しい)
伊達に入試一位を取っているわけではないようだ。
倒れたままのアサヒを警戒しつつ爆豪は距離を縮める。
あと一歩で触れる刹那、動けないふりを止めた彼女が放った砂を目に喰らい爆豪はのたうつ。
(Hum......これは食い合ってたパターンか)
雄英高校の入試では同校での協力を防ぐために受験生を振り分けている。逆に言えばそれ以外は完全にランダムであり、稀に同じ会場内に優秀な受験生が複数配置されてしまうこともある。そうなった場合はより優れた方が合格するか、どちらも点数を稼げないまま低成績で合格するか、はたまた両方とも不合格となってしまうか。
実力が十全に発揮されず、優秀な生徒を確保できないことが起こってしまうのは事実だ。
まるでアクション映画のような攻防は二人の実力が拮抗していることを示しているようだった。
(おっと、飯田少年と芦戸少女の方を見ていなかったぞ)
生徒たちにつられていたオールマイトは核の配置されている部屋の様子を観察する。
二人とも五分の勝負を繰り広げているようで距離を保ったままにらみ合っている。
徐に芦戸が動く。手の平から酸を放出しつつ核へ迫る。しかし飯田が走って核を奪い距離を取った。彼は悪役になりきっているようで、芦戸を翻弄するかのように振る舞っている。
ずっとその攻防を繰り広げているせいか、床はドロドロに溶けだしていた。
(ほう……これは中々いい作戦じゃないか)
飯田は核を持ったまま走り翻弄していたが、溶けた床でスリップし、大転倒してしまった。その隙に芦戸が核に触れ、勝利条件を満たした。
ヒーローの卵が戦闘訓練を行っている裏側、一人の記者が雄英の周辺をうろうろとしていた。
「くそっ……雄英バリアか。折角オールマイトが赴任したってのに取材NGかよ」
いち早く取材をしようと雄英高校の敷地に入ろうとしたものの、許可を得ていないため門前払いを喰らってしまったのだ。
『――どうやら、お困りのようですねえ』
男はどこからか聞こえてきた声に顔を上げる。
『壁があるならぁ――孔をあけちゃえばいいんですよぉ?』
妙に間延びした口調に、男は意識が浮つくような錯覚を覚える。
無駄だと思いつつ再び雄英バリアの前に向かう。
「なん……だって?」
先程まで自分を阻んでいた防壁に綺麗な穴が開いていた。それも人が一人入れそうな大きさだった。
『さ、孔が空きましたよぉ? 後は――貴方の自由です』
スクープが転がってきたなら拾うのが記者の仕事だ。
男は迷うことなく雄英高校に侵入した。
「はい、先生。全て先生の手筈通りに進んでおります」
白い軍服を着た女は通信機を使い誰かと話していた。胸元には星のような十字架のエンブレムを身に着け、左目には眼帯をしていた。
傍らには死神の使う
「承知しました。全ては先生の思し召しのままに」
通信を切ると、彼女は武器を後ろ手に持つ。
「さあ、もっと孔に堕ちなさい、英雄達よ」
大鎌の切っ先が大きな黒い孔を開けた。それは底が見えず、どこまでも落ちていきそうな錯覚を抱かせるような暗さの孔だった。
「ああ、申し訳ございません。陛下」
女は誰かに謝罪をする。それは先生と呼ばれていた人物とは違うようだった。
「
しばらくすると黒い孔から黒い着物をまとった人間が落ちてくる。
すぐさま鎌が一閃し、その首を落とした。
「すべては先生の為に――」
もう引退の時期なのか……
いや、もう少しがんばろう。