Saint Snowと無口の居候。   作:七宮 梅雨

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31話「【悲報】姉様はヒードランだった」

 「はい、これでひとまずは大丈夫ですよ。念の為、ここで安瀬にしててね。」

 

 「ありがとうございます」

 

 「………………」ペコリ

 

 生徒会室から急いで保健室へとやってきた私たちは養護先生に事情を説明し、伊吹は応急処置を受けてもらった。今、彼の鼻には絆創膏が貼られている。

 

 「先生、これから少し用事で席を外しますね。保健室出る時は部屋の電気だけ消して出るようにしてください。」

 

 養護先生はそう言って、保健室から退出する。

 

 「………………」

 

 「………………」

 

 うぅ……、気まずい。なんて、話しかけたらいいのだろうか。そもそも……、私に話しかける権利なんてあるのかな。自分の身勝手な暴走で伊吹を傷付けてしまったというのに。

 

 恥ずかしい。この一言に限る。

 

 高校生にもなって。しかも、これからスクールアイドルをやるというのに、たった一言で私はあの生徒会長に殴りかかろうとしてしまったのだ。少しでも冷静になってみれば対処法なんていくらでもあったのに。

 

 ぎゅっと、気づいたら下唇を噛んでいた。血は出てないけど、それでも少しだけ鉄の味を微かに感じる。

 

伊吹『理亞ちゃん、ありがとう』

 

理亞「……え」

 

 自分の短気の幼稚さに……愚かさで涙が出そうな時に伊吹がこっちを向いて手話で感謝の言葉を述べた。どうして………

 

伊吹『あれは……僕のためにやってくれたんでしょ?やり方は少し危なかったけど……それでも嬉しかった。』

 

 普段は無表情なことが多い伊吹でもこの瞬間だけは一瞬だけど本当に嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

伊吹『僕がこの学校で周りから歓迎されていないことは気付いてた。やっぱり、ここは女子校で僕は男だから。テスト生であっても本来ならいるべきでない存在だからね。』

 

理亞「そんなことーーー」

 

 そんなことはない!!!そう言いたかった。だけど、最後まで言えることが出来なかった。

 

 

 きっと、あの生徒会長が伊吹をメンバーとして……、この学校の生徒として認めていないのはそれが要因なのだと気付いてしまったから。

 

 

 私は伊吹とほぼ家族みたいな関係でずっと一緒にいたからこそ、伊吹がこうして邪険な扱いをされて嫌な気持ちになる。それと同時に怒りの感情が出てくる。

 

 だけど……………

 

 もし……その関係が「鹿角家」ではなかったとしたら?

 

 伊吹が違う家庭にいて、私や姉様とは関わりなく過ごしてきて、今みたいにテスト生として迎えられて………

 

 他人の立場として彼を見た時、私はどう感じるのだろうか。いや、私の事なんだから私が1番知っている。

 

 きっと、周りと一緒で邪険な気持ちを抱くはずだ。

 

 女子校なのに、男子なんてふざけんな。何を考えてるだ、って。

 

理亞「ぐず………」

 

 そんなif物語を想像するだけで、自分が嫌になる。例え、そんなことは絶対に起きなくて、これまでに過ごしてきた思い出が本物であると分かっていたとしても。

 

伊吹『理亞ちゃん?』

 

 泣きそうになってる私を見て伊吹は心配そうにする。

 

理亞「なんでもない。ちょっと『もしも』の世界線を想像してただけ」

 

伊吹『……それは、もし僕が鹿角家に来なかったときの『もしも』の世界線?』

 

理亞「ッッ………うん。」

 

 まるで、私の考えてることが分かるかのように伊吹は答える。

 

伊吹『僕は………、色々あって鹿角家に居候することになったけど、鹿角家で良かったって心の底から思ってるよ。』

 

理亞「え…………」

 

伊吹『確かに鹿角家じゃなかった世界線があったかもしれない。けど、僕はこうして鹿角家にいる。おじさんやおばさん、聖良姉さんや理亞ちゃんがいる鹿角家なんだよ。』

 

 伊吹は私の手を優しく触れる。彼の手は暖かかった。

 

伊吹『僕は……この学校にいたい。理亞ちゃんと聖良姉さんがこれからやるスクールアイドル『SaintSnow』の活動の手伝いをマネージャーとしてやっていきたいよ。』

 

 伊吹は私の目を見て想いを手話を通じて伝える。そんな彼の濁りきった目に珍しくハイライトがあり、そんな瞳に泣きそうになっている私が映り込んでいた。

 

 そうよ……、何してんだ。私

 

 ありもしない『もしも』に何を怯えてるんだ。グズグズしてる暇なんてあるはずないのに!

 

 私も伊吹と同じで、伊吹には学校にいて欲しい。これからも一緒にいて欲しい。スクールアイドルの手伝いを彼にして欲しい。そんな感情がたまらなく溢れてくる。

 

 「ありがとう、伊吹。ちょっと私……弱気になってたみたい。それと……改めて殴ってごめん。痛かったでしょ?」

 

伊吹『うん、それはもう。』

 

 即答かよ。そこは否定して欲しかったな……。殴ってしまった私は何も言えないけど

 

伊吹『ん、鼻血は止まったみたいだしそろそろ聖良姉さんと合流しよう。これからについて話し合わなきゃ』

 

理亞「そうね……。まだ生徒会室にいるのかしら」

 

 できれば、暫くはあの女に会いたくないんだけどな

 

聖良「その必要はありません!!!なぜなら、私はもういるからです!!!!」

 

 なんと、唐突に上から姉様の声が聞こえてきた。まさかな、と思って上を見てみるとあら不思議。姉様が保健室の天井に張り付いていた。

 

聖良「どーも、5本指の爪を食い込ませて壁や天井を這いまわるのが最近の趣味の聖良です。」

 

 

 【悲報】姉様はヒードランだった。

 

 

 ♠️♠️♠️♠️♠️

 

 あれから、天井から飛び降りたヒードランこと姉様は私たちが退出してからの生徒会長とのやり取りを話してくれた。

 

理亞「2週間………」

 

 生徒会長が与えてくれたこの2週間で伊吹がこの学校にいてもいいことを証明しなくてはいけない、とのこと。2週間か……。あまりゆっくりとはできないわね。

 

理亞「どうやって証明するか………」

 

 伊吹についてまとめたのをビラとして配る?それとも演説やプレゼンとかで伊吹の存在価値を認知させる?うーん、どれもなんかピンと来ないなぁ。

 

聖良「理亞、貴女は何を考えてるのですか?」

 

理亞「え?何をって……だから方法を」

 

 姉様はお前、マジ?みたいな表情を浮かばせて私を見る。

 

聖良「やるとしたら、アレしかないでしょう?」

 

理亞「アレ?」

 

 未だに姉様の意図が汲み取れない私は首を傾げるのみだ。

 

聖良「ふふ……、最初は伊吹に対する発言でどうにかなりそうでしたが………よくよく考えてみたら架純さんには感謝しかありませんね。私たちの『これから』の1歩目にこれ以上に相応しいものはない。」

 

 この発言で私は、姉様がやろうとしている内容の大体を察してしまった。

 

理亞「ッッ……、姉様。まさか」

 

 ニヤリとまるで小悪魔かのように可憐に微笑む姉様は私たちに向かってハッキリと大声で宣言した。

 

聖良「理亞・伊吹。やりますよ。2週間後………ここでSaintSnowの記念すべきファーストライブを!!!そして、このライブでバカどもに証明してやりましょう!!どれだけうちの伊吹が……優しくて出来る子かを!!!」

姉様のポンコツ具合

  • 現状維持
  • 控えめ
  • いいぞ。もっとやれ
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