Saint Snowと無口の居候。   作:七宮 梅雨

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久しぶりです。


30話『お願いします』

 私は一瞬、目の前にいる人物が何を言ったのか理解することができなかった。いや、理解したくないと言った方が正しいかもしれない。

 

 函館聖泉女子高等学院生徒会長、和田 架純は冷たい目線を私達に向けながら…………スクールアイドル部の設立を、きっぱりと否定したのだ。

 

聖良「………架純さん、理由を伺ってもいいですか?現にメンバーも3人揃ってて、顧問の先生もいます。部活申請をする条件は満たしてるはずですが?」

 

 そう、姉様の言う通り我が校の部活申請するための条件はしっかりと整えてきた。メンバーは私と姉様、そして伊吹の3人。顧問の先生は朝、なんとか花咲先生が引き受けてくれたため、設立を否定する理由などないはずだ。

 

 しかし、この先輩は想像を遥かに超える一言を発した。

 

 

 

 「………いいえ、今揃っているメンバーは2人です。」

 

 

 

理亞「え?普通に3人いますけど………。」

 

 ………この人は一体何を言ってるんだろうか?メンバーが2人?私と姉様、伊吹はこの場にいるし、申請書の名前欄にもしっかりと3人の名前は書いてある。2人だけなんてありえない。

 

 

 「いいえ、2人です。この場にいるメンバーは鹿角 聖良と鹿角 理亞の2人だけです。」

 

 

 

理亞「ーーーーーーーーーは??」

 

 この発言を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。今、この人はなんて言った??この場にいるメンバーは…………私と姉様だけ?

 

理亞「な、何を言ってるんですか………。だって、ここには私と姉様、そして天草 伊吹の3人が……」

 

 

 「天草 伊吹??そんな生徒を私は………いえ、私達は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 知りません」

 

 

 生徒会長がこの言葉を言い終える頃には、私はもう無意識に動き始めていた。

 

聖良「理亞!!」

 

 姉様が私の名前を呼ぶが、そんなのどうだっていい。私は拳に最大火力の力を入れる。

 

 この人は…………こいつは今、私に対して言ってはいけないことを口にした。

 

 ーーー天草伊吹という生徒はいない?

 

 ーーー天草伊吹という生徒を知らない?

 

 ふざけんな。こうして、今、伊吹は私たちの隣にいて、あんたらの目の前にいるだろうが。

 

 こいつだけは………いや、伊吹のことを阻害として見る奴ら全員を絶対に許さない。私の手で絶対に潰してやる!停学?退学?そんなもの、知ったことか。

 

 

 私の家族を貶す奴らは絶対に許さない!!!

 

 

理亞「おおおおおおおおお!!」

 

 私は雄叫びをあげながら生徒会長の顔面に向かって言葉を突き出した。

 

 ーーーーバキッ!!

 

 確かな感触を感じた。明らかに私は人の顔面を殴った。

 

 しかし………それは生徒会長の顔面では無かった。

 

理亞「な………んで」

 

伊吹「…………」ポタポタ

 

 

 

理亞「何で………何でよ、伊吹!!そいつは貴方のことを存在してない扱いしたのよ!それなのにどうして!!どうして庇ったの!?」

 

 

 

 私は自分の拳を生徒会長の代わりに直接喰らって鼻血を流す伊吹に向かって大声を出す。

 

伊吹『そんな理亞ちゃんを……僕は見たくないから』

 

理亞「!!…………うぅ!!」

 

 私はその場の床に膝を着いて泣いてしまった。

 

聖良「………理亞、貴女は今すぐに伊吹を保健室に連れてきなさい」

 

理亞「ねえ……さま」

 

 応急処置として、伊吹にハンカチを渡す姉様が私に優しく声をかける

 

聖良「ここからは、私1人で話をします。だから、ここは私に任せて早く伊吹を保健室に連れてってあげてください。」

 

理亞「………はい。……伊吹、行ける?」

 

伊吹「……」コクリ

 

理亞「さっきはごめん……。保健室まで私が責任もって連れてくから」

 

伊吹「……」コクリ

 

 なかなか鼻血が止まらないのか、姉様が渡したハンカチが段々と赤く染っていくのを確認し、自分がしてしまったことを後悔しながら、伊吹の背中を支えながら生徒会長を後にした。

 

 

 ーーー聖良視点

 

 

聖良「架純さん、まずはお詫びを」

 

 私は架純さんに対して、深く頭を下げる。

 

 「いえ、別に。そうされてもおかしくは無い態度をこっちからとってしまったので」

 

聖良「そう言ってくれると助かります。それじゃあ、改めて説明してくれませんか??あの子を生徒として認めない理由を」

 

 「いいでしょう。本来はあまり教えるのは宜しくありませんが、貴女なら教えてあげましょう。」

 

 架純さんは、そう言って生徒会長が座る机の引き出しから数枚の紙を取り出し、それを私に差し出す。

 

 ゆっくりと受け取った私は、渡された紙に目を通す。すると、そこにはーーー

 

 「ッッ………。なるほど、共学反対勢ですか」

 

 「えぇ。」

 

 彼女が差し出した紙には、我が校の共学化における批判的なデータが集っているものでした。在校生にその親、卒業生から共学化に対しての反対の意見が予想以上に多く寄せられていた。

 

 「存続の可能性を上げるとはいえ、その方法が浅さかだということ。我が校は女子校だからこそ、存在価値があり伝統が続いてきました。それを共学化という形で総崩れになってしまうのを恐れているのです。」

 

 「ですが、共学化の件についてはまだ保留であり、確定ではありません。だからこそ、学園長は伊吹をテスト生としてーーー」

 

 「そう、それが問題なのです。」

 

 私の言葉を遮るように架純さんは言葉を出していく。その時の彼女の表情は冷酷なものでした。

 

 「…………どいうことですか?」

 

 「例え、可能性であっても、確定でなくても、彼がテスト生であっても、この学園に男子自体が存在することが問題なのです!そんなこと、絶対にあってはいけない!!」

 

 「彼をテスト生として推薦したのは学園長なのですよ?あの人を疑うというのですか?」

 

 「とんでもない!学園長のことはとても尊敬しています。ですが………だからといって信用しろ、と言われても限度があります」

 

 私の意見に対して、彼女も負けずに反論する。架純さんの一言一言に対して私は苛立ちが芽生え始める。

 

 「伊吹が………この学園に対して不利益をもらたすとでも?女子生徒を襲うとでも思ってるんですか?」

 

 「彼と立派な男性ですからね。可能性は十分にあるかと」

 

 「ッッ!!あの子は絶対にーーー」

 

 「『そんなことはしない』ですか?どうしてそんなことを言いきれるんです?貴女にとって他人に過ぎないのに」

 

 「……………!!」

 

 「事情があって、彼と何年も同じ屋根で過ごしてきた貴女にとっては"優しくて良い子"なのでしょう。だからこそ、そんなことはないと考える。…………勘違いしないでください。彼は男性です。第二次性徴も始まり、思春期だって突入している。自分以外、女子生徒しかいない環境の中で、彼がそういう行動をしないと100%言い切れますか?」

 

 冷たい目線を私に向ける。確かに、彼女の言うとこは正論だ。正論が故に反応する余地もない。

 

 「それは………」

 

 「私からの話は以上です。スクールアイドル部の設立については、あと他に女子生徒を1人勧誘してから考えましょう。では、これで」

 

 架純さんは冷淡にそう言って、生徒会室から退室しようとする。

 

 彼女が私の横を通り過ぎようとしたところでーーー

 

 「チャンスを………くれませんか?」

 

 「は?」

 

 私の弱々しい一言に、彼女は足を止める。

 

 「確かに、架純さんの意見は至極真っ当なものです。私が他人だったら、架純さんの意見に賛同していたでしょう。」

 

 「それでしたらーーー」

 

 「ですが、だからといって伊吹が『男』だから、という理由だけで除け者扱いにされるのは納得しません。あの子のことを知らない癖に、そんな酷いことを言わないでください。」

 

 「貴女だって、彼のことを、100%理解していないでしょう!!」

 

 「えぇ、知りませんね。あの子のことは知りたくても知ることが出来ていない。これが、現状です。ですが…………、逆をいえば私が伊吹に対して知っていることは沢山あります。言いましょうか?全部言い終わる頃には、私たちは卒業してる位まであの子にはいい所があるんです!!」

 

 「……………」

 

 「だから、架純さん。チャンスを私達に下さい。1ヶ月………いえ、2週間で伊吹がこの学園に滞在すべき存在であると、伊吹が不純な行為を絶対にしないと貴女含めて反対勢の方達に証明させます。だから、お願いします」

 

 私は架純さんに深く頭を下げる。私の願いを受け入れてくれたら嬉しいのですが…………

 

 「分かりました。」

 

 「ーーーーッッ!」

 

 彼女の言葉に、私は頭をあげる。

 

 「聖良さんには色々と生徒会関連で助けられてきましたからね。こう言ってはなんですが、貴女とは親しき友人として疎遠の関係にはなりたくないのですよ。だから、貴女のお願いを聞きましょう。」

 

 「ありがとうございます!!」

 

 「期限は今日から2週間。期限内に天草伊吹がこの学園に存続するに値する証明を私たちに見せてください。それで、納得出来たら引きましょう。ですが、もし出来なかったら………分かりますよね?」

 

 架純さんの言葉に、私は何も言わずに頷く。

 

 「では、頑張ってください。」

 

 最後に私にそう言い残して、架純さんは生徒会室を退室した。

 

 私も、早く伊吹と理亞がいるであろう保健室へと足を運ばなくてはならない。だけど、動かない。

 

 

 先程まで、架純さんが口にした言葉が木霊のように繰り返しで脳内再生される。

 

 ーーー天草 伊吹??そんな生徒を私は………いえ、私達は………知りません

 

 

 ーーー例え、可能性であっても、確定でなくても、彼がテスト生であっても、この学園に男子自体が存在することが問題なのです!そんなこと、絶対にあってはいけない!!

 

 

 ーーー『そんなことはしない』ですか?どうしてそんなことを言いきれるんです?

 

 

 

 

 

 

 

 貴女にとって他人に過ぎないのに

 

 

 

 ーーーズドォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 「…………あ」

 

 気付いたら、私は生徒会室の壁を思いっきに殴っていました。どうしましょう、力を少し入れずきてしまったせいで少し凹んでしまいました。それほど、架純さんの言葉に対して何かしらの感情を抱いていたようです。

 

 「とりあえず、すぐに退散しましょうか。今日から忙しくなっちゃいますからね。」

 

 私はそう言って、逃げるようにその場から離れ、保健室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、ここからどう展開していこうか。
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姉様のポンコツ具合

  • 現状維持
  • 控えめ
  • いいぞ。もっとやれ

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