空飛ぶにわとり番外編   作:甘味RX

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レプリカトリオでほのぼの

 

 

【 I like you 】

 

 

 全員の休憩のため、タルタロスはいま港に停泊している。

 

 各々自由な時間を過ごしたり、用事がある人は用事を済ませたりしている中、特にやることのない俺は艦橋で機材の点検をしていた。

 

 分厚いマニュアルを片手に、設定に異常が無いかをひとつずつ調べていく。

 

 でも俺そんなに譜業には詳しくないからガイに頼めるならそのほうがいいんだけど、せっかくの休憩中に邪魔するのは悪いし、何よりあいつに任せたら勢いで分解されてしまいそうな気がしてちょっと怖い。ガイの目があんなに輝くのは譜業や音機関を前にしたときくらいだと思う。

 

 そして最後のチェックが終わり、終了のキーを叩いたとき、

 

「リック」

 

 響いた呼び声にピッと身を弾ませた。俺がチーグルだったら今絶対に耳が立ったはずだ。

 

「ルーク!」

 

「あ……おつかれ。いま、平気か?」

 

 振り返ると、そこには思ったとおりの赤がいた。

 ルークは俺が持っているマニュアルに目をやって、ちょっと申し訳無さそうに眉尻を下げた。

 

 雑務は半分趣味みたいなもんだし、こういうのは俺の仕事だから構わないのに。

 にかりと笑みを浮かべる事でそれを伝えてから、俺はマニュアルを椅子の上に置いてルークに走り寄った。

 

「いま終わったとこ! なに? どうした? 俺になんか用?」

 

 目を輝かせながら詰め寄るとルークは一瞬逃げ腰になったものの、すぐ苦笑して指で外を示した。

 

「いや、停泊しててもイオンのやつあんま遠出できないだろ? せめて甲板で風にでも当たらせてやりたいんだけど」

 

 お前も来るか、とルークが言い切る前に、俺は力いっぱい頷いてみせた。

 

 

 

 

「ありがとうございます、ルーク。リックも、付き合ってくれて」

 

 甲板の手すりに捕まりながらそう言って微笑んだイオンさまに、俺は笑って返して、ルークはちょっと気恥ずかしそうに頭をかいていた。

 

 いつも一緒のはずのアニスさんの姿が見えないことを不思議に思い聞いてみると、せっかくの休憩時間だから好きに過ごしてもらうようイオンさまが送り出したらしい。

 

 きっとアニスさんは渋っただろうなぁ。でも最終的にイオンさまの笑顔に負けたんだろう。

 そのときの様子が目に浮かぶようで、思わず口元を緩める。

 

 そのまま三人でのんびりと海を眺めていると、怪訝そうな顔のルークがふと俺を見た。

 

「なぁ、リック」

 

「ん?」

 

 イオンさまの向こうに立つルークに俺も視線を移すと、彼はなんだかバツが悪そうに目を泳がせていて、何事かと首をかしげる。

 少し間何やら言いにくそうに唸っていたけど、やがてルークは意を決したように口を開いた。

 

「おまえさ、俺の何がいいんだ?」

 

 突然の問いに俺がぽかんと翠の瞳を見返すと、それをどう解釈したのか顔を赤くしたルークが慌てて首を横に振る。

 

「べ、別に変な意味じゃないからな! ……たださ、前の俺、あんなんだったじゃん。お前に好いてもらえるようなこと何もしてないのに……って……」

 

 ルークの声はどんどん小さくなっていき、最後はほとんど聞こえなかった。

 

 けど。

 

 喜びに転げまわりたい気持ちを必死に抑え、俺は前の手すりに寄りかかってルークの顔を覗きこんだ。

 

「ルークは最初から優しいよ」

 

 ここ最近ガイに卑屈~と怒られているのも頷ける。

 大佐と一緒で、元から大好きを向けられるのが苦手な観はあったけど。

 

「ね、イオンさま」

 

「はい。ルークは優しいです」

 

 顔を向ければイオンさまは一瞬目を見開いたあと、とても嬉しそうに微笑んだ。

 

 イオンさまがこんなふうに無邪気な笑みを浮かべるのも、アニスさんかルークが関わってるときだけなんだって、ルークは気付いてるだろうか。

 

 今のルークは“大好き”に対してすごく臆病になっているような気がする。

 好かれることが怖いのか、好くことが怖いのかは、分からないけど。

 

 でもあいにくと、そういうのには慣れてるんだ。

 

「優しくて、間違うけど前見れるから、俺はルークが好きだよ」

 

 あの人もなかなか言葉どおりに“大好き”を受け取ってくれないから、俺は言う。

 大好きな人へ大好きですよと、何回だって伝えるんだ。

 

 イオンさまと俺で にこにこと笑いながら顔を眺めていると、ルークはちょっとの間 呆然としていたけれど、やがて弾かれたように顔を真っ赤にした。

 

 言葉になりそこなった意味を成さない声が彼から零れるのを、イオンさまと二人微笑ましく見守る。

 

 ゆっくりでいいから、彼らが大好きを幸せに受け取ってくれるようになってくれたら、いいと思う。

 例えばそれは、俺のじゃなくてもいいから。

 

「…………あ、ありが、」

 

「それにルークの髪の色ってほら、ジェイドさんの目と一緒じゃん?」

 

 今現在 町のどこかで休憩しているはずの上司を思い、うへへへ、としまりのない笑いを零すと、隣からぴしりという音が聞こえた気がした。

 

 横のイオンさまがなぜか苦笑している。

 え、何、なん……

 

 見えない速さの回し蹴りが、俺の膝の裏に入る。

 そして人間の構造上 がくんと抜けた膝を、思いきり地面に打ち付けた。

 

「お前それか! 結局そこかよ! あーくそ、感動したオレがバカだったぁ!!」

 

「え、ちょっ、ルーク! ル~ク~!!」

 

 膝の痛みで俺が動けずにいる間に、ルークはずんずんと歩いて艦橋のほうへ消えてしまった。

 

 伸ばした右手も虚しく空風吹き抜ける甲板。

 

 やがてその手をゆっくりと下ろして、笑った。

 それを見たイオンさまもおかしそうに口元に手をやる。

 

「ふふ……後で ちゃんと機嫌を取ってあげないといけませんね、リック」

 

「はい」

 

 ルークの背中が消えた方向を見やって、俺は目を細めた。

 

(確かに、最初はジェイドさんの瞳と重ねたからだった、けど)

 

 そしてイオンさまと顔を見合わせて、そっと微笑む。

 

 

 

 いま、俺の大好きな赤は、ふたつ。

 

 

 

 

 

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