最果ての航路   作:ばるむんく

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思ったより筆が進まなかった()


準備

「何を覗いてたの?」

「あら、艤装の点検はいいの?」

「そんなもの必要ないってお前が一番良く分かってるだろ?」

 

 真っ暗な部屋の中で一人画面を見て笑っていた少女に、後ろから長い髪を適当に頭の後ろで結うだけで、手入れもせずに床の上を引きずっている女性が扉を開けて入ってきた。

 

「それで、誤魔化すなよ。何を見てたんだよ」

「ふふ……『最果ての世界線』をちょっとね」

「あぁ? 最果て? んー……あぁ、あの良く分からない特異点が生まれた場所か。別にあんな場所に何かある訳じゃないだろ?」

「そんなことないわ。あの特異点は……彼はとても素晴らしいわ」

「うっわ。オブザーバー……お前が興味を示すなんてよっぽど運が無いなそいつは」

 

 まるで恋する少女の様に目を輝かせているオブザーバーに、長い髪をうざったらしそうに膝の上に乗せた少女は違う画面を見ていた。

 

「私としてはどーでもいいんだけどさ……こっちの方が楽しそうだし」

「それはダメよ、ピュリファイアー。後数年もすれば勝手に滅ぶもの」

「えぇー? つまんないなぁ」

 

 ピュリファイアーと呼ばれた少女はキラキラとした目で違う世界線の観測結果を見せるが、既にオブザーバーの演算処理によって未来は算出されていた。下層端末をいくら使っても、下手をすると中層端末を持ちだしても変えることができないであろう計算結果が出てしまったのでこれ以上の介入は不要だと判断した世界線だった。

 

「ふーん……この、指揮官がいない世界線は?」

「まだ分岐もできていない初期の段階よ。介入するにしてももう少し後ね」

「楽しみだなぁ……大きく育ったのを摘み取るのが楽しいんだよね」

「趣味が悪いわよピュリファイアー。それに私達の目的は摘み取ることではないわ」

「うんうん。お前が気に入ってる特異点の世界線には手出ししないって、安心して?」

 

 幾つもの世界線を前にしながら楽しそうに喋っているピュリファイアーと、それに対して少し面倒くさそうに対応しているオブザーバーは、特異点の世界線を見た。

 

「さぁ……ここからどう動くのかしら」

 

 人外の魔の手が世界中に広がっている次元で、特異点がどのように動いて未来を変えていくのか。その一点だけに興味のあるオブザーバーは、既に神代恭介しか見ていなかった。

 


 

「結局収穫無しですわ」

「……まぁ、大方予想通りだな。わざわざ鉄血に侵入しておきながらその情報を持ったメイドを回収しない理由が無いからな。どうせ味方にも知らされていなかった援軍なんだろうな」

「分かって見逃したのですか?」

 

 基地へと戻ってきた金剛が少し不満気に頬を少し膨らませていた。ニューカッスルをあそこまで追い詰めておきながら止めを刺すことも情報源として捕えることができなかったことが不満だったのか、不機嫌そうに呟いていると、恭介は全く慌てることも悔しがることもなくそれが当然だと言った。メイドを捕らえろと言った本人が分かっていて見逃したということに疑問を持った比叡が少し非難が含まれた視線を恭介へと向けた。

 

「見逃したと言えばそうなるかもな。だが、それ以上に重桜はロイヤルとも敵対していると思わせることが一番大事なことだ。鉄血と同盟を固く結んでいることもな」

「……ロイヤルと、敵対」

 

 恭介の言葉に瑞鶴は一人顔を苦痛に歪めていた。人類は今セイレーンを置いて勝手に人類同士で戦争を始めている。それがセイレーンによって仕組まされているのだとしたら、とても愚かで醜い行為なのだと瑞鶴は思ってしまった。重桜とユニオンが、鉄血とロイヤルが戦争しているという今の状態が続けば必ず人類はセイレーンに対抗できる力を失ってしまう。そうなってしまえば、既にセイレーンの侵攻によってかなりの人類が死滅した世界では、次のセイレーンが世界中に戦争を仕掛けたら瞬く間に人類は滅び、艦船達も海の藻屑となって消えていくだろうことは分かっていた。

 

「ところで指揮官様、海峡の向こうからの手紙と言うのは?」

「まだ中身を見ていないが……大体誰からは察しがついている」

「……ロイヤルですわね」

「だろうな」

 

 プリンツ・オイゲンに渡された海峡の向こうからの手紙。指揮官は言葉だけで誰から送られてきたものなのか理解していたが、比叡と金剛も改めて考えてみれば鉄血の艦船が言う海峡向こうなど十中八九ロイヤルだろう。

 

「何が書かれているのでしょうか……」

「さぁな。だが送り主はクイーン・エリザベスだろうな」

「トップがわざわざ?」

「俺はそうだと思うぞ」

 

 何の根拠もないはずの恭介の言葉に、金剛と比叡は首を傾げていた。彼がそこまで信じる理由も、そう考える意味も理解できない現状では恭介が言っていることを全て妄言と断じるには情報が足りない状況だった。

 

「まぁ今から読むけどな」

 

 やることも無いし、と呟きながら内ポケットから取り出した手紙を開いて恭介は中身を見た。送り主は予想通りクイーン・エリザベスであり、手紙の最初には緊急を要することが書かれていた。手紙の内容を確認すれば、鉄血がセイレーンによって操られているかもしれないこと、自分達アズールレーンの上層部も既にセイレーンと繋がっているかもしれないこと、この状況で重桜が繋がっていないほうが不思議だということ、そして最後には神代恭介の存在を艦船達が必要としているということが書かれていた。

 

「モテモテだな、俺は」

「何が書いてあったの?」

 

 恭介のふざけた様な言葉に内容が気になってしょうがない瑞鶴は、横から覗こうとして恭介に押しのけられていた。

 

「そう簡単に見せていいものではない。ただ、思った通り鉄血がセイレーンと繋がっているかもしれないって内容だった。後は、そっちが良ければ是非俺を指揮官として迎えたいって話だな」

「は? 渡すわけないでしょ?」

「指揮官様を渡すという愚を犯すことはしません」

「行くつもりもない」

 

 艦船達がいきなり距離を詰めて腕を掴むことに若干の恐怖を感じながら、恭介はロイヤルからの手紙を丁寧にライターで焼いていた。証拠が残ってしまってはそれだけで色々と不都合なことが起きてしまう程の手紙だったのだと天城は感づいて追及しようかと思っていた言葉を口にせずに飲み込んだ。

 

「それで、これからどうするのですか?」

「どうするも何も、目的を達したならば帰るだけだろ」

「それはそうですけど……」

「まぁロイヤルも帰ったばっかりだし、今帰れば安全に重桜まで行けるんじゃない?」

 

 瑞鶴の言葉とても頭が悪そうだが実際その通りだったので、金剛は仕方なくその言葉に頷いた。比叡と天城は元々恭介の言葉に従うつもりだったので何も言わずに金剛と瑞鶴のやり取りを見ていた。

 

「じゃあ帰る準備だな」

「私と比叡、それと瑞鶴は艤装の調子も見ておかないといけませんわ」

「そうだね。じゃあ天城さんと指揮官は待ってて」

「分かった」

 

 先程の戦闘で大きなダメージは負っていないものの、不具合が生じて神代恭介が重桜に帰れなくなってしまえば大変な問題になることは目に見えていた。そうならない為に念入りな整備は欠かせないものだ。

 

「……天城、どう出ると思う?」

「まずこの戦闘に関して、ユニオンは黙っている訳はないと思います。それに加えて、ロイヤルも本格的にユニオンと協力して重桜を敵対視することでしょう。そうなると、一番最初に動くのはユニオンでしょうね」

「まぁ、前回の俺を奪還された時と今回のロイヤルの戦闘で既にアズールレーンとしてはやられっぱなしだからな。ただ、動くにしてもエンタープライズが復活してからだろうな」

 

 ロイヤルメイド隊が潜入して情報を持っていったとしてもそれは恐らくクイーン・エリザベスによって命令されたもので、ロイヤル上層部からの指令は恐らく鉄血基地を襲撃して情報を少しでも情報を得て少しでも敵の戦力を削ることだったのだろう。その指令の為に動いたは良いものの、運悪く重桜の神代恭介が主力艦を数隻率いて鉄血へと訪れていたが為にキング・ジョージ5世とニューカッスルが大破して碌な情報も得られずにドイッチュラントを大破させただけで帰投することになった。

 クイーン・エリザベスはその状況を逆手にとって神代恭介と接触し、同時にビスマルクが皇帝の傀儡であることを確認して、あわよくばセイレーン艤装の研究結果と鉄血の後ろに潜んでいるのであろうセイレーンの情報を得ることを目的としていた。

 結局、クイーン・エリザベスの目的としていた情報は手に入ったが、ロイヤルが求めていた情報は手に入らなかったことになり、アズールレーンとしては鉄血重桜が組んだ艦隊一つで簡単に撤退させられたことだけが残ってしまった。それを無視して余裕な顔ができる程アズールレーンに余裕がある訳ではない。そうなれば、重桜に一度やられているユニオンが必ず動くと天城は考えていた。

 

「えぇ。彼女を抜いて行動を……重桜の拠点を潰すことをするとは思えません」

「やっぱり、狙ってくると思うか?」

「制海権と資源を狙ってくるかと」

 

 重桜とて自国の領土しか持っていない訳ではない。ロイヤル程大きい訳でもない島国である重桜は海の外に多くの拠点と、艦船が艤装を動かすために必要となる燃料を確保できる資源地帯を多く持っている。それを狙ってくるとなれば重桜としても多くの戦力を投入しなければまず間違いなく落とされてしまうだろう。

 

「兵站を狙うのは戦の常。ユニオンがそこを間違うことは無いでしょう」

「だろうな」

 

 セイレーンが裏でどのように動いているのかも分からない中、ユニオンとそう遠くない未来に衝突することは天城にも恭介にも分かっていた。

 

「全く……重桜に帰ったらまた戦争の準備か」

 

 エンタープライズが出撃できるようになるまで待つのならば、重桜は神通、綾波、飛龍、翔鶴に加えて今すぐ取り掛かれば「ミズホの神秘」は使えなくとも普通に戦う程度には加賀も回復するだろう。そしてそれはユニオンにも言えることであり、次の戦いには必ずヨークタウン、クリーブランド、モントピリア、ワシントンも修復して戦場に出てくる。文字通りの総力戦になることは間違いなかった。どれ程の規模の戦闘になるのかはまだわからないが、以前の大規模作戦以上の激戦になることは明白だった。

 


 

 ロイヤルと鉄血の小競り合いとも言えない戦闘から数日後、ユニオン内で自分の艤装をヴェスタルとひよこの様な謎の生き物達が直している姿を眺めていたエンタープライズは、後ろから近づいてきたヨークタウンに気が付いて振り返った。既に艤装がほぼ直っているヨークタウンは次の出撃には出る予定だと聞いて、いくらなんでも早すぎる復帰にエンタープライズは少しばかり心配していた。

 

「順調そうね」

「全くだ……ヴェスタルには頭が上がらない」

 

 エンタープライズ専属と言う訳ではないが、カンレキの立場からいってもエンタープライズの修理が一番得意だと公言するヴェスタルはとても楽しそうに艤装を修復していた。そんな様子を眺めながらぼーっとしていたエンタープライズは、ヨークタウンの言葉に苦笑しながら返した。

 

「平和なところ悪いけど、これを読んでおいてくれるかしら」

「これは……次の出撃か?」

 

 少し大きく一番上にタイトルの如く書かれている「重桜基地侵攻作戦」の文字に、エンタープライズは少し悲しそうな顔して、少し遠い砂浜で遊んでいる駆逐艦たちを見た。

 

「戦争は、いつの世も終わらないものなのだな……」

「悲しいことだけれど、これもレッドアクシズが始めたことよ」

 

 正義はこちらにあると暗に言っているヨークタウンに、エンタープライズは本当にその通りなのだろうかという疑問とユニオン上層部へと懐疑の感情を無理矢理押しのけて、一つの兵器として資料を読み始めた。

 

「こちらから、仕掛けるのか?」

「そうせざるをえないわ。そこにも書いてある通り、重桜と鉄血の関係はかなり深くなっている状態で、このまま私達がロイヤルを無視することなんてできないわ」

「だから、重桜と戦争をして鉄血の増援に向かわせないようにする、と? だが私の艤装はまだ……」

「だから、貴女が動けるようになったら作戦開始よ」

「……」

 

 自分がユニオンにとって、アズールレーンにとって切り札になっていることを誇らしく思わない訳ではないが、エンタープライズはただ戦争を終わらせるために力を使うべきであり、決して同じ人類を、同じ艦船を撃滅する為に使うべきものではないと考えてしまっていた。セイレーンに向けるべき力を無理矢理レッドアクシズに向かって振るっているエンタープライズは、その物悲しさにただ自分の両手を見た。

 

「……私は、命を救えているだろうか」

「分からないわ」

「私は…………誰かの温もりを、奪って生きているのだろうな」

「それが、戦争なのよ」

 

 ヨークタウンとてレッドアクシズと戦争することが必ず正しいことだとは信じていない。エンタープライズが口にしていない思いも理解しているが、それだけでユニオンの英雄が折れてしまっては困ってしまうのが今のアズールレーンの状況だった。

 

「エンタープライズ、本当は無理に戦ってほしくなんてない。でも、貴女が今立ち止まってしまったら……皆が止まってしまう」

「分かっているさ。私が背負っているのは自分の命や意志だけではないことぐらい、理解できている。そこまで子供ではないし、それだけで折れるほど脆い精神もしていないつもりだ」

「……頼むわね」

 

 これ以上エンタープライズ何を言っても特に聞きはしないだろうことはヨークタウンも理解していた。一度決めたら何があろうと揺るがないようにするのがエンタープライズの長所でもあり、扱いにくい所でもある。アズールレーンの上層部はそれも理解しているが、唯一理解しきれていない部分があり、その部分を理解しない限りエンタープライズは絶対的なアズールレーンの味方にはならないだろう。

 

「正義、か」

 

 セイレーンの傀儡になっているアズールレーンの思惑通り動くことなど、エンタープライズは是としない。それをしられるまでがエンタープライズを制御することができるなくなるまでのリミットだった。

 

「……エンタープライズ先輩」

 

 そんな背中を見ていたエセックスは、エンタープライズが気にしている神代恭介にも疑心暗鬼になっていた。

 

「人間を簡単に信用してはいけないって、エンタープライズ先輩にも言えたら……」

「そんな固くなることないだろ?」

「ひっ!? く、クリーブランド、さん」

 

 セイレーンを無視して戦争を起こし、自分の利益ばかりを追い求めるために艦船を使う人類に対して懐疑的になっているエセックスは、軍隊の脳とも言える上層部にも不信の目を向けていた。だからこそ、エンタープライズが一度エセックス語った神代恭介という重桜の人間を信頼することができなかった。そんな真面目そうなことを考えていたエセックスは、横からいきなり現れたクリーブランドに大袈裟なほど驚いた。

 

「おーい、エンタープライズ!」

「ん? クリーブランドに、エセックスか」

「ど、どうも」

「そんなに固くなる必要は無いだろう」

 

 エンタープライズにも同じことを言われて、エセックスは顔を真っ赤にして黙ってしまった。後輩が自分に対してぎこちないことがあまり好きではないエンタープライズは、その様子に苦笑しながら上機嫌で喋りかけてくるクリーブランドに感謝していた。

 

「エンタープライズは艤装を見てたのか」

「あぁ……すぐに出撃することになりそうだが」

「まぁ、そうだよなー」

 

 クリーブランドは前回の大規模作戦で主力として参加していたが、重桜第二水雷戦隊旗艦である神通にモントピリア共々手痛い攻撃を受けて大破していた。結果的に重桜の指揮官奪還作戦には参加できずに妹もコロンビアが倒れてしまったことに少しばかり後悔していた。

 ユニオンとしてもかなり役に立つ艦船だけあって、クリーブランドは既に基地侵攻の話は聞いていたし、ロイヤルと鉄血が戦闘したところに重桜が加勢して反撃を受けたことも聞いていた。

 

「変なことが起きなければいいけど……それこそ、互いに警戒しすぎて戦闘が起こらなかった! とかさ」

「そんなこと起こる訳ありません。重桜は絶対に……絶対に攻撃をしてきます」

「……エセックスは、重桜が憎いか?」

 

 楽観的とは言え今の世界情勢では十分あり得る話だとクリーブランドの言葉に苦笑していたエンタープライズだったが、それを少し強く否定したエセックスに対してエンタープライズは一抹の不安を抱いていた。

 

「別に、憎いと言う訳ではありませんが……でも戦争を仕掛けてきたのはレッドアクシズですよ?」

「そうだな。だが、レッドアクシズが戦争をしなければ立ち直れない程追い込まれてしまったのは、セイレーン大戦後にユニオンとロイヤルが自国の利益を優先してしまったからだ」

「それは……」

「戦争を始めた時点で、どちらかに善悪など無いんじゃないか? 見方を変えれば私達ユニオンだって……セイレーンの侵略行為と変わらないさ」

 

 悲しそうに、過去の後悔が含まれているエンタープライズの言葉にエセックスは動揺していた。今までエセックスが見てきたエンタープライズは敵は敵であり、倒すべきものでしかないと考えていた。世界に対しても、自分はただの兵器なのだから正義の場所など考えもせずにただ命令されたまま戦うのが正しい。そう考えてストイックに戦い続けていたエンタープライズは、ユニオンで最強だった。そんな最強のエンタープライズに、エセックスは憧れていた。

 

「エンタープライズは変わったな」

「そうか? まぁ……ならあの人のお陰なのかもな」

「……神代、恭介」

 

 クリーブランドと楽しそうに会話するエンタープライズが、弱くなった訳ではない。しかし、今エンタープライズが考えていること、本人でさえまだぼんやりとしていて気が付いていないそれには何か自分と相容れないものをエセックスは感じていた。いつか、エンタープライズと真正面から意見がぶつかる日がくるのだと予感させるには、エンタープライズの変化は十分すぎた。

 

「私は……シャングリラの所に行かないといけないので……」

「また後でな。エセックス」

「じゃあな!」

 

 花を愛で、空に想いを馳せ、海を美しいと眺め、一回の食事に感謝し、仲間と楽しく過ごす。そんな風に変わってしまったエンタープライズに、エセックスは以前の通りに憧れることができなかった。




戦闘描写って上手く書けないわりにめっちゃ文字数嵩むんですよね……
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