最果ての航路   作:ばるむんく

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過去

 世界会議は結局まともな話し合いになることも無く終了した。鉄血による攻撃は世界全てを敵に回す様な物であったが、陣営としてこの件で正式に鉄血と敵対するつもりなど毛頭ないとサディア帝国と重桜は同時に声明を出した。あくまでレッドアクシズはレッドアクシズのまま、その同盟を維持すると主張する二陣営に対するユニオン大統領の怒りはすさまじいものだった。自国へと引き返した後に更に軍備を増強させ、全面戦争の姿勢を見せたユニオン大統領に対して、ロイヤル首相は否定も肯定もするつもりはないと声明を出し、ヴィシア聖座は相変わらず中立を貫き、北連は何の音沙汰もなく却って不気味になっていた。

 

「ユニオンを潰すことはできなかったか。これは貴様の失態だぞ? ビスマルクよ」

「……申し訳ありません」

 

 ユニオン大統領を殺すこともできずに撤退することになった鉄血は、アズールレーンの包囲が完成する前に海域を脱出して本国へと帰還していた。

 艦船の総指揮を執っていたビスマルクを責める皇帝は、その顔に怒りの表情を浮かべていた。皇帝としてはセイレーンの研究などどうでもよく、ただ民の求めるままユニオンとロイヤルに打ち勝つことしか考えていなかった。

 

「これでアズールレーンは本格的に我々との戦争を始める。ユニオンに物量で攻撃されては重桜と言えど長くは持たん。そうなれば鉄血はユニオンとロイヤルを同時に相手取らねばならぬのだぞ?」

「理解しています。もう少し時間を頂ければ、ロイヤルを何とかできるはずです」

「……()()()は無いぞ」

「……理解しています」

 

 皇帝の言葉にビスマルクは一瞬肩を震わせたが、すぐに返事をして俯いた。

 

「ならばよい。下がれ」

 

 既に興味も失せたかのようにすぐに何処かへと歩いて行く皇帝を横目に、ビスマルクは涼しい顔のまま血が出る程手を握り締めていた。

 

「……ティルピッツ」

 

 たった一人の最愛の妹の名を呟きながら、俯いていることしかビスマルクにはできなかった。

 

 


 

 

「あら酷い顔」

「オイゲン……抜け出してきたのね」

「ずっと寝ているなんて柄じゃないのよ」

 

 皇帝の謁見から戻ってきたビスマルクが執務室へと入ると、ソファで横なって寛いでいるプリンツ・オイゲンがいた。先の戦いでベルファストによって轟沈寸前まで追い込まれたプリンツ・オイゲンは、身体の所々に包帯を巻いた姿のまま菓子を摘まんでいた。本来は病院にでも籠っていなければいけないはずの状態のプリンツ・オイゲンが執務室にいる理由など、抜け出してきて執務室に逃げ込んだ以外にないだろう。

 

「それで、何の用かしら」

「貴女が皇帝にお呼ばれしたって聞いてね。酷い顔で帰ってくるだろうと……手の怪我、何があったのかしら」

「……三度目はないそうよ」

 

 どう話すべきか迷ってから、普通に全てを話したビスマルクの言葉に、プリンツ・オイゲンもまた苦々し気に顔を歪めていた。

 

「本当に、艦船は便利な兵器ってだけなのね」

 

 艦船が人間なのか兵器なのか。アズールレーン設立当初からずっと言われ続けてきたことだが、少なくとも戦争によって疲弊してしまった人類は既に艦船も便利な兵器として運用することしかできなくなっていた。生まれからして人間とは違う艦船を人間として受け入れて人権を与えられる程、人類には余裕が無かった。

 

「重桜もユニオンもロイヤルも似た様な物よ」

「神代恭介がいる重桜と、クイーン・エリザベスが女王として一定の権力を持っているロイヤルは違うでしょう」

「そう変わらないわ」

 

 艦船に対して理解のある神代恭介がトップとして立っている重桜も、一枚岩ではなく、クイーン・エリザベスに一定の権力を与えているロイヤルも所詮は軍事的な場面でしかその力は発揮されない。結局は世界中どこでも艦船は戦う為の力としか考えられていなかった。

 

「……ティルピッツは元気にしているかしら」

「あら、一度目の話?」

 

 プリンツ・オイゲンの揶揄うような言葉にすぐさま反応して睨みつけようとしたビスマルクだったが、視線を向けたプリンツ・オイゲンは全くふざけた表情もせずに真剣な顔で天井を眺めていた。

 

「艤装の修復は既に完了しているけど、相変わらず海には出られないそうよ」

「……貴女は何処からそんな情報を手に入れてくるのかしら?」

 

 ビスマルクの妹であるティルピッツは現在海に出ることも満足にできない状態だった。プリンツ・オイゲンの言う一度目の事件以来、ティルピッツは鉄血に飼い殺しになっていた。ティルピッツを飼い殺しにしてしまえば家族に対して情の深いビスマルクも必然的に鉄血に飼い殺しにされてしまう。ビスマルクが心の内に秘めている激情とも言える皇帝への不信感は、既に引き返せない所まで来ていた。

 

「いつまでこのままでいるつもり?」

「……臣民に罪は無いわ」

 

 彼女達艦船はその力を使えば簡単に腐った上層部の命令を無視して敵対することも可能だが、そんなことをすれば艦船の代わりに重圧を受け持つ者達が現れる。それが、陣営の庇護下で生活する無関係な人々だった。

 

「私達は無力な人々を守るために生まれてきたのよ」

「そう。でも貴女の命令違反もこれで二度目……次は本当に不味いことになるわよ」

 

 プリンツ・オイゲンの発言が何を意味しているのかも、ビスマルクには理解していた。彼女はビスマルクや鉄血の艦船としての仲間に対しては家族のような感情を持っていても、自分を都合よく扱おうとする人間には余り興味もなかった。

 鉄血の艦船にはプリンツ・オイゲンの様に、皇帝とその付近の人間に対して不信感を募らせていることはビスマルクも理解していた。彼女達にとっての一度目が、それ程大きな出来事だったのだから。

 

 


 

 

 神代恭介率いる重桜艦隊と、ユニオン艦隊がぶつかり、恭介がユニオンの捕虜となった海戦の少し前、鉄血とロイヤルは小競り合いから始まった海戦の規模が、どんどんと大きくなっていた。最初は本当に遠距離からの威嚇射撃程度だったものが、いつしか至近距離での接触にまで発展していた。

 ロイヤルと鉄血は地中海に蔓延るセイレーンの現状と、ロイヤルと本土を切り離す海峡の制海権で対立している状態だったが故に、海峡付近での小競り合いが無くならない状態だったが、ここで一際大きな事件が起きてしまった。

 

「……輸送船が沈められた?」

「えぇ。やったのはロイヤルの艦船ね」

「遂に徹底抗戦に出たのかしら」

 

 鉄血は先のセイレーン大戦によって大きく疲弊しており、輸送船を使って外から物資を持ってこなければ民もまともに生きいけないのが現状だった。その輸送船を沈めるという行為は、明らかな鉄血への攻撃。しかも相当の悪意を持ってなされた行為だと判断できることだった。

 

「すぐに皇帝から命令が届くでしょうね」

「ロイヤルを撃滅しろ、か」

 

 ロイヤルが攻撃を加えるのならば反撃しない理由はない。皇帝としても鉄血の民からの支持を失う訳にはいかない故に、ロイヤルと全面戦争を仕掛けざるを得ない。それに巻き込まれるのは、当然鉄血の艦船である。

 

「何か……言いようのない不安を感じるわ。何と言うか、この襲撃自体が仕組まれた物のような」

「取り敢えず動かなければ命令違反になるだけよ。早めに集められる戦力を集めて対処しなさい」

「……ティルピッツとグラーフ・ツェッペリンを動かすわ」

「はぁ!?」

 

 輸送船の襲撃は確かに大きな問題だが、鉄血の最高戦力とも言える二人を動かす理由がプリンツ・オイゲンには理解できなかった。ティルピッツもグラーフ・ツェッペリンも、艤装が完全に完成して鉄血艦隊の旗艦を担える程の能力を手に入れているのに対して、ロイヤル側の戦力も把握できていないにもかかわらず、二人を動かす理由など、考えついたビスマルクにしか理解できない話である。

 

「嫌な予感がするのよ。オイゲン、貴女にも出てもらうわ」

「……いいわ。貴女を信じる」

 

 まだ何かを聞きたそうにしていたプリンツ・オイゲンだったが、ビスマルクを信じて敢えて何も聞かないことにした。そうすることが今のビスマルクには必要な気遣いなのだ理解していたからだった。

 

 


 

 

「それで、何処で輸送船を沈められたの?」

「この先の海流が入り組んだ場所よ」

 

 ビスマルクを先頭にティルピッツ、グラーフ・ツェッペリン、プリンツ・オイゲン、ライプツィヒが同行していた。何故呼ばれたのかいまいち理解できていないティルピッツ、呼ばれれば何処でもすぐに現れるグラーフ・ツェッペリン、同行する様に言われたプリンツ・オイゲン、小回りの利く哨戒役として同行しているライプツィヒ、それぞれ別のことを考えながらもただビスマルクの背後を付いていた。

 

「……雲の流れが妙だ。ビスマルクよ、気を付けるといい……これはロイヤルだけでは済まんぞ」

「分かっているわ」

 

 グラーフ・ツェッペリンの言葉に、頷くビスマルクを見て、さかなきゅんと名付けられた艤装にしがみついていたライプツィヒは、小さな悲鳴を口から出しながら更に艤装に抱き着く力を強くした。

 数分間海の上を移動していたビスマルク達だったが、破壊されてしまったのだろう輸送船の欠片を発見して全員が止まった。それと同時にその輸送船の破片の異常を瞬時に理解したビスマルクは、すぐに周囲の仲間に索敵を命じた。グラーフ・ツェッペリンの甲板からは索敵機が飛び立ち、プリンツ・オイゲンとライプツィヒもすぐさまレーダーに映る反応を確認した。

 

「この輸送船はロイヤルの物……何かがこの海域で、起こっている」

「む、不味いな……霧が出てきたぞ」

「この状況での霧は命取りになるわね……撤退する?」

「下手に動くこともできないわ。姉さん、この破片を追ってみるしかないんじゃないかしら?」

 

 飛行速度の速いMe-155A艦上戦闘機を飛ばしていたグラーフ・ツェッペリンは、すぐさま周辺の海域に霧が発生していることを目視した。鉄血の艦船が輸送船を落としたという情報などビスマルクには伝わっていない以上、この状況はセイレーンによるものと断定することが一番簡単だった。セイレーンがいるかもしれない海域で霧によって視界を塞がれてしまえば、いくら主力艦隊と言えども命の危険が必ず付き纏う。プリンツ・オイゲンの言葉を遮るようにティルピッツが冷静に、更に流れてきた破片を拾った。

 

「……前進するわ」

「正気?」

「皇帝の命令に逆らう訳にはいかないわ」

 

 一人静かに皇帝へと状況を報告していたビスマルクだったが、帰ってきた返答は鉄血の艦船として敵を撃滅しろと言う命令だけだった。人権も無いただの兵器である艦船の命が危険、など上層部の人間からすればどうでもいい話なのだった。

 

「ふん……破滅を求めるならば破滅する覚悟もしておくべきだな」

「破滅を求めているのは貴女だけよ」

 

 グラーフ・ツェッペリンが何故か笑みを浮かべながら艦載機を回収していたが、ティルピッツの訝しむような視線と言葉を受けて更に笑みを深めていた。そんなやり取りを横目に、レーダーに何も映らないことを願いながらレーダーを見つめていたライプツィヒが息を呑んだ。

 

「れ、レーダーが、妨害されています! オイゲン姉ちゃんは?」

「こっちもダメね。鏡面海域でもないのに……何故?」

「……何かがおかしいわ」

 

 霧がどんどんと深まっていくなか、レーダーも無線も使えなくなった鉄血艦隊はすぐに立ち往生するしかなくなった。誘い込まれるように破片を追いかけていたビスマルク達は、既に敵の術中に嵌っていることを理解しながらも、何もできない状態だった。

 

「やっと見つけた」

「っ!?」

 

 霧で前が見えない中、少しずつ前に進むことを決めたビスマルク達だったが、しばらくしてから前方から向かってくる雷跡をビスマルクは瞬間的に見てから、全員に回避行動を取るようにハンドサインで指示を出した。霧の中からの奇襲を受けて警戒心を最大限まで引き上げたビスマルクは、霧の向こう側に薄っすらと見える影に向かって主砲を放った。

 

「あら、貴女が直接来るとは思っていませんでしたわ」

「……フッド」

 

 ビスマルクの視線の先には霧を押しのけて現れたフッドとリアンダーの姿があった。敵とは思えない程柔らかい笑顔を浮かべているフッドの姿に、ビスマルクは警戒の色を強め、プリンツ・オイゲンもまた主砲を構えていた。

 

「魚雷はリアンダーの物? それにしては、扱い方が奇襲用のものだった……」

 

 一人最初の魚雷のことを考えていたティルピッツは、周囲に視線を向けてフッドとリアンダー以外の敵を発見しようとしていた。

 

「二人だけかしら?」

「いえ。アーク・ロイヤルとフォーミダブルも来ているのですが、この霧では動けませんから」

「そう……気に入らないわね」

 

 優雅という言葉がこれ程合う艦船もそういないだろう。そうプリンツ・オイゲンに思わせるには充分すぎる程美しい所作で喋り、微笑む姿が心底気に入らなかった。グラーフ・ツェッペリンは最初から興味もなさそうに目を閉じ、ライプツィヒは警戒心全開のさかなきゅんの手綱を握るので精一杯だった。

 

「それで、何か用かしら?」

「こちらで私達ロイヤルの輸送船が行方不明になったと聞きまして、調査に赴いたのです」

「そうしたら貴女達がいたものですから……」

「ビスマルクが直接来るとは思っていなかった、と言ったわね。最初から鉄血がやったと思っていたんでしょう? 質が悪いわね」

 

 最初からずっと喧嘩腰のプリンツ・オイゲンに対して、ビスマルクは全く口も開かずにそのままフッドを見つめていた。微笑んだまま表情を一度も変えないフッドに対して違和感を覚えていたビスマルクは、常に周囲の警戒をしながらフッドの身動き全てに意識を向けていた。

 

「……そちらのお方が持っている物は、行方が分からなくなっているロイヤルの輸送船の破片。状況証拠が揃っているのでは?」

「あぁ……そういう策略って訳ね。なら遠慮なく潰してあげるわ」

「待ちなさいオイゲン」

 

 ティルピッツが手に持っていた破片を指差して、フッドは静かに刑を告げる裁判官の様に言った。それに対して今にも噛みつこうとする勢いで前に乗り出したプリンツ・オイゲンの肩を掴んで、ビスマルクは前に出た。

 

「私達は鉄血の輸送船が沈められたと聞いてここに来た。そうしたらその破片を見つけた。それだけのことよ」

「信じろ、と?」

「そうは言ってないわ」

「では銃口を向けられることも覚悟しているのですよね?」

「どうかしら、ね」

 

 状況的には明らかにビスマルク達鉄血がロイヤルの輸送船を沈めた、という話が現実的だろう。何せ彼女達は行方が分かっていないはずの輸送船の破片を手に、行方が分からなくなった海域周辺を移動していたのだから。

 

「撃つ、と言ったら?」

「抵抗するわ」

「残念です」

 

 少しずつ霧が更に濃くなっていく中、フッドは砲塔を動かした。ビスマルクに向けて真っ直ぐ向けられた砲塔に対して、ビスマルクを守るようにプリンツ・オイゲンが前に出た。ビスマルクを失うことは、鉄血の艦船達が頭を失うことと同じである。そうなってしまえば今以上に皇帝の傀儡となる未来が待っているだろう。

 フッドが笑みを深くした瞬間に飛び出したプリンツ・オイゲンだったが、フッドの砲塔から放たれた空砲にその場にいた全員が虚を突かれた。

 

「狩りの時間ですわ」

「了解」

「っ、後ろ!」

 

 最初に放たれた魚雷にずっと意識を奪われていたティルピッツは、誰よりも早くその雷跡に気が付いた。リアンダーの様な軽巡洋艦が放つ魚雷よりも、正確に大型艦を狩る為に放たれたその必殺の一撃は、間違いなく駆逐艦から放たれる魚雷だった。

 ティルピッツの声に反応して同時に回避行動を取った鉄血艦隊は前方のフッドとリアンダーに警戒しながら、背後から突撃してきた駆逐艦に目を向けていた。

 

「仕留め損なった……ハーディ」

「問題ありません」

 

 全ての魚雷を避けられたことを確認したハンターは、猟銃の様な形をした魚雷発射管に再び魚雷を装填し始めた。その隙を埋めるようにフッドが弾幕を放ち、鉄血艦隊は突如の攻撃にそれぞれ個別に攻撃を避けることを余儀なくされた。しかし、回避後の油断を狙ったかのようなハーディの放った魚雷は大きな水飛沫を上げて爆発した。

 

「うぅ……」

「くっ、ビスマルク!」

 

 プリンツ・オイゲンに直撃した魚雷は、爆発してそのまま近くにいたライプツィヒを巻き込んだ。二人が同時に中破まで追い込まれた姿を見て、ビスマルクはすぐさま艤装を構えてフッドへと接近した。

 装填を終えたハンターはすぐさま中破になって航行能力を低下させている二人へと狙いを定め、引き金を引こうとした瞬間にその場から飛び退いた。

 

「破滅の時だ」

「グラーフ、ツェッペリン……」

 

 霧の中無理やり発進させたJu-87C急降下爆撃機が、いつの間にかハンターの周囲を飛び回っていた。霧の中での空母などそう役に立つことなど無いと考えていたハンターの虚を突いた攻撃は、易々と躱されてしまったが、それでもグラーフ・ツェッペリンは心底愉快そうに笑みを浮かべたままハンターの命を狩りに来ていた。

 

「……面白そうなことになってるじゃない」

「は? 狙ってやったんだろ?」

 

 鉄血艦隊とロイヤル艦隊が戦闘を始めた姿を、少し離れた場所から霧の中にもかかわらずオブザーバーとピュリファイアーは正確に観測していた。

 手に持っている船の破片をクルクルと回しながら遊んでいるピュリファイアーは、グラーフ・ツェッペリンの実力をその目で測っていた。

 

 


 

 

「ふーん……で、どうなの? ビスマルクは」

「んー……もう一歩足りないわね。あの力を使いこなすには」

 

 フッドと紙一重の砲撃戦を繰り広げているビスマルクを見て、オブザーバーはセイレーンの力をまだ扱えていないことに気が付いていた。そもそも、セイレーンの力を十全に扱ったならば、フッドの攻撃など意に介さずに海の藻屑と化すことが可能だろう。ビスマルクにもたらされた技術力は、それ程の力を秘めていた。

 

「でもいいの? 私らでも上手く扱える自信ないんでしょ? あのキューブ」

「そうね。でも、だからこそ被験体必要でしょう?」

「ふーん……趣味悪」

 

 楽しそうに舌なめずりしながらビスマルクの動きを目で追いかけているオブザーバーを見て、ピュリファイアーは呆れた様にため息を吐いて視線を逸らした。

 

「で、この船二つどうすんの?」

「さっさと処分してしまいなさい」

 

 必要無い物をいつまでも手元に持っておく意味も無い、と言外に告げるオブザーバーに対して、ピュリファイアーはにっこりと笑顔で頷いた。

 

「てな訳でさ、もう用は無いらしいから……バイバイ」

「や、やめ──」

「──バーン」

 

 輸送船の乗組員だった男は、必死に命乞いをしよとしてその頭を瞬時に消し飛ばされた。鮮血が宙に舞い、海を少しずつ赤くする光景を見て、周囲の乗組員も顔を青くして震えることしかできなかった。

 

「じゃあ、一人ずつプチプチ潰してあげるね」

 

 心の底から喜びと言う感情を湧き上がらせているピュリファイアーは、狂気の笑みを浮かべたままロイヤルも鉄血も関係なく、平然と乗組員を殺し始めた。殺されるために悲鳴を上げ、逃げようとする者から殺される。まさに虐殺としか言えないその惨状を背中越しに聞いていたオブザーバーは、耳障りな悲鳴に小さくため息を吐いた。




 二個目の平行線より下は過去の話です
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