死神の力が個性になったら   作:鮫田鎮元斎

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スランプである。
忙しくて時間がないのである。
気がついたら「ここが好き機能」追加されててビビり申した。








新章はシリアスなムードから

 苦しい。

 苦しい……。

 

 血が足りない。最近は厄介な“偽善者(ヒーロー)”の巡回が厳しくてなかなか事に及べない。

 

 ああ、黒い着物の連中が出てくれればいいのに……奴らはどうやら身寄りも戸籍もないから都合がいい。どんなに殺しても騒がれない――ただし、嬉しくないオマケが付いてくる。

 

「――ようやく尻尾を掴ませてくれたな」

「お前……!」

 

 黒い着物の集団の中でもこいつだけ白の上着のようなものを羽織っている。

 個性で翻弄しようとしても悉く見抜かれる。

 

 狭い路地の入口に奴は立っている。背後はゴミだめで行き止まり。

 

「おいおいそう殺気立つなよ。俺はお前に聞きたいことが――」

 

 違う。追い詰めに来たに違いない。

 僕は個性で変身し、蝙蝠となる。

 

「ッ――破道の十二“伏火”」

 

 よくわからない攻撃で阻まれ、変身が解ける。

 こいつの個性が分からない。影に潜んで逃げようにも、前に出くわした時は影を消してきた。

 

「いいか、俺はお前が持ってるその“刀”の出自を」

「……誰が教えるかよ……お前らみたいな――偽善者に!」

 

 何で僕だけ。

 どうして僕のやっていることだけが非難されるんだ。

 こんなにも苦しんでいる僕を――助けてくれないッ!

 

『――――』

 

 声が聞こえた。

 

「清めろ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 人のいないビルの屋上。

 ヒュウマは懐からスマホを取り出し、協力者に電話を掛ける。

 

「おう、俺だ。対象に逃げられた」

『やはり私が“視た”通りの結果みたいだな』

「いや、完全にその通りじゃない――奴は斬魄刀を使った」

 

 電話の向こうから息を飲む声が聞こえた。

 

『それは本当か?』

「ああ……」

 

 彼は白い隊長羽織にこびりついた血を拭いながら答えた。

 

「なあ佐々木」

『本名で呼ぶな』

「悪い悪い。ちょいとお前の個性について閃いたことがあるんだけどさ、聞いてくれねえか?」

 

 電話の相手――サー・ナイトアイの個性は“予知”

 企業秘密の条件を満たした相手の未来を視ることができ、かつ彼の視た未来は絶対に外れない。

 

 

『……長くなりそうか?』

「それなりにな」

 

 しばらくの無言が続く。

 

『サイドキックに仕事を任せた。好きに話してくれ』

「――もし仮に、同じ個性が二つあるとする」

『かなり無理のある話だな』

「いいから聞けって――例えば、お前の“予知”と同じ個性を持った人間がいたとする。もしそいつと対面し、互いに未来を予知しあったら何が起こると思う?」

『思考実験という奴か。いいだろう……』

 

 互いに未来を予知する。

 もし仮にそんな事態が起きたら。

 予知して動く相手の動きを予知し、それを踏まえて動くも相手にそれを予知され、更にそれも予知して――

 

『それこそ矛盾だ。互いに確定した未来を元に動く、結局予知によらない行動をしようにも……いや、それすらも予知されているならば……』

「ククッ……やっぱ、そうなるよな」

 

 電話の向こうで困惑している姿を思い浮かべたヒュウマは思わず笑みをこぼす。

 

『分かっていたなら何故考えさせた?』

「第三者が予測するのと当事者が考えるのじゃ全然違う。ま、実際俺たちは同じ結論に至ったわけだが」

 

 予知しあってその結果、何が起こるか予測できない。

 

「一度見た未来は絶対に外れない、最初に会ったときお前はそう言った。だがこうしてみると絶対、ということはありえないことだと思えてくる」

『なるほど、そうまでして私に予知を使わせたいというわけか』

「現に俺の未来はお前が視たとおりにならなかった――とはいえ、俺が例外の可能性もある」

 

 ここまでが前振り、と言わんばかりに彼は本題を告げる。

 

「そこでひとつ提案があるんだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 久しぶりの学校。

 みんな体育祭で活躍したせいか、雄英の制服を着ているだけで周りからの視線が集まってしまう。

 でもテレビに映らなかった私の事をヒーロー科だと思う人は居ないようで、声を掛けられることは無かった。

 

「はぁ……」

 

 大丈夫だろうか……「お前の席ねーから!」状態だったらどうしよう。

 逆に腫物扱いにされて距離を置かれてしまったらどうしよう。

 

 せっかくクラスに馴染めそうだったのに、一気に溝が深まっていたら最悪だ。ぼっち記録を更新してしまう。

 

 ただでさえ大きい教室の扉がいつも以上に大きくなっている気がする。

 大きく吸って、吐く。よし、心の準備はできている。

 静かに扉をスライドさせた。

 

「「「!」」」

 

 まだ全員揃っていなかったが、その場にいた面々は私の姿を見たとたんに驚き、取り囲まれることになった。

 

 あちこちから声がして上手く答えられなかったけど、みんな私の事を心配してくれているみたいで、心配は全部取り越し苦労だったのかもしれない。

 私は質問に答えつつ、常闇くんを探した。

 彼に返さなくてはならないものがあった。

 

「っ常闇くん、これ……」

 

 あの日、彼から渡されたネックレスを差し出す。

 龍の意匠には刀傷がつき、欠けている。

 懐にしまい込んでいたので、ちょうど私の心臓を守った形になる。

 

「それは……!」

「これのお陰で傷が浅く済んだんだって。傷ついちゃったけど、返すね」

「いや、いい……」

「えっ……?」

 

 彼は机の上で拳を握りしめていた。

 音が聞こえてきそうな位、強く。

 

「お前が深く傷付いたのは俺のせいだ。だから……それは持っていてくれないか?」

「っでも……私は」

「またそれが命を助けてくれるかも知れないからな。せめて、俺がお前を守れる位強くなれるまで預かっていてくれ」

 

 彼の真剣なまなざしを受け、私は思わずうなずいた。

 

「わかった……」

 

 強く、ならなきゃ。

 せめて、彼が心配をしなくてすむくらい、強く。

 思わず手を強く握りしめていた。ネックレスの固い感触が手のひらに伝わる。

 この感触を忘れない様にしよう。決意が風化しないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 久しぶりの授業は体育祭のフィードバック、職場体験の案内から始まった。

 欠席した私には無縁な話だと思っていたけど、体育祭で指名を取れなかった人と同じように学校の指定した体験先に行くと聞いて一安心した。

 

 

 そしてその後に待っていたのは――ヒーローネームの考案。

 

「まだ決まってないのは飯田君と四楓院さん、緑谷くん再考の爆豪くん」

 みんながサクサクと決めていく中で私は取り残され気味だった。

 昔から考えてもいないし、即興で思い付けるほどのセンスもないし、まして自分の名前を付けるほどの勇気はない。もしかしたら居残りで考えるコースになる……?

 

 そこで私は相澤先生の言葉を思い出す。

 

 

『名は体を表すともいう――例えばオールマイト、とかな』

 

 私の目標……あの人のように、人知れず苦しんでいる人を救うこと。

 それを成し遂げるのにふさわしい名前……。

 

 私の脳裏に、斬魄刀(マイヒメ)の姿がよぎる。

 何時までも認めてくれず、真の名を教えてくれない意地悪な彼女の姿。

 

 艶やかで、美しく、それでいて信念を感じさせる眼差し。彼女なら私よりもきっと上手くやれているはずだ。常闇くんに辛い思いをさせることもなかったかもしれない。

 

 私は――彼女(マイヒメ)のようになりたい。強く、美しく、完全無欠なヒーローに。

 

 

 気が付くと私はフリップに文字を書き、教卓まで歩いていた。

 

「私のヒーロー名は――“マイヒメ”」

 

 私が宣言した瞬間、一部の男子からがっかりしたような雰囲気が生まれた様に感じた。

 

「私は――私の個性に恥じないヒーローに成りたい。だから私は――個性の一部の、この刀と同じ名前を名乗りたいっ!」

 

 心臓が口から飛び出そうな位脈打っている。

 笑われないだろうか?

 こんな安直な名前。みんなと違って洒落たヒーローネームではないけど。

 

「……良いじゃない。素敵なヒーローネームね」

 

 ミッドナイト先生が褒めてくれた。

 どうやら、採用になるみたい。

 

 これは後で聞いた話だが、一部の男子は鬼道の詠唱の様な厨ニセンス全開な名前を期待していたようだ。

 ……あれは私が考えた訳じゃないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 放課後、授業に全然ついていかなかったので梅雨ちゃんから勉強を教えて貰っていた。

 校舎を閉める時間となり、帰ろうとしていた時の事だった。

 

「――漸く見つけたぜ」

 

 柄の悪い生徒に声を掛けられた。柄の悪さで爆豪くんに勝てる人はいないと思っていたが、彼以上の荒れ具合だ。

 

 燃えるような赤髪は逆立てられ、制服は着崩され過ぎてだらしないというより一つのファッションとして成り立ってしまっている。

 何より気になるのは――腰に挿している刀。

 

「貴方、B組の阿良々木(あららぎ)ちゃんね。私たちに何の用かしら?」

 

 梅雨ちゃんとは面識があるようで、彼に問いかける。

 

「手前に用はねえ。引っ込んでろ」

「ケロッ!」

 

 彼は乱雑に梅雨ちゃんを蹴りとばした。

 そして荒々しい殺気をぶつけてくる。

 

「梅雨ちゃんっ……!」

 

 私は苦しそうに蹲る梅雨ちゃんの下へ駆け寄りつつ、斬魄刀をしまってしる竹刀袋に手を伸ばす。

 

「用があるのは手前だよ――半端野郎。虚だか死神だかわかんねえ霊圧出しやがってよ」

「!」

 

 霊圧。

 それは内なる霊力を放つ強さの事。

 その言葉を知っているのは、ごく一部の人間のはずだ。

 

「……あなた、何者なの?」

「俺か? 俺は護挺十三隊、十一番隊第四席“阿良々木(あららぎ) 新也(あらや)”だ」

 

 護挺十三隊。

 父さんが昔所属していた組織らしい。

 

 その組織の人がなぜ雄英高校にいるのか分からない。

 そんなことよりも、大事なことがある。

 

「どうして梅雨ちゃんを蹴ったの?」

「あ? 邪魔だからだよ」

 

 邪魔だから?

 そんな理由だけで、暴力を振るったとでもいうの?

 

 静かに怒りが沸き起こる。

 全身が沸騰しそうな位熱くなってくる。

 

「そんなことよりも、やることは」

「謝って」

「は?」

「梅雨ちゃんに、謝ってよ!」

 

 彼は困ったように頬を掻き、刀を抜く。

 

「そうだな――俺に勝ったら、謝ってやってもいいぜ?」

「……魅せろ“舞姫”」

 

 するりと竹刀袋が落ち、舞姫が姿を顕す。

 

「いいね、そうこなくっちゃな!」

 

 

 

 

 

 霊圧が静かにぶつかり合った。

 

 









次は期間が開かないよう頑張ります(震え)

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