超絶☆マイクラン 〜心の底からお前を見ている〜 作:エクセレント☆アックア
竪琴の節が始まった。
「ぶっ殺すだって!」
ーーぶっ飛ばすだと!
「殺すってお前、お前の弟だろシルヴァンは!」
ーー関係ねぇ! アイツは今すぐ殺す!
俺は槍を放り投げた。しかし、マイクランはそのままだ。この槍はマイクラン復活のきっかけに過ぎないようだ。
もし、マイクランに従ったとして、シルヴァンを殺すことはおそらく無理だ。彼が寝ているのは大修道院であり、そんなところで戦闘を仕掛けたら先生方や精鋭騎士に殺される。そもそも門を突破出来ない。
「いいかマイクラン。いつか忘れたが槍の大会がある。その時にお前の槍で勝てばいいだろ」
ーーてめぇ! 誰に向かって指図してやがる! オレの偽物が!
右手のコントロールが奪われた。顔面めがけて拳が迫る。このままでは埒が明かない。それに、多分全部奪われる。俺は左手で受け止めると、マイクランに言った。
「じゃあ、勝負しよう。勝った方のプランでシルヴァンと対決だ!」
右手の力が更に強まる。
ーーだから、なんでてめぇの指図を受けなきゃいけねえんだよ!
「まさか…怖いのか? 俺に負けることが」
ーーなに?
「本物の癖に偽物に負けるのが怖いのか?」
ーーてめぇ!!!
俺の手を跳ね除けて、右の拳が顔面に直撃し、俺は意識を失った。
◆◆◆
「おい」
俺は目を開くと、そこにはマイクランがいた。
「包帯野郎」
俺は顔を触ると、確かに、顔に包帯が巻かれている。
「俺はスティーブだ」
適当につけた名前だが、今では少しだけ気に入っていた。
「勝負って殺し合いでもするのかよ」
殺し合いか…俺にとっては不利だな。
「俺はレースがいい」
だったら、マイクランはそう言って1枚のコインを取り出した。
「勝負の内容をこのコイントスで決めようじゃねえか」
「オレは裏だ」
「じゃあ表」
最初の勝負は殺し合いだ。マイクランの武器は槍。俺の武器は弓だ。
恐らくここは心の中。だから、勝負に適したフィールドに変化する。ここは、荒野だ。
草の1本も生えてない荒れ果てた荒野。そこに同じ背丈の男が2人だけ存在していた。
「オレのルールは死んだら負け。尤もここで死んでも死なねぇがな」
マイクランを正面からじっくり見るのは初めてだ。昔助けてくれた時はあんなに頼もしかったのに、今では恐ろしい。槍を持った姿を見て、勝てるヴィジョンが全く浮かばない。
そして勝負が始まった。
先行は俺。矢をマイクラン目掛けて放つ。しかし、俺の弓はマイクランにかすりもしない。
「心の底から見ていたが、お前は本当に下手くそだな」
マイクランは全ての矢を躱して俺に近づく。俺は、逃げずに撃ち続けた。どっちにしろ倒さなければ終わらない。しかもここは心の中。逃げ場所など無い。
俺か最後まで諦めなかったからか、マイクランの肩に1本矢が突き刺さった。が、それと同時に俺の胸を槍が貫いた。
次はレースだ。ルールは奥に見える崖の上に先に着いたほうが勝ち。フィールドは草原と崖。
「うおおおおおおおお」
見渡す限り緑の草原を全力で走る走る。視界にはちらりと野生動物が映るが無視。ウサギとカメじゃないけれど、マイクランは俺ほど走るのに慣れていないから、悪いが俺の勝ちは決定的だ。このままあの崖まで独走仕切ってさっきの借りを返してやる。
走ることなら、俺の得意分野だ。崖だって俺みたいにマイクランは登れまい。
馬が俺の隣で並走している。へえ、俺って馬と同じぐらいのスピードで移動しているのか。余りのぶっちぎり具合にそんな事を考える余裕が出てきた。
が、そんな余裕は木っ端微塵に打ち砕かれた。
「お前、馬には乗れないようだな」
は?
なんと、俺の隣で並走していた馬の上にマイクランが跨っていた。いやお前、確かにルールには馬禁止なんてなかったけどよ。
「じゃあな」
マイクランは馬に合図を送る。俺とマイクランの差が広がっていく。
だが、まだ俺には余裕があった。いくら早く崖に着いたところで登れなければ意味はない。結局俺が勝って勝負は仕切り直しだ。
視界からどんどん遠ざかるマイクラン。俺は必死に追いかけるがその差は埋まらない。
先に崖に辿り着いたのはもちろんマイクラン。ゆっくりではあるが、確実にゴールへと近づいている。焦りが俺を蝕む。
俺が登り始めた頃には、崖の半分までマイクランは到達していた。
「うおおおおおおおおおお」
最後の力を振り絞り、俺は怒涛の追い上げを見せる。汗が全身から吹き出てくる。しかしそんな事を気にしている場合じゃない。
日々の積み重ねにより俺のスピードは速かった。俺はマイクランに追いついた。勝てる!
マイクランを抜いた瞬間、気持ちが緩んでしまった。右足が崖から外れて、登るためのエネルギーが全て足と共に落ちてゆく。終わった。もう間に合わない。
この勝負に負けたら、恐らくもうスティーブとしての生活は戻ってこない。完全にマイクランに戻るのだろう。今度は俺が心の底からマイクランを見る番になる。
そして世界はゆっくりになっていった。ああ、勝てないんだ俺は。マイクランが言ったように本物じゃないからか? 俺はあくまでマイクランが目覚めるまでの代わりだったのかな。
その瞬間、マイクランが俺を見た。良かったな。お前の勝ちだ。でもなぁ、勝てると思ったんだけどな。だってお前崖登ったこと無かっただろうに。悔しいなぁ。
俺は目を閉じた。
◆◆◆
ーー紋章は、無かった。だから家宝の槍は使えないけれど、オレは皆に大事にされていたから。オレはそれでも良かった。
ーーオレの弟は紋章を持っていた。それからオレは、オレは………。
ーーオレがいた場所はもう無くなった。オレの代わり、いや…オレは、オレが代わりだったのか? あいつが生まれるまでの。
ーーオレはもう必要なくなったのか? 父上…。
◆◆◆
「ぐあっ」
右手が引っ張られる。
目を開くと、そこには左手で槍を崖に突き刺して、俺の手を掴んでいる苦しそうな顔をした男がいた。
「なんでだ?」
俺がこの状況で最初に思ったことは、この状況に対する疑問だった。だってこの男は現在進行形で損しかしていない。
「なんで、だと」
…………。
「お前の…顔が…ムカついたから……だから…また………ぶっ殺すためだ」