あれから数年の月日が計画した。
姉様とあいつといた中学時代は思ったよりも楽しかったことや嬉しかったことがあれば、まるで当然のように悲しかったことや辛かったことなど沢山あった。
けれど、今更何を言ったところで時間は戻らない。すべて、私の過去………いや、思い出となって永遠に刻まれていくことだろう。
私はふと、窓を見た。そこから映る景色はこの街に産まれ、物心を付いた時からもう数えきれないほどにまで何度も何度も目にしてきた雪によって造り上げられた銀世界。
しかし、この景色を見て飽きたことなんて1度もない。少なくとも幻想的に綺麗だと思うから。
机の上に置かれている時計を見てみると、時計の大きな針が『12』から『2』へと移動していた。まだ数分しか見てないと思っていたら、もう10分も景色を見ていたようだ。
私は固くなった身体をほぐすかのように背伸びをする。すると、ポキポキと骨が気持ち良く鳴った。
そして、私は頭に巻いている『合格!』と綺麗に刺繍されている手作り満載なハチマキを気持ちを入れ替えるために少しだけ強く巻き直してーーー
理亞「よし!!やるわ!!」
『函館聖泉女子高等学院過去問題集』と書かれた分厚い冊子のページをめくるのだった。
♠️♠️♠️♠️♠️
ーーーザクザク
理亞「ん?」
あれから深夜の2時くらいまでやったあと、眠りについて5時間くらい経った頃。外から聞こえてくる音によって私は目を覚ました。
ーーーザクザク
明らかに何かを崩している音。私はベッドから起き上がってさっきと同じように窓の外を見る。
すると、何着もの厚着を着て手に持っているとても大きなスコップで大雪によって積もってしまった雪を崩す1人の男が視界に入る。
中学時代に比べて、明らかに髪の毛量が増え、私があげたヘアゴムで軽く纏めている白髪頭は雪の景色の混合して凄いことへとなっていた。
彼の特徴ともいえる腐った目は雪の景色によって今だけ少しだけマシになっているように見える。
てか、あいつ………。私と同じ受験生なのにこんなことしてていいのかしら??もうすぐ試験だと言うのに。まぁ、元々は頭いいから大丈夫だとは思うけど………。
ーーーザクザク…………ドサドサ!!!
「ーーーーーーーー!!!」
理亞「あーあ」
屋根の上の雪を崩していたら、その崩した大量の雪が運悪く男に襲いかかり、覆い被さってしまった。こんもりとした雪の塊が完成し、モゴモゴと動くがどうやら抜け出せないらしい。
理亞「ったく、なにやってるのよ、あいつは。しょうがないわね………。」
私はため息を吐いたあと、上着を着て家を出る。そして、窓から見ていた場所へと移動する。すると、当然のことだけど先程の崩れたことによって完成した雪の塊があった。未だにモゴモゴと動いている。………なんか、少しだけ面白いかも。
でも、流石に今の状況のままだと可哀想だから早く助けることにしよう。スコップを手にして中にいる奴を傷つけないように注意を払いながら雪の塊を削っていく。
そしてーーー
理亞「おはよう、伊吹。今の気分はどう?」
伊吹『……………』ブルブル
雪の塊の中から、無口で私たち鹿角家に居候している少年、天草 伊吹が顔を白くさせブルブルと震えている状態で発掘された。
♠️♠️♠️♠️♠️
伊吹『あぁ〜、生き返ったぁ!!』
無事に伊吹を救出したあとは、ママに頼んで風呂に湯を入れてもらい、パパがカチコチとなって身動きが取れない伊吹を抱えてそのまま浴室へと連行しぶち込んでくれたおかげで、何とかこいつは復活することができた。
まるで死にそうなくらいにまで青白かった表情が嘘だったように、体がお湯によって温まって血流が良くなかったからか、少しだけ全体の肌が赤く染まって健康な感じへとなっていた。
理亞「はいこれ。ママがアンタのために作ったホットミルクよ」
伊吹『ありがとう』
湯気を立てているホットミルクが入ったマグカップを伊吹に渡す。伊吹はそれをとても美味しそうにふうふうと息をかけ冷ましながら美味しそうに飲んでいく。
私も自分の分のホットミルクをゆっくりと口にする。………熱っ。けど、美味しい。
1つの部屋で、伊吹と2人っきりでいる子の時間は悪くは無い。むしろ、嬉しい限りだ。このまったりとした時間が永遠に続けばいいのにって思ってしまう。
しかし、そういう訳にはいかない。
理亞「………勉強しないと」
伊吹と一緒にいた時間を堪能した結果、少しだけ休みすぎたかもしれない。休んでしまった分を取り戻さないと。
私と伊吹は今、中学3年生であり受験生だ。私たち含めた学年の子達は志望する高校に行くために死にものぐるいで勉強に励んでいる。
私が志望する高校は函館聖泉女子高等学院。理由はただ1つ。姉様がその高校に通っているからだ。姉様のいない高校なんて考えられない。姉様といられるのは、たった1年だけだけど、それでも私は姉様と一緒に高校生活を過ごしたい。他の人からしたらくだらない理由かもしれないが、私にとっては大きな理由なのだ。
しかし、その高校は県内の高校でも上位に入るほどのレベルの高い学校であるため、並の学力では入ることは厳しい。実際、過去にやった模試の結果を見ても判定は良くてCであるため、相当頑張らなくてはならない。
私は机の上に過去問とノートを広げ、勉強モードへと入る。確か今日やるのは…………数学か。しかも確率じゃない。私、確率苦手なのよね……。
理亞「ねぇ、伊吹。少しいい?」
伊吹『?』
未だに美味しそうにホットミルクを飲んでいる伊吹に私は声をかける。すると、白いヒゲを作らせた伊吹が私の方に顔を向いて首を傾げた。
理亞「ちょっと、分からない所があるんだけど教えてくれない?」
私は過去問を手にして、伊吹に見えるように向ける。さっきも言ったけど、伊吹は頭が凄くいい。学年でも試験は常にトップ3は維持していたし、こいつの志望校は偏差値70を超えるあの札幌○高等学校だ。しかも、模試による合格判定は余裕のAという結果も残している。
伊吹にとって、この過去問に載っている確率なんておちゃのこさいさいだろう。
伊吹『んー、ちょっと待って。1回解いてみる。紙とシャーペン借りてもいい?』
理亞「うん。……はい」
私は過去問とメモ用の紙1枚とシャーペンを伊吹に渡す。受け取った伊吹は過去問を目にしたあと、理解したのか何回か頷くと、紙にスラスラと式を解いていく。
よくよく思い出してみると………、こいつ、いつ勉強してるのかしら。私が家で見かける限りでは、伊吹が机に向かって勉強してる所なんてほぼ見たことがない。特撮の玩具で姉様と2人で遊んでいるか、店の手伝いをしているか、最近、誕生日でクラスメイトの子に貰ったサボテンを嬉しそうにぽけーっと眺めているぐらいだ。
ずっと一緒にいる訳では無いため、目が届かない場所で密かにやっているんだろうけど…………。それでも、普通に偏差値70いけるのかしら?
そして、あっという間に私が分からなかった問題の答えを伊吹は真顔で導き出し、解いた紙を私に差し出した。見てみると、とても綺麗な字で数字や文字が書かれている。
伊吹『これはね、問題文がややこしく書いてあるけどやり方は公式通りだよ。』
理亞「公式………。うん、公式ね。公式使うのね。コウシキ……………ウン、ワタシ、コウシキシッテルヨ。」
伊吹『……………まずは公式からやろうか』
理亞「…………よろしく」
こうして、伊吹先生による確率の授業が始まるのだった。正直な話、数学担当の杉山先生より何百倍も分かりやすかった。
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そして、あれから更に数ヶ月が経ち、遂に高校試験の日を迎えた。
理亞「よし、大丈夫ね。」
私は忘れ物がないか何度も何度も確認して、ないのを確認してから玄関へと向かう。
すると、玄関には姉様が心配そうにしながら立っていた。
聖良「理亞、忘れ物は大丈夫ですか?受験票は?ちゃんと筆記用具持ちましたか?」
理亞「えぇ、大丈夫よ」
さっい、何度も確認したから大丈夫だ。
聖良「理亞、焦らず落ち着いて問題を解くんですよ。時間配分を間違えてしまうと後の教科にも影響が出てしまいますからね」
理亞「うん、分かった。」
聖良「もし、万が一、理亞が落ちても、私が学園長に身体を払って何とか合格にしてもらうので自信もって挑んで下さい!!」
いや、唐突に何言ってるの、この人!?そんなんで自信持てるわけないでしょ!!普通に重いし気まずくなるわ!!
理亞「だ、大丈夫よ、姉様。ちゃんと合格できるように頑張るから…………。」
聖良「なら、良かったです。」
すると、部屋の奥から私と同じ受験日を迎えた伊吹が荷物を持ってやって来る。
聖良「伊吹も頑張ってくださいね。家で応援してますから」
伊吹『ありがとう』
聖良「もし、伊吹も不合格になったら私がーーー」
理亞「姉様、シャラップ!!」
言わせないよ!?何、伊吹にも同じ言葉を言おうとしてるのよ!!聞かれた伊吹の気持ちにもなって!!
聖良「…………むぅ」プクー
可愛らしくむくれてもダメだから。そんな『貴女達のための行動なのに??』みたいな表情されても私達が困るだけだから。
伊吹『??』
理亞「あぁ、気にしないでいいわよ。それより、早く行きましょ。」
ポンコツ化とした姉様を放っておいて、私は靴を履いて外へと出る。伊吹と姉様が私の後に続く。
私が志望する函館聖泉女子高等学院は私の家から歩いて行ける距離だが、伊吹が志望する札幌○高校はここからかなり離れているため、電車とバスを使わなくてはならない。
それなのに………
理亞「伊吹、本当にいいの?学校までついてってくれるって………。」
伊吹『うん。そもそも、バス停に向かう途中に理亞ちゃんが志望する学校があるからね。だから、それまで一緒に行くよ』
伊吹は両手を動かしながら私に向かってそう言ってくれる。
理亞「あ………ありがとう………」
なんだか、恥ずかしくなって思わず目を逸らしてしまった。きっと、両頬も赤く染まっているに違いない。うぅ…………。
伊吹『じゃあ、時間だし行こっか』
理亞「え、えぇ。」
伊吹は私にそう言ったあと、ゆっくりと歩き始める。私も伊吹の隣に並びながら足を進めた。
聖良「2人とも、頑張ってくださーーーい!!」カンカンカン
その様子を眺めながら、姉様は私たちに向かって火打石を打っていた。周りに変な目で見られないように少しだけ早歩きしたのはここだけの話。
そして、伊吹と雑談したり問題を出し合ったり、面接の練習をしたりしながら歩いているとあっという間に函館聖泉女子高等学院に辿り着いてしまった。周りを見ると、私と同じ受験生が緊張しながらも学校に入っていくのが見られる。その際、伊吹を見た瞬間に頬を赤く染めた女子も何人か居たのを私は見逃さなかった。
理亞「………じゃあ、行ってくる」
伊吹『行ってらっしゃい。頑張ってね。』
門の前で私は伊吹に向かって言葉を出す。不思議と受験前だというのに私は落ち着いていた。きっと、伊吹が近くにいてくれたからかもしれない。
もし、こいつが居なかったらきっと私は緊張で 押しつぶされていただろう。むしろ、ここで伊吹と別れることで寂しさの方が強くなっている気がする。
伊吹は手を振ったあと、振り返ってバス停に向かって歩み始めようとしたところでーーー
理亞「い、伊吹!!」
伊吹『??』
私は伊吹の名前を呼んだ。伊吹も首を傾げながら首だけを私の方に向ける。伊吹は言ってくれたのに、私が言わないのはおかしな話だ。
だからこそ、私は伊吹に拳を突き出しながら言いたかった言葉をかけた。
理亞「…………伊吹も頑張ってね」
伊吹『…………うん!』
伊吹も返すように拳を突き出しながら頷く。その後は、こっちに振り向くことなくバス停の方へと足を進める。私はあいつの姿が見えなくなるまで、その場で見つめていた。
理亞「よし………行こう!」
覚悟を決めた私は門の中をくぐり、校舎の中へと入っていくのだった。もし、互いの志望校が受かったら………高校生活は離れ離れで過ごすことになるだな……、と心の中で思いながら。
♠️♠️♠️♠️♠️
伊吹と理亞が高校に向かったあとーーー
聖良「〜♪」
聖良は自分の部屋を掃除していた。
聖良「おや?」
聖良は床に掃除機をかけたあと、教科書や雑誌がしまってある本棚を整理していると、教科書と参考書の間に見られない紙袋があるのを見つけた。
ほんの僅かに見覚えがあるが、正確にどんなものだったかは思い出すことが出来なかった。
聖良「なんでしたっけ、これ。中身を見てみますか。」
聖良は器用に紙袋が破れないように丁寧に開け、中身を取り出す。すると中身から出てきたのは…………1冊の冊子と1枚のDVDだった。
聖良「………『スクールアイドル特集vol20〜A‐RISEライブDVD付き〜』??」
聖良が見つけた裏に『若本ちとせ』と書かれているこの1冊の冊子と1枚のDVDによって、この物語にようやくあのスクールアイドルグループが誕生することとなるのだが、それはまだもう少しあとのお話。
姉様のポンコツ具合
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現状維持
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控えめ
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いいぞ。もっとやれ