【 みまもるひと= 】
「だからこれで右から……ストレ、ノーレ、アルカ、だろ?」
「えー、でもルーク。これがこうで左から……ノーレ、アルカ、ストレ、じゃないか?」
旅の途中。
節約のために二部屋しか借りなかった宿の花のない男部屋にて。
さきほどから寝台の上で黙々と荷整理をしているルークとリックを、ガイは少し離れた場所でコーヒーを飲みながら何とはなしに観察していた。
同じ机の向かいには報告書らしき書類を手にしたジェイドがいる。
最初は、パーティ内の雑用を主な仕事とするリックが荷袋を広げ始めて、そこに手伝うと言うルークが加わった。
そうして二人で楽しげにひとつずつ点呼しながら中身を種類別に纏めていたのだが、C・コアの小袋に差し掛かったとき、順調に流れていた声と手が動きを止めて、今に至る。
一部始終見ていた自分も相当ヒマだなと自覚しつつ、考え込む二人をまた眺めた。
「え、いや、だから、これがノーレだろ?」
「うぅん、それは、アルカだと思うけどなぁ」
「でもそうしたらこっちは何なんだよ。こっちがアルカで、そっちストレ、これノーレだって絶対」
「んんん~……?」
間に置いた三つのコアを前に難しい顔をしているルークとリック。
そんな様子をジェイドは初めてちらりと横目で窺ったかと思うと、軽く笑って肩をすくめた。
再び書類のほうに意識を戻したジェイドにガイも僅かに苦笑してから、こう着状態へ入った二人の姿を見て、あらためて微笑む。
まだいくらかリックが遠慮がちではあるが、間に横たわる空気が前より大分くだけてきた事に嬉しさを覚えた。
屋敷ではつくりたくとも作れなかっただろう“友達”。
己以外にもそういう存在が出来るのはルークにとって良い事だ。
まぁ多少寂しくはあるが、そうあることも含めて良かったと思えるといえば、これはやはり。
「親馬鹿……いや、バカ親ですねぇ」
「だよなぁ」
思考を読んだようなタイミングで呟かれた言葉に瞑目する。
実はこの男が心を読めると言われてもきっと驚かないだろうと思った。
何故かと言われれば……ああ、そういえばリックが何か言っていたなと思い出す。
そうだ、あれだ、“ジェイドだから”だ。聞いたときは世の不思議が全てそれでまかり通る気さえした。
「そういうあんたはどうなんだ?」
荷物に夢中になっている二人は、小声でかわされるこちらの会話には気付かない。
目でもう片方の子供を示して問えば、ジェイドはほんの僅か表情を緩めて、肩をすくめた。
「さあ、どうでしょう」
その表情の変化とそれを感じ取れた自分に驚きつつ、くえないおっさんだ、と返してコーヒーをあおった。
本当にわけのわからない奴だと思う。
そうしてあいつの変化を喜ぶこともするくせに、いざってところで渋い顔。
変わって欲しいのか、欲しくないのか。
いやそれとも、一番変わりつつあるのはこの男なのだろうか。
「これがノーレ!」
「いやっ、でも、きっとこっちがノーレじゃ…!」
響いた声に、ジェイドと同時に顔をそちらへ向ければ、そこには真剣に話し合う子供二人がいる。
あまりに平和なその様子に、ふと脱力した笑顔が浮かんだ。
ジェイドも呆れた顔で息をついて、最後に少し口元を緩めてからまた書類に目を移す。
だれが、じゃない。
みんな少しずつ変わっていってるんだ。
(それは、きっと、俺も)
暖かな気持ちに目を細めて、カップに残った液体を一気に飲み干す。
じんわりとした苦味が脳にしみこんでくるのを感じながら、ガイはとりあえず、いつあれがストイル、ノーレド、スピリトであることを彼らに伝えようかと考えていた。
本文途中、チラ見して笑った段階であれがストレノーレアルカじゃない事に気づいてたジェイド。だけど言わないジェイドさん。
そしてガイも最初から気付いているんだけど、ちょっと面白いから言わないで見てる、ささやかな愉快犯。