アルベド二人旅   作:神谷涼

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 思いついたのを書き始めたら、1話できあがってしまったので……。
 (仕事しろよ……)
 前作『アルベドさん大勝利ぃ!』とは、まったく関係ありません。



1:性欲をもてあます

 DMMO-RPGユグドラシル、サービス最終日。

 モモンガはただ一人で、己のギルド拠点たるナザリック地下大墳墓の最奥――玉座の間にいた。

 NPCはいるが……コマンド通りの動きしかできない彼らを人とは呼べまい。

 かつての仲間はほとんど来ず、最後の時を共にしてくれなかった。

 触れられるほど傍にいるのは、ただ一体のNPC。

 

 守護者統括アルベド。

 そんな彼女の設定を、ふと覗けば。

 あまりにもあまりな末文を見た。

 完璧な設定を与えられた彼女の『ちなみにビッチである』という〆に、モモンガは――最後の最後を共にしてくれる唯一の存在たる彼女に、あわれみを感じてしまう。

 いつもなら彼女の造り手たるタブラ・スマラグディナの意志を優先したであろうに。

 誰一人共に残らなかったギルメンへの小さな怒りを込めて。

 モモンガは、アルベドの設定を書き換えた。

 

「モモンガを愛している、と……うわ、恥ずかし!」

 

 書き換えておいてから、一人で恥ずかしくなってじたばたしてしまうが。

 もうわずかな時間しか存在も許されない設定なのだ。

 せめてもの我儘、己の証と、そのままウインドウを閉じ。

 改めてアルベドを見る。

 (ひざまず)く姿も美しく。

 白いドレスが、その美しい肢体を強調する。

 上からなので、谷間も見えていた。

 最終日だからと、無理をして有給をとり。延々と入り浸って、誰か来ないかと待ち続けたモモンガ――鈴木悟。

 彼はここ一週間ばかり、まったく()()していない。

 さっきの、タブラ氏の設定が頭の中で何度も響く。

 

(ビッチ……アルベドがビッチ……つまり設定上ではこの体は既に……)

 

 己だけがハブられて知らなかっただけで。

 他のギルメンにさんざん、慰み者にされていた。

 汚されたアルベドは、ここでじっとモモンガに抱かれる日を待っていたのでは?

 そう、ギルメンはユグドラシルではなく、アルベドの肉体に飽きたのでは?

 そして何も知らないモモンガを陰で……

 そんな想像で、リアルにおいて鈴木悟の肉体は、激しく反応していた。

 

「…………」

 

 アルベドの谷間をガン見し。

 むらっとしてしまう。

 視線をそらせば、露出された腰骨と尻のラインが見える。

 そう、アルベドが既にさんざん弄ばれていたのなら。

 ギルマスである己が最後に手を出してもいいのではないか?

 さっき、己を愛していると書き換えたのだ。

 こんな谷間を見せつけて(跪いているだけです)。

 尻を後ろに突き出して(跪いているだけです)。

 誘っているとしか見えない(跪いてるだけだってば)。

 睡眠不足と欲求不満とルサンチマンを抱えた彼が、性衝動を抱くのも。

 仕方あるまい。

 

「……はっ!?」

 

 我に返れば、どれだけガン見していたのか、サービス終了まであと10秒。

 

「そうか……もう終わりか。ならどうせ最後だし」

 

 そう、最後なのだ。

 

「運営も、こんな最後の最後まで仕事しないだろ」

 

 サービス終了まであと3秒。

 

「……『立て』」

 

 目の前に、間近で立ったアルベド。

 しっかりと、無意味に凝って作り込まれた胸が、目の前で揺れる。

 サービス終了まであと2秒。

 躊躇する暇はない。

 

 モモンガは骨の両手を突き出し、アルベドのたわわな胸をわしづかみにした。

 

 サービス終了まで1秒を切って。

 モモンガの手がアルベドの乳房を掴むと同時に。

 やたら厳格なユグドラシルの運営AIは、この最後の最後すら反応する。

 規約に基づき、わずかなタイムラグでモモンガを垢BANしたのだ。

 

 サービス終了まで0秒。

 モモンガはユグドラシルからBANされ消滅した。

 鈴木悟は、それがサービス終了か、R18行為の代価か、わからないまま。

 なぜか現実にはログアウトせず。

 

 気が付けば、草原に立っていた。

 

 

 

 しばし、時間が止まったように、呆然としてしまう。

 草の匂い。

 爽やかな風。

 足の裏に感じるわずかな土や小石の凹凸。

 電脳上の仮想空間では説明できない無数の、リアルな感覚。

 

「え?」

 

 上を見れば、ナザリックの天井はなく。

 満天の星空。

 

「ええっ?」

 

 足下を見ようとすれば。

 白いものが邪魔をして見えない?

 

「???」

 

 混乱しながらよく見れば。

 それは……さっき、ガン見した谷間ではないか。

 

「ええええー!?」

 

 手を見る。

 白い手袋に包まれた手。

 肘のあたりは肌が見えるが、きめ細かく美しい線。

 

 顔を触ってみる。

 柔らかい、暖かい顔。

 骨ではない……それにしても暖かい。

 いや、体温が高すぎないかとも思うが。

 

「アルベドの体、なのか?」

 

 口から出る声も、鈴木悟のそれではない。

 美しく、艶を感じる声。

 思案しながら、むらむらとした気持ちを抱え続けるモモンガは。

 無意識に己の――アルベドの胸を揉んでいる。

 なぜか体温が上がる。

 

(っ……あっ♡ ああっ♡)

 

 押し殺したような声が、どこかからした。

 

「誰だ? 誰かいるのか!?」

 

 この場がどこなのかもわからないのだ。

 モモンガは、きょろきょろと周囲を見回す。

 両手は執拗に、アルベドの胸を揉み続けて離さないため。

 かなり間抜けなポーズである。

 

「なっ? なんだ……? 状態異常かっ? ……くぅ」

 

 やたらと動悸が激しくなる。

 下腹部が熱く、体の芯がじんじんと痺れる。

 アルベドの胸に触れようとした時の比ではないほどの。

 鈴木悟が感じたことのない、昂ぶりを感じる。

 

(ひぅ♡ あっ♡ ひぁっ♡)

女淫魔(サキュバス)の体、だからかっ?」

 

 乳房の先端が固くなり、自身の手で感じる。

 無意識に内股になり、太腿を擦り合わせてしまう。

 

 そして唐突に全身がびくびくっと痙攣し。

 大量の液体が内から溢れだすのを感じた。

 

 

 

 地面にへたり込み、夜空を見つめる。

 

「はぁ、はぁ♡ なんだ……いったいどうなって、いる?」

(はぁっ♡ はぁっ♡ も、モモンガ様、下っ、下も触れてくださいませっ♡)

 

 今度は明確な言葉だった。

 

「む!? 誰だっ!?」

 

 言葉は、己の中から聞こえていた。

 いや、言葉ではない。

 明確な意思がただ、響き、感じ取れるのだ。

 

(あ、アルベド……です……モモンガ、様ぁ♡)

「はぁ? あっ♡ ちょっ♡ ああっ……♡」

 

 何を言っているのかと、問い返すより早く。

 ねっとりと甘え絡みつく欲望が、ぶつけられる。

 己の中にもう一人の誰かがいて。

 それがアルベドを名乗り……モモンガに欲情をぶつけるのだ。

 肉体もそれに合わせるように疼き、反応する。

 どうすればいいか。

 何をするのか。

 内なる誰かが囁き、させてくる。

 モモンガは言われるままに、白いドレスを乱し。

 下品なほどふしだらな体勢を取りながら。

 己の指で、己の体を隅々まで確かめるしかない。

 

 

 

 数時間後。

 いろいろと女体の隅々まで教えられ、一周して冷静になったモモンガ。

 とりあえず、女性の体に賢者モードがないことは理解していた。

 いや、女淫魔(サキュバス)だからなのかもしれないが。

 

「はぁ……はぁ♡ お前は……私の中にいるのは、アルベド、なのか?」

(いえ……その♡ どちらかといえば、モモンガ様が私の中に……♡)

 

 また興奮し始めている。

 今の会話のどこに興奮する要素があるのか、モモンガにはわからないが。

 内なるアルベドは酷く興奮し、昂ぶっていた。

 

「こ、こら、落ち着け! 熱い……っ、奥が、またぁっ♡」

(くふーっ♡ モモンガ様が私の中にっ♡ 私のっ♡ 中がっ♡ ああああああ熱いって♡ 奥っ、そう♡ もっと奥なんです! 私、もう壊れてしまいそう♡ いえっ♡ 壊してくださいっ♡)

 

 内なるアルベドが何を言っているかわからない。

 モモンガは、ぺロロンチーノほど趣味人ではないのだ。

 

「お、おぃっ、から、体が――)

(モモンガ様モモンガ様モモンガ様っ♡ いまっ♡ 私がっ♡」

 

 昂ぶり切ったアルベドの精神が津波のように押し寄せ、モモンガから肉体の制御権を奪う。

 

 二つの精神がこの体にあり。

 ユグドラシルではないどこかにいて。

 本来は自我を持たないNPCのアルベドが、なぜか自意識を持っている、と。

 モモンガは冷静に考え始めていたのだが。

 一秒もたたぬうちに、思考は未知の快楽で押し流された。

 

 アルベドが己の体を抱きしめながら身をよじり。

 頭の中で喘ぎよがるモモンガをオカズに、先刻以上に濃厚な行為を開始したのだ。

 

 

 

 さらに数時間後。

 朝日が昇る中、ようやく満足したアルベドが体の制御を渡してくれた。

 

「あ……ちょうちょ……」

 

 といっても、いろいろと恐ろしいものを見て感じて知ったモモンガは、放心状態である。

 しかも、そんなモモンガの精神を、アルベドの精神が今もスライムの如く這いまわり、感情と意識と記憶を舐めまわしているのだ。

 現実を空ろに認識しながら、モモンガは未だ精神世界でアルベドにしゃぶり尽くされていた。

 そう、それはただ……アルベドの注意が、己の体ではなく、内なるモモンガの精神に向いたがゆえの。

 そんな、あまりにも儚い制御権移行であった……。

 




●IFエンド
 モモンガは――二度と現実を認識できなかった。
 脳内でアルベドによって永遠に搾られ犯されるのだ。
 そうして一人になりたいと思っても一人になれないので
 ――そのうちモモンガは考えるのをやめた。



 アルベドさんをモモンガ様大好きの原作型で、かつTS要素を……と考えていて、できあがった形です。アルベドさん単独転移、モモンガさん憑依。ナザリックは来てませんし、他のNPCもいません。
 冒頭、セバスやプレアデスも同じ室内にはいましたが、離れてたので省略。

 続く予定ですが、前回ほど素早く更新はできないかも。

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