空飛ぶにわとり番外編   作:甘味RX

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ピオニー視点


ピオニーとジェイドとリックの日常Ⅲ

 

 

【 漢の心得 】

 

 

 

 

「いいかリック。男ってやつはな、簡単に諦めちゃいけないんだぞ」

 

「うう?」

 

 見かけこそ少年だが中身は赤ん坊同然の子供は、分かっているのかいないのか、俺の言葉に目を丸くして首をかしげた。

 

「世の中、甘い言葉だけでどうにかなるもんじゃない。要は根気だ、根気が必要なんだ」

 

 ぐっと拳を握って力説する。

 

「言葉、態度、プレゼント。持てる全てを持ってして攻めろ。それを途中で諦めたら落とせる女性も落とせな、」

 

「一応選ばせてあげますが丸焼きと串刺しどっちがいいですか?」

 

「……まぁ時には引く事も肝心だ」

 

 背後から響いた絶対零度の柔らかな声に俺は握っていた拳をほどいて素早く顔の横に上げた。

 それと同時に軽い金属音を残して何かがコンタミネーションでしまわれる音がして内心安堵の息をつく。

 

 振り返ればいつのまにやってきたのか、この子供を作り出した張本人である男がいつもの輝かしい笑顔で立っていた。何か言われる前にさっさと言い訳をすることにする。

 

「お前が忙しそうだから俺が代わりに色々教えてたんだろ」

 

「それは結構ですがもう少し内容を考えてください。皇帝じゃなかったらとっくにふっ飛ばしてますよ」

 

「いやちょっと待て。お前たまに吹っ飛ばすだろ俺のこと」

 

 さも多少は敬っているかのような言い方は止めてくれ。

 皇帝になってからも何度かくらった奴の見事な譜術を思い出して背筋が冷える。

 

「じぇーどさんっ!」

 

 響いた声に はたとそちらを見ると、リックはいつものようにパッと顔を明るくして、最近ようやく確かになってきた足取りでジェイドのほうへ走り寄った。

 

 生まれたてのレプリカというやつは本当に赤子と変わらないようだが、ただ人間の赤ん坊よりは覚えや成長が早いような印象を受ける。

 

 しかしそれ以外はまったく変わらない、ただの子供だ。

 ちょっと器が大きいだけの、小さなこども。

 

 抱きつこうとしたリックの肩をぎりぎりで掴んで押し止めたジェイドの姿に、俺は少し目を細めて微笑んだ。

 

 なんにも他と変わりやしない。

 不器用な親と、真っ直ぐな子供。

 

「リック」

 

 留められたことを気にするでもなく、ただ嬉しげに笑ってジェイドを見上げていた子供に呼びかける。

 不思議そうに振り返ったリックと、また何か言い出すのかと渋い顔のジェイドを見返した。

 

「男ってやつは、自分の気持ちに正直に生きるんだぜ」

 

 声高らかに言い切れば、やっぱり不思議そうな顔のリックと、渋みと眉間の皺を増したジェイドの顔が目に入る。

 

 そんな二人の様子に、俺はまた笑った。

 

 

 

 

「へーいーかー。ちゃんと聞いてますか?」

 

 過去から現在へ急に引き戻される感覚に、俺は何度か目をしばたかせて、さっきの記憶の中の子供と、今目の前の青年が同じ人物であると脳に言い聞かせた。

 姿は大きくなったが、やっぱり中身は子供であるということも。

 

「んん、ああ、聞いてる聞いてる」

 

「陛下が話聞いてないときにする返事 第三位ですねっ」

 

 そうなのか。無意識だった。

 二位と一位の存在が気になりつつも、悪い、と軽く片手を上げる。

 

「もー。だからこの書類とこの書類が……」

 

 見ただけで嫌になる堅苦しい字がびっちり書き込まれた紙をリックが幾枚か差し出したとき、寝室の扉がノックされる音がした。

 軽く返事をすると、扉を開いて入ってきたのは、さっきまで過去に登場していた人物その二だ。

 

「ジェイドさん!」

 

「おう、どうした」

 

 過去と変わらず、やはり奴の姿を見て顔を輝かせるリックに笑いそうになりながら問う。

 

「所用で出てきますので、諸々許可をいただきに」

 

 そう言って手渡された書類にざっと目を通して、判を押してやる。

 好きにやれとそれを返せば、どうも、と簡単な礼がかえってきた。

 

 するとすぐに身をひるがえして出て行こうとするジェイドに、リックが笑顔で自分を指差す。

 

「あっ、じゃあ俺も一緒に」

 

「結構です」

 

 ばたん、と無慈悲に閉じられた扉を見つめて、がくりと下がった肩。

 毎度のことながら俯きかげんにぼたぼたと涙を滴らせている。よくもまあ、これだけそっけない反応をされ続けても付いて回るもんだ。

 

 俺はひとつ息をついた。

 

「――男ってやつは?」

 

 その背を見ながら静かに呟くと、反応したリックが頭をあげて、俺を振り返る。

 

「……簡単に、あきらめない」

 

 やはり情けなく眉尻は下がったままだったが、それでもそれなりに強い光を浮かべた目が再び扉を睨み、ぐっと拳を握った。

 

 続けざまに二人の人間を吐き出した扉がゆっくりと音を立てて閉じる。

 

 

 あいつがなけなしの度胸をみせるのはジェイド関係のときだけだなぁ。

 おさまらぬ笑いの合間、扉の向こうに消えた子供を思い、そして不器用な旧友に向けて、独りごちる。

 

「中々、よく育ったと思わないか?」

 

 なんてったって、大切なやつのために頑張れるのが男ってもんだ。

 

 

 ……まあ、臆病すぎるのがたまにキズだが。

 

 通路のほうから響いてきた爆音と音素の振動、そして聞きなれた悲鳴に苦笑した。

 

 

 

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