ローブル聖王国。
まず、その国について知っていることといえばまずトップスリーの女たちだろう。聖王女と誉れ高いカルカ・べサーレス、そして彼女の側近である姉妹。聖騎士最強な姉レメディオス・カストディオ、神官団団長である妹のケラルト・カストディオ。この三人がいるからこそこの国は成り立っていると言っても過言ではない.......無論、それはあくまでこの国の半分側だけの話であるが。
というのもこの国はUを横に倒したような国土で、巨大な湾により国が南と北に分かれているようなものなのだ。分かりやすく言えばトルコからエジプトまでが一つの国になっているのだが、間に地中海がある為、半ば分断されているような状態になっている。
さて、何故そうなのかと言うとまず、聖王女カルカ・べサーレスはこのローブル聖王国始まって初の女性の王であるという点と彼女が王位に就いた際に前聖王と神殿勢力の後押し受けて兄たちを押しのけ王冠を手にしたからである。無論、彼女自ら王になろうとしたかは不明であるが。
そういった経緯がある故に首都がある北部と違い彼女の影響がそこまで強くない南においては貴族たちが彼女に対して謂れのない誹謗中傷を口々に言っているのだ。そして、これはそこまで関係ないのだが彼女はいわゆる八方美人である。それは彼女の性格が起因しており、まず彼女は優しすぎる。
まがりなにも国家元首である自身に対しての誹謗中傷など決して看過できるものではなく、普通ならば不敬罪の一つや二つで貴族の首が飛んでいても可笑しくないのだが、その優しすぎる性格が原因で彼女は貴族たちに強く出れないのだ。そして、彼女は汚れ仕事に手を出さず、綺麗過ぎるきらいがある。
それでは不満も出てくるのは当然であろう。
さて、聖騎士団長のレメディオス・カストディオは.......簡単に言えば頭が悪く、相手にするのが面倒な正義に盲目な女だ。無論、これは些か悪く言いすぎている気もしなくはないがしかし、考えるよりも鍛える方がいいと宣ったが故の結果である。手のつけようはどこにも無い。
そして、ケラルト・カストディオ。恐らく彼女がこの中で一番マトモだろう。姉の手綱を握っていながら、存外やり手の女という印象が強い────
「特にこの中で一番好みだ」
神殿を後にして、俺はこの深夜のホバンス───ローブル聖王国首都───を歩いていく。既にグウィンドリンの姿に変化しており、本来の腐肉の身体を隠している為万が一にも面倒事が起きる可能性はない。
いや、唐突に絡まれる可能性も捨てきれない。
故に俺は一先ず、指輪を用いて不可視に変える。
「それにしても、まさかの聖王国とは.......流石にそれは予想していなかったな。やはり、玉座の間にいないといけなかったのだろうか?いや、うーむ」
そういえば、サリヴァーンはどうなっているんだろうか?アイツからすればいきなり目の前から消えたわけで.......他のNPCみたいにナザリック及び至高の御方至上主義にならないようにしたから、そこまで狼狽えないと思うが.......他何書いたっけ。
ええと、まずナザリック及び至高の御方至上主義ではないこと、次に創造主である俺は親友的存在で.......うん特別視してるのは変わらないはず、あとはそうだな確か.......法王だからな政治系に強い宗教家な感じだったはず。うちのサリヴァーンは魔法剣士だぞ、パリィはしないであげてくれ。
「なんだか、サリヴァーンに会いたくなってきた.......指輪使おうか.......いや、でもなぁ.......」
正直に言うと、イルシールの聖堂にパッと行ってパッと帰る事は出来る。だが、それはなんだか違うのでは?と思う俺がいる。確かに俺にはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンがある。
これさえあれば、玉座の間に直接転移は出来ないがその代わりにナザリック内なら何処へでも何処からでも転移することが出来る。そうすればサリヴァーン以外の誰にも知られること無くサリヴァーンに会えるだろう。だがしかし、それはなんというか違う気がする。大事な事だから二回言った。
こういうのはナザリックから離れているからこそ、面白いのであって安易に帰るのはどうかと思うのだ────と、〈伝言〉が
「───はい、こちらエルドリッチ。どちら様」
『───私だ。何やらナザリックに異変が起きてるらしいが何か知らないか』
「異世界転移」
『.......なるほど。ところでキミは何処にいるんだ?』
「ローブル聖王国だが、どうかしたか」
『ふむ、既にそこそこの情報を持っているらしいな友よ』
いったい俺を誰だと思っているのか。何処か突発的に見えて意外と情報とかを気にするエルドリッチだぞ。前世からほんとその癖が抜けなくてな.......こう、確実性がないと踏ん張りが利かなかったり.......ん?
「サリヴァーン?」
『何かね』
「.............いや、なんでもない」
────サリヴァーンからの〈伝言〉じゃねえか!?これぇ!!??
普通に応答してたわ.......何故にすぐ気づかない。そもそも俺に〈伝言〉してくるのこの世界じゃモモンガさんぐらいだろうに.......いや、それ以前にコイツ俺が応答すること見越してなかったか?え、怖.......これが知恵者──多分違う──。
『一先ず現在のナザリックについて報告しておこう』
「あ、ああ.......」
『厳戒態勢が敷かれていてな、イルシールも例に漏れず騎士たちを使って巡回させている。それと、ナザリックの入り口周辺が草原になっていたそうだ』
『草原?あぁ.......で?他には?』
そういや、草原になってた。
転移後のナザリック周辺のイメージが丘で固定されてたから、草原に少し首を捻ってしまった。
『他か.......ヨルシカ姫が何やら不貞腐れていたな』
「は?」
『いや、なに、キミが私の所に来てそのまま消えたからだな。後はキミ、彼女の所にてんで顔を見せなかったろう?』
いや、それはまあ、たしかに。
マグダネルやサリヴァーンはエルドリッチ的に顔を見せに行ったりするのは当然だが、ヨルシカは本当に滅多に顔を出してない。
だが、何故不貞腐れるのか?なんか、そういうフレーバーテキストでも書いていただろうか?
『……キミという奴は。幽閉塔に行くのは私かキミか給仕だけだろう?給仕と私は基本的に無駄な話はしないからな、そうなれば話す相手などキミしかいないだろ。てんで顔を出さないが、な』
「…………?」
『……ああ、ダメだこの男』
な、なんか、サリヴァーンのため息が聴こえる……俺何かした?そりゃ、ヨルシカのいる幽閉塔への給仕には幽閉塔内においての会話を制限させたけども。えぇ?
あ、もしかして創造主的な……確かにそこまで書き込んだ記憶ないからその可能性があるな…………なるほど。
「まあ、ともかくしばらくはナザリックに戻らない予定だ。こっちで色々と楽しみたいからね」
『人喰いか?』
「んー、どうだろう。人喰いだけなら、ナザリックに戻った方が楽だからな」
『悪辣め。掻き回すつもりか』
「そっちのが愉しいからな」
あぁ、なんか凄い。
こう、お互いに分かってますよ感が強い。
あと、俺軽々と人喰いするつもり出てるけど、まあ特に忌避感も出なかったし、エルドリッチだから仕方ないよな。神はどこ?神人で代替出来るか?
『で?モモンガ殿には言わなくていいのか?』
「ああ、言わなくていい」
『分かった。それでは、何かあれば〈伝言〉を』
「それじゃあな───」
〈伝言〉を切り、俺はこれから先の事で思考を回していく。正直にいえばこのまま、カストディオ家に向かいたい所だが.......さて。
いや、まだ完全に身体やスキルを上手く使えるという保証がない。その保証が出来てから行動に移すでも遅くはないはずだ。
「ともなれば、ここは一度この都市を出て、アベリオン丘陵に移動するか」
彼処なら多少暴れても問題あるまい。
運の良いことにあの神官はどうやら、丘陵との境にある城壁にまで行ったことがあるようだ。その記憶を元に〈転移門〉を使用出来そうで俺は軽く胸を撫で下ろす。
さて、あちらに行ったらどんな実験をしようか。
まずはスキルの確認、魔法の確認.......ああ、それと装備の確認か。
「ペットを何体か放ってみるのも面白いな」
旧くてもレベルがプレアデス並ではあったはずだから、亜人共に倒される心配も聖王国に討伐される心配もない。
一抹の不安は丘陵を挟んだ向こうにあるスレイン法国の漆黒聖典たちだ。もしも何らかの方法で飼い犬たちからこちらがバレるのは避けたい。無論、プレイヤーとして毅然な対応をすればある程度は何とかなりそうであるが、流石に人喰い神喰らいの怪物は見逃してくれそうにない。
と言っても、彼らをどうにかする方法は俺の中にある。確かに人喰い神喰らいであるが、それはあくまでどうしようもない外道を対象にしてるとでも嘯けば良いのだ。
「仮に無理でも、番外席次以外ならば相手にしても問題は無いだろうしな」
例え、槍を使われようともワールド・アイテムを所持している以上、槍からは逃れられる。それに最悪、槍の対象を適当なモンスターで割り込ませて無力化するという手もある。
実際、ユグドラシルで召喚系職業が槍相手にやって自分の召喚モンスターを生贄に槍持ちが消えたからな。流石に通常のモンスターのデータ消されたのは運営もビビったのか、しばらくして始まったイベントで復活してたなぁ.............こっちだとその辺りどうなるのだろうか。種族諸共?いや、現実化してる以上、モンスターの個体ごとになるんだろう。そうだといいんだがなぁ
「番外席次に勝てたら味方に引き込めるだろうけども、勝てるかな?俺、信仰系魔法詠唱者だからなァ。いや、モモンガさんと違って近接戦も出来なくはないし.......遠距離から嬲る何時ものやり方が一番か」
そんな事を言いながら、俺は正面に〈転移門〉を創り出す。そうすれば、半球体の闇の塊みたいなモノが生まれ、安定し始める。
安定したのを確認してから、門に足を踏み入れれば次の瞬間にはそこは別の街並みに変わった。やはり、魔法は問題なく使えてるようだ。
と、なれば。
「〈飛行〉」
次はスキル等々かな?
その為にも少し速度を上げて城壁へ、そしてさらにその向こうにある丘陵を目指して飛んでいく。
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ナザリック地下大墳墓第五階層・氷河───イルシールの最奥である聖堂にて領域守護者サリヴァーンはその黒い仮面の下で瞳を閉じ、静かにその思考を廻していた。
それはこれからの未来の事。
この異世界へと転移したナザリック───そんな事は至極どうでもいい。サリヴァーンにとって重要なのはエルドリッチ自身の未来の話だ。
サリヴァーンにとって、エルドリッチは創造主であるがしかしエルドリッチが書き込んだフレーバーテキストによりサリヴァーンはエルドリッチに対して絶対的な崇拝を一切抱いていない。それがこのナザリックの者らとの大きな違いである。
そんなサリヴァーンからすればエルドリッチは無二の友であり、彼の事情を理解しているが故に彼のこれからが心配なのだ。
サリヴァーンのエルドリッチへの評価は強く頭も回るが知恵者であるか?と聞かれれば決してそうではないというものだ。頭が回ると言っても本物の知恵者と比べればいく段か劣ってしまうそういうぐらいのもの、だがそれは仕方の無い話だろう。エルドリッチは『人喰らい』なのだから。
頭を動かして策謀を張り巡らせるのは自分であり、あちらは一種の暴力装置的な部分と悪辣に場を掻き回す様な無邪気さがある。何事も分担が大事なのだ。
さて、そんなサリヴァーンが心配する彼のこれからというのは一体何なのか、それは純粋に現在ナザリックを離れて基本的に単独で動いていて、その先どうするのか?といえ話だ。
こう見えて、サリヴァーンは友情というものに厚い男である。それはフレーバーテキストに影響されたものでは無い。まあ、つまるところ、飾りっけのない言葉でサリヴァーンの心中を言葉にするならば────
「保護者、と言うべきなのだろうな」
そんな柄じゃない言葉を嘆息する様に呟いて、サリヴァーンは肩を竦めつつここからできるエルドリッチへの支援はどのようなものをするのかを思考していく。
しかし、現状エルドリッチがいるというローブル聖王国の位置関係などの情報は全くと言っていいほどない。であれば、不用意に動けばアルベドやデミウルゴスら他の知恵者に気取られてしまう。
ならば、どうすればいいか。
「些か悪手としか言いようがないが、外征騎士を放つか」
アルベドらに怪しまれるだろうが、これは必要な事。そう割り切って、サリヴァーンは聖堂を後にする。
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この世界に神喰らいが零れ落ちた翌日、アベリオン丘陵に複数体の侵入者が現れた。
それは巨躯の怪物。まるでワニのように突き出た大顎を持ち、獣のように体毛に覆われた四足の身体、胸からは肋だろう骨が剥き出した異形の獣。
瞳は一対のように見えるが、三対のようにも見える。
解き放たれた異物である彼らはこの丘陵で各々好きに動き始めた。全ては自分らの王の気分がままに────