空飛ぶにわとり番外編   作:甘味RX

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ジェイド視点


ルークとリックの中身と外見年齢が伴っていたら?

 

 

 

【 空飛ぶ おこさま -The Flying Child- 】

 

 

 

 

 

 

 

「大佐のうそつきー!」

 

 きんと鼓膜を鳴らした声に、ジェイドは数度、ゆっくりと目を瞬かせた。

 

(……なんだ?)

 

 体中を取り巻く違和感。

 靄が掛かったような頭をなんとか回転させて現状を飲み込もうとする。

 

 目の前に広がる巨大なモニターと、聞こえてくる声。キーを叩く複数の人間の背中。

 見間違えるはずもない、これは己が指揮していた戦艦、タルタロスの艦橋だ。

 

 しかしタルタロスは振動中和のため地核に沈めたはず。

 これは一体、なんの夢なのか。

 

 ヴァンを退け、外殻大地を下ろし、ジェイドはグランコクマで溜まりに溜まった仕事をこなしていた。

 このところはアブソーブゲートで負ったリックの怪我もほぼ完治したと通常通り手伝わせていたはず、だが……。

 

「いまじゃなくていいじゃないですかぁ!」

 

 そこでまた響いてきた声に、はっと意識を引き戻す。

 先ほどはしっかり認識することが出来なかったが、よく聞けばこれはリックの声だ。彼もいるのか。

 

「大佐?」

 

 早く状況を把握しなければ――。

 そう思考をめぐらせながら、不思議そうに問いかけてくるリックへ視線を移し、

 

「な……」

 

 固まった。

 

「和平交渉にいくっていうなら、俺たちも平和にいきましょうよ!」

 

 涙目で詰め寄ってくるのは、十歳程度の少年。

 

 どういうことだ。

 ジェイドは改めて混乱しはじめた頭を必死に動かして考える。

 

 声は、リック。

 外見もちゃんと見ればリックの面影がある。しかし、少年。

 確かに彼の実年齢は十歳ほどだが、それでもあくまで外見は二十五歳。

 

 ならこれは誰だ。しかしこのビビリ方といいテンションといい、間違いなく。

 

「橋が爆破されます!」

 

 そのとき艦橋を揺らした警告音と部下のひとりが発した声に、眉をひそめた。

 

 考えろ。考えろ。

 ジェイドはこの状況に覚えがある。

 

 タルタロス。橋の爆破。先ほどのリックの言葉。

 

(和平交渉)

 

 外殻がまだ外殻大地であったころ、親書受け渡しのためエンゲーブに行く途中のことだ。この戦艦は、漆黒の翼を追っていた。

 

 そのとき、そこで、自分はどんな行動をしたか。

 

「……タルタロス、停止せよ! 譜術障壁起動!」

 

 足元で、爆発ですよ危ないですよ死んじゃいますよ、と高めの声でわめくリックをいくらか手加減して蹴り飛ばし、頭を冷やしなさい、とつぶやいた。

 

 そうだ。頭を冷やせジェイド・カーティス。

 そして認めろ。

 

 どうやら自分は、過去へ戻ってしまったらしい、と。

 

 

 

 

 そのとき自分が何を考えてどう行動していたか、慎重に思い起こしながら辿り着いたエンゲーブ。

 とりあえず前と同じように下艦に手間取るリックはおいてきた。

 

 ローズ婦人邸まではおそらくそのままなぞれただろう。

 後はこのあたりでルークとティアに会うはずだったが、

 

「俺はどろぼうなんかじゃねぇっていってんだろ!」

 

 現れた公爵子息の姿に、ジェイドは軽く意識を飛ばしたくなった。

 

 しかし嫌になるほど優秀な脳はそれを許してはくれなかった。

 目の前の状況をしっかりと飲み込む。

 

 貴方もですか。

 そう言いたくなるのを必死にこらえ、苦し紛れに眼鏡を押し上げる。

 

「くいモンにこまるような生活はおくってヌェーからなっ」

 

 七歳児の姿をしたルーク・フォン・ファブレが、そこにいた。

 

 これはもうイオン様が二歳児になってなくて良かったと思うべきなのだろうかと、ジェイドは理解しがたい環境の中で己を慰める術を学び始めていた。

 

 

 

 

 その後、チーグルの森でルーク達を捕縛してのタルタロス。

 

「おまえらがゆーかいに失敗したルークさまだよ」

 

「公爵子息さまとは存じあげず大変なごぶれいをぉー!」

 

 二人揃うとまた眩暈のしそうな光景だった。

 そして気になるといえばそのことについてのツッコミが他の誰からも一切入らないということだろうか。

 

「誘拐のことはともかく、今回の件は私の第七音素とルークの第七音素が超振動を引き起こしただけです」

 

 至って冷静なティアが今は無性に切ない。何か言うことはないのだろうか。

 たとえば軍人と自己紹介しているであろうリックが十歳児な事とか。

 

 そのリックはずっとガラガラガンガラと腰にさした剣を引きずって歩いていることとか。

 規格サイズの剣だ、子供の体格では引きずりもするだろうが、そもそもなぜ子供がいるのかとか、もろもろ突っ込んで欲しかった。切実に。

 

 

 

 

 

「まさか、封印術!?」

 

 変に違う行動を起こすのもどうかと思い、封印術も再びくらうことにしてみた。

 解き方のコツは覚えているから、前よりもずっと早く解除できるはずだ。

 

 それにしてもこの状況、何をどう動けばいいのやら。

 いっそ今のうちにパッセージリングをどうにかしに行ってしまおうか。

 

 ぐんと身体に掛かった圧迫感に膝を突きながらつらつらと考えていると、リックの叫び声が通路に響く。

 そうだ、ここは。

 

「ジェイドさんに……っなにすんだぁ!」

 

 あの大きさでは切りかかるより先に切り捨てられてしまう。

 しまった。慌てて顔を上げる。

 

 がんごろがんごろがんごろがんごろ

 

 一応抜刀はしたようだが盛大に剣先を引きずりながら走るリック。

 ……確実に殺される。

 

 とにかく阻止しようと急いで槍を取り出すが、このタイミングでは間に合わない。

 リックが剣を振りかぶる。いや、持ち上がってはいないが。

 

「たあ!!」

 

 するとラルゴはまったくもって動じることなく、その剣を鎌の柄で受け止めると、リックの首根っこを掴んでぽいと後方に放り投げた。

 

 アンタもアンタで何か疑問に思ってくれ。

 真顔のラルゴを眼鏡越しに捉えながら、ジェイドは内心で願う。

 

 

 

 

 そして前回と同じように事は進み、カイツール。

 むせび泣きながら駆け寄ってきたリックの頭を掴んで、抱きつかれる寸前で止める。

 

 実を言うとタルタロスでグリフィンに連れて行かれるとき、現在のジェイドの攻撃射程から言って助けてやれそうだったのだが、槍を投げようとした直前でなぜか前のときは記憶になかったライガが一匹襲ってきて、結局リックは今回もまたさらわれていた。まあ無事なのは分かっていたからいいのだが。

 

 ただ忘れていただけだろうか。

 記憶の食い違いを少々怪訝に思いながら首をかしげていると、ちょうどガイとリックが初めて顔を合わせたところだった。はっとしてその様子を見つめる。

 

「俺はガイ。ガイ・セシルだ。ルークのところで使用人をしている」

 

「あっ、お、俺は、リック。マルクト軍のへーしで……ジェイド大佐のちょくぞく部下、です」

 

 そこで至って普通に自己紹介を終えて戻ってきたガイをジェイドはじっとりと見下ろして、やがて盛大なため息をついた。

 

「……貴方ならと思っていましたが……がっかりです」

 

「な、なんでいきなりアンタに失望されなきゃならないんだ!?」

 

 がっかりだ。がっかりすぎる。

 いっそのこと名前もガイラルディア・ガラン・ガッカリオス伯爵とかにしてしまえばいいのに。

 

「確かにアニスやティアのように若くして実戦投入される者も多いですが、それはあくまで一部、極めて優秀な人材に限られるのですよ、ガイ」

 

「だからなんだよ突然っ!」

 

「時に貴方、リックをどう思いますか」

 

「え? ああ、えーと、あれだけ臆病でよく軍人なんかやってるよな」

 

 そうじゃない。真に突っ込むべきはそこじゃないだろう。

 この時点では二十五歳の体であったとしても同行させるかどうか正直ちょっと迷ったくらいのビビリでヘタレだ。

 それでもって今は十歳児。そんなのを普通 極秘任務に同行させると思うのか。

 

 ああまったくもどかしい。

 

 記憶どおり、ルークを庇ってアッシュの剣を受けるヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデの背中を睨みつけながら、今のうちに彼を切り捨てておけば後でさぞかし楽だろうと良からぬ考えを少しだけ過ぎらせた。

 まあこの時点ではこちらが不利になるだけだからやらないが。

 

「……旦那、何だか分からんが殺気を撒き散らさんでくれるか」

 

「何をおっしゃいます。こんなに穏やかな顔つきじゃありませんか」

 

 にっこりと微笑んでそう返せば、ガイが顔を引きつらせて後ずさる。

 

 ジェイドはまたひとつため息をついて、空を見上げた。

 まったく、これからどうなることか。

 

 いや、違う。

 

「これからどうすればいいのやら、ですかねぇ……」

 

 ふぅと連続で零れたため息は、深くそして重たい。

 とりあえず、視界の端でちょろちょろと動き回っている十歳児に足をかけて転ばせてみた。

 

 この心労の六割くらいはコレのせいだ。きっと。

 

 

 

 

 コーラル城内部。

 

 前と同じくフォミクリー装置を見つけたはいいが、あることが分かってるのに「えぇえーチョーびっくりぃー!!」などと驚けるわけもなく、とりあえずそこは黙殺しておいた。

 ただリックがハッとしたような視線を送ってきたので、それには一応軽くうなずいて返してはみたが。

 

 そして城の頂上部についたところで案の定ルークが皿割れ、もとい攫われて、今はいち早く追っていったガイがシンクに蹴り飛ばされたところだった。

 

 シンクがやけに落ち着き払った動作ですいとこちらを見下ろす。

 

 その様子に、ジェイドは僅か眉をひそめた。

 “前”のとき、彼はこんなに冷静だっただろうか。

 

「今回の件は正規の任務じゃないんでね」

 

 しかし、いや やはり台詞に前との違いはなく、

 勘違いだったかと息をつきかけたとき、シンクがふとジェイドの隣に視線をやった。

 

「この手でお前らを殺……せ、ないのは、残念…だけど……」

 

 なんだ、今の明らかな動揺と間は。

 そう思い彼が一瞬向けた視線をたどってみて、納得した。

 

 そこには、十歳児の姿のリック。

 

「…………。シンク、貴方もしや……」

 

「やっ、奴は人質と一緒に屋上にいる! 振り回されてえーとゴクロウサマ!」

 

 今ちょっと自分の台詞を忘れた烈風のシンクは、どことなくおぼつかない足取りで走り去っていった。

 

 その背を白い目で見送りつつ、確信する。

 あれはジェイドの記憶にあるあのシンクだ。

 

 シンク、ならツッコミなさい。

 せめてこの状況にツッコんでから行きなさい。

 

「ジェイドさん、あの六神将っぽい人とおしりあいなんですか?」

 

 きょとんと二十五歳のときより幾分大きな目を丸くして見上げてくるリックに、ええまあ微妙に、と返事をしながら、段々このサイズに慣れつつある我が目を内心で嘆いた。

 

 

 

 

 そして時間はめまぐるしく過ぎていく。

 

「あいつ、オレと同じ顔……」

 

「………………(サイズの明らかな違いには触れないのか)」

 

 何が悲しくてあれだけ苦労して成し得た外殻降下をまたやらなければならないのか、ぶっちゃけ誰が二度もやるか面倒くさいと思った。

 

「ここが砂漠の下だってこと忘れないでよね。アンタ達を生き埋めにすることも出来るんだよ」

 

「どうでもいいですがシンク、ちょっとはこっちを向いたらどうです」

 

「……そのまま先に外へ出ろ」

 

「シ~ンク」

 

「うるさいな! こっちも結構いっぱいいっぱいなんだよ!!」

 

 しかし出来ればアクゼリュス崩落は食い止めたいと考えたが、ジェイドが前回と違う行動を起こそうとすると、そのつど何かしらの邪魔が入るのだ。

 

「いっそ事故のふりして第十四坑道ごと埋めたらいい気がしませんか?」

 

「旦那、何の話だ。そしてなぜ俺に振る」

 

 そのときは十四坑道を譜術で壊す直前でなぜか後ろから走ってきたトロッコに跳ね飛ばされた流れで乗ってしまい奥まで強制連行された。

 

「たいさっ、俺、ルークさんとケンカしてきます!」

 

「分かりました。アニス、今すぐ迷子札をひとつ作って下さい」

 

「私ですかぁ!?」

 

「いま母親担当がいませんから」

 

 そんな調子で、突如足元に穴が開くくらいはまだいい。

 頭上からオタオタが大量に降ってきたり、時季はずれのプチプリの大移動に巻き込まれたり、オタオタが降ってきたり、タライが落ちてきたり、オタオタが降ってきたり……あまり思い出したくないが、とにかく邪魔が入る。

 

「な、なんで再会早々インディグネイションなんだジェイド! 不敬罪っていうかもう暗殺だろコレ!!」

 

「なんとなくです」

 

 そんなこんなで先を知っているにも関わらず思い通りに動けない事がもどかしくもあったが、とりあえずグランコクマでピオニーからもリックとルークのサイズについて突っ込みが入らなかったとき、ジェイドはいろいろと諦めることにした。

 

「ジェイドさん、オレ、こわいんだ」

 

 だからシェリダンの職人達が六神将たちの手に掛かるときも、前と同じように、見送った。

 

「部外者にしないでください」

 

 なくなると分かっていながら、アクゼリュスも、なにもかも、前と同じ通りに進めるしかなかった。

 そしてジェイドは、何ひとつ変えられることなく、ここまで来たのだ。

 

「臆病者のレプリカが、大胆なことをするものだな」

 

 何ひとつ。何ひとつ。

 

「大切なひとを守れないのは、もう、イヤなんだよ!!」

 

 何、ひとつ。

 

 

「……冗談じゃありませんね」

 

 詠唱を止め、コンタミネーションで槍を取り出す。

 すると惑星が圧し掛かってくるような重量が途端に体全体を取り巻いた。

 

 立ち尽くしたまま、指一つ動かすことも容易ではない。

 そんな中で、ジェイドは槍の柄を握り締めた。

 

 足を、強く前に踏み出す。

 

「二回も三回も、その馬鹿に風穴開けさせてやる義理はないんですよ」

 

 そう動く必要はない。このまま、投げれば。

 

「……ヴァン!」

 

 ジェイドは大きく槍を振りかぶり、

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、起こしちゃいましたか!?」

 

 聞きなれた間抜けな声に、目を瞬かせた。

 

 朦朧とした頭で周囲の様子を探りながら身を起こす。

 鼓膜を揺らす水音。乾ききっていないインクの匂い。机の上に散らばるいくつかの書類。

 

 目を丸くして慌てる、青年の姿。

 

「……リック?」

 

「は、はいっ! すみませんオレ決して仕事をサボっていたわけではなく、ジェイドさんがうたた寝なんて珍しいなーなんてウットリしばらく眺めてたとか、こうしてると普段の恐怖の大王っぷりがウソのようだとか思ったりしてませんよ! してませんから!」

 

 もげそうなほど必死に首を横に振る青年を少しぼんやりと眺めた後、そっと窓のほうへ視線を移して息をついた。

 

「…………夢、でしたか」

 

「今のうちに写真撮っとこうかなんて本当にちょっとしか考えてませ……え?」

 

 なんともひどい夢だった。

 あんな夢を見るなんて、もしかすると自分はかなり疲れていたのかもしれない。

 

 あんな。

 

「ジェイドさん? どうかしましたか?」

 

 きょとんとこちらを覗き込んでくる顔を横目に見やって、またひとつ息をついた。

 

「……貴方がその大きさで良かったですよ」

 

「へ?」

 

「当社比ですがね。ビビリとヘタレはそのままですし」

 

「えええ?」

 

 訳が分からない様子で目を白黒させるリック。

 少しだけ口元を緩める。

 

 

「わりと役に立っている、ということですよ」

 

 それを聞いて目を皿のように見開いた直後、バカみたいに赤くなった子供を見てから、ジェイドはゆっくりと瞼を伏せた。

 

 

 





偽スキット『その直後』
ジェイド「ところで先ほど何か言っていましたねぇ。恐怖の大王でしたか?」
リック「いや、そのっ、ちが……!!」

サンダーブレード頂きました。(By.リック)



>コーラル城inシンク。
少し前に7歳児な親善大使を見て襲われた強烈な目眩と動揺がやっと治まったところで現れた新たなちっちゃいのに、かろうじて保っていた平静が見事にクラッシュされた。

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