最果ての航路   作:ばるむんく

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 人型だからこその戦い方もあると思うし、艦船だからこその戦い方もあると思うけど……正直よくわかんないです()
 そもそもそんな描写できる程文章上手くないので、もうどうでもよくなって自分の好きなもの書くことにしました


開戦

「敵はどう動く……こちらの動きを察知してくると思うか?」

「あり得ると思うわ。なにせあちらには優秀な指揮官がついているのだから」

 

 大洋を目的地に向かって移動しているボルチモアは、後ろにいるヨークタウンへとこれからどのように戦局が動くかを聞いていた。その問いに対して、ヨークタウンは正直な読み合いで勝てるとは思っていなかった。ユニオンにも優秀な指揮官は存在するし、個々の能力が対処することができる程今回の作戦に参加している艦船が優秀でもある。それでも、セイレーン大戦後に重桜の最高指揮官となった神代恭介の存在に、ユニオンは何度も煮え湯を飲まされていた。

 

「クソ……あの男が敵のトップになってから、ずっと後手に回ってる感じがするんだよな」

「まぁ、大体合ってるかもな」

 

 ボルチモアの言葉に賛同したのは、神代恭介が指揮する重桜との海戦に何度も参加しているクリーブランドだった。大破まで追い込まれたこともあるクリーブランドとしては、そろそろ明確な勝利を手にしたいと考えていた。

 

「にしても、神代恭介が指揮官になってから一度も勝利らしい勝利は掴めていないけど、敗北らしい敗北もしてないのよね」

「それは確かに不思議だと思ってたな。あれ程優秀な指揮官なら、こちらの艦船を一隻ぐらい沈めていてもおかしくない」

 

 偶然と呼ぶには不思議な程拮抗している戦線に、ヨークタウンもボルチモアも以前から疑問を感じていた。クリーブランドはもしかしたら、彼は誰も沈ませたくないと考えているのではないだろうかと思っているが、それを口に出す程楽観的な思考をしていない。

 

「ラフィー、難しいことはよくわからない。けど、エンタープライズから聞いた感じ、悪い人じゃなさそう」

「そうか? 私は……まだ会ったこともないからな」

「私はコロンビアから聞いたけど、結構いい人みたいだぞ?」

 

 作戦前に気を張り詰めすぎるのはどうかとも思うが、今の様に緩すぎるのもどうなのだろうかと思っているヨークタウンは苦笑しながら三人を見ていた。

 

「……」

「ノースカロライナは何でずっと黙ってるの?」

「いえ、ただここまで話題にあがる人がどのような人柄なのか気になってしまって」

「そっか……ノースカロライナは初めてなのよね。神代恭介が指揮する艦隊と戦うのは」

「はい。どのようになるのか不安もあります」

 

 ユニオンの艦船達にすら名前を知られている程の指揮官が指揮する艦隊と戦うことは、確かに恐怖心もあるだろう。だが、それ以上にノースカロライナは神代恭介がどのようにしてユニオンの作戦を読んでくるかを考えていた。作戦が読まれてしまうということは、それだけで甚大な被害が艦隊に出てしまうということなのだから。

 

「……?」

「どうしたエルドリッジ」

 

 一番前にいたエルドリッジの髪の毛が一人でにピヨピヨと左右に小さく動き出したのを見て、クリーブランドが少しだけ速度を上げて横についた。不思議な雰囲気を持っているエルドリッジは、偶に何かしらを感じ取ってそちらを指さすことがある。

 

「あっち? あっちは……」

「ワシントン達が向かった方ね」

 

 現在二方面作戦を行っている方向へと指差したエルドリッジに、ヨークタウンは少しだけ考え込み始めた。無意味に動いたりする艦船ではないことはヨークタウンもクリーブランドも理解しているので、ワシントン達が向かった方に何かがあるのだと判断した。

 

「一応声掛けとくか?」

「指揮官……向こう」

「神代恭介が、前線に出てるの?」

「うん……絶対」

 

 エルドリッジが神代恭介のことを指揮官と呼んでいることにも驚いていたが、それ以上に神代恭介本人が戦場に出ているという情報の方がヨークタウンは驚いていた。もう片方……エルドリッジが神代恭介のいる場所だと言った方向にはワシントン、ポートランド、モントピリア、ミネアポリス、チャールズ・オースバーン、フレッチャーが向かっていた。そして二つの基地の丁度中間点にはエセックス、シャングリラ、ホーネットが待機して長距離艦載機の準備をし、護衛にもヘレナ、ブルックリン、ホノルルがついている。二方面作戦を行いながら三隻の正規空母による遠距離攻撃を放つ作戦を通達された艦船達はそれぞれの役割をこなすために動いていた。

 

「それを読んでいるとしたら……」

「まさか、エンタープライズが来ることを予測して?」

 

 ワシントン達が進撃している方向には、別方面からエンタープライズが奇襲作戦をしかける予定だった。艦船として人型の大きさで監視を潜り抜けることができるからこその単独奇襲作戦に、もし神代恭介が気付いているのだとしたらエンタープライズの身が一番危険だ。

 

「……憶測だけで作戦を変更する訳にもいかないわ」

「そうだけど……でも、このまま何もしない訳にはいかないだろ?」

「神代恭介がこちら側にいないのだとしたら、こっちの基地をさっさと潰して救援に行けばいい」

 

 戦闘前から大きな分岐点に立たされているヨークタウンに、ボルチモアは合理的ではあるが現実的ではない作戦を提案する。神代恭介が戦局を読み切って向こう側にいるのだとしたら、ヨークタウン達が向かう場所には攻撃から基地を守れるだけの防衛能力があるということ。恐らく大規模な地上基地航空隊なりが存在しているのだろう。そもそも、大規模航空隊でも配備している基地でなければユニオンが攻撃する意味もないが。

 

「……前進よ。エンタープライズには注意しておくように言っておくわ」

「私達も気を付けていきましょう」

 

 旗艦として判断を下したヨークタウンに、ラフィーとエルドリッジは無反応のまま、クリーブランドは一応納得して頷いていた。

 

「どう動くか……楽しみでもあるな」

 

 神代恭介のことは良くも悪くも認めているボルチモアは、その手腕がどのようにして振るわれるのかが不謹慎ながらも少しだけ楽しみにしていた。

 ユニオンの指揮官達からも最大に警戒されている彼が指揮する重桜との戦いは、苛烈になることは間違いない。であるならばこそ、ボルチモアはその戦闘に心を躍らせている。もう片方の基地へと向かっているワシントンも同じような性格をしているので、きっとこの情報聞けば喜ぶのだろうなとノースカロライナは内心ため息を吐いていた。

 


 

「それで? お相手さんもそろそろ動きそうなのかしら?」

「あと五分もすれば戦闘になるかと」

 

 恭介が近くにいないことで少しばかり普段よりもテンションが低い赤城は、隣で偵察機を放っている加賀へと視線を向けた。何の問題もなく偵察しているはずなのにいきなり視線を向けられた加賀は、一瞬肩を震わせて赤城から一歩遠ざかった。

 

「何かしら?」

「何でもないです……」

「はぁ……指揮官様……」

「……敵はノースカロライナ、ヨークタウン、ボルチモア、クリーブランド、ラフィー、エルドリッジ、それと量産型艦が十隻程度だ」

 

 戦闘前から味方に恐怖を覚えるのもどうかと思いながら、加賀は偵察機から送られてくる情報を逐一重桜の参謀である神通へと伝えていた。赤城を全く無視しながら艤装の最終チェックを行っている神通は、加賀から伝えられた情報を元に恭介と天城が立てた作戦に細かい修正を加えていた。

 

「ほぼ問題は無いでしょう。指揮官が予測したものとほぼ変わりない編成と言えます。ただ、予想よりも向こうがこちらの対空警戒が強い点だけが心配ですが……まぁ、一航戦からすれば多少の誤差と切り捨てられる範囲かと」

「そうね。量産型艦にクリーブランド級が多いのは明らかに我々、航空戦隊を気にしているのでしょう」

「……艤装、地上基地航空隊、共に異常ない、です」

「ありがとう、綾波」

 

 神通の言葉を聞いて赤城は相手の指揮官も侮れるものではないことを理解した。そもそも敵の基地を攻撃しに行くのに無能な指揮官に指揮を任せることは絶対にないと分かっていても、恭介が行う未来予知にすら等しい指揮を常日頃から傍で見ている赤城は感覚が少しばかり狂っていた。それでもユニオンの指揮官が考えているのであろう今の作戦は称賛に値するものだった。

 

「綾波、雪風、夕立、そろそろ戦闘よ」

「大丈夫です」

 

 少しばかりの心配を瞳に浮かばせていたのが見抜かれたのか、綾波は赤城に微笑んでから艤装を手にして前線へと進んでいった。戦果を取られたくないのか、負けじと夕立と雪風も綾波に続いていた。

 

「……加賀、指揮官様に連絡を」

「了解」

 

 偵察機を飛ばしながら通信も行えと言われているが、この程度の無茶には慣れっこだと苦笑しながら加賀は通信機へと手をかけた。

 

「指揮官、こちらは手筈通り万事上手くいきそうだ」

『そうか。慢心だけはするなよ……特に加賀』

「何故私が……分かった」

『ならいい。こっちは少し、手間取りそうだ』

「……なに?」

 

 味方からの贔屓目無しに、神通と赤城と加賀ですら舌を巻くほど完璧な作戦を立てているはずの恭介が手間取りそうだと言えば、如何に普段冷静な加賀と言えども聞き返してしまう。

 

『予想よりも相手の数が多いというだけだ。特に問題がある訳ではないし、グレイゴーストの対策もきっちりしてある。そっちは予測通り伊58が発見してくれたしな』

 

 奇襲の為にヨークタウン率いる艦隊とワシントン率いる艦隊を囮に、恭介達が待ち構えている基地の後ろ側から回り込んでいるエンタープライズだが、既にそんなことは読み切られて潜水艦を多数配置してエンタープライズの位置探らせていた。見えてしまっている奇襲などただの的でしかない以上、恭介は既に戦う艦船の中からエンタープライズなど省いていた。

 

「そうか……ユニオンはお前が前線に出ていると気付いていると思うか?」

『十中八九気が付いているだろうな。だからこそ迎え撃ちやすい』

「……理解した。そろそろ戦闘だ……気を付けることだな」

『はいはい』

 

 自分達の生命線とも言える指揮官に最低限の警告をした加賀は、通信機から耳を放してから丁度帰ってきた偵察機を手に取って前を見た。艦船の視力を持ってすれば薄っすらとだけ影見える程度の距離ではあるが、確かに赤城達は敵を発見した。

 

「さて……どんな戦いになるか楽しみね、加賀」

「……そうですね」

 

 神代恭介が赤城には話さず、何かしらのことを企んでいることに加賀は薄々気が付きながらも黙っていた。盲目的に見過ぎているからこそ赤城が見逃してしまった恭介の微妙な変化に加賀は気が付いていた。

 数分間黙って水平線を見ていれば、艦隊同士で戦うには余りにも近過ぎる距離であり、人間の姿をした艦船同士で戦うには最適な距離でヨークタウン達は停止した。

 

「ようこそユニオンの軍勢。ここでしばらく楽しんで行くといいわ」

「……一航戦と二水戦の旗艦神通。やはり神代恭介は向こうにいることは本当のようね」

「ふふ……貴女達が気にすることじゃないわ。ここで海の底へと沈むのだから!」

 

 その愛情の深さがそのまま敵意となったかのような、赤城の苛烈な殺意の波動は海に波を起こしてユニオンの面々へと襲い掛かった。

 


 

「……マジでいやがった」

「ノースカロライナ級戦艦ワシントン……お前がこちらの旗艦か」

「まぁな。本当はコロラド達に任せたかったが……仕方ない」

 

 ワシントンは翔鶴の甲板の上に立っている神代恭介を見て、少しばかりげんなりとした顔をしていた。ワシントンと恭介の直線状に割り込む形で入り込んできた霧島は、既に戦闘する気力が全身から見て取れるほどには敵意を放っていた。

 

「どうするよ、モントピリア」

「……目的は戦闘に勝利することではなく基地を破壊すること、そしてできるならば占拠することだ。神代恭介が居ても居なくとも関係ない話だ」

「それもそうか」

「そう簡単な話ではないと思うが……フレッチャー、駆逐艦の相手は駆逐艦のお前に任せる。私とワシントンとポートランドであそこの戦艦は何とかする」

「分かりました」

 

 少しばかり頭を使うのが苦手なワシントンと、合理的な判断しか下さないと自分で言っているモントピリアの言葉にミネアポリスは苦笑していた。

 一触即発の状況で少しばかり緩い雰囲気を醸し出している面々に呆れながらも、ミネアポリスは霧島の横に現れた榛名を警戒していた。

 

「……時雨、油断するなよ」

「当たり前よ! 指揮官はそこでゆっくり待ってなさい!」

「はい。指揮官は私の横でゆっくりと待っていてください」

 

 時雨と翔鶴に何もしなくていいと言われて、恭介は苦笑していた。確かに戦闘前の予測がほぼ全て思った通りの時点で勝率は九割と言っていい状況ではあるが、恭介はどんな状況でも慢心したくない性格なのだ。

 翔鶴、霧島、榛名、時雨、川内、高雄の重桜艦隊は静かにユニオンが動き出すのを待っていた。神代恭介を守りながらの戦いになる重桜艦隊は既に最初から防衛することしか目的にないのでユニオンが動き始めないのならばこのまま誰も動かずに終わるだろう。ワシントンを中心としてポートランド、ミネアポリス、フレッチャー、モントピリア、チャールズ・オースバーンはそれぞれ自分が戦うべき相手を見定めていた。このまま永遠に続くかと思われた静寂は、少し離れた隣の基地から爆発音が聞こえたことで破られた。

 

「ふっ!」

「私から?」

 

 一番最初に動き始めたのはミネアポリスだった。

 艦船である以上砲撃を直撃させることが一番ダメージを与えやすいことではあるが、今や艦船も人型として存在している以上無暗に撃ったところで当たるはずもなければ、無駄に弾薬を消費させられるだけだと考えて敵に近づいて近接攻撃を仕掛ける艦船は多い。そんな考え方をするのはミネアポリスも同じだった。手に持っているミネアポリスの艤装は特別製であり、主砲とは別に近接攻撃ができるパイルが取り付けられていた。

 

「ポートランド!」

「分かってます、よ!」

 

 艦船の膂力を持って高速で振られたパイルを最低限の動きで避けた榛名はそのまま腰の刀に手を付けずにそのまま拳でミネアポリスに殴り掛かった。流石に予想外の動きをされたミネアポリスは一瞬の虚を作り出してしまうが、上手くその隙を埋めるように放たれたポートランドの主砲が榛名と霧島を一歩下がらせた。

 

「さて……サウスダコタはいないが、私と今一度殴り合ってもらおうか!」

「ワシントン……」

 

 フレッチャーが動いて時雨へと牽制、モントピリアは動かずに高雄へと視線を向け、チャールズ・オースバーンは川内へと砲を向けて正義の口上なるものを叫んでいた。ワシントン以外を支援するように射撃を繰り返すポートランドは、本当に動きすらしない神代恭介と翔鶴を見ていた。

 

「……グレイゴーストはどうですか?」

「あと数分もすればここに来る」

 

 戦闘を俯瞰するように見ている恭介は、隣にいる翔鶴からの言葉に短く答えた。恭介の隣で戦場を俯瞰しながら艦載機を飛ばしてひたすらに敵の量産型艦を沈めている翔鶴は少しばかり心配していた。まだ戦闘が始まったばかりとは言え、恭介は何もしていないのだ。

 

「どうしたどうした!」

「侮るな!」

 

 この戦場でも一際激しく戦っているワシントンと霧島を見て、恭介はため息を吐いていた。いくら『カンレキ』があるからと言ってここまで霧島がワシントンと至近距離で砲撃を放ち、その拳を叩き込み、泥臭く戦うとは思っていなかったので恭介はどうしたものかと他の戦闘へと目を向けた。

 

「このっ、ちょこまかするな!」

「時間稼ぎが今回の私の任務です」

「この時雨様相手に時間稼ぎですってぇ!?」

「……あっちは楽しそうだな」

「ふん! その余裕、いつまで保てる!」

「いや、この程度じゃな」

 

 幸運艦である時雨は回避と牽制に全力を尽くしているフレッチャーを上手く捉えることができずにむきになり、余計に攻撃を当てられなくなっていた。

 そんな時雨とフレッチャーのすぐ近くで戦っている川内とチャールズ・オースバーンは、川内がやる気もなさそうに適当にあしらっていた。別に川内が敵を侮っている訳ではないが、いまいちやる気が出せない相手なのは確かだった。

 

「遅い!」

「どっちが!」

「もう、好き勝手動かないでよ!」

 

 何故か途中から主砲も撃たずに拳と艤装を振り回して高速戦闘を繰り広げている榛名とミネアポリスに、支援役として控えていたはずのポートランドが文句を叫んでいた。ワシントンもミネアポリスも既に目の前の敵のことしか頭にない様で、闘争心剥き出しの笑みを浮かべながら相手の命を刈り取ろうと迫っていた。対する霧島と榛名もその闘争心に真正面から応えるように主砲を放ち、拳を繰り出していた。

 

「……隙が無い、か」

「お互い様だ」

 

 居合の構えをとったまま目を閉じて相手の集中が途切れる瞬間を待っていた高雄だったが、相対するモントピリアの隙の無い殺気を感じて動いていなかった。モントピリアも迂闊に飛び込めば弾丸以上の速度で首を刈り取ってくるであろう刀の間合いを警戒して踏み込めていなかった。

 自らの傷も顧みずに戦いを続けるワシントン、ミネアポリス、霧島、榛名も含めて戦闘開始からすぐに戦局は動かなくなった。

 

「…………神通か」

 

 黙って戦場を眺めていた恭介は耳元にあった通信機からいきなりノイズが入り、反対の基地からの通信だと理解して耳を傾けた。

 

『戦局有利、すぐにでも片付くかと』

「そうか。そろそろ来るな」

 

 一航戦と神通がいる反対では既に勝負がつきかけているのだという事実に恭介は何も驚く様子はなく、そのまま通信を切った。恭介の言ったそろそろ来るという言葉通り、それはすぐに戦場へと訪れた。

 

「艦載機、だと?」

「翔鶴」

「はい」

 

 川内の言葉通り、唐突に雲の中から基地へと向かって急降下してきた艦載機群に対して、決して焦ることなく翔鶴は戦闘機を発艦させた。それと同時に、母港でずっと待機していた摩耶が一直線に空へと飛んで対空砲を放った。

 

「所詮は指揮官の予測通り……空母主体の三つ目の艦隊待機させて戦闘が始まってしばらくしたら全機発艦させて基地と重桜艦隊を奇襲する。ぼくの対空火力を舐めるな」

「戦場にはいつだって火の雨が降るものだな」

 

 摩耶の圧倒的対空火力と翔鶴の戦闘機によって瞬く間に炎上して墜落していく艦載機群を見て、恭介は鼻で笑いながら戦局を見ていた。艦船達それぞれが相手を持って牽制し合い、殴り合い、誰も意識が向いていない中恭介だけが()()へと視線を向けた。

 

「さて、これからが本番か?」

「ッ!? 終わりだっ!」

 

 恭介がゆっくりと振り返って視線を向けると、後ろの高台にはいつの間にかエンタープライズが弓を恭介へと向けていた。気が付かれたことに驚きながらも、エンタープライズが片手を離すだけで神代恭介を殺せる状況まで持ってきたことにワシントンとミネアポリスは奇襲の成功を確信した。時間を稼ぐように全員がそれぞれの艦船に対して一対一で戦い、基地に待機していた艦船を少し離れた二つの基地の中間地点で待機しているホーネット、シャングリラ、エセックスによる捨て身の遠距離艦載機によって炙り出し、その隙にエンタープライズが後ろから貫く。ユニオンの指揮官達が考えた最高とまでは言えなくとも、最低限と言える作戦。ただ、その全てが彼の手の平でなければ。

 

「グレイゴースト!」

「なっ!?」

 

 神代恭介を貫くユニオンにとっての起死回生の一手は、無情にも背後からの奇襲を仕掛けたエンタープライズの更に背後から襲い掛かった瑞鶴によって簡単に防がれてしまった。咄嗟の判断で弓を盾にしたエンタープライズは、瑞鶴が振るう刃に切り裂かれずには済んだものの、全ての作戦が台無しになってしまった。背後に回っている途中に、姉のヨークタウンから全てを読み切られている可能性があると言われていたからこそ、エンタープライズは、瑞鶴の刀を防ぐことができた。

 

「指揮官にそんな奇襲が通じると思うなんて、やっぱりグレイゴーストが強くても指揮官が無能みたいだね」

「くっ……だが、今からでも遅くない! 瑞鶴、ここで決着をつける!」

「望むところよ!」

 

 刀を向ける瑞鶴に、エンタープライズは弓を向けた。

 神代恭介の手の平の上で踊り続ける艦船がまた一人、増えただけのことだった。


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