この世界で生まれ変わってから数年、俺は親に捨てられたらしい。
らしいというのは実際に捨てられた事を覚えておらず、気づけば施設に預けられて、そこで生活をしていたからだった。
──お日さま園。そこは、俺達にとって父さん、姉さんと呼べる存在の人達が作ってくれた孤児院だった。
そこには俺と似たような境遇を持つ子達が何十人もいた。中にはここでの生活に慣れて明るい性格に戻り始めた子も、仲が良くなった子達もいる。
ただ、まだ心を開くことが出来ないままの子達ももちろん居た。
俺の目の前に見えている女の子だってそうだ。
部屋の隅で座っていて、髪の色とおなじ青い瞳は何処を見ているのかがわからない。
自分を捨てた親を、この世界を恨んでいるのかもしれない。
生きている事を諦めているのかもしれない。
どう考えているのか、それは本人にしかわからない。
俺は、彼女の方へと歩み寄る。
例えそんな事を考えていようと俺がするべき事は変わらない。
「……ねえ、俺と一緒に遊ばない?」
俺が、彼女を、この施設のみんなを支えていけるようにする。それがこの世界でやっていきたいことだからだ。
「……他の子と遊べばいい」
女の子は首を横に振る。
彼女の言う事は聞けなかった。俺は彼女の隣に座った。
「……どうして私の隣に座るの?」
「遊ぶのはダメでも、一緒に話す事はできると思ってさ。嫌だった?」
彼女はそこ言葉に対しても首を横に振る。それを見て俺は少し安心する。
「……嫌じゃない。でもなんで私なの? あそこで楽しそうに話してる人達がいるんだから
、そこにいけばいいのに」
普通に考えれば彼女の言う通りなのだろう。人というのはなんでも楽しい方に行きたいものだ。
でも、俺は普通の少年ではない。見た目はそうでも中身は他の子よりも何年も多く生きている状態なのだ。
「……君を放っておけなかった、じゃあダメかな?」
周りの孤立している子達の助けになりたい。そんな事を第一に考えるようになってしまったのだろう。
ただでさえ、ここに来る前まで孤独だったのにここでも孤独になってしまったら生きる気力など失ってしまうだろう。
そんな事は俺のお節介が許してくれなかった。
「別に……でも、私じゃあ、話し相手になれない」
「そんな事ないよ。話す事が苦手ならこれから慣れていけばいい。まだ俺たちの先は長いんだからさ」
「……」
誰にも得意不得意はある。けどそれはこれから変えていけばいい。あそこで楽しそうに話してる子達だって最初は暗かったのだ。人なんて簡単に変われる。それを前の世界で学んだ。
「……名前」
「……?」
彼女がこちらを見て話しかけてきた。さっきとは違い、彼女の青い瞳は俺の方をしっかり見てくれていた。
「あっ、名前か。俺は
「……クララ。倉掛クララ……」
「……クララは、どんな食べ物が好きなの?」
「……私は……」
これをきっかけに、俺とクララは少しずつではあるが会話をしていくようになっていた。
初めて会話をした時、彼女は少しだけではあるが笑う顔を見ることも出来た。
──あれから数年。
俺たちは中学生となり、大きく成長した。他の子達もある程度のグループが出来てしまってはいるが大体が仲良くできるようになっていた。
俺も、一応まとめ役となる立場で他の子達とも交流をしていくようになり、毎日が楽しいと言える日々を送れていた。
そして、今の俺のクララとの仲と言うと……。
「……おはよう。亮」
「……おはようクララ。……なんで隣で寝てるんだい?」
「……亮と一緒に寝たかったから」
勝手に部屋に入られるくらいには仲良くなりました。
「おかしいね。部屋の鍵は閉めたはずなんだけど」
「……合鍵、作ってもらったから」
「……誰に?」
「……言わない」
クララは胸元近くに置いた両手をぐっと握り、首を横に振る。
「思ったけどさ、合鍵ってだいぶ前に作ったものじゃない? それだと俺の部屋にくる機会はあったのに……どうして今日?」
あえて合鍵の件に関しては怒らない。俺がクララの事を嫌いと思ってるわけでもないし、彼女の事を考えればこんなことするのも何となくわかるし。
「……昨日、杏とばっかり話してた。私よりも話してた。だから、今日は朝から亮と話したかった」
「そういう事か。確かに、昨日は杏によく話しかけられてクララの方構ってやれなかった。ごめんな」
杏というのはお日さま園にいる女の子の事だ。クララと同じで、俺と一緒によくいる。2人はなんとなくライバル関係になっているのだ。
「……大丈夫。亮がみんなと仲が良いのはわかるから。でも、私が亮の中で1番であって欲しい。だからどんな時も一緒にいたいし、亮の好きな事はなんでも出来るようになりたい」
そう言ってクララは両腕を背中に回し、身体を密着させてきた。
「……杏はいつも亮にベタベタと触る。ムカつく。私だって亮にベタベタしたいし、こんな事や、あんな事したい。なんならこのまま一緒に繋がって一生、二人で生きていきたい」
うーん、少し俺に向けてる感情が重い。でも仕方がない。前まで独りだったのだ。精神などが歪んでしまうくらい有り得ない話じゃない。
……俺が原因ではないと思いたい。
「……でも、俺たちまだ中学生だし。流石にそういうのは……」
「……大丈夫、バレなければ良いの」
「ええ……」
ベッドから状態を起こしていた時、クララが俺の両肩を手を添えるように掴み、ゆっくりとではあるが顔を近づけてきた。
そしてお互いの唇が触れそうになった時。
「亮〜! おはよう! 今日も私と一緒に遊ぼう〜! って……」
バァン! という激しいドアを開ける音ともに活発な声を出すオレンジ色の髪の少女が立っていた。
彼女が杏という女の子であり、クララと同じく俺に抱く感情が重い子である。
つまりこの状況は……。
「……どうしてクララが亮の部屋にいるの?」
「……杏。貴方に亮は渡さないから」
そう言ってクララは何事も無かったかのように顔を近づけてくるが。
「私だってあんたなんかに亮は渡さないに決まってるでしょ!」
一瞬で駆けつけてきた彼女の飛びつきがヒットし、俺たちは再びベッドに身体を押し付けられた。
「亮の一番は私……そうでしょ?」
「……違う、私が一番」
「「亮はもちろん私を選ぶよね?」」
「あ……えっと……」
どんな選択肢を選んでも大変な目に遭う。それが今の俺の日常だった。
誰か、助けて。