最果ての航路   作:ばるむんく

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共闘

 自らの背後に立つ圧倒的な上位者たる赤き九尾に身動き一つ取れないホーネットは、ゆっくりと振り上げられる手の動きを見ていることしかできなかった。ワスプは襲い掛かってくる龍から逃げることしかできず、コンパウンドボウを構えて赤城を牽制することすらできない。

 

「あはは……終わり?」

「逃げろッ!」

 

 遠くからワスプが声を張り上げているが、ホーネットは今から立ち上がったところで、できることなど何一つないことを察していた。手を振り上げている赤城がその手をどうするかなど見当もついていないが、本能的に自分が助かることは無いと察していた。

 

「姉様っ!」

 

 無表情のまま手を振り下ろそうとした赤城は、ホーネットでもワスプでもない悲痛な声によって動きを止めた。一拍遅れて赤城に縋りつくようにやってきた加賀は、振り上げられている手を取って懇願する様な顔のまま顔を覗き込んでいた。

 

「やめてください姉様! これ以上その力を使えば……貴女の身体がもたない!」

「どういう、こと?」

 

 赤城の手を取りながら叫ぶ加賀の言葉に、ホーネットは訝し気に目を細めた。ワスプを追っていた龍も赤城が停止するのと同時に、最初から存在していなかったかのようにかき消えていた。

 ゆっくりと立ち上がりながら赤城と加賀を注意深く見ていたホーネットは、赤城の背後から近づいてくる重桜の艦隊に気が付いて後ろを振り返り、ワスプの背後から近づくユニオン艦隊を視認した。

 

「……これは、どういう状況だ?」

「こっちが聞きたいよ」

「姉様っ!」

 

 ホーネット達に艤装を構えながら近づいてきた、重桜第一艦隊と妙高率いる第六艦隊のメンバーは、赤城の名前を呼び続ける加賀と、その二人を眺め続けている傷ついたホーネットの姿に困惑していた。妙高が最初に砲塔を下げて疑問を言葉にした。

 

「加賀、せめて状況を説明しろ」

「どうもこうもない! これ以上姉様をセイレーンの好きにさせるものかッ!」

「待って、今セイレーンって言ったの?」

 

 加賀の叫ぶような言葉にホーネットが聞き返そうとした瞬間、停止していた赤城の腕が再び動き始め、加賀の制止を振り切ってホーネットに向かって突き出された。凄まじい速度の突きだが、ホーネットは既に立ち上がって呼吸を落ち着けていたので軽々と横に避けてから、重桜の策にはめられたと思って視線をあげて絶句した。赤黒いオーラを身体から発している赤城が、その九本の尾で重桜艦隊全員を吹き飛ばしたのだ。

 

「ちょ、ちょっと!? 大丈夫なのっ!?」

「大丈夫に、見えるか……」

 

 赤城の一番近くにいたことで尻尾の攻撃を真っ先に受けた加賀は、勢いよく吹き飛ばされたところをホーネットに抱き留められる形で止まった。片手で腹を抑えながら口から血を吐く加賀に、ホーネットは混乱し続けていた。仲間である重桜の艦船すらも攻撃し始めた赤城を見て、ホーネットは初めて目の前の赤城が意図しない形で暴走し続け、その後ろにセイレーンがいることを理解した。

 

「他の子は、大丈夫そうね」

「我らの、神秘は……そう生易しいものじゃ、ない」

「そうだね。それは……今の赤城を見ればわかるよ」

 

 腕の中で苦しそうに呻いている加賀を心配しながら、ホーネットは背後から近づいてくるユニオン艦隊に気が付いていた。

 

「ホーネットは無事そう」

「はぁ……厄介なことになってそうだな」

 

 アラバマの言葉に頷いてから、蹲っているホーネットに近づいて手を貸そうとしたワシントンは、腕の中で満身創痍の姿で赤城を睨み続けている加賀の姿に大きなため息を吐いた。

 

「ユニオン、か……丁度いい。手を、貸せ」

「へぇ……アタシらにメリットは?」

「世界が滅ぶのは、見たくないだろう?」

「……いいぜ」

「旗艦はぼく」

 

 口から血を流しながらも不敵な笑みを浮かべる加賀に、ワシントンも同じ表情で返した。まるで艦隊の旗艦であるかのように応えるワシントンに、アラバマは不服そうな顔で大鎌に手をかけた。

 

「悪かった。それで? お前は反対なのか?」

「……世界と一時の和平。交換条件にすらなってない」

 

 手の中で大鎌を回転させたアラバマの動きを見て、ポートランド、インディアナポリス、モントピリア、インディペンデンスが艤装を構える。口数が少ないアラバマが旗艦の場合は、アラバマが戦闘の意思を見せた相手が敵である。ワシントンもそのことをよくわかっているので、不敵な笑みを好戦的な笑みに変えて主砲を起動させた。

 

「行くよ」

「了解っ!」

 

 アラバマの言葉に頷き、ワシントンはすぐさま主砲を赤城に向かって放つ。それと同時にポートランド、インディアナポリス、モントピリア、アラバマが赤城に向かって最高速度で近づき、インディペンデンスは上空で戦い続けているヘルキャットに指示を飛ばしながらアベンジャーを発艦させた。

 

「あっちは動き始めたわ。敵は赤城一人……こっちも動くよ!」

「はい!」

 

 主力艦隊が動き始めたのを見て、イントレピッドは飛行甲板からヘルダイバーとアベンジャーを発艦させる。リノはイントレピッドの言葉に頷いてから、対空砲を起動させてスモーリーとマラニーを連れて赤城の艦載機を一機でも撃ち落とす為に駆けた。

 

「……妙高さん、どうするの?」

「決まっているだろう。艦船ならば、正義の為に動くべきだ」

 

 攻撃された腕を庇いながら妙高の傍まで寄ってきた阿武隈の言葉に、妙高は俯いたまま応えた。この場における正義とは、暴走して周囲全てを巻き込む程の災害になってしまいかけている赤城を止めること。つまり、味方を攻撃することだった。

 

「扶桑、山城、阿武隈、長良……私達は戦うぞ。宵月、花月、春月、那珂、手伝ってもらうぞ」

「お任せください。秋月型ならば一航戦の航空機だろうとも……」

「那珂にお任せください!」

 

 妙高の決心と言葉に花月が少しだけ暗い顔で頷き、那珂も覚悟を決めた顔で頷いた。旗艦として仲間を攻撃する判断を下すことに悔しさを感じている妙高を前に、那珂はできるだけ明るく行こうと考えていた。

 

「あては、赤城さんを止めたい」

「そう、だよね」

 

 阿武隈は無表情のまま、拳を握りしめていた。鬼と呼ばれてその無表情さに勘違いされがちだが、阿武隈はどこまでも仲間思いで優しいことを姉である長良は知っていた。そして、優しすぎる長良を守るために時には非常な決断をしようとすることも。阿武隈の言葉に頷いた長良を見て、扶桑も山城へと視線を向けていた。

 

「山城は、どうしたい?」

「止めたいです! 赤城さん、本当はとっても優しくて温かいんです……だからっ!」

「そうね。大丈夫よ山城」

 

 扶桑の言葉に即答した山城は、艤装を揺らしながら今にも飛び出しそうにしていた。

 

「……あて達も参戦しよう。加賀さんもそう動くと思う」

「うん!」

 

 阿武隈の言葉に三人が頷き、同時に動きだした。

 ユニオン艦船十隻と重桜艦船十隻が共通の敵を前に、上官からの命令無しで共同戦線を勝手に共同戦線を作り出してた。

 赤城は、降り注ぐワシントンの砲弾を九本の尾で簡単に弾きながらも、近づいてくるアラバマへと視線を向けていた。大鎌を構えたまま向かってくるアラバマへと、龍をけしかけてから上空の艦載機を操ってアラバマへと向ける。

 

「……これで、いい」

 

 降下してくる艦載機を無視して、目の前の龍へと大鎌を投げたアラバマは更に加速して副砲を起動させる。放り投げられた大鎌はフリスビーのような回転のまま龍の口から上下に真っ二つへと斬り裂きながら進み、赤城の右手に掴み取られた。上下に裂かれた龍も物理的な攻撃など受け付けずに修復されるが、修復している間にアラバマは副砲の射程範囲まで近づいていた。迷いなく砲撃を放つアラバマだが、赤城はアラバマの方など視認もせずに大鎌を片手に持ったまま副砲から放たれた砲弾全てを尻尾一本で弾き飛ばし、再び遠方から放たれたワシントンの砲撃を右手に持っていた大鎌で二つに裂き、先程のアラバマと同じように密かに近づいてきていたモントピリアに向かって投げた。限界まで姿勢を低くして、髪の先を掠めていく大鎌を見送ったモントピリアは、すぐさま主砲を向けて砲弾を放つが、アラバマの副砲同様尻尾一本で全てを弾かれる。

 

「行くよインディちゃん!」

「うん」

 

 距離を置いていたインディアナポリスとポートランドは赤城を中心として左右に別れ、周囲を旋回するように動きながら主砲を放つ。九本ある尾の二本で同時砲撃を弾いた赤城は、アラバマが離れていくのを見て一歩踏み出そうとしてから、ワシントンによる上、ポートランドとインディアナポリスによる左右、隙ができるのを待ち続けていたモントピリア。四方向から同時に砲弾が飛んできたことに気が付いた赤城は、瞬間的に身体を逸らした。上と左右からの砲撃を尾で防いだことによって生まれた、防御の穴を的確に狙ってきたモントピリアの砲撃は赤城の脇を掠めて海へと消えた。

 

「来るぞ!」

 

 砲弾を避けた赤城は全身から放っていた炎の勢いを強め、九本の尾を振り払った際に生まれた火の粉が艦載機に変化して海へと飛びだって行く。明らかに通常の空母一隻が搭載できる量を軽々と超える艦載機の群れに、モントピリアがポートランドとインディアナポリスに声をあげる。上空でイントレピッド、インディペンデンスの放ったヘルキャットと空中戦をしていたはずの流星、彗星も降下を始め、赤城付近の四人へと狙いを定めた瞬間に、大量の機銃音が響いた。

 

「大丈夫ですかっ!」

「行くよ」

「はい!」

 

 機銃音にモントピリアが視線を向けると、高性能な対空レーダーを搭載しているアトランタ級の後期型であるオークランド級のリノと、それに追従する形で対空砲を向けるマラニーとスモーリーの姿があった。

 

「ヘルキャット!」

 

 イントレピッドとインディペンデンスも、ヘルキャットを動かして赤城の流星と彗星を一機ずつ確実に落としていく。大鎌を回収したアラバマは、再び赤城に向かって加速して鎌を振り上げ、ワシントンは遠距離砲撃を続けて赤城の移動を阻害する。モントピリア、ポートランド、インディアナポリスは周囲を旋回しながら適時砲撃を放つ。ユニオン艦船十隻による赤城の包囲網は、既に完成していた。

 

「どれだけ強くても、一人はこんなもの。終わり」

 

 赤城に向かってとどめとして大鎌を振りぬこうとしたアラバマは、身体から立ち昇る赤い炎から生まれた龍を咄嗟に避けた。大鎌についている鎖を溶かす程の熱量を見せたその龍に、アラバマは目を見開いた。

 

「……おわ、り? わらわせる……ならのぞみどおり、おわらせて、やるワ」

 

 本能的な危機を察知したアラバマが背後に飛び退いた瞬間、赤城の身体から立ち昇る炎が八体の龍へと変わって天へと飛び出した。最初に現れた一体と、アラバマが近づいた時に出した一体を合わせて計十体の龍を前に、赤城の周囲を飛び回る龍は、一斉にそれぞれのユニオン艦船へと襲い掛かった。

 

「くそッ!」

 

 一瞬で包囲を崩された艦船達は、同時に赤城の背から追加で空へと放たれた艦載機の群れに目を見開く。どこまでも続く絶望的な物量と、圧倒的なまでの殺意。既に赤城は、艦船としての枠を超えたナニカになろうとしつつあった。

 全艦船の元へと襲い掛かる龍は、砲撃や大鎌での攻撃を受けてもまるで効果がないように速度も変わらない。放たれた龍を倒せないにもかかわらず、空を舞う艦載機の群れは一向に減らず、ただただ理不尽なまでの暴力がユニオン艦船達に降りかかる。

 

「馬鹿共、がッ!」

 

 その場の全員が諦めの文字を頭の中に浮かべた瞬間、全ての龍に向かって青色の航空機が機銃を放った。満身創痍のまま立ち上がった加賀が、ふらふらのまま十機の艦載機を飛ばしてユニオンを救った。

 

「龍が、復活しない?」

「式神をたお、せるのは、式神だけだ……手を貸せと、言っただけで……お前達にやれとは言って、いない」

「か、が?」

 

 肩で息をしながらも操る艦載機は的確に龍の急所部分である目を撃ち抜き、十体全てを消滅させた。式神である龍が消滅させられる姿を見て、赤城は無表情のまま首を傾け、ホーネットに支えられながら立っている加賀を瞳に映した。

 

「か、がぁ……なぜ、貴女がジャまをすルの?」

「姉様……必ず取り戻して見せるッ! ホーネット、死ぬ気で支えろよッ!」

「わかってるよっ!」

 

 左半身を支えているホーネットは元気よく返事をしてから、加賀が頭につけている仮面を燃やした瞬間に現れた巨大な九尾の式神に驚きのあまり、口を開閉して言葉にならない空気を出していた。

 

「行けっ!」

「お、おう!」

 

 唐突に現れた巨大な白い九尾に、その場にいたユニオンの艦船全員が驚きのあまり動きを止めるが、加賀の声に反応して全員が再び赤城の包囲網を敷く。赤城の無尽蔵とも言える艦載機の群れを前に、マラニー、スモーリー、リノ、イントレピッド、インディペンデンスに加えて、九尾の背中に取り付けられている飛行甲板から放たれる加賀の艦載機で制空権を五分まで盛り返していた。赤城が龍の式神を召喚する度に、九尾の尾から放たれる弾幕がその龍を同じ霊的な力で消滅させる。ユニオン艦隊に足りない制空能力と式神能力を持つ加賀は、今のユニオン艦隊にとって、もっとも頼りになる味方だと言えた。

 

「……めザわり、ね……ウセロッ!」

「ぐッ!?」

「ちょ、ちょっと加賀っ!? ワスプっ! 艦載機残ってないの!?」

「艦載機は無いが、攻撃手段はある!」

 

 襲い掛かる九尾の弾幕を渾身の力で払いのけた赤城は、先程よりも数倍の巨体を持つ龍を召喚して九尾の身体に巻き付かせて動きを封じ、首に牙を突き刺す。式神に大きな傷を付けられた加賀は、痛みに呻きながら九尾を操ろうとするが、全身に巻き付く龍の力は加賀の操る式神とは比にならない力を持っていた。

 加賀を助けるためにホーネットが声をかけると同時に、ワスプはコンパウンドボウを構えて赤城へと向ける。しかし、巨大な龍一つで加賀の行動を封じた赤城は、すぐさま異常なまでの数に膨れ上がった上空の艦載機全てを動かしてユニオン艦隊の頭上を容易く支配する。

 

「宵月、春月、合わせて!」

「は、はい!」

「行きます」

 

 戦場を切り裂くように現れた三人の秋月型駆逐艦は、隙間の無い対空砲火で赤城の艦載機を撃ち落としていく。アラバマが視線を向けた先にいたのは、妙高が率いる重桜第六艦隊の面々だった。

 

「那珂、行くぞ」

「はいっ!」

 

 妙高の言葉に頷いた那珂は、同時に魚雷を赤城へと放ちながら、ポートランドとインディアナポリスとは逆方向に旋回を始めた。ワシントンの砲撃を弾きながらモントピリアに肉薄しようとしていた赤城は、自分へと向かってくる魚雷を視認して飛び退き、的確に頭を狙って放たれた妙高の砲弾を片手で弾き飛ばした。その隙を見逃す程、アラバマもモントピリアも甘い艦船ではなく、放たれた戦艦の副砲と軽巡の主砲は赤城の胴体に吸い込まれていき、大きな爆発を起こした。

 

「重桜が味方をしてくれるとは思わなかったけど、防空駆逐艦が三隻ね。ここが制空権を奪い取る最後の機会よ!」

 

 イントレピッドの言葉に頷き、最初に反応したインディペンデンスは、ヘルキャットを数機だけ降下させて対空砲火を続けている駆逐艦達の護衛をさせ、アベンジャーで赤城への決定打を狙っていた。リノ、マラニー、スモーリー、宵月、春月、花月は対空砲でひたすらに艦載機を撃ち落とそうとしていた。

 水煙の中から飛び出した赤城は、小さな損傷すら感じさせない動きでアラバマへと接近して大鎌の持ち手を掴む。

 

「シネ」

「っ!」

 

 大鎌を左手で抑えながら振るわれた右手の爪を、頬に掠る程度で避けたアラバマはそのまま大鎌を振るって赤城を上空へと飛ばす。それを見ていたポートランドとインディアナポリスはすぐさま主砲を放つが、赤城が手を振るって現れた龍が主砲を噛み砕く。

 

「伏せろッ!」

 

 そのままポートランドとインディアナポリスは向かってくる龍に、もう一度主砲を構えようとして聞こえた声に従って頭を伏せると、ミズホの神秘を発動させた妙高と那珂が頭を飛び越え、艤装ではなく爪で龍を切り裂いた勢いのまま赤城へと肉薄した。砲弾のような速度で左右から迫った妙高と那珂の攻撃を軽々と掴み取った赤城は、二人を勢いのまま投げ飛ばした。

 

「くっ……やはり赤城は強いか」

「妙高さん!」

 

 空中で態勢を整えた妙高達が立ち上がる前に、赤城は一歩を踏み出して襲い掛かろうとした瞬間、右肩が爆発してたたらを踏んだ。肩から上がる煙に視線を向けた赤城は、続く二発目を左わき腹に受け、三発目と四発目を弾き飛ばした。

 

「私達だってっ!」

「山城!」

 

 赤城へと主砲を命中させた山城と扶桑は、続けざまに主砲を放つ。降り注ぐ砲弾を弾くことなく避け、モントピリアと妙高の砲撃を弾きながら山城と扶桑の方向へと駆けだした赤城を見て、扶桑が悲痛な顔のまま目を伏せた。

 

「赤城さん……目の前の敵しか見えていないのですね。やはり、貴女は『なにか』に取りつかれています。それを祓うのも私の役目です」

 

 敵だけを見定めて突貫する赤城は、周囲の艦船達から放たれる砲弾を半分程度弾き、半分程度を受けながら突き進み、大きな爆発音と共に海に倒れこんだ。右足についていたはずの艤装が吹き飛び、航行不可能なダメージを負った赤城は、尚も自分に伸びている雷跡に気が付いてから光に飲まれた。

 連続した爆発音を聞き、自分が放った魚雷が予定通り命中したことを理解した阿武隈は、唇を噛みしめている長良を見て、俯いた。

 

「いつもの赤城さんなら、絶対に当たってなかった」

「そうだね」

「いつもの赤城さんなら……絶対扶桑さんに攻撃なんてしなかった」

「うん……」

 

 阿武隈の呟く言葉に、長良は小さく同意することしかできない。あの程度の攻撃で赤城が沈んでいるとは、阿武隈も長良も思っていないが、自分達が尊敬していた人を直接この手で攻撃したことが精神に負荷をかけていた。

 阿武隈と長良の魚雷が赤城に直撃し、式神にまとわりついていた龍が消えたのを確認した加賀は、ホーネットから離れてふらふらとした足取りのまま歩き、九尾の背に飛び乗った。左半身を庇うように手で抑えながら歩く加賀の目は、海に倒れたまま動かない赤城へと向いていた。

 

「姉様……今、助けます」

「は、はぁっ!?」

 

 九尾の背から飛び上がった加賀は、そのまま九尾に投げ飛ばされるような形で、自分を砲弾の様にして赤城のいる場所まで飛ばした。突然の奇行にホーネットとワスプが口を驚愕している間に、九尾は青白い炎となって消えた。

 

「阿武隈ッ!」

「ぐぅっ!? 姉様ッ!」

 

 倒れていたはずの赤城は幽鬼のようにゆっくりと立ち上がり、目の前にいる阿武隈に爪を向けた。驚愕のあまり動けなくなっている阿武隈に妙高が声をかけうが、その横を加賀がとてつもない速度で通り過ぎた。

 傷を受けていない状況ならまだしも、大破と言っていい程の傷を負っている今の加賀には、飛ばされている時に発生する風圧が身体中に痛みを与えているが、そんなことは関係ないと言わんばかりに力なく立ち上がった赤城に手を伸ばした。

 伸ばされた加賀の手は、赤城の胸を刺し貫いた。

 

「あ、赤城さんがッ!?」

 

 その場にいた全員が、赤城の死を理解できるような致命傷を与えた加賀に、驚いたまま動けなくなっていた。一航戦の片割れが、もう片割れの一航戦を殺す光景にユニオン艦船も武器を向けることすらできずに、立ち尽くす。周囲の驚愕を無視して、ずるりと赤城の胸から血塗れの手を抜いた加賀は崩れ落ちる身体を片手で支えてから、扶桑たちへと視線を向けた。

 

「なにを、しているんですか?」

「わめく、な……これは赤城に必要な、こと……だ……」

「加賀さん!」

 

 息も絶え絶えに、右手の先に持っている青色の小さな結晶を砕いた加賀は、そのまま前のめりに倒れた。赤城が止まったことを理解したその場の艦船達は、安堵の息を吐く間もなく再び緊張の糸を張り詰めらせる。

 共通の敵である赤城が倒れたということは、再び重桜とユニオンは敵対する者同士に戻ったのだ。

 

「結局、こうなるか」

「わかりきってた」

 

 実質、今の重桜艦隊を率いている妙高とユニオン艦隊を率いているアラバマは、言葉を交わしながらも互いに艤装を構えようとして、二人同時に膝をついた。神秘の副作用である強烈な疲労感に歯噛みしながら妙高が顔をあげると、足の艤装を一部破壊され、自慢の獲物である大鎌が持ちの部分から刃までヒビが広がっているアラバマと目があった。

 

「妙高!」

「アラバマ、撤退だ」

「金、剛? 何故ここに……」

「姉貴?」

 

 限界を迎えていた二人は、同時に攻撃態勢を取って背後から止められた。妙高の腕を取った焦り顔の金剛と、アラバマの肩に手を置いたサウスダコタは、互いに一度も目を合わせることなく妙高とアラバマを抱えて走り出す。

 

「姉貴、なんで?」

「これ以上の作戦継続は不可能だと、上が判断したらしい。僕にはなにがどうなっているかわからないけどね」

「そっか……そうなんだ」

 

 艤装が破壊されているアラバマを片手で抱えながら走るサウスダコタの顔は、上の命令に納得ができていないものだった。

 

「金剛、何故止めた」

「……指揮官が姿を消しました」

「は?」

「ついでに幾人かの艦船も消えています」

 

 手を引かれていた妙高は、金剛の言葉を聞いて、長良が指揮官と連絡が取れないと言っていたことを思い出した。重桜の指揮官として、この海戦に参加していたはずの彼が重桜の艦船幾人かと姿を消したこと、そして赤城が唐突に暴走したこと。その二つに何か関係性があるのではないのだろうかと、妙高は考えていた。

 

「なにか……なにかが起こっているのか?」

 

 不自然な指揮官と艦船の失踪と赤城の暴走。世界中が戦禍に飲み込まれようとしている中、裏で何かが蠢いている予兆を感じ取った妙高は、厳しい顔をしている金剛と頷き合った。

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