空飛ぶにわとり番外編   作:甘味RX

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ルーク視点


最終決戦編
リックに女の影?


 

 

 

「そういえば私、見ちゃったんだよね」

 

「何を?」

 

「リックがきれいな女の人と一緒にいるとこ」

 

 アニスの言葉に、ルークは飲みかけていた紅茶を盛大に噴き出した。

 

 惑星譜術を巡る旅を終えたルーク達は今バチカルのファブレ邸にて、来るべきエルドラント攻略に向けて英気を養っていた。

 そんな中、昼食後の穏やかなティータイムにいきなりぶっ込まれた話題にむせかえりつつ、ルークはかろうじて「はぁ!?」とあらゆる疑問を凝縮した一声を放った。ちなみに当のリックはつい先ほど「よぉし散歩に行くぞー!」と宣言して出かけていったのでここにはいない。

 

「昨日たまたま城下町で見かけたんだけど、あのリックがビビりもしないで親しげに話してたからさぁ。もしかして恋人? みたいな?」

 

「げほ、ごほっ……んなまさか! リックだろ!?」

 

「リックだけどぉ。一応顔は良いし、母性本能が振り切れてる感じのタイプなら中身アレでも良いって思うかもしんないじゃん」

 

 散々な言いようではあるが、ルークもアニスも、リックの人間性に特別問題があるとは思っていない。まぁ問題無くもないが、基本的には穏やかで人当たりの良い男だ。

 

 ジェイドジェイドと騒がしいところや死ぬほどビビリ倒しているところさえ見せなければ、好意を持ってくれる女性はそれなりに現れるだろう。

 アニスの言うように、中にはそんな面まで含めて好きだという相手だっているかもしれない。

 

 だからルークが「まさか」というのは、相手側よりもリック本人の性質を指してのことだった。

 ルークの言いたいことを察したらしいガイが苦笑を浮かべる。

 

「恋だ愛だって目を輝かせて騒ぐわりには、そのへん全然だからなぁ」

 

「お子様ですからね」

 

 ガイの言葉を継いだジェイドはついでのようにルークのこともちらりと見たが、お子様その二と見なされたルークはそれに気づかずに唸り声をあげる。やはり納得がいかない。

 

「まあ。誰かを愛しく想うことに年齢など関係ありませんわ。リックだって自分で気づかないだけで、恋をしているかもしれません」

 

「そういえば、ナタリアは子供のころから婚約者がいたわけだものね」

 

 ティアが得心したように頷く。

 立場上、周囲が決めた婚約であるとはいえ、いつか結ばれる相手に対する幼いながらの ほのかな想いは、彼女のよく知るところであるのだろう。

 

 しかし皆、やはり現状であのリックに恋人が出来るとは思えないのか、それぞれどこか微妙な様子で頭をひねっていた。ジェイドは全くいつもどおりだったが。

 

 そんな中、ふいにアニスが悪い顔でにやりと笑った。

 

「ルーク隊員」

 

「……何だよ隊員って」

 

 いやな予感がしたルークが心持ち身を引きながら問い返すと、アニスはそんなルークに向かって人差し指をびしりと突きつける。

 

「きみをリック恋人疑惑事件の調査員に任命しよーう!」

 

 一瞬の静寂の後、ファブレ邸には本日二度目となる、ルークの盛大な「はぁああ!?」の一声が響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 翌日。

 

 また「よぉし散歩に行くぞー!」と宣言をしてファブレ邸を出たリックの後を追って、ルークはバチカルの城下町に来ていた。そう、一人でだ。

 

 当初はこの計画を言い出したアニスも来るはずだったのだが、出発直前でラムダスに呼び止められ、体調を崩した料理人の代わりに客に出す料理を作って欲しいと頼まれてしまい、「しっかり調査してきてよね!」とルークに全てを託してリトルビッグシェフは去っていった。

 

 残りのメンバーも、ナタリアは公務、ティアはシュザンヌの話し相手、ガイはメイド達に追い回されていて捕まらず、ジェイドは面倒事の気配を察したのかいつのまにやら姿を消していた。

 

 そんなわけでルークはたった一人でリックの尾行をするはめになったことを最初こそ不服に思ったわけだが、実際 屋敷にこもっていたところでろくな事を考えないし、恋人疑惑の真相についても正直気になっている。

 

 結果、調査員として全力を尽くすことにしたルークは、先ほどからリックの動向を真剣に観察しているのだが。

 

「……何してんだ、あいつ」

 

 リックは先ほどから大階段の端に腰を下ろして、流れる人波をじっと眺めていた。

 

 かと思えばたまに何かに気づいたように立ち上がり、目の前を過ぎた通行人を追いかけ、少々話してから元の位置に戻る、という行動を何度か繰り返している。

 

 最初は女性に声をかけていたから、まさかのナンパかと驚愕したのだが、その次は男性に話しかけたり、老人だったりと、リックが呼び止める相手は性別も年代も様々だった。どうやら違うらしい。

 

 そしてリックに話しかけられた相手の反応も、怯えて逃げるように走り去ったり、嫌そうな顔をして怒ったり、昔からの仲間みたいに会話に応じたりと実に様々だ。

 

 観察すればするほど、謎が深まる。

 

「あー、せめて話してる内容が聞こえればなぁ」

 

 もう少し距離を詰めようかとルークが悩み出したそのとき、今までとは逆に、リックに向かって近づいてくる人影が現れたのに気づいた。

 同じくそれに気づいたらしいリックが、ぱっと表情を輝かせながら駆け寄っていった、その相手は。

 

「え」

 

 リックの外見と同じくらいの年の頃の、美しい女性だった。

 彼女は親しげな様子でリックと言葉を交わしはじめる。

 

 見ちゃったんだよね、と昨日聞いたアニスの声が脳内にこだました。

 

「え、え、なに、まじで……は?」

 

 言葉にならない衝撃にルークが目を白黒させている間にも、大階段の端に並んで座った二人はなにやら熱心に話をしている。

 リックが身振り手振りを交えて一生懸命に何かを伝え、女性は柔らかな笑みを浮かべながら、ひとつひとつ頷いて聞いていた。

 

 まさか本当に恋人かとルークは謎に戦々恐々としながらその光景を見守っていたが、そのうちに、どうもやっぱり違うような気がしてきて首を傾げる。

 

 ルークが色恋沙汰に疎い分を差し引いたとしても、あの二人の間にはそういった甘い空気がちっとも感じられない。

 どちらかといえば身内のような、親戚のような、何か共通のつながりによる絆に裏打ちされた、そんな関係に近く見えた。

 

「共通の、つながり……」

 

 マルクトで暮らすリックにとって長らく敵国であり、以前からの知り合いなどいるはずもないキムラスカの王都バチカルで、家族や親戚にも等しい共通のつながりがあるとすれば。

 

 それは。

 

「――レプリカ?」

 

 そう思うと、今までルークが抱いていた曖昧な違和感がすべて払拭される。

 フェレス島やレムの島で見たときのように揃いのボディスーツを着てはいなかったが、リックが声をかけた人々はみんなレプリカだったのだろう。

 

 見た目にはもはや普通の人間と変わらない彼らをどうやって見分けたのかは分からないけれど、きっと今話している彼女も。そう思えば二人の間にある空気にも納得がいった。

 

 現状では“レプリカ”の象徴といえるあのボディスーツを捨て、街に紛れることが出来るだけの知恵を、自我を持ったレプリカ達。

 リックが何を思って、彼らに何を伝えようとして、何をしようとしているのか、詳しいことは分からないままだったが、真剣な顔で懸命に話すリックの姿に、ルークは小さく息をついてがしがしと頭をかいた。

 

 しばらくして女性はふいに紙とペンを取り出して短く何か書き付けると、その紙をリックに渡して微笑んだ。

 リックは一瞬呆けた顔をした後、じわじわと喜びを浮かばせた様子で紙を受け取り、彼女に向かって深々と頭を下げる。

 

 女性は軽く手を振って立ち上がると、最後にリックの頭を撫でるようにぽんと手を置いて、その場を立ち去っていった。

 

 彼女の背中を見送りながら、触れられた頭に手を置いたリックが苦笑するのまで見届けたところで、ルークは今まで隠れていた物陰を出た。

 

「リック」

 

 そうして声をかければ、まだそれなりに距離があったにも関わらず素早くルークの姿を見つけたリックが、ぱぁっと目を輝かせた。相変わらずの反応の良さに今度はルークが苦笑を浮かべる。

 

「ルーク! どうしたのこんなところで!」

 

「あー、まぁ、散歩?」

 

 尾行していた手前、少々ぎこちなく「お前は?」と問い返すと、リックは先ほど女性から渡された紙を大切そうに顔の脇に掲げた。

 ひらりと風に揺れた紙には――先ほどの女性のものだろうか――名前と住所らしきものが書かれている。

 

「連絡先集め、かなっ」

 

 そう言ってリックはちょっと気恥ずかしそうに、しかしどこか誇らしげな顔で、笑ったのだった。

 

 

 

 

 もう少しあの場に居るというリックと別れて屋敷に戻ってくると、ルークはすぐアニスに捕まって、調査報告会という名目の午後のお茶会に引っ張り込まれた。場所はジェイドとリックが使っている客室だ。

 

「で? それで? どうだった?」

 

 リックを除いた全員が集まった部屋の中で、アニスが楽しげに問いかけてくる。

 好奇心に輝く目からルークはそろりと視線をそらして頬をかいた。

 

「あー……やっぱ何でもなかったよ。アニスが見たっていうのも、たまたま道聞かれてたとか、そういうのだろ」

 

 しどろもどろにルークが返した言い訳にアニスは一瞬黙り込み、その大きな茶色の目でじっとルークを見据えていたが、やがてひょいと肩をすくめた。

 

「ふーん。まぁリックだもんね、そんなとこでしょ」

 

 もっと追求されるかと思っていたが、アニスはそのままあっさり話を切り上げると、今度はガイがメイドに追い回されていた件でからかい始める。

 あれほど乗り気だったアニスのそんな反応を不思議に思いつつも、ルークは拍子抜け半分、安堵が半分の溜息をついたのだった。

 

 

 そしてお茶会はナタリアの公務の時間が迫ったところでお開きとなり、現在部屋の主であるジェイドを除いたみんなが部屋を出た後、ルークは扉をくぐる前に足を止めた。

 

「なぁ、やっぱりジェイドは知ってたのか?」

 

 肩越しに振り返って問いかければ、何をと言われずとも分かったらしいジェイドが、わずかに微笑んで首を傾げた。

 

「私が知っていたのは、何かやりたいことがあるようだ、ということだけですよ」

 

 それだけ分かってりゃ十分だろ、と相変わらず何でもお見通しな男をルークは半眼で見やる。しかしあのリックがジェイドにも詳細を話していないというのは意外だった。

 

「…………あのさ、」

 

「ルーク」

 

 迷った末に口を開きかけたルークを、ジェイドの静かな、しかしどこか穏やかな声が押しとどめる。

 

「おそらくもう少し目処がついたら言うつもりなのでしょうから、私はそれを待つことにしますよ」

 

 本人の口から、それを告げられる時を。

 

 ゆるりと細められた赤色を見やって、ルークは「そっか」と小さく笑った。

 

 

 

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