【 大人の見解 】
パッセージリングやセフィロトの件をどうにかするため、俺達は今ダアトに来ている。
だが到着したときにはもう日暮れで、今から行っても門前払いだ。
一刻を争う時期ではあるが、無理に進めば良い結果が出るというものでもない。それに偽王女疑惑で考え込んでいるナタリアの事も気に掛かった。
最初は「こんなゆっくりしてもいいのかな」と渋っていたルークだが、ナタリアを元気付けてやれと言えば二つ返事で頷いて、宿で借りたトランプを手に張り切ってナタリアを誘っていた。
そして今、隣の部屋から聞こえてくるにぎやかな声に口元を緩める。
よく響くアニスの高笑いとルークの怒声。
いつのまにやら本気で遊びに熱中しているようだが、その中に混じるナタリアの笑い声に、結果として俺達のもくろみは成功したらしい事を知る。
「で、俺はあんたと顔つき合わせて作戦会議か……」
「おや ご不満ですか。こんな美中年が一緒なのにねぇ」
いっさい感情のこもらない軽口に俺も半眼で肩をすくめた。
楽しげな女性陣の部屋の隣にある男部屋では、俺とジェイドが明日の予定について話し合っている。
本来ならここにルーク他もう少し仲間が揃うのだが、今回はナタリアのみならずみんなの気分転換も兼ねるつもりだったので、この中では保護者の立場に近い自分たちを残しに後は隣へ回ってもらった。
いやしかしそういえば、別の意味で賑やかしい男の声がしないような。
そう思ったところで扉をノックする控えめな音が部屋に響いた。
「どうぞ」
「あ、すみません失礼します」
カップの乗ったトレイを手に、ひょいと顔を覗かせたのは今しがた思考に登場していた男だった。
「宿のおかみさんにスープ貰ってきましたー」
カップの一つを丁寧に俺の前においたリックを見上げる。
「隣に混じらないのか?」
「まぁ、ほら、俺はなぁ。二十五歳だし」
外見は、というところが言外に込められたのは、一応ここが公共の場であることを考慮してだろうか。
こういうあたり、ルークより三年長い十年という歳月を思わせる。世間に自分がどう映るかは承知しているのだろう。
まぁ自覚があってもあれだけビビってりゃ無意味だが、こうして静かにしてれば一応 俺より年上に見えなくもない。
「ジェイドさんもどうぞっ」
おい俺のときと声のトーンが違うぞ。
「ああ、ありがとうございます」
そう言ってカップを受けとったジェイドが緩く微笑むと、リックは幸せそうに笑ってハイと頷いた。
そんな光景を口に運んだカップの裏から眺める。
こうしてよくよく観察していると、ジェイドはリックに対して特別理不尽なわけでもない。
……いや、決して良い扱いでもないのだが。
今のように、ちゃんとした所では礼を言うし、あんなふうに褒めるみたいに笑いもする。
厳しいのも確かだが、それゆえに不当な男ではないのだと思った。
だから頑張ってるなら褒めるし、まずい事をすれば怒る。
それは育てる者としては正しい姿に思えたが、元来の性格なのかジェイドは「褒める」ほうの表現がかなり不器用だ。(怒るほうはおそろしくきついが)
「何やってるんです?」
「え、いや、道具の整理をしようかなって」
「……別に構いませんから机でやりなさい」
俺たちの邪魔をしないようにということなのか、部屋の隅に行こうとしていたリックが、ジェイドの言葉を受けて荷物袋と共に席についたのを横目に見る。
しかしジェイドさんジェイドさんと呆れるほど付きまわっている毎日は伊達じゃないようで、アイツは奴の分かりづらい肯定に気付くらしい。執念……もとい「ジェイドさん大好き」の勝利か。
「明日は、まぁ行ってみてだろうな」
「アニスも居ますから何とかなるとは思いますがね」
ただ時折、なんの脈絡もないところで突き放しているように見えるのが不可解ではあった。
理のない行動。よく考えればあまりにジェイドらしくない。
そしてそういうとき、リックは怒ったような顔で眉をひそめる。
あんまり一瞬だし、そのあとすぐに泣いてわめきだすから、中々気付けなかったが。
そのジェイドの行動や、リックの表情が何を意味しているのか、俺はしらない。
だが――
その時がちゃりとドアノブが回る音がして、はっと顔をあげた。
そこから覗いた真っ赤な髪に目を丸くする。
「ルーク?」
「なあ、リックいるか?」
突然の指名に驚いたリックが「うひへ!?」と裏返った声を上げながらビクリとはねる。
拍子に手にしていたダークボトルがすっとんだが、それはジェイドがろくに見もせずに左手で見事キャッチしていた。
「話し合いはとりあえずジェイドとガイだけでいいんだろ? お前もこっち来いよ」
全然アニスに勝てねぇんだ、と悔しげに言ったルークが返事もまたずにリックの首根っこを掴んで引きずっていこうとする。
顔を赤くしたリックが慌てて声を上げた。
「お、俺もいっていいの!?」
「バカ。何言ってんだよ、とーぜんだろ」
嬉しさに口をはくはくとさせるリックを引っ付かんだルークは、ドアを閉める直前に俺達に向けて言った。
「あ、終わったらお前らも来いよ。絶対な!」
閉じた扉と、少しして隣から聞こえてきた殊更明るい声に、ジェイドと顔を見合わせて笑みを浮かべた。
「絶対だとよ」
「やれやれ、ああいうところはまだ親善大使が抜けてませんねえ」
「まー、ルークの性格の一部だし」
それに突然あんまり殊勝になられすぎても調子が狂うので、俺としてはあれくらいでいいが。
響く楽しげな笑い声。
おいていかれた道具袋を整えながら、少し目を伏せる。
「――無くしたくないな」
これから先、どれだけのことが待ち受けているのか。
目の前すら不透明で想像もつかないが、未熟ながらも大人である自分は心から祈る。
あの子らの笑顔だけは、何があっても。
口に乗せなかった言葉の先を読み取った、目の前の器用で不器用な男は、何も言わずに暖かなカップを指でなぞった。
ジェイド「ところでガイ、ワイン飲みますか?」
ガイ「騙そうと思うならせめて一度隠してくれないか」
さっきのダークボトルだろソレ。
(By.ガイ)