【 さらさらゆれる 】
木々のさざめきに引きずられるように瞼を押し上げれば、各自好きな場所で眠りにつく仲間達の姿が視界に映る。
そこに何の異常もない事を確認して、己の右腕を枕にするように体を横たえていたユーリはごろんと仰向けに転がった。
葉の隙間から垣間見える空はやや白み始めていたが、夜明けまではまだしばらくありそうだ。
元々深い眠りにつく性質ではないとはいえ、これほど早く目が覚めるのもめずらしかった。試しにもう一度瞼を落としてみたが、数分経っても寝なおすどころか、まどろむ事さえ出来やしない。
近くで寝ているカロルから何やら聞きとれない寝言が零れたところで、ユーリは諦めて身を起こした。がしがしと雑に頭をかきながら立ち上がる。
するとちらりと片目を開けてこちらを見たラピードに、ちょっと顔洗ってくる、と潜めた声で伝えれば、相棒は何も言わずにまた目を伏せた。
今日の野営場所から程近くを流れる小川。
そこのへりに立って大きく伸びをしたユーリは、その流れで朝と夜を半々に蓄えた空を仰いだ。
朝に飲み込まれていない部分にまだ見える星を見つけてほんの僅かに口の端を持ち上げた後、顔を洗おうとその場で片膝をつく。
すると体勢を整えようとついた右手が、ふと小石か何かで滑ったのか、ひざ丈にも満たない浅い川の中へ控えめな水音と共に浸かった。
冷たい流水の感触。
あっと声を上げるほどでもない、ささやかな出来事。
それだけだった、はずだろう?
「…………あ?」
流れる水の音。
活気に満ちた人々の声。
見知らぬ街中にひとり立ち尽くす、自分。
意識が自分を取り巻く世界から逸れたのはほんの一瞬。そのほんの一瞬で、あまりにも劇的に移り変わった景色。
さすがに理解出来ずに瞠目するユーリの前を当然のように通り過ぎていく沢山の人々。
その中から、ちょうど目の前に通りがかった女性をユーリはとっさに呼びとめた。
「なぁ、ちょっと聞いてもいいか」
「はい?」
見知らぬ男に突然声を掛けられたにも関わらず、足を止めた女性は人懐っこそうな笑顔を浮かべて首を傾げる。
「ここはなんて街なんだ?」
「あら、旅人さんなのね」
彼女は明るく両手を打ち合わせて笑みを深めた。
「ここは水の都グランコクマ。美しい街よ、楽しんでいってね」
そう言って小さく手を振りながら去っていった彼女の背が人波の向こうに消えたところで、腰に手を添えて息をつく。
「…………どこだよ、それは」
めずらしくも頭を抱えたいような気持ちで、ユーリは半ば呆然と、目の前に広がる活気溢れた街並みを眺めた。
さらさらゆれる開幕。
子は親の鏡みたいな感じで国民もある程度は王様の鏡なので、例の陛下のもと基本的にグランコクマ民も明るく懐っこく育ってればいい。