ジェイドとリックの日常×2
【 ユリア聖誕祭 ~きよしこのよる~ 】
「てーねーぜー、くろーりょー、てーぜー」
にこにこと上機嫌に笑いながら執務室に紙で作った花を飾り付けていく部下の姿を、ジェイドはしばらくの間黙って視界の端に見ていたが、手元の仕事が一区切りついたところでゆっくりと顔を上げた。
「なんです? それは」
「花飾りです!」
「それは見れば……ああ、なんだかいつかもこんなやり取りをしましたね。違いますよ。 今の歌……歌ですか? 歌ですよねぇ。それはなんなんですか」
まあ行動にも若干の突っ込みどころはあったが、これでもビビリさえしなければ基本的にまじめな男だ。
ちゃんと自分の仕事を終わらせた上で、休憩時間にやってることなのでそれに関しては己が干渉することではない。
しかし先ほどの、どこかで聞き覚えがある旋律が気にかかった。
旋律は、確かにそうだ。いやしかし、そんなまさか。
あんな情緒もなにもない童謡のような歌われ方のものが。
「あれですか?」とリックがまた嬉しげに笑みを浮かべる。
「ティアさんの譜歌です!!」
「譜歌ですか」
本当にあれが、という驚きと同時に、それはティアの譜歌ではなくユリアの譜歌なのだが、と考えるも、彼にとってあれは“ティアの”譜歌に他ならないのだろうと思い口にはしなかった。
「てーねーぜーくろー、りょー、てーぜー」
また調子はずれに歌を口ずさむ子供の、揺れる背中を眺めながら、ジェイドはひとつ笑みを浮かべて、また書類へと視線を落とした。
*****
【 Tender Red 】
「ジェイドさんの目は血の色ですね!」
確認済みの書類に判を押そうとしていたジェイドは、無邪気な笑顔と共に告げられた言葉に、不覚にも一瞬固まってしまった。
ジェイドがさばいた書類を黙々と片付けていたリックが、ふとまじまじこちらを見つめてきたので、どうかしたかと問い返したら出てきたのが今の台詞だ。
ひとつ息をついて平静を取り戻しながら眼鏡を押し上げる。
「……これは、貴方にしては気の効いた皮肉を言いますね」
「え!? 皮肉!?」
すると彼はがんと頭を小突かれたような顔で目を見開いた。今のがそれ以外のなんだというのか。
確かにこの譜眼により色を帯びた目はそのように影でひやかされることも多いが、口にした相手が相手なだけに内心首をかしげる。
ジェイドの言葉を受けてあわあわと情けなく眉尻を下げた彼が口を開いた。
「だってオレ、昔陛下に、」
「またあの人ですか」
もういいかげんにしてほしい。
ただでさえこの子供はアホだから何でもかんでも鵜呑みにしてしまうのに。
後でグランドダッシャーかサンダーブレードか、と思考するジェイドの不穏な気配を察したらしいリックは慌てて首を横に振る。
「い、いえ! あの、オレ昔ピオニー陛下に、血がたくさん出たら死んでしまうからって教えてもらって」
だから死を何より恐れる彼にとって、血も恐怖の対象であるに違いない。
どうしてまた血のようだなどという言い回しを使ったのだろうか。それもまた嬉しそうな顔で。
先ほど皮肉とは言ったものの、そんな意図が無いらしいことは はなから承知している。この子供に笑顔で皮肉を言えるほどの器用さはないだろう。
そんな中で、リックがパッと頬を紅潮させながら笑みを浮かべた。
「それでオレ、血が出ると死んでしまうっていうことは、血は命そのものなんだって思ったんです」
だから、と続ける。
「ジェイドさんの目は命の色なんだなぁって!」
そう思ったら嬉しくなってしまったんだと、本当に嬉しげに告げる子供を見返して、ジェイドは一瞬目を丸くしたあと、小さく苦笑を浮かべながら、手元の薄いファイルで目の前の頭をぺんと叩いた。