最果ての航路   作:ばるむんく

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とりあえず今後の展開は適当に考えたけど、長くなりそうだなぁ……


侵入

 鉄血が誇る神聖なる皇帝、その謁見の間。世界的にも珍しく、艦船が総指揮を執っている鉄血海軍。その総指揮者であるビスマルクは首を垂れて神聖なる言葉を待っていた。

 

「面を上げよ」

「はっ」

 

 皇帝の重圧を含む威厳を乗せた声に怯むことなく、ビスマルクは顔を上げて皇帝と目を合わせた。人間の平均寿命から見ても高齢と言える年齢であるはずの皇帝だが、未だのその眼光に衰えは見えず、圧倒的指導者としてのカリスマを持ってビスマルクの上にいた。

 総指揮者と言っても、ビスマルクはあくまで皇帝の意思決定を海軍の末端まで伝えること役目でしかない。言わば皇帝の傀儡であるビスマルクは、皇帝の言葉無くしては動くことすらできはしない。

 

「重桜の、神代恭介が来ていると聞いたが?」

「はい。セイレーンの技術力の解析進捗と、新たな情報を持って彼は私のもとに」

「そうか……卿に命令を下す」

「はっ」

 

 重々しく口を開く皇帝にビスマルクは今から発する命令が鉄血にとって、皇帝にとって重要なものであるのだと理解していた。皇国に身を捧げ、その命すらも国の為に捨てるのが役目であるビスマルクは、皇帝にどのような命令を下されても従う。それが鉄血に生まれたビスマルクと言う艦船の全てであり、それ以上でもそれ以下でもなく、彼女はただ皇帝の命令を聞いて動く傀儡(マリオネット)。それが彼女にとって最大の幸福。

 

 

 

――本当にそうなのだろうか?

 

 

 

 不意にビスマルクの頭の片隅にある男の顔が浮かんだ。艤装が自分と似ている面倒くさい部下の顔が浮かんだ。喋ることもない姿を見ることすら叶わない最愛の妹の顔が浮かんだ。

 

「ロイヤルに不穏な動きがある。近々攻勢に出てくるやもしれん……敵を撃滅せよ」

「……承りました」

 

 命令を受けることしかできないはずの身体。最も純粋で最も穢れているその心に、ビスマルクは染みを作り出していた。

 

「下がれ」

「はっ」

 

 一度疑問が浮かび上がれば、それが止まることは無い。艦船はただ上の命令を受けて動くだけの憐れな傀儡(名誉な兵士)だっただろうか。

 謁見の間からゆっくりと歩いて出ていくビスマルクの背中を、皇帝は見ていない。艦船は所詮、兵器であり戦争の道具でしかない。自律式で動くことのできる、強力な戦艦ビスマルクは、それが存在意義なのだから。

 


 

「指揮官様、どうなさいました?」

「……」

 

 ビスマルクが皇帝のもとへと向かっている時、恭介はプリンツ・オイゲンが渡してくれたセイレーン研究の資料に目を通していた。一見するとただの兵器解析結果や再現度などがわかりやすくまとめられている外向けの艤装資料ではあったが、恭介はその資料を見て違和感を覚えていた。鉄血がセイレーン技術の研究、解析、再現に力を上げ始めたのはセイレーン大戦より前のことである。相手の使う未知の技術を解析することなく勝利することは不可能だと訴えた鉄血は、ユニオン、ロイヤル、重桜から破壊したセイレーンの艤装を譲り受けてひたすらに研究を続けていた。セイレーン大戦、アズールレーンからの離脱とレッドアクシズの成立、ロイヤルとの戦争等を経ても鉄血は執念とすら言える思いでセイレーンの謎を解き明かそうとしていた。その今までの結果全てが詰まっているのが、現在恭介が手にしている資料なのだ。だが読めば読む程違和感は強くなっていく。読み進めていくごとに険しい顔になっていく恭介を見て、隣でロイヤルとの戦闘記録を見ていた天城は声をかけた。

 

「読んでみればわかる」

 

 最後まで読み終わった恭介は、真剣な顔のまま紅茶を飲んでから天城へと資料を渡した。世界中のどこの国よりも正確にセイレーンの技術を解明している鉄血の資料に、天城は一枚目の時点で称賛したい気分だった。未だに彼女達がどの様な目的で動き、どの様なエネルギーを使って活動しているのか理解できていないが、セイレーンの持つ兵器がどの様な機構で動いているのかまで解析しているのを見て、天城は感嘆の息を漏らした。興味深い資料の連続で天城は一枚、一枚と資料を読み進めていた。

 

「これ、は……」

 

 しかし、途中から天城は資料を捲るたびに先程の恭介と同じようにどんどんと表情を険しくしていく。セイレーン量産大型艦に搭載されている謎の砲塔、セイレーン大型量産空母Queenから発艦する航空機に搭載されている正体不明の物質、上位個体の扱う自立型の小型艤装、個体名「ピュリファイアー」の扱う大型光学兵器等の詳細が書かれている資料。一見してみれば素晴らしい解析能力による情報の塊だが、それには大きな違和感が存在していた。

 

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 未知の技術を操り、人類を滅亡まで追いやっているセイレーンへの有効な対抗策は未だに存在していない。精々艦船を扱えば同じ人型同士それなりに上手く相手ができる程度である。そんな相手の艤装を、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を持っているのは異常だった。艤装のどの部分が脆いのか、艤装がどうやってエネルギーを取り入れているのか、艤装のどこに致命的な弱点が存在しているのか。量産艦隊の艤装ならば百歩譲って理解できる。しかし、上位個体であるピュリファイアーの艤装の排熱構造まで書かれているという事実に恭介と天城は強烈な違和感を持ってしまったのだ。

 

「いくらビスマルクが上位個体の艤装を持っていたとしても、それはセイレーン大戦で手に入れたものだ」

「セイレーン大戦で傷を与えられた上位個体は……」

「個体名「テスター」のものだ。つまり……ビスマルクはピュリファイアーの艤装を手に入れてはいない」

 

 テスターよりも強力な個体であるピュリファイアーに、人類はセイレーン大戦時に撤退にまで追い込まれている。好戦的な性格と圧倒的なまでの破壊衝動を持って艦船と指揮官達に多くの犠牲を生み出したピュリファイアーは、アズールレーンにとってもレッドアクシズにとっても恐怖の象徴である。その戦いとは別にビスマルク、長門、クイーン・エリザベス、ヨークタウンが揃っていた艦隊はテスターを撃退し、ビスマルクはその時に艤装の一部を入手している。そう、テスターの艤装のほんの一部だけを手に入れたのがビスマルクなのだ。

 

「……鉄血は何を隠している」

 

 明らかな違和感とそれを同盟国とはいえ他国に隠そうともしない資料。鉄血がセイレーンと繋がっているという予想を裏付けるには決定的すぎる証拠だ。鉄血は必ずセイレーンと裏で繋がっている、もしくは、既に鉄血はセイレーンの手に落ちている(ただの傀儡と成り下がっている)かのどちらかだ。

 

「鉄血の持つ生体艤装も恐らくセイレーンからもたらされた技術を転用しているものだろう。上位個体の扱う自立型の小型艤装と似た様なものなんだろうな」

「何が目的で、セイレーンは鉄血に与しているのでしょうか」

 

 セイレーンがただ混沌を目的として戦争を仕掛けているのならば、このような回りくどいことはせずにさっさと世界中で戦争を起こしている。鉄血に技術を流し、重桜に技術を流している。

 

「いや、そもそも……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……セイレーンに対する私達の存在自体が、セイレーンがもたらしたものだと言うのですか?」

「そうとしか考えられない。重桜に対して「カミ」を名乗ってセイレーンの技術を流した者は誰だ? 鉄血に対してセイレーンの技術を流したのは誰だ? アズールレーンに、メンタルキューブをもたらしたのは一体……」

 

 セイレーンが全て裏から操っている。そう考えることなど、陰謀論でしかないただの妄想だと断じるのはとても簡単なことだろう。だが、人間が理解することのできない程の技術の結晶であるメンタルキューブや、セイレーン大戦後に急速に発達した鉄血の艤装、カミからもたらされた技術を転用して使われている「ミズホの神秘」等、人間の手には余るようなものばかり。つまり、レッドアクシズとアズールレーンに分裂して戦争をしている現状も最初からセイレーンの手の平の上なのだとしたら。人類の多くが既に淘汰されている世界で、アズールレーンとレッドアクシズどちらにも力を与えているセイレーンがその先に求めるもの。

 

「まさか、セイレーンの狙いは――」

 

 何かに気が付いた恭介の言葉は、鉄血軍港全体に鳴り響く警報音でかき消された。 

 


 

 まるで自らの海域だと主張するかのように堂々と海を進む少女たちは、ある場所を目指していた。既に道中で幾つかの防衛施設を破壊して目的地に接近している少女たちは相手に捕捉されているだろうことを理解しながらそのまま前進していた。猪突猛進とも言える何の作戦も無いかの様な直進具合に、逆に敵は混乱しているのだが、突き進むだけの少女たちには知る由もない。

 

「……いつまで直進する気ですの?」

「む? 勿論接敵するまでだ」

「策は何も無し、と……はぁ」

「あはは……」

 

 旗艦として直進し続ける艦船に、後ろを黙って走っていた薄紫色の髪をした少女が呆れた様に前方の女性へと声をかける。が、あろうことか何も考えていなかったらしく、接敵するまで直進するという言葉に呆れを通り越してむしろ尊敬の念まで抱きそうな回答に、額に手を当ててため息を吐いた。

 

「そう案ずるなエイジャックス。陛下よりもたらされた情報を使い、既に手は打ってある。問題は誰かが敵を引き付けなければならないことなのだが……」

「それを私達がやる、と?」

「あぁ。騎士長の名に懸けて全ての敵の視線を私に向けさせて見せよう」

「……騎士長は自称なのではなくて?」

 

 エイジャックスのツッコミも気にせずに、ロイヤルが誇る自称騎士長であるキング・ジョージ5世は赤いマントを靡かせながら、自信満々の顔で加速した。

 

「ソードフィッシュから情報が来た。やはり神代恭介があの軍港にいることは間違いない情報のようだ」

「ふふ、楽しみだな。陛下が「光」とまで表現したその者の実力が!」

 

 帰還してきたソードフィッシュを回収しながら、アーク・ロイヤルは旗艦であるキング・ジョージ5世へと情報を渡して、再び艤装のライフルへと弾丸を込めるようにソードフィッシュを簡易的に整備していた。エイジャックスも自然と頬が緩み、艤装がその昂りに応えるように駆動音を鳴らして戦闘態勢へと移行した。そんな三人の様子を後ろから眺めながら、少しだけ悲しそうな顔をしているオーロラは鉄血にいるという神代恭介へと想いを馳せていた。

 

「加速するぞ!」

「その必要は無いわよ」

 

 一気に軍港まで突っ切るつもりでいたロイヤル艦隊は、突然降ってきた声を聞くと同時に左右に散開し、主砲を避けた。巨大な水柱を作り出す程の主砲に、キング・ジョージ5世は嬉しそうに視線を前へと向けると、巨大な二頭の艤装がロイヤル艦隊の四人へと主砲を向けながら威嚇する様に何度も口を開閉していた。まるで生きているかのように動く独特の艤装に、赤と黒、血と鉄を連想させる配色。鉄血の巡洋艦がそこには一隻だけ、自らの艤装に腰かけるように浮いていた。

 

「これは驚いた。鉄血の艤装は浮遊できるのか?」

「ほんのちょっとだけよ」

 

 海面すれすれを浮いているだけなので、空から見下ろしているということは無いが、生体艤装に腰かけているだけでそれなりの圧力を生み出しているのは間違いなかった。

 

「ふむ……その艤装、ポケット戦艦とまで称されたドイッチュラント級装甲艦の一番艦、ドイッチュラントとお見受けする」

「あら? わたしを知っているの? それと、ポケット戦艦はあんたたちが勝手に言い出しただけよ」

 

 生体艤装から駆動音が鳴り、まるで低く唸るような音を出しているようにすら聞こえる程ドイッチュラントも既に戦闘態勢へと入っていた。キング・ジョージ5世としては是非ともフッドを一撃で戦闘不能まで追いやったビスマルクと戦いたいと考えていたが、ドイッチュラントともなるとそれなりの戦いが楽しめることは容易に想像できたので、全く無問題だった。

 

「では私が相手をさせてもらおう。キング・ジョージ5世級ネームシップ、貴女をここで沈める者だ」

「上等じゃない。勝手に海域に侵入して帰れると思ってるのかしら?」

 

 海面に降り立ち艤装を展開したドイッチュラントは挑発的な笑みを浮かべるキング・ジョージ5世へと狙いを定めた。生体艤装が獲物をやっと屠れると主張する様に口を開けて駆動音を鳴り響かせていた。

 

「さぁ、決闘と行こうか!」

「蹂躙の時間よ!」

 

 互いが互いの装甲に誇りを持っているが故に、あっという間に至近距離まで近づいて射撃の態勢へと移行する。

 火力としては当然キング・ジョージ5世の方が上ではあるが、主砲の回転率は当然ドイッチュラントの方が上である。キング・ジョージ5世は主砲を何とかしてドイッチュラントへと直撃させ、ドイッチュラントは何とかして装甲と速力で動きながら数発の主砲を叩き込む必要がある。

 至近距離で放たれたはずの主砲を互いに当然の様に紙一重で避けた二人は、更に距離を詰めていく。戦闘スタイルが似ているのか、もしくは偶々考え方が合ってしまったのか、二人は同時に右手に持っている武器を振るった。キング・ジョージ5世は腰に持っていた儀礼用の剣を平然と武器として振るい、ドイッチュラントは本来銃である小型艤装を平然と近接武器の様に振るった。

 

「ちっ! ここまで行動が同じだと腹が立つわね!」

 

 戦闘が始まってまだ一行動目とはいえ全く同じ動きをされると当然ドイッチュラントの性格上苛立ちが先に来る。ドイッチュラントに比べて戦闘は楽しむ者であると考えるキング・ジョージ5世は敵意に満ちた笑みで、儀礼用の剣をドイッチュラントの命を刈り取る為に振るう。

 

「あんたねぇ。儀礼用の剣を振るうなんて命知らずなこと、良くやるわね」

「ふふ……私はあまりそういう類の言葉は信じなくてね。儀礼用だろうと、殺人用だろうと、剣は等しく剣だ」

「刃が付いてれば等しく武器って?」

「冗談を言うな。包丁は人を傷つける物ではない」

 

 本来武器として振るうものではない儀礼剣と、銃火器をで鍔迫り合いをしていた二人の艦船は同時に距離を取りながら主砲を放った。同時に放つことをある程度予想していた両者は、当然の様に主砲を避けて距離が開いた状態で止まった。嬉しそうに笑うキング・ジョージ5世と、対照的に機嫌が悪そうな顔をしているドイッチュラントは、主砲を相手の急所へと狙いを定めて左右へと動き出した。

 

「……暇ですわね」

「そう言うな。ソードフィッシュは特に被害が出ていない……グラーフ・ツェッペリンはいないようだ」

「いたらいたで困るんですけどね」

 

 観戦するにも椅子が欲しいとぼやきながら眺めているエイジャックス、グラーフ・ツェッペリンが不在なことに少しばかり残念そうなアーク・ロイヤル。そんな二人に苦笑しながらオーロラは警報が鳴り響く軍港へと視線を向けた。

 

「シェフィールドさんとニューカッスルさんは大丈夫でしょうか」

 

 キング・ジョージ5世達が囮になっている間に軍港へと侵入して、セイレーン艤装の研究資料を盗むことを目的に動いている二人のメイドをオーロラは心配していた。

 囮になるという目的すらも忘れていそうな程楽しそうにドイッチュラントと戦闘している旗艦に、オーロラもエイジャックスもため息を吐いていた。

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