ちょっと悩んでるうちにもう年開けてひと月ですか……はやい。
そのチープな団体名に反して雄英高校に大きな爪痕を残すこととなった。
教師二名負傷、生徒一名が意識不明の重体。
もし救援が間に合わなければ?
もしオールマイトの到着が遅ければ?
――もし、一人の生徒が勇気を振り絞れなかったら?
「非常に、惜しかったですねぇ」
襲撃者としてはあと一歩目標に及ばず、と言ったところだろう。
しかし一人のみ、疑念を持った者もいた。
「……なんて、言うと思いましたぁ?」
ラプラスは大鎌の刃をシバの首にそっと当てる。彼女が少しでも力を込めれば、首を落とすことなどたやすいだろう。
「貴方、手を抜きましたね?」
「……そう、見えたか」
それに対してシバは臆することなく、静かに口を開く。連合の拠点である薄暗いバーの空気が一気に張り詰める。
「はい。貴方が悠長に始解など使わずに“卍解”していれば生徒の殆どを嬲り殺しにできたはず。弁明があるのならば聞きますが?」
「…………」
彼は静かに顔の包帯を解く。
老人のようなしわくちゃの顔に、擦り傷にも似た無数の小さな傷が見て取れた。
それでいて引き締まった肉体も相まって、歴戦の老兵のような風貌となっていた。
「……俺に言わせてみれば、“眼”を使わなかったお前も俺以上に手を抜いていたように思えるがな」
「ッ!」
「それともう一つ、俺の卍解は命を削る。後一度しか使えないが……“こんな所”で使ってもいいのか?」
痛いところを突いた上に能力の解説をされてしまえば反論のしようがなかった。
彼女はため息をついて武器を納める。
「いいでしょう。そこまで言うならぁ、私も刃を納めましょう。弔くんの課題も分かったことですし」
「……ならば俺は御暇させてもらおう。また事を起こすならば呼んでくれ」
シバはしっかりとした足取りでバーを後にする。一歩間違えれば自分の首が落ちていた、そんな恐怖など微塵も感じさせないように。
「何なんだよアイツは……」
死柄木は手の平のようなものを外し、カウンターの上に置いた。
『裏の世界では有名な用心棒、素性や個性は不明ですが――何よりもその戦闘力は折り紙つき、だそうですよ、死柄木 弔』
「そんなこと俺も知っている」
彼は苛立って首を掻きむしっている。自分の思い通りにならない“駒”がいることにフラストレーションが溜まっているのだ。
「――彼は志波家の人間。とある国の四大貴族に数えられる一族の一人。もっとも、分家の分家のそのまた分家、本家の血は一滴ほどしか流れていないとか」
『おや、貴方の知り合いなのですか?』
ラプラスは意味深に微笑み、孔を作り出す。
「それはぁ――企業秘密です。勿論、私の本名も、能力も」
彼女は慇懃無礼に一礼すると、孔の奥へと消えていった。
『――様! なんかヤバそうな死神来ましたよ! 早く起きてくださいよ!』
『…………』
私(?)は岩の影で眠りこける何かを揺り起こす。しかしどんなに声を掛けても、それは目を覚ましてくれない。
『わわっ! もう来ちゃった! くっそー 様に手を出そうってなら相手になるぜッ!』
体がシャドーボクシングをするかのように動く。
影が差し、一人の男が現れた。
危険とは程遠い、物腰の柔らかさそうな風貌。黒い着物をまとい、腰には刀を挿していた。
それなのに、どうして私はこんなに警戒をしているんだろう?
『――やれやれ、私は戦いに来たわけではないのだが』
『そ、そう言って油断させるつもりだろッ! そうはいかないぜッ!』
普通に見れば、相手に敵意がないことが分かる。
だが私の体が勝手に動き、コンバットナイフのようなものを構えた。
『いっくぞー!』
『はぁ……』
相手も呆れたように刀を抜き、その名を呼んだ。
『――砕けろ“鏡花水月”』
体中を何かに引き裂かれた。
血が滴り落ちていく感覚があるけど、不思議と痛みは無い。
『ま、待て……』
悠然と歩みを進める男に追いすがろうとするも、指先が触れる刹那で届かない。
『うるさいわね……』
すさまじい殺気を感じた。
……あれ、この声は、母さん?
『ふむ、かなりの霊圧だ。自分の
『折角気持ちよく眠っていたのに起こしたのは貴方? 死神の霊圧は不愉快だから目が覚めるの』
『それは済まないことをした。謝罪しよう』
『いいえ、いいの。私はまた眠るから』
男は交渉が決裂したことを悟り、再び能力を解放しようとするも、何かに気付き舌打ちをする。
多分、発動条件を満たしていないのだろう。
『――おやすみなさい……“
見知らぬ天井
「ん……」
そうだ、私は斬魄刀で斬り捨てられたんだった。何日間寝てたんだろう……?
ゆっくりと体を起こしつつ日付を確認できるものを探す。
「……5月――20日っ!?」
確か雄英体育祭の日は――
目の前が真っ暗になるような錯覚を覚えた。
体育祭欠席は致命的すぎる。他のクラスメイトはここでプロにアピールをし、そして親睦を深める場でもある……のに。
「――目、覚めたか?」
病室の扉が開いた。
黒の着物に白の羽織、病院なのに刀を挿す――父さんだ。何年ぶりに会うかわからないけど、見た目はあまり変わっていない。髪は伸ばしたまま、適当に結んでいた。
「父さん……私」
「婆さんの力でも解毒できなかったらしい。ま、死ななかっただけましだと思うしかない」
「でも……」
「それに――出なかった方がマシかもしれないぞ?」
と、渡してきたのは一枚のディスク。
「トーナメントだけだが録画してある。参考までに見て――」
「アサヒ!」
「おふっ!?」
父さんは思い切り跳ね除けられて壁にめり込む。
「母さん……?」
びっくりしたけど、母さんは私の事をぎゅっと抱きしめて呟く。
「ああよかった。安心して、あなたを襲った連中は跡形もなく――霊子単位で消滅させるわ。特徴は? どんな姿? どんな匂い? どんな霊圧? 少しでもヒントをくれれば探し出せる」
「――それはやめろ。さすがに“ヒーロー”として見過ごせない」
危うい殺気を出し始めた母さんを私から引きはがし、引きずっていく。
「安心しろ、旭。次は職場体験だろ? 父さんに心当たりがあるから、焦らずに体を治しな」
嵐の様に過ぎ去ってしまった。
私の手元には体育祭の録画映像。
……せめて、見てみようかな。
「……離して」
「はいよ」
ヒュウマは文句を言われたのでそのまま手を離す。
「っ痛いわ。レディーの扱いがなってないんじゃない?」
「うるせーな。お前がレディーって柄かよ、パール」
不満を口にしたアサヒの母――パールに言い返す。
夫婦のくせに二人とも仲が(死ぬほど)悪かった。
「だからと言って邪険に扱うつもりなのかしら? だから死神は嫌いなのよ」
「俺たちの娘は死神だが?」
「あの子は別。私の……娘だもの」
彼女は躊躇いつつそう言い返す。
「不思議ね。
「しかも、死神との間に、な。技術開発局の誰かがやろうとしていたことを、俺たちはあっさりと成し遂げちまったわけだ」
ヒュウマは彼女を背負って病院を歩く。
「やめて、恥ずかしいわ」
「つってもお前、ここに来るまでで全力を使い果たしてるんじゃないか?」
「……」
「俺と違って、お前は食事からエネルギーを摂取できないんだ。大人しくしとけ」
そう言われ、彼女は黙って背負われた。
病院を出るとそこは超人社会。ちょっとした犯罪はすぐさま起きる。
「邪魔だッどけっ!」
熊のような大男が病院に向かって突っ込んでいく。
何やら恨みがありそうな様子だが、それは計り知れなかった。
「……ねえ、あいつ消してもいいかしら?」
「死なない程度で頼む」
「……仕方ないわね」
パールは背中から降り、チャクラムのような武器を構えた。
「そこの熊人間さんよ! 一応プロヒーローのお墨付きだ、勘弁してくれよ?」
熊のような男はその声にハッとし、しかし注射器のようなものを首に突き刺す。
「うるせえ! 俺はそこの病院の医療ミスでこんな風にされたんだ!」
「うるさいのは貴方よ――」
彼女は祈るかのように座り込み、目を閉じた。
『――おやすみなさい……“
オサレなネーミングって難しい。