ユリアシティの片隅。
膝を抱えて座り込む友の頭頂部をちらりと見やって、その隣に立つガイは苦笑を浮かべた。
「ルーク、そろそろ元気出せよ。ちょっとタイミングが合わなかっただけだって」
「タイミング……タイミングな……。そう一度、逃せば大変、タイミング……」
「なんの標語だよ」
ザレッホ火山であまりのもどかしさに耐えきれず、ふたりを分かれ道で送り出したのだが、いざルークが口火を切ろうとしたところで触媒が見つかってしまったらしい。
本来の目的を思えば喜ばしいことなのだが、なんとも間の悪いことだ。
その直後はどちらかというと不貞腐れている感じだったルークだが、さらに時間が経ったら、一周まわって落ち込んできてしまったようだ。
面と向かって拒否されたわけでもあるまいしそんな暗くならずとも、と思わなくもないが、昔ならいざ知らず、今のルークにとって他人の内側に踏み込むことはかなりの勇気がいるのだろう。
そんな振り絞った勇気を全力で空振りとなれば、確かに落ち込みたくもなるかもしれない。
しかし。
「そうやって“伝えられなくて”へこんでるってことは、“伝えたいことが何か”は分かったってことだろ?」
空振ったということは、行動を起こしたということだ。
最初にセントビナーで考え込んでいたころは、暗闇の中で形も分からないものを手探りしているような状態だった。
それを思えばかなり進歩していると思うのだが、本人にとってはまだ不十分らしい。
抱えた膝に突っ伏していた顔をようやく上げたルークが、どことなく拗ねた口調でしゃべり始める。
「……分かったっつーか、なんか色々考えてたら、アイツのこと全然知らないんだなって気付いた」
レプリカであることや、この十年を兵士として生きてきたことは知っている。
だが思った以上に、本人の口から昔の話を聞いたことがないのだと。
ルークの言葉を聞きながら、外殻降下後にグランコクマで過ごした一ヵ月を思い出す。
『自分と被験者は同一の存在であると信じ込んでいたリックは、その家族と面会してしまったんです』
『前にリックが言ってたんだよ。自分と誰かの命を天秤にかけたとき、俺はすぐ自分に傾いてしまうんだってな』
今一緒に旅をしている仲間の中で本人とジェイドを除けば、おそらくガイが一番リックの過去について知っている。
しかしそれはあくまで、他の誰かの視点から語られたものだ。ひとつの事実ではあるが、ルークが知りたいものとは違う。
『やっぱり家族を奪われたら、許せないか?』
『“この人のそばにいたい”って気持ちの生まれたさいしょは、別にあるのに』
そういう意味ではガイも何も知らないのと同じなのだろう。
たまに零れる過去の欠片を拾うことはあっても、手渡されたことは少なかった。
「リックのことだから、聞けば普通に話してくれそうな感じはするけどな」
被験者家族の件についてはジェイドも「本人が特に隠したがっていたわけでもない」と言っていた。
もちろん笑って話せるような記憶ではないだろうが、その話題に触れる事さえまずい、というほどの危うさは今のリックを見る限り感じなかった。
「それは、俺もそうかなとは思うけどさ……」
そうは思っても、人の過去に踏み入ることは簡単じゃないのだろう。
だがそれを重々承知の上で、それでも今回はルークに頑張ってもらわなければならない。多分この件に関してリック一人に任せておくと、もどかしい状況がかなり長いこと続いてしまう。そんな気がする。
「“知りたい”んだろ、ルークは。なら、とにかく真正面からぶつかってみないとな」
というか見守っている方も気が気じゃないので、出来れば早めに決着をつけてほしかった。
「…………うん」
ルークは今一度 俯いてから、ぱっと勢いよく顔を上げた。
赤い髪の隙間から覗く翠の目が、強い光を宿しているのを見て小さく笑う。
「少し前まではティアと譜術の練習をしてたみたいだが、そろそろ家のほうに戻ってるんじゃないか?」
「……分かった。ありがとうガイ、俺いってくる」
「ああ」
立ち上がったルークはガイに向かってひとつ頷き、善は急げとばかりに走り出す。
その背中が見えなくなるまで見届けて、ガイはゆっくりと頭上を仰いだ。
ユリアシティを覆う膜のような天井から差し込む光に目を細める。
ルークがリックの過去の話を聞けても、聞けなくても、おそらくそれはあまり関係のないことだ。
大事なのは、そんなことではなくて。
「がんばれよ、二人とも」
手探りの友情に奮闘するふたりの子供を思って、ガイはまたひとつ笑みを零した。
そんなこんなで部屋に飛び込んだらジェイドいるしなんか神妙な空気だしで完全に出鼻をくじかれ、とりあえず触媒探しに誘ってみたルーク。勇気空振り三振。
>「ティアと譜術の練習してたみたいだけど」
本人は秘密特訓のつもりだったけどみんなにはバレまくっている。