空飛ぶにわとり番外編   作:甘味RX

20 / 62
王女と兵士の料理教室

 

 

 なんで、どうして、こんなことに。

 

 長旅のお供である簡単な調理セットを前に、可愛らしいピンクのエプロンをつけて気合たっぷりに腕をまくるナタリア。

 その後姿を眺めながら、これまたピンクのエプロンを付けさせられた俺は、遠い目で乾いた笑みを浮かべた。

 

 そうだ、事の起こりは数十分前。

 

 今日の料理当番はナタリアだった。

 頼むから俺たちに任せておいてくれないかという懇願を、彼女はいつも凛々しい笑みを浮かべて却下する。

 

「いいえ、わたくしだけ楽をするわけにはいきませんわ」

 

 もしもこれが災害現場か何かで、俺が国民だったなら、自国の王女の慈悲深さに心から感動しただろう。このひとに一生ついていこうって思っただろう。

 ああ、かえすがえすも、ここが調理場でさえなかったら。

 

 とりあえず生きて朝日を拝みたいとみんなの願いが満場一致したのはいいのだが、手伝いという名目で料理を食べられる方向に軌道修正する役目が、俺に任せられた。というか押し付けられた。離れた場所で談笑しているみんながちょっと恨めしい。

 

 だけど。

 

「さて、何を作りましょう。ルークは好き嫌いが多いですから……」

 

 食材を見比べて一生懸命に考えているナタリアの姿に、俺はふっと微笑む。

 

 ま、いいか。

 料理をする女の子って、やっぱり可愛いし。なによりナタリアだ。

 

 正直俺も料理が上手いほうではないので、頑張らなくてはと気合を入れて服の袖をまくったとき、ナタリアのほうも今日のメニューが決まったようだった。

 

「やっぱり苦手なものは克服しませんと。だけど、ルークだけでは不公平ですわね。わたくしも頑張ります」

 

 ニンジンとタコの入ったサラダと、それを食べた後のご褒美なのかチキンサンドを作るというナタリアに、ちょっと胸をなでおろす。

 よかった、あんまり難しい料理じゃない。

 

「じゃあ先にサラダを作ろう!」

 

「そうですわね」

 

 頷いたナタリアがふわりと笑った。

 

 そういうふうにしてると、王女様じゃなくて女の子だなと感じる。

 そんな年相応の表情を俺たちには見せてくれることを嬉しく思いながら、俺も彼女に笑い返した。

 

 調理場に向かっていたナタリアが、万能包丁を持って振り返る。

 

「ではまず野菜を切らなくては!」

 

「プチプリーー!!?」

 

 彼女の手に握られた魔物の姿に悲鳴を上げた。

 素早くそれを取り上げると、ナタリアが不思議そうに俺を見返す。

 

「どうしましたの?」

 

「ま、まだ材料あるんだからそっち使おう!?」

 

「でも食材は節約しませんと……」

 

「何でそういうトコわりとサバイバーなんですか!」

 

 キムラスカの王女はたくましいです陛下。

 涙目のプチプリをすばやく野に離してやってから振り返ると、今度はその手に、ぷりぷりとした水色の球体が。ていうかオタオタだ。

 

 全力ダッシュでその手からオタオタをかっさらう。

 

「ナタリア! っっだから!!」

 

 色々と言葉にならなくて全ての気持ちをひっくるめた一言を吐き出すと、心外だというようにナタリアが腕を組んだ。

 

「まあ、チュンチュンやウオントは食べますのに、なぜプチプリやオタオタはダメなのです? 食わず嫌いはダメですわよ」

 

「俺、好き嫌いないですけどコレは視覚的にヤです!」

 

 顔の脇に持ち上げたオタオタと一緒に泣きながら訴えると、彼女はふと眉をつりあげた。

 そしてその細い指をぴしりと俺に突きつける。

 

「リック。敬語は止めると、イニスタ湿原で約束したでしょう?」

 

「……あ」

 

 さっきから無意識のうちに敬語になっていた事に気付き、慌ててオタオタで口を隠した。

 そんな俺を見てナタリアが小さく息をつきながら、表情を緩める。

 

「わたくしは王女と兵士ではなく、もっと皆と対等な関係でいたいのです。これだけ一緒に旅を続けてきましたのよ。他人行儀は無しですわ」

 

 また、無邪気な少女の笑みを浮かべたナタリアに、俺もオタオタを腕に抱き直しながら苦笑した。

 

 この旅の中で何度も思ったことだけど、変わったのはルークだけじゃない。

 ナタリアもいろんな事を乗り越えて、本当に強くなったんだ。

 

 きっとキムラスカは良い国になるだろう。マルクトも負けていられませんね、と内心で陛下や大佐に語りかける。

 まあ大佐はすぐそこにいるけど。俺に今日の夕飯の行方を丸投げしたのもどこ吹く風で眼鏡拭いてるけど。

 

「ごめん、ナタリア」

 

「はい」

 

 二人で穏やかに笑いあう。

 

 ああ、本当に、

 

「では続きをしましょう。そのオタオタを返してくださいな」

 

 ここが調理場でさえなかったらなぁ……!

 

 さばきますわ、と付属されたセリフさえ考えなければ、天使のような笑顔を持って手を差し出すナタリアを前に、俺は泣きながらしがみついてくるオタオタをしっかりと抱きしめた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告