最果ての航路 作:ばるむんく
まぁエンタープライズ書くか、クイーン・エリザベス書くか、重桜に戻って指揮官書くかなんですけども。
「ふーん……ビスマルクは完全に使いこなせていないわね」
「そりゃあそうでしょ。大体そういう風にできてるんじゃないの? あれを制御しようなんて、頭おかしいと思うけど」
「制御できないと言う常識すら覆せないようでは、私達は何もなせないわよ」
暴走するビスマルクを遠目に見ながら、オブザーバーとピュリファイアーはひたすらにデータを集めていた。セイレーンすら制御することのできないキューブの力に飲み込まれているビスマルクをこのまま放置すれば、いい実験体としてデータが得られると考えていた。
「でもさ、あれを艦船に制御されたら私らもヤバいんじゃない?」
「その時はその時、よ」
観測者であるオブザーバーにとって、ビスマルクが死ぬかどうかなど全く関係の無い話であり、キューブの力をどうすれば制御できるのかだけが必要な情報なのだった。例えビスマルクがその力を制御するに至るとしても、その技術はそれで流用すればいいとオブザーバーは考えていた。
モルモットを使って実験を繰り返す人間と、本質的にやっていることは大きく変わることは無い。ただ、セイレーンにとってのモルモットが数多ある世界の一つそのものと、人間の感覚からすると規模が大きすぎるだけなのだった。
「フッド!」
「まだ、動けますわ」
「無茶だ! これ以上動くな」
一瞬でかなりの重傷まで追い込まれたフッドは、辛うじてまだ動くことができる程度の状態だった。ふらふらと立ち上がり、再びビスマルクと相対しようとするフッドをアーク・ロイヤルは必死に止めようとしていた。リアンダーもハーディもフッドの元へと向かい、気絶したままハーディに背負われているハンターも含めて、ロイヤル艦隊が全員揃った。
「それにしても、あの力は一体……私の艦載機では歯が立ちませんわ」
「そもそも、艦載機云々の話ではないのではなくて? 私の様な軽巡では掠り傷一つ付けられそうにありません」
「……フッド、ここは退き時ではないか?」
「そうも、いきません」
明らかに暴走している今のビスマルクを危険だと判断して、すぐさま撤退することは実に簡単なことだった。そもそもビスマルクが暴走している原因はティルピッツの負傷である以上、ロイヤル艦隊がすぐさまその場を離れているという判断は至って普通の判断と言える。加えて、今のビスマルクは腕の一振りで艦載機の制御を奪う程の暴風を巻き起こし、砲撃一発でフッドを大破させ、軽巡程度の砲撃では傷一つ付けることすら不可能な存在である。はっきりと言ってしまえば、一つの艦隊で相手をできる存在ではなかった。
「私達が退いて、ビスマルクが追ってこない保障はありますか?」
「それは、そうかもしれないが」
「ここは戦場です。常に最悪を想定し、常にリスクを回避する方法を探さなければなりません。リスクを回避するのはこの場合、ロイヤル陣営として、です」
最悪自分が囮になって他を逃がす、と間接的にアーク・ロイヤルへと言っているフッドの言葉に、艦隊の全員が今の異常さを理解した。
ビスマルクは最早ビスマルクと呼べる者ではなく、既にセイレーンの様な存在と化してしまっている。プリンツ・オイゲンやライプツィヒの驚愕の表情を見れば、それが鉄血の艦船全てが持つ奥の手の様なものでもないことは簡単に理解できる。
「ビスマルクは既にセイレーンと思っていい程、禍々しく邪悪な力に飲まれています。ここで引導を渡すことが、かつて共に戦った私達の役目です」
「……あぁ、どうなっても知らないからな」
「感謝します」
あくまでも譲る気など全く無いフッドに、アーク・ロイヤルが先に折れた。どの道、アーク・ロイヤルとしても今のビスマルクを放置して無傷で逃げ帰れるなど全く思っていなかった。
「どうするのですか? 戦艦の砲撃でもなければあのビスマルクに損傷を与えることなどとてもではないですが……」
「魚雷も効きそうにありません」
ビスマルクを撃沈することに関しては賛成の意を示しながらも、リアンダーとハーディは今のビスマルクに損傷を与えることが現実的ではないことを一瞬の攻防で理解していた。戦艦の砲撃でもなければ、とリアンダーは言うが、フッド自身は戦艦である自分の砲撃では全く被害を与えられるとも思っていなかった。
「……私が与えた損傷が既にあります。そこをアーク・ロイヤルに狙ってもらいましょう」
「また無茶な作戦を……いけると思うのか?」
「確実ではありませんが、それ以外に方法はありません」
「それもそうか……フォーミダブル、フッド達の援護を頼む」
「了解しましたわ」
理性を失っている状態のビスマルクならば、ティルピッツを傷つけた自分が目の前を動くだけで簡単に囮になれるだろうと判断したフッドは、すぐさま機関に火を吹かせて一気に加速した。ビスマルクの一撃はフッドの想像以上の破壊力を持っていたのか、艤装からミシミシと精密機械から聞こえてきてはいけないような音がしているにもかかわらず、走り出した。
「フッド……アナタダケ、ハ、カナラズ……コロス!」
「……」
誇り高く鉄血を導いてきたビスマルクをこんな憎しみに囚わせてしまったという事実に、フッドは罪悪感を覚えながらもビスマルクへと一気に距離を詰めた。戦艦がその主砲によって敵に砲撃を当てることが容易な距離まで近づいたフッドは、急停止してから横方向へと再加速をしてビスマルクの一撃目の砲撃を避けた。
「行きます!」
「はい!」
轟音と共に比喩ではなく海を割いて遥か彼方へと消えていった砲弾を見送ってから、リアンダーとハーディはフッドとは逆方向へと回り始めた。ビスマルクを中心に時計回りに周囲を移動するフッドと、反時計回りに周回するリアンダーとハーディに、ビスマルクはすぐに視線を奪われた。
「ウセロ!」
「そこッ!」
適度に傷にもならない砲撃を放ちながら周回し続けるリアンダーとハーディに向かって砲塔を向けたビスマルクだったが、放とうとした砲撃はフォーミダブルの放った艦載機からの艦爆によってあらぬ方向へと向かうことになった。
ビスマルクは深い闇の中、負の感情ばかりが溢れかえる中でただ静かに目を閉じてその感情たちへと意識を委ねて底へ底へと誘われるまま沈み続けていた。光が一筋も差さない中でビスマルクはただティルピッツが倒れた時の光景を目に焼き付けていた。
──フッドがティルピッツを殺した。ロイヤルがティルピッツを殺した。ロイヤルが鉄血に害を為した。
「貴女は、誰?」
──私は貴女、貴女は私。
闇の中から現れた自分と同じ姿をした影法師に、ビスマルクは視線を向けた。光が差さない場所であるにも関わらず、はっきりと輪郭まで見ることができるその自分自身にビスマルクは疑問を持つ前に理解していた。目の前の影が自分自身であると。
──全てが憎い。ティルピッツを奪おうとする世界が、戦争を起こす人間が、誰も信頼しない陣営が。
「……そうね」
影のビスマルクが言っていることは全て、ビスマルク自身が一度でも考えたことのあることだった。何より、フッドの砲撃から自分を庇ってティルピッツが倒れた瞬間に湧き上がった自分でも制御できない黒い感情の正体が、全てに対する憎しみなのだと理解したビスマルクは、ただ笑みを浮かべて肯定することしかできなかった。
「皇帝も……いえ、鉄血もロイヤルもユニオンも重桜も、北方連合もサディアもヴィシア聖座も東煌も……皆互いを理解し合おうとも思わない」
──何処までも愚かで、何処までも醜い生き物。それが人間だ。
「私達が守るべき存在なのかどうか……よくわからない」
──私達は人間を守る。けれど、人間は私達を殺そうと戦争を起こす。
影はどんどんと暗く闇の深い者へと変わっていく。負の感情の海へとひたすらに沈んでいくビスマルクは、影の言葉を全て受け入れて更にそこへと沈んでいき、その怒りと憎しみと悲しみを全身で感じ続けていた。
「……私が人類へと抱いた、大きな憎しみ。それが貴女なのね」
──私は貴女、貴方は私。何処までもいっても根源は同じ。
暗い感情に身を任せて意識を手放すことがどれだけ恐ろしいことなのか、ビスマルクには既に理解できていた。そして、この影が何から生まれて何を持ってして人類に憎しみを向けるのかも理解できていた。
「これは代償、なのね。これがセイレーンからもたらされた禁断の果実」
自分の内に現れた影は、沈んでいくビスマルクとは対照的にどんどんと負の海を浮上していく。行きつく先は当然、ビスマルクの精神から遠く離れた肉体である。海に沈むビスマルクの意識が消えた時、それこそがビスマルクという存在が消える時だった。
「ビスマルク!」
「待てオイゲン、卿はあれをビスマルクと呼称して近づくつもりか?」
「ッ! だからってここで見ていろと言うの!?」
ロイヤルが何かしらの作戦を立ててビスマルクを撃沈しようとしていることは明白だった。明らかに艦船の領域を超えた力を放ったとしても、ビスマルクは鉄血にとって希望とも言える存在である。それを見捨てることなどできないオイゲンは、すぐにも救援の為に足を踏み出そうとしてグラーフ・ツェッペリンに肩を掴まれた。
「まず回収するならティルピッツからにしておけ。ビスマルク級戦艦であるティルピッツがあの程度で沈むとも思えん。それと、今のビスマルクに近づけば必ず攻撃されるとだけ助言しておこう。もっとも、卿がビスマルクから攻撃されたいと言うのならば止めはしないが」
「……ライプツィヒ、ティルピッツを回収するわよ」
「は、はい!」
意地悪そうに、何処か楽しそうに語るグラーフ・ツェッペリンを見て、プリンツ・オイゲンは苦い顔をしながらライプツィヒを呼んでティルピッツを回収する為に動き出した。半分沈んでいる状態ではあるが、まだ間に合う可能性がある以上はプリンツ・オイゲンもライプツィヒも全く諦める気などなかった。
「ビスマルクのあの力、セイレーン共め……また実験を繰り返すつもりか」
動き出したプリンツ・オイゲンとライプツィヒの背中を見送りながら、グラーフ・ツェッペリンは小さな声でビスマルクの持つ力について漏らした。何かを知っている様なことを口にしながらも、その場から動くことも無くビスマルクの暴走を眺めているグラーフ・ツェッペリンの今のスタイルは、観測者であるオブザーバーに非常に似ていた。
「だが無意味だな。あの力ではビスマルクを完全に飲み込むことはできん。破滅は遥か彼方よ」
細やかなビスマルクの動きの変化から、暴走しながらも故意的に鉄血艦を巻き込まないように動いていることを見抜いたグラーフ・ツェッペリンはつまらなさそうに目を閉じて自らの艤装に腰かけた。
傍観しているグラーフ・ツェッペリンを置いて、プリンツ・オイゲンはビスマルクの射線からライプツィヒを庇うように盾を展開してティルピッツの回収を急がせていた。
「いました! ちょ、ちょっと潜航します!」
「大丈夫なの? 軽巡が潜って」
「さ、さかなきゅんが頑張ってくれれば……」
普段の移動も艤装に乗って自分で動くことは無いライプツィヒだが、こればかりは本当にさかなきゅんが潜ってライプツィヒを連れていかなければ何ともならない問題だった。潜航するということは自然と視界が狭くなるということを理解したプリンツ・オイゲンは、今のビスマルクからライプツィヒを守り切れるかどうかを考えて下唇を噛んだ。
「急いでやりなさいよ。そうでなきゃ二人共死ぬわよ」
「は、はい!」
プリンツ・オイゲンの言葉を聞いて覚悟を決めたライプツィヒは、一気に艤装のエンジンをフル稼働させて潜水した。ライプツィヒが何処にいるのかを目視で確認しながら、プリンツ・オイゲンは浮上するであろう場所を予測して盾を展開して砲撃の流れ弾を防いでいた。
「ビスマルク……」
ティルピッツが倒れた時のビスマルクの反応を思い返し、プリンツ・オイゲンは俯いた。自分がもし目の前で姉であるアドミラル・ヒッパーを沈められたならば、どうしているのだろうか。考えただけでも恐ろしい想像ではあったが、プリンツ・オイゲンは目の前が真っ赤になって全てを滅茶苦茶に破壊し回るだろうことだけは理解できた。それを今、ビスマルクが行っている。
「止めて、いいのかしら」
沈んでいるティルピッツを引き上げても、既に手遅れかもしれない。そう考えてしまうと、死んでいるかもしれないティルピッツを引き上げることは正しいことなのか、悲しみから暴走するビスマルクを止めることが果たして本当に正しいことなのか。プリンツ・オイゲンには判断できない問題だった。
「ッ! リアンダー!」
「問題ありません!」
何度も轟音が鳴り響く海上を走るフッドは、ビスマルクを中心にして向かい側を自分とは反対方向へと向かって回っているリアンダーへと声をかける。ビスマルクの放った非常識な威力の砲撃がリアンダーのいた場所へと向かって天高く水飛沫を上げたのを見たからである。余りにも高く、量が上がり過ぎた水飛沫は局地的な雨を戦場へと降らせていた。
「クソッ……狙いが絞り切れない!」
「このッ!」
マスケット銃の形をした甲板型艤装でビスマルクの破損している装甲部分を狙おうと必死になっているアーク・ロイヤルは、普段からは考えられない程激情的に動くビスマルクの動きを捉えることができずに焦っていた。いつまでももたついていれば、フッド達が危ないことを理解していた。
アーク・ロイヤルの横では、フォーミダブルがハンターを護衛しながらこちらも必死に艦載機を操っていた。アーク・ロイヤルが狙う隙が無いのならば、自分がやってしまえばいいと思っていたフォーミダブルだったが、謎の力を使っているビスマルクは対空砲火だけで致命的な攻撃を仕掛けようとする艦載機だけを的確に撃ち落としていた。
「あぁ、もう……じっとしてなさい!」
実は姉であるイラストリアス程あまり気の長い方ではないフォーミダブルは、動き回って艦載機を撃ち落とすビスマルクに対して怒りが溜まっていた。フッドの砲撃を避けて轟音と共に主砲を放った衝撃で艦載機が墜落した瞬間、フォーミダブルの堪忍袋の緒が切れた。
「そこ!」
突然、周囲を飛んでいたフェアリーアルバコアの一機が着水しそうな程海面すれすれを飛び始め、自爆特攻としか言いようがない飛行を見せた。自らに高速で近づいてくるフェアリーアルバコアに気が付いたビスマルクは、副砲を起動させて視界を埋め尽くす様な砲撃の嵐を一斉に放つ。
「ナ、ニッ!?」
多数の弾幕によって海水が大きく上方向に弾け、フォーミダブルとビスマルクの間へと滝のように降り注いで両者の視界を奪った。瞬間、降りしきる海水を飛び抜けてフェアリーアルバコアはビスマルクへと肉薄した。ビスマルクが咄嗟に腕を全力で振り切った衝撃により、降り注いでいた海水全てを空気中から弾き飛ばし、強風を発生させて肉薄していたフェアリーアルバコアをも破壊する風圧を生み出した。直後、ビスマルクはフェアリーアルバコアの放っていた魚雷を見て、目を見開いた。何とか避けようと足元に視線を移したと同時にリアンダーとハーディが主砲を放ってビスマルクの視界を奪った。フェアリーアルバコアの放った航空魚雷はビスマルクの航行用の艤装機関に直撃し、ビスマルクは完全に態勢を崩した。
「今!」
千載一遇のチャンスを逃す程、フッドもアーク・ロイヤルも甘い艦船ではなかった。素早く用意していた副砲を起動させて更に視界を封じたフッドは、すぐにアーク・ロイヤルの方へと振り返る。その時には、既にアーク・ロイヤルの放ったソードフィッシュが10機、海面に膝をついているビスマルクの破損している装甲へと航空魚雷を放っていた。
閃光と共に30発の航空魚雷がほぼ同時に爆発を起こし、再び天高く海水を巻き上げて戦場へと雨を降らせた。
「これで、終わりです」
異常な装甲を持っていたビスマルクがこの航空魚雷を受けても沈んではいないかもしれないことはフッドも理解できていたが、フェアリーアルバコアの航空魚雷によって航行艤装の機関部分を破損させ、更に戦闘艤装の破損した内部へと30発の航空魚雷を受けて戦闘が続行できるとも思っていなかった。
「どうか安らかに、ビスマルク」
「ま……だ、死ねな、いのよ」
海面に蹲る影を見て、フッドは身体に無理を強いて艤装を動かして主砲を向けて放とうとした。次の瞬間、フッドは雨によって発生した一時的な霧から主砲を自分の背後に放ってその反動で飛び出してきた、全身血に塗れたビスマルクの攻撃に反応できなかった。反応する前にフッドの砲塔を掴んで無理やり捻じ曲げたビスマルクは、すぐさまフッドを突き飛ばした。主砲を放とうとしたフッドの砲塔には既に弾薬が込められており、その状態のままトリガーを引けばどうなるかを加速した意識で理解していたフッドは、砲塔が暴発を起こす瞬間を驚愕に見開いた目で見ていた。
「フッド!」
暴発によって右半分の艤装が一気に爆発したフッドは、ビスマルクに突き飛ばされた衝撃のまま背後へと倒れこみ、ビスマルクもまた突き飛ばした勢いのまま前面へと倒れこんだ。
「随分と面白い結果になったな」
「……ぐ、らーふ」
「卿の妹ならまだ生きているぞ」
「っ……てったい、よ」
倒れこんだビスマルクを狙って飛んできたフォーミダブルのフェアリーアルバコアの編隊を、Me-155A艦上戦闘機が縦に切り裂いてビスマルクのすぐそばにグラーフ・ツェッペリンがゆっくりと近づいた。
ティルピッツの無事を知ったビスマルクは、すぐに撤退の指示をグラーフ・ツェッペリンに下した。
「そうか。だが皇帝はそれを許しはしない」
「なん、ですって?」
「命令はあくまでロイヤルの撃滅であるが故に、撤退は認めないそうだ」
ビスマルクがどのような形かでそのうち正気に戻ると理解していたグラーフ・ツェッペリンは、既に自分の上の人間に指示を仰いでいた。旗艦であるビスマルクが実質戦闘不能状態では、誰かが指揮を執らなければならない。そんな理由でグラーフ・ツェッペリンが上へと指示を仰いだ結果が、自らの命を賭してでもロイヤルを全て撃滅しろという命令だった。
「どこまでも愚かしいっ……撤退よ!」
「ほう……いいだろう。既にティルピッツも保護してある。幾らでも命令違反をして見せるがいい」
鉄血に生きる人間にとって、皇帝の意思は絶対である。それに逆らうことは即ち陣営に逆らうということに他ならず、鉄血の艦船全てを率いていかなければならないはずのビスマルクが一番判断してはならないことだった。にもかかわらず、ビスマルクがすぐに撤退を判断した理由は単純に、自分の心の底にある負の感情に触れたからである。
グラーフ・ツェッペリンは、撤退の言葉の前にビスマルクが呟いた人間へと憎悪が籠った言葉に、笑みを浮かべていた。まるでようやく見つけた自分の同類を見つけたかのような嬉しそうと見れる笑みに対して、ビスマルクは苦いを顔をしてグラーフ・ツェッペリンに表情を見られないように顔を逸らした。
「待てっ! お前達にはまだ聞き足りないことが山ほど──」
「──ではな」
立ち上がることもできないビスマルクを片方の甲板の上に乗せたグラーフ・ツェッペリンは、すぐに追いかけてこようとするアーク・ロイヤル、ハーディ、リアンダーに向かって生体艤装の口を向けた。
生体艤装に収束する圧倒的なエネルギーに気が付いた三人は、すぐにフッドを回収して射線上から横にずれた。
「次に見えた時は、破滅を与えてやろう」
「グラーフ……ツェッペリン!」
グラーフ・ツェッペリンの艤装から放たれたのは砲弾ではなく、本来セイレーンが用いるはずの粒子砲だった。容赦なく放たれた破滅の光は、海を蒸発させて背後にあった小島を一瞬で消し飛ばした。謎の力を使ったビスマルク以上の威力をあっさり放ったグラーフ・ツェッペリンに、アーク・ロイヤル達は一歩も動けなかった。