空飛ぶにわとり番外編   作:甘味RX

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崩落編
ティアさんを口説いてみよう!


 

 

【 愛の言葉をささやきましょう 】

 

 

 

 

 操作席にいなくちゃ動かないんだけど、いたからと特に忙しい事もないタルタロスでの移動中。

 

「いーなー」

 

「なにがですの?」

 

 艦橋のメインは自然と女性陣のおしゃべりになる。

 その間、男たちは黙ってそれを聞いているわけだけど、俺としては変にみんなで無言になるより このほうがよっぽど楽しい。

 

 後はときおりルークがヒマそうになるくらいで、ガイも大佐も特に口を挟む事はなかった。あ、いや、大佐はたまに何食わぬ顔で混ざってるときもあるけど。

 

 まあそんなこんなで平和な航海を、俺はモニターに映る海を見ながら満喫していた。

 

「ティアのメロンだよー」

 

 瞬間、ごふっ、とあちこちで噴出した音が聞こえる。俺も噴出した。

 

 平和な航海とか満喫とか考えて三秒もしないうちに起きたアニスさんの爆弾投下に、大佐をのぞく全員の動きが一気に崩れる。ティアさんにいたってはパネルに突っ伏していた。

 

「アアアアニス! そ、そんな、はしたないですわよ!」

 

「だってぇ。あれがあったら玉の輿計画ももうちょっとスムーズに進むと思うんだよねー。ガイだってどうせならメロンのほうがいいでしょ?」

 

「俺に振るなっ!!」

 

 反射的に怒鳴り返した後、ガイは咳払いをひとつして声をひそめた。

 

「胸がメロンだろうがメロンじゃなかろうが関係ないだろ。女性はそのままが魅力的なんだ」

 

「えぇ~、そんな答えつまんないよぅ。じゃあリックは? やっぱメロンがいいよね?」

 

「へ!?」

 

「めっ、メロンメロン連呼しないで!」

 

 顔を真っ赤にしたティアさんの抗議に慌てて謝るガイの声を耳の端に聞きながら、まさかこの手の話題が振られると思っていなかった俺はびくりと身をすくめた。

 振り返った先に爛々と輝くアニスさんの笑顔を見つけて、ようやく脳が動き出す。

 

「おれ、俺は別に……! め、め、め、メロンかメロンでないかといえば それはちょっとメロンに心動くかもし、しれまっ、せんけど、でも、だってそんなオレ……っ、俺は、その、でもやっぱり!!」

 

「アニース。あんまり子供をからかわないでやってください。そろそろ壊れてきましたから」

 

 ずっと流れを傍観していた大佐が、呆れたような声を割り込ませた。

 それを受けてアニスさんが首を捻る。

 

「子供って、リックもう二十代半ばですよねー。そんな動揺する質問でも無い気がするけど」

 

「女性に慣れてないんですよ。顔はそれなりに良くても、中身がアレですからね。向こうがそういう対象と見て近寄ってきませんから」

 

 大佐がそう言うと、言葉なくともみんなの中に納得ムードが漂った。

 何でそんなルークまでしんみりした顔なんだ。

 

「じゃあ女の子 口説いたりとかしないわけ?」

 

「まさかそんな」

 

 アニスさんの問いにすぐさま首を横に振る。

 まずしない上に、もしやろうと思ったとしても軍属では機会は無いに等しい。あって宮殿のメイドさんか。後は寮になるとガタイのいい先輩方しかいない。

 

「女の子のひとりも口説けなきゃ男じゃないっしょ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「そ! じゃあほら、ティアで練習してみよー!」

 

「え!?」

 

「えええ!?」

 

 違う方向から同時に上がった驚愕の声にかまうことなく、なぜか全員の共同作業で俺とティアさんが隣同士にさせられる。

 さっきは庇ってくれたはずの大佐すら、なぜかなぜか、嬉々として指示を飛ばしていた。

 

 そんなわけでティアさんと隣同士です。

 口説くって、何をすればいいんだ。

 

「……ティアさん」

 

「……え、ええ」

 

 とりあえず声を掛けて向き合ってみたけど、お互い言葉もなく、半端な沈黙が場に下りる。

 なんでもいいから喋る、と隣のアニスさんから小声の指示が飛んできた。

 

 なんでも……。

 

「ご、ご趣味は!?」

 

「リック……それはないだろ」

 

 方々で零れる溜息。ガイからすら突っ込みが入る始末だ。

 何が違うんだ。どうすればいいんだ。

 

「た、鍛錬を少々」

 

「ティアも答えなくていいから!」

 

 向こうで真面目に答えてくれたティアさんがアニスさんに制されていた。

 なにか口説き文句は知らないのかとアニスさんに軽く怒られて、悩む。

 

 世界の勉強をするために大佐の書斎や宮殿の資料室にあった本はけっこう読んだつもりだが、その中のどこにも女の人の口説き方なんて書いていなかったし。

 

 考えた末、ちょっと昔の記憶が浮かんできた。

 

「……そういえば、気になる女の子がいたらこう言えって陛下に聞いた気がします」

 

「王族式か~! ねぇねぇやってみて!」

 

 アニスさんのほうを向いていた首をぐりんとティアさんのほうに回される。

 えぇと、確か。

 

「毎日貴方の作ったお味噌汁を、」

 

「うわダメだ」

 

 言い切る前にアニスさんからノーサインを出された。

 

「ダメですか?」

 

「ダメ。……えっと、じゃあ他にはなにかある?」

 

 そう問われて、再び記憶の底をさらいに掛かる。

 まだ何かあっただろうか、と最近のものから順に思い返していき、また思い出した。

 

「本当に好きな人を見つけたらこう言いなさいって……」

 

「それだぁ!」

 

 びしりと人差し指が眼前に迫る。

 

 だけど、これは、本当にいいんだろうか。

 不安になりつつも引っ込みがつかずに、俺は再度ティアさんと向かい合った。

 

「……えっと、相手の方の手を握って、目をまっすぐ見て」

 

 失礼ながらティアさんの手を取らせてもらい、目を見つめる。

 瞳は綺麗な青色をしていた。

 

 それに見惚れつつ、例の言葉を言おうと口を開く。

 

「俺の子供を産んでくださ、ゴぶっ」

 

 即行トクナガの拳が飛んできました。

 

「それホントにピオニー陛下に聞いたの!?」

 

「本当ですよぉ! でもなんか、あんまり一般的じゃなさそうな感じだったんで使うつもりはありませんでしたけど」

 

「めずらしく正しい判断です。ところで他にも教わりましたか?」

 

 振り向くと、眼鏡を逆光で輝かせた大佐が立っていた。

 びくりと身をすくめる。気分は蛇に睨まれたカエルだ。

 

「あ、あとは、女性を見かけたら声掛けないほうが失礼だとか、すごく綺麗だったら連絡先をお聞きして陛下に教えろとか……?」

 

「そうですか」

 

 それだけ言って元の指令台まで戻ってしまった大佐を呆然と見送る。

 その反応を見て、とりあえず陛下の言っていたやつは実戦しなくて良かったらしいと悟った。

 

「……あの、リック?」

 

 控えめに掛けられた声のほうを見やると、ティアさんがこっちを向いて少し首をかしげていた。

 

 青の目がまっすぐに俺を捕らえる。

 

「自分に合わないことを無理にしなくてもいいと思うわ。好きな人を見つけたら、リックはリックなりに一生懸命そのことを伝えれば良いの」

 

 諭すような柔らかな声が胸に響く。

 するとティアさんは最後にすこし微笑んで、言った。

 

「あなたはそのままで十分素敵よ」

 

 

 おそろしく長く感じた数拍の間の後、ホワイトアウトしかけた頭を勢いよく引き戻し、真っ赤になった顔をそのままにぐりんとアニスさんのほうを向いた。

 

「こ、これが口説くってことなんですね!!?」

 

「そう!!!」

 

「え!?」

 

 これはすごい威力だ。

 一瞬のうちになんかどこまでも着いていきたい衝動に駆られてしまった。

 

「なんか分かった気がしますアニスさん!」

 

「ん! ティア先生をよっく見習うように!」

 

「はい!! ありがとうございますティアさん! 俺がんばります!」

 

 

 

「えぇええー!!」

 

 

 平和なタルタロスの艦内には、その日、ティアさんの叫び声が響き渡った。

 

 

 




タルタロスで移動中で、わりと緊迫感なくて、もうティアがメロンってことになっててアニスがリックがレプリカだって知らない、謎の時間軸。
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