罪は憎まれ忌み嫌われる   作:無駄高容量ひきさん

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終わりの始まり

童実野町 某所 六月中旬 深夜2時

 

とある二人の青年が向かい合っていた。

ある程度の距離を保ってはいるものの、その緊張感たるや互いの鼓動が聞こえそうな程張り積めた空気が漂っている。

二人の間にはこの世のものとは思えない姿形をしたモンスター、そしてその少し後ろには大きなカードが伏せてある。

それらが意味するのはただひとつ、デュエルである。

 

「……モンスターで攻撃、終わりだ」 

「くそっ……!」

 

青年たちの闘いに終止符が打たれた。

青年たちの間にいたモンスターは消え、その場には二人の青年のみが残った。

片や膝を付いてその場に倒れこみ、片やそれを何とも思わないかのように冷たい表情を浮かべていた。

 

「強ぇ……何者だてめぇ!」

「……」

「お、おい!待ちやがれ!」

 

冷たい表情の青年は目の前の青年には見向きもせず、踵を返して立ち去ってしまった。

膝を付いていた青年は咄嗟に追いかけるもそこに人影は無く、唯一残っていたのは敗北感。

深い夜の中でただひとり取り残された青年『城之内克也』は多くの疑問を抱いたまま帰路につくのであった。

 

 

 

「……ってなことがあったんだよ!」

 

翌朝、城之内は昨晩の出来事を友人たちに話した。

 

「おいおい本当かよ城之内!?」

 

本田ヒロト。

城之内とは中学時代からの同級生でこの中では最も付き合いが長い。

 

「城之内君は大丈夫だったの?」

「あぁ……本当にデュエルしただけで、終わったらすぐに消えちまったんだ」

 

武藤遊戯。

かつて千年パズルに封印されていたファラオの魂をその身に宿し、失われた記憶を探る旅を相棒として支え続けた。

記憶を取り戻した後、決闘の果てにファラオを打ち倒し、今度こそファラオの魂は冥界で永遠の眠りについた。

千年パズルの一件が起きる以前は弱気な性格から城之内や本田からイジメを受けていたが、今では親友と呼べるほどに打ち解けている。

 

「デュエルか……遊戯ならともかく、なんで城之内なんだろうな?」

 

かつて遊戯とファラオは記憶を取り戻す鍵を探るために『バトル・シティ』というデュエルの大会に出場した。

数々の困難や危機、三幻神と呼ばれる神のカードの脅威を乗り越えて頂点に輝いた。

『デュエルキング・武藤遊戯』の名は瞬く間に広がり、今やデュエリストでその名を知らぬ者はいないと言われている。

そのためか、デュエルを申し込まれることも少なくない。

 

「はっ!もしかして……」

「「もしかして……?」」

「オレ様の名前がそれだけ有名になったってことかな!ワハハハハハハハ!!」

「「……」」

「ワハハ……ハハ……」

 

本田と遊戯の視線が一瞬にして冷え固まった。

今は留学していてこの場にいない『真崎杏子』もこの場にいれば間違いなく同じ反応を返しただろう。

それなのに城之内の額に汗が浮かぶのは梅雨時の蒸し暑さのせいではないだろう。

しかし彼らは気付いていない。

城之内にはバトル・シティに(不正をしてはいるが)出場し、準決勝まで勝ち残っていたという実績がある。

遊戯ほどでは無いにしろ相応の知名度は有しているのだ。

 

「雑魚を狙っただけに決まっているだろう。ポンコツは冗談もポンコツか」

「んだと海馬この野郎!」

「ふん、寝言はデュエルに勝ってから言うんだな」

 

海馬瀬人。

海馬コーポレーションのカリスマ社長にして、ファラオと幾度もの激戦を繰り広げてきた最大のライバル。

現在、世界に3枚しか存在しない『青眼の白竜』のカードを3枚とも所有する唯一無二の人物でもある。

 

「それは……その…遊戯!お前からも何か言ってくれ!」

「え、ボク!?」

「自分で言えよ……」

 

デュエルはともかく、舌戦において城之内は海馬に手も足も出ない。

というか遊戯も知恵なら負けていないが、心優しい遊戯はそもそも口論が得意ではない。

少なくともこの場において海馬に舌戦で敵う者はいない。

 

 

キーンマーンナーツボー……

 

 

始業を知らせるチャイムが鳴り、少し遅れて遊戯たちのクラス担任が入室する。

それらを合図に生徒たちは朝イチで気だるい身体を引きずってダラダラと席に着きはじめる。

 

「欠席とるぞー、席に着けー」

「おい、後でまた話聞かせろよ」

「へいへい」

 

担任は名簿を開いて欠席を取りはじめる。

風邪で欠席が1名、骨折による通院で遅刻が1名だった。

出欠が取り終わると担任が注目するよう号令をかける。

 

「えー、みんな知っての通り、今日から教育実習生がこのクラスに就くことになった。……入ってください」

 

立て付けの悪いドアが大きな音をたてて開いた。

後頭部で束ねられた赤銅色の髪、教師を志す者にしては少々キツい目付きとその奥に秘められた黒曜石の瞳、顔立ちは日本人としてはやや目元の堀が深いがそれなりに整っており、体格も同年代の中では良いほうに分類される。

要するにそれなりのイケメンという訳で、教室からは主に黄色い歓声が上がった。

 

「皆さん、おはようございます」

 

「「「おはよーざいまーす」」」

 

高校生らしい適当な挨拶が返ってくる。

しかしそんな返事でも嬉しいらしく、その実習生は笑みを浮かべながら黒板に向かってチョークを叩く。

 

「今日からこの教室で学ばせていただきます、『才加和(さいかわ)夏海奈(なつみな)』と言います。担当は世界史、趣味は旅行、日本とアメリカのハーフです。二週間という短い期間ではありますが、よろしくお願いします」

 

実習生・才加和は緊張が隠しきれず棒読み気味ではあるが、快活に自己紹介をした。

実習生に限らず、転校生や新しい担任などのある種の運命と言ったところか、初日でまず起きることといえば、そう、在学生たちによる止めどなき質問攻めである。

 

「ハーフってことはやっぱ英語話せるんですか?」

「もちろん。旅行する時なんかに便利ですね、英語ってわりと何処でも通じるんですよ」

「彼女いますかー?」

「ご想像にお任せします」

「一番よかった国ってどこですか?」

「シンガポールですね。都会で人も多いのに街中めっちゃキレイなんですよ」

「好きな偉人は誰ですか?」

 

 

そんな出来事もあったが、いつも通りの放課後。

気持ちいつもより人が少ない教室で、本田と遊戯は城之内の席に集まっていた。

勿論、話題は今朝の続きである。

 

「そういえば城之内君、その人がどんなデッキだったか覚えてる?」

「それなんだがなぁ……」

 

城之内が途端に顔をしかめる。

 

「それが、見たこともねぇカードだったんだ」

「見たこともねぇカードだぁ?」

「あぁ。モンスターも魔法も罠も全く知らねぇカードばかりだった」

「例えばどんなカードがあった?」

「そうだな……」

 

城之内はそのカードについての記憶を振り返る。

しかし、どんなに絞り出しても思い出すのは自分のことだけで、相手のことだけがポッカリと穴が空いたように思い出せない。

喉元まで出かかっているのに、あと少しといったところで引っ込んでしまう。

それでも必死に絞り出すがやっぱり出てこず、やっと出てきたのは……

 

「……罪」

「罪?何かの暗号か?」

「わかんねぇ。ただフッと出てきたんだよ」

「ごめん、ちょっとわかんない。でも、じいちゃんに聞いてみればなにかわかるかも」

「よーし決まりだな!行こうぜ!」

 

三人は帰り支度を済ませ、教室を出る。

外は灰色の曇り空、6月としては至って普通の曇り空。

しかし三人はまだ知り得ない。

既に物語の歯車が動き始めていることに。




1話目ということもあってデュエル描写は少なめ。
多分、次回からは本格的なデュエルもあると思うので許して。

時間軸はアニメ終了後のつもり。
初期以外では学校シーン少なめだったから忘れがちだけど、海馬社長って一応遊戯とかと同級生なんだよね。
その描写もキャベツの時だけだから、ハッスル社長()の描写これでいいのか不安。


何かおかしい所とかあったら言って欲しい。
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