【 レプリカ戦線異常なし 】
「どうしてだよ!」
旅の途中、野宿のため薪拾いに出ていたガイは、響いてきた声に驚いて顔を上げた。
見れば先で焚き火を挟んで言い合うルークと……。
その相手を視認して、目を見開く。
「リック?」
ルークと対峙しているのは、どうしたことかあのリックだった。
目に余るを通り越して不憫になるほどの臆病さをほこるあの男は、それゆえに諍いとは程遠いところにいる。
ジェイドに泣きつく姿はよく見るが、誰かと口論するなんて間違っても出来なさそうな男だ。
それにルークだって昔ならいざ知らず、今は変に突っかかることはない。
アニスとはよくじゃれあいのような喧嘩をしてもいるが、あんな見るからに戦意がない上に良くも悪くも好意の塊のようなリックにきつく当たれる奴ではないはずだが。
間に焚き火を挟んで睨み合う二人と、少し離れたところに我関せずで腰を下ろし目を伏せているジェイドを数度見比べた末、ガイはそっと足元に薪を下ろしてジェイドのそばに寄った。
「何かあったのか?」
他の仲間はまだ食材探しや洗濯から戻っていないらしいが、唯一「いやぁ最近節々が痛んで」とまた年寄りぶって見張りとしてここに残っていたジェイドなら、一部始終を見ていただろうと問いかける。今更だがついさっきまで誰より颯爽と槍を振り回していた男がよく言うものだ。
するとジェイドは面倒くさそうに伏せていた瞼を持ち上げた。その下から覗いた赤色がちらりとガイを見る。
「つまらないことですよ」
「ルークとリックが喧嘩してるんだぞ? そんなわけないだろ」
とくにここ最近、あの二人は仲が良い。
少々ぎこちなさが残るものの、それでもようやく“友達”らしくなってきたのだ。そんな二人があんなふうになっている原因がつまらないはずはない。
ガイとジェイドの会話も耳に入らない様子の二人に今一度視線を戻す。
そのとき、対峙しながらもやはりおどおどと瞳を揺らしていたリックが、ルークをまっすぐ見据えた。
「俺だって、それはゆずれないよ」
小さな声ながらもはっきりとしたリックの物言いに驚く。
彼がルークに異を唱えるなんて、明日はアイシクルレインでも降るのだろうか。
それを受けたルークが一度辛そうに眉を顰めて顔を伏せ、すぐに上げた。
「嫌なものは嫌なんだ。おまえなら、分かってくれるって思ってたのに」
「でも、ルークのためなんだよ!」
いつになく必死に喋るリックに、ルークが鋭い視線を向ける。
「俺のためじゃないだろ! おまえは……お前はいつだって、ジェイドのことしか考えてない!!」
うん?
会話の流れに首をかしげる。同時にじわりとした汗が背中に浮かんできた。
何かがおかしい。二人はなんの話をしているのだろう。
ルークの言葉に、リックが急いで首を横に振る。
「ルーク! 俺はそんな、」
「そんなことないって言えるのか!? だったら止めてくれよ! じゃないと俺はっ、」
耐えかねたように荒げられた声を遮るように、リックは再度ゆるく首を振った。
「ごめんルーク。それは、出来ない」
「リック!」
「……ルークがこういうのイヤなのは分かってる。だけど……俺やっぱり……!」
展開にまったくもってついて行けず、混乱のあまり思わずジェイドの服をしっかと掴みそうになったとき、リックがグッと拳を握り締める。
「カレーにキノコいれたほうがいいと思うんだ!!」
ぐえっ、ぐえっ、ぐえっ。
小ぶりなグリフィンが、頭上を通過していった。ついでに頭が真っ白になる。
「だーかーらー! 俺キノコ嫌いなんだって! 頼むから抜いてくれよ!!」
「で、でも好き嫌いはないほうがいいってナタリアも言ってたし、俺もそう思うし……」
「そんなこと言ってお前ただジェイドに食わしてやりたいだけだろ! 知ってんだぞカレーごとのジェイドの反応ノートに纏めてんの!!」
「な、なんでソレを!!」
秘密にしていたつもりだったらしいリックがザッと後ずさる。
しかし調理担当のたびにうきうきと書き込んでいればいやでも気づくだろう。
キノコを入れる入れないできゃんきゃんと騒ぎ続ける子供二人を見ながら、ガイは燃え尽きた背中で立ち尽くしていた。
「だからつまらないことだと言ったでしょう?」
背後から響いたジェイドの声が、むなしく風にとけて、消えた。