最果ての航路   作:ばるむんく

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やっぱり戦争って権力者が諸悪の根源だよねって話になってきてる気がする()


運命

 神代恭介がユニオンから奪還されて一週間。重桜海軍の人間達が慌ただしく動いていた。

 

「神代様が鉄血に行かれるらしいが、一体何のために?」

「御神木に触れてから決めたらしい。これも神木の意思なのだろうか……」

「どちらにせよ、我々が意見を挟み込むことではない」

 

 鉄血へ向かうことを決め、すぐさま鉄血艦隊のトップであるビスマルクへと手紙を送った恭介は、随伴に指名した瑞鶴、金剛、比叡、そして天城の前にいた。

 

「何故、今鉄血に行くのですか?」

 

 国の最高権力者とも言っていい神代恭介の命令に逆らうつもりなど比叡には微塵もないが、それでも疑問は生じるものである。恭介も会議時の様に肩肘張った緊張感を出さず、仕切りもなしに同じ目線でお茶を飲みながら座っていた。

 

「疑問も当然だが、行くなら今しかない。ユニオンに取って俺は危険な存在であると認識され、今後一層重桜へと監視の目を付けてくるはずだ。そうなったら、俺が重桜から戦争以外の目的で出ることは不可能だ」

 

 彼の言っていることは恐らく現実となり、予想される最悪のケースでもある。彼が戦争以外の目的で重桜から出ることすらかなわなくなれば、外交にも問題が起きる。今はまだ鉄血と仲良くやれているが、果たしてあの帝国がいつまで重桜を自分達と同等と認めているかなど分かったものではない。

 

「……ビスマルクが、まだ思想を捨てていなければ、可能性はある」

「思想?」

 

 恭介の言う思想の意味が理解できなていない金剛と比叡は顔を見合わせて首を傾げた。ビスマルクが持つ思想とは、鉄血の皇帝が持つ絶対的な思想なのではないかと考えていたからだ。帝国の軍隊は皇帝の命令が全てであり、それに疑問を持つ必要が無い。そんな軍隊の中でカリスマを発揮してトップに立っているビスマルクが持つ思想と言うのは、当然鉄血皇帝と同じでなければならない。

 この言葉に対して、金剛と比叡は首を傾げ、天城は目を閉じてお茶を啜りながら無言を貫き、瑞鶴だけは何かを理解して悔しそうに目を伏せていた。

 

「まぁ、会ってみなければ何もわからない。出立は明日としても、今日はゆっくりしててくれ」

「あの……」

 

 お茶を飲み終わり、立ち上がった恭介に瑞鶴が声をかけようとして目で制されてしまった。話の間ずっと目を伏せていた瑞鶴に、金剛と比叡は少し心配しながら解散していった。

 

「…………」

「思い詰めすぎるのはよくありません。貴女は貴女の信じる道を歩きなさい。それが、たとえ赤城達と袂を分かつ選択だとしても」

「え……?」

 

 天城と二人きりになった状況があまり理解できていない瑞鶴は、気まずさも相まってすぐに退室しようとするが、天城の言葉に瑞鶴は驚愕して不思議な雰囲気を醸し出す軍師を見つめた。閉じていた瞳をゆっくりと開き、微笑みながら瑞鶴を見つめる天城は、普段以上に何を考えているのか理解できない不気味さがあった。

 

「し、失礼します!」

「あらあら……そんなに怖かったからしら」

 

 明らかな怯えを見せながら天城から離れていった瑞鶴の背中を見て、天城はその場で首を傾げていた。瑞鶴と入れ違うように部屋へと入ってきた赤城は、既に神代恭介がいないことに一瞬落胆しながら天城の傍へと座った。

 

「天城姉様、何故鉄血へ行くことに?」

「私が付いて行く理由は分りませんが、鉄血へと赴く必要性は理解できています」

「……」

「私達の指揮官が、何を考えているのか理解できなくて怖いですか?」

「まさか、指揮官様が間違ったことを言うとは思っていませんわ」

 

 妹の盲目さに天城は苦笑しながら立ち上がった。天城自身、未だに鉄血へと自身が赴く必要性は理解できていなかったが、恭介が何を考えているのかは理解できていた。彼が何に悩みを抱え、何に苦痛を感じているのかを理解しながらも、最早艦船として戦場で戦うことすら叶わなくなった身体ではどうしようもできなかった。

 

「一度、三笠様に会いに行ってきますわ」

 

 そう言い残して、天城は赤城を置いて退室していった。一人取り残された赤城は、また天城に置いて行かれることに自身の無力さを感じながら俯いた。

 


 

「ねぇ、何で私と乗るの?」

「駄目だったか?」

「駄目じゃないけどさ……」

 

 後日鉄血へと向かうことになった恭介達は、広大な海を渡っていた。鉄血まで向かうには道中で重桜が支配していない海域を通る必要性が出てくるが、そこはユニオンでもロイヤルでもなくセイレーンが支配している海域である。セイレーンが現れたことで現在制海権は一割あればいい方だと言われている。そんな状況ではまともに戦争などできそうもないが、セイレーンは現在息を潜めている状態なので特に問題はなかった。

 鉄血へと向かうにあたって、恭介は二つのパターンを考えていた。一つは自身も船を操って全員で向かうこと。もう一つは艦船の誰かに乗せてもらって向かうこと。自身も船を操って向かう方法は、恭介一人で動かすことはまず不可能であり、なるべく大きな艦隊で向かいたくない以上鉄血へと向かう人間は神代恭介一人の方が都合がよかった為、恭介は現在瑞鶴に乗り、金剛に天城が乗り、その両方を護衛するように比叡が動いていた。

 

「……指揮官はさ、やっぱりアズールレーンがいいんだよね」

「お前には言ったことあったな」

 

 五航戦の立場は艦船としての実力もあってそれなりではあるが、遥か目上の存在である神代恭介とはそう易々と会える立場ではない。しかし、恭介とてただいつもお飾りの神子紛いのことをしている訳ではなく、時々民を見ると言い訳をして街を歩いていたりする。そんな恭介と偶然出会った瑞鶴は、最初は委縮してずっと顔色を窺っていたが、団子を美味しそうに食べて笑い、桜が散る光景を見て美しいと称し、立場を偽っているとはいえ民と親しそうに話している姿を見て、瑞鶴は自然と目上として扱うことを止めた。

 

「団子食べてる時にいきなり言うんだからびっくりしたんだよ?」

「そりゃあ、な。国の頭とも言える俺が、そんな簡単に言う訳はないさ。でも瑞鶴は友達だから、気軽に言えるかなと思って」

 

 嬉しそうに笑いながら瑞鶴のことを友達だと言う恭介に、瑞鶴は少し頬を赤くしながら視線を逸らした。

 

「私も、色々考えたんだ。グレイゴーストは敵だけど……ライバルだと思ってるし、指揮官にこれ以上苦しんで欲しくないとも思ってる。指揮官を、国民を簡単に操る為だけに利用して祀り上げてる重桜にも、疑問を持ってる」

「……そうか」

 

 自分が友だと言い、悩んでいることを言ってしまったから瑞鶴は国に疑問を持ってしまった。恭介は自分自身が重桜に疑問を持ったことで悩みが尽きなくなったこと知っているので、友達にまでそうなって欲しくなかった。それでも、真剣に瑞鶴が考えた結果ならば、友である恭介こそが瑞鶴の考えを受け入れてやらないといけないと思った。

 

「指揮官が言ってたこと、私も頑張りたいなって思った」

「重桜を、レッドアクシズを抜けるって話か?」

「…………うん」

 

 重桜を離反して、瑞鶴や恭介達がまともに生きていくことができないことなど自分達が一番よく理解していた。重桜を離反してアズールレーンについたところで良くて拷問、最悪問答無用で処刑されて終わりだろう。何せ一度アズールレーンを裏切っている国の艦船なのだから。

 

「でもね? やっぱり、前の大戦でユニオンが重桜にやったことは、まだ許せない」

「それは、簡単に割り切れることじゃない……からな」

 

 前の大戦──セイレーンの勢力を大きく退けた分裂前アズールレーンが行った最後の大規模作戦。セイレーンの上位個体含めた大艦隊を、ユニオン、ロイヤル、鉄血、重桜の四陣営が戦力を投入して退けた戦い。恭介はその時、神木の管理をしていた為に指揮官ではなかったが、かなり激しい戦いによって大勢の英雄の命が失われ、多くの艦船も沈んだと聞いていた。悲惨な戦いであったが、無事にセイレーンの大艦隊を壊滅させてアズールレーンは辛くも勝利を手にした。

 この大戦の勝利には裏がある。人類は制海権を奪われ、まともな輸出入もできなくなってしまい、多くの国々が困窮してしまっていた。そんな中、ユニオン、ロイヤルなどの列強国が下した判断は……自分以外を見捨てるという選択肢だった。島国故に輸出入に経済を支えられていた重桜はユニオンに見放されたことで経済に大きな打撃を受け、近海の資源も前時代の戦争によってユニオンの領海として徹底的に奪いつくしてしまった。鉄血も同じく、前時代の戦争によってただでさえ疲弊していた鉄血は、セイレーンとの大戦によって更に経済が困窮してしまった。挙句、大国ロイヤルの出した答えは自国の利益を優先するという行為。時が経てば経つほど状況が酷くなっていく鉄血と重桜がアズールレーンからの脱退へと踏み切るまで、さほど時間はかからなかった。重桜は再び鎖国。鉄血は地中海を自分達の領海とすることで食いつなぐことにしたのだ。

 

「あんなの……体のいい強奪だよ。それなのに、自分達で重桜を追い詰めておきながら、今は「国の全権とセイレーンの情報を全て引き渡して降伏すれば危害は加えない」って……勝手すぎる。アズールレーンは……艦船の夢なんだ……それを、自分達の利益の為に使う人間達が、私は許せない」

「瑞鶴……」

 

 人類を守るために、メンタルキューブから人類の想いを汲み取って生まれた艦船にここまで言われてしまう程、人類は愚かな選択を続けていた。セイレーンが現れる前から人類は戦争をしていた。その怨恨が今もなお世界を揺るがしている。その事実を改めて突き付けられた恭介は、悲しそうに水平線を見た。

 

「ねぇ、ビスマルクの思想がって言ってたけど、あれってもしかして」

「……ビスマルクは、レッドアクシズの暴走もアズールレーンの暴走も許せないという強い正義感を持っている。あいつは……戦争がしたくないんだ」

「そう、なんだ」

 

 瑞鶴にとってビスマルクと言えば、長門と同じように遠くかけ離れた場所にいる存在だと思っていた。長門が平和主義の考え方をしているのは知っているし、その考えに両手を挙げて賛成したいと考えている瑞鶴からすれば、ビスマルクも同じような考え方をしているのならば、是非ともお近づきになりたいと考えていた。

 

「だがあいつにも、俺にも立場がある」

「そうだよね。ビスマルクって言えば、鉄血皇帝の命令を受けて艦船を動かす司令塔……言わばトップだもんなぁ……指揮官も国のトップ? だし」

「……エンタープライズも同じ考えを持ってるよ。いや、あいつはただ、皆で笑い合いたいと言っていたが」

「グレイゴーストが?」

 

 戦うことが艦船の生まれてきた意味であり、それ以外など形式上のものでしかないとかつて瑞鶴に向けて言ったエンタープライズは、酷く脆そうに見えていた。そんなエンタープライズが今では笑い合いたいと言っているのだと思うと、それは神代恭介という存在が与えた感性なのではなのだろうと瑞鶴は確信した。恭介は、良くも悪くも艦船に考えることを与える存在なのだろう。

 

「……指揮官は人類の希望だね」

「大袈裟な」

 

 やっとまともに笑った恭介の顔に、瑞鶴は安堵していた。

 


 

「アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦三番艦プリンツ・オイゲンよ。よろしくね、神代恭介サマ」

「こいつ嫌い」

 

 それなりに時間をかけ細心の注意を払い、セイレーンと一度も遭遇することなく鉄血へと着いた恭介一行は、港に降り立つと同時に迎えに来ていたのであろう艦船、プリンツ・オイゲンが挨拶してきた。どこか挑発する様で、品定めをするような言葉に一番最初に嫌悪感を現したのは瑞鶴だった。嫌悪感と言っても、嫌い程度のもので大人気なく怒っている訳ではないが、友達が品定めされているのは気分が良くないらしい。

 

「あぁ。ビスマルクに用事があって来たんだが、流石に暇してないよな」

「今か今かと待っていたから暇してるわよ。付いてきて」

 

 鉄血海軍の実質的リーダーであるビスマルクが暇をしていると聞いて、恭介と天城は顔を見合わせてその不審さに警戒心を強めた。指揮官の護衛としてついてきた三人も二人の後ろをついて歩き、鉄血指導者の元へと向かった。

 戦争中ともなればそうそう海外に渡ることも無かったので、瑞鶴も金剛も比叡も興味深そうに鉄血の建築物や歩いている艦船や人々を見ていた。生きている様に動く艤装と共に生活している鉄血の艦船達を不思議そうに眺めている横で、恭介は考えを巡らせていた。

 

「ここよ。首を長くして待っていたから、しっかり話してあげてね」

 

 薄く笑みを浮かべてながら言うプリンツ・オイゲンに、瑞鶴は威嚇するように目を向けると、挑発する様に笑みを深めて恭介の腕を自然な動作で絡めとった。

 

「入るわよ」

 

 腕を絡めたまま執務室へと入室したオイゲンは、部屋の主であるビスマルクにため息を吐かれていることを華麗に無視してソファへと恭介を座るように促した。オイゲンの好意に甘えるように恭介は笑顔でソファに腰かけ、極自然な動作で腕に絡まっていたオイゲンの手を解いた。

 

「それで、なんの用かしら?」

「セイレーンの研究は進んでいるか?」

「それなりね。あの時からセイレーンは動こうとしない……分からないことだらけよ」

 

 ビスマルクの言うあの時からという言葉が差す時間は、恐らくセイレーンとの大戦。一艦船としてあの大戦に参加していたビスマルクとしては、あれ程の力を持つセイレーン達がこちらの攻撃で退けられたと考える方がおかしい話だった。破壊して極秘裏に入手した上位個体の艤装を解析して、ビスマルクは今後の戦いに役立てようと考えた時に、アズールレーンが二つに別れた。

 

「貴方の存在にセイレーンは気付き始めた頃でしょうね。もう、止まらないわ」

「……そうか」

 

 回りくどい言い方をして二人にしか分からないように喋るビスマルクと恭介に、金剛も比叡もオイゲンも疑問符を浮かべていた。瑞鶴は恭介の事情を知っているので、何となくビスマルクが何を言っているのか理解できていた。天城はいつも通り目を閉じて話に耳を傾けている。

 

「貴方は私達の『運命』なの。くれぐれも慎重に行動して」

「理解している。自分のことぐらいな」

「そう……ならいいわ。これをあげる」

 

 運命という言葉に大きな意味を込めて話すビスマルクに、恭介は苦笑し、オイゲンはにやけていた。ビスマルクが何を指して恭介のことを運命と呼ぶのかは理解できていないくとも、神代恭介という存在がビスマルクをここまで動かすのだと理解してオイゲンは興味を持っていた。

 

「何だこれは?」

「手紙よ。海峡の向こうからのね。最近よく届くの」

 

 ビスマルクの言う海峡の向こうと言う言葉を瞬時に理解した恭介は、すぐにその手紙を内ポケットにしまい込んだ。手紙を毎回ビスマルクへと届けているオイゲンは手紙が何処から差し出されているのか知っているので、詰まらなさそうに肩を竦めていた。

 

「悪いけど、他の用事があったら今日はここに泊まって、明日にしてくれるかしら? 私、この後皇帝に謁見しなければいけないの」

「それは大変だ。行ってらっしゃい」

「貴方も来てもいいのよ?」

「質の悪い冗談を」

「オイゲン、後の案内は任せたわ」

「仕方ないわね」

 

 おどけた様に言う恭介に、ビスマルクは小さく笑いながら冗談を言い、コートを着て執務室から出ていった。ビスマルクの人間らしい部分を漸く見れたと安心した瑞鶴は、自然な動作で恭介の隣に移動してオイゲンへ対抗するかのように視線を向けた。そんな視線をいきなり向けられたオイゲンは、からかう対象を見つけたかの様に笑みを浮かべていた。

 

「可愛いわね」

「うるさい」

 

 赤城とは別方向に性格が悪いと確信した瑞鶴と、自分を挟んで余計なことをして欲しくない内心願う恭介を、金剛と比叡は天城と喋りながら無視していた。

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