アルベド二人旅   作:神谷涼

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 その後、クレマンティーヌがどうしたのかというと。
 実はまだ、モモンガの膝の上にいるのです。



10:残酷な神が支配する

 城塞の中。

 玄関ホールのソファに座るモモンガ。

 その膝に乗せられたクレマンティーヌ。

 アルベドは後ろに控え、歯がみしていた。

 

(くううう、私とモモンガ様のスウィ~トホームに下等生物がぁ~!)

 

 兜のために気づかれていないし。

 二人の会話はきちんと聞いている。

 情報収集と事情聴取とも、わかる。

 重要な情報は確かに多い。

 武技とか異能とか、初耳だ。

 100年ごとの転移とか。

 NPCを従属神と呼ぶとか。

 拠点ごと転移した例とか。

 それでも。

 それでも。

 二人睦み合った場所に、第三者がいて、気分がよいはずもなく。

 ……まあ、玄関口で延々としていた点については、さておいて。

 愛する人の膝上に、侍って撫でられているとあってはなおさら。

 

「そんじゃ、あんた――いや、貴方はぷれいやー様なのですか?」

「口調は元のままでかまわん。確かに私はプレイヤーだ」

 

 子ども扱い――いや、猫扱い。

 連れ込まれた最初こそ、歯向かったクレマンティーヌだが。

 何度も無駄と思い知らされ、また抱擁されていると、なぜか満たされる。

 

「……じゃ、じゃあ、本当に神様なんだ」

「わかったなら離れなさい! この泥棒猫っ!」

 

 激昂するアルベドを、モモンガはなだめる。

 

「そう言うな。彼女の情報は重要だ」

「で、ですが……はぅ」

 

 仕方ないなぁと言いたげに、後ろ手で兜を撫でられて。

 アルベドも黙ってしまう。

 

「クレマンティーヌよ。私の周囲は今、崇める者、仕える者、怯える者しかおらん。このような中では、私はいずれ歪み、致命的な間違いを犯してしまうだろう」

「神様が間違える……?」

「モモンガ様が間違えるなど!」

 

 二人の言葉に、モモンガは苦笑する。

 

「お前たち二人にとってプレイヤーが何であろうと。私の中身はお前たちと何も変わらん。いや、アルベドより明らかに愚かで……クレマンティーヌより、この世界を知らんのだ」

「モモンガ様……」

 

 同じ体に居た頃、アルベドはモモンガの多くを知った。

 過去の記憶や感情、在り様も。

 転移の間際、己にしたことも。

 けれど、モモンガへの愛と忠誠は揺らがない。

 むしろ強まったと言ってもいい。

 

「クレマンティーヌよ。お前は私の力でアンデッドとなった。その上でお前が、自我を失わずいてくれて、私は嬉しいのだ。遠慮せず、助言と苦言をくれ。敬う必要もない。働きには、相応の褒美も与える」

「え、えーっと……本当にいいのかにゃー?」

 

 おそるおそる、と言った様子で口調を軽くする。

 モモンガよりも、アルベドに警戒しながら。

 

「ああ、それでいいぞ」

「それじゃ、モモンガちゃんはどうしたいワケ? 世界征服とかするのー?」

 

 撫でられ目を細めつつ、聞いてみる。

 モモンガは、呆気にとられた顔になった。

 

「はぁ?」

「あれ? ちがうのー?」

 

 クレマンティーヌにしてみれば、強大過ぎるモモンガなら、そのくらい考えるかと思ったのだ。

 

「ふむ……アルベドよ。お前は世界征服をしたいのか?」

「モモンガ様が望まれるならば」

 

 溜息をつく。

 

「アルベドよ、私はお前を巻き込んでしまった身だ。結果、お前の肉体……いや、心まで欲望のままに奪ってしまった。望みは遠慮なく言え」

「ああ……モモンガ様! では、鎧を脱ぎ、側に侍らせてください!」

 

 感極まったアルベドに、モモンガは微笑む。

 

「欲がないな。来るがいい……本当に、お前は心も美しい。私にはもったいない、完璧な存在だ」

「ああ……ありがとうございます!」

 

 鈴木悟の人を見る目は、かなり節穴だった。

 あまり美しくない表情で兜を解除し、鎧を素早く脱ぐ彼女を、見てもいない。

 

(モモンガ様マジやっべ……幸せ過ぎて死にそう……)

 

 アルベドは裸体となってモモンガの横に侍り、密着する。クレマンティーヌへの対抗意識を隠しもしない。

 だが、ペット同然の彼女を驚かせたのは、その裸体でも嫉妬でもなく。

 モモンガとまったく同じ肉体、同じ顔。

 

「同じ……顔……?」

「ああ、そうだ。私とアルベドは、二人で一つの体となりこの世界に来た。これは本来はアルベドの体……アルベドに与えたのは、かりそめの肉体にすぎん」

「この身をモモンガ様に捧げることに、何の不満がありましょう……!」

 

 モモンガは目を閉じた。

 

「……ありがとう。聞いての通りだ、クレマンティーヌ。私はアルベドさえいればいい。世界征服などという面倒は願い下げだ。この村を救ったのは、弱者を踏みにじる連中が気に入らなかったのでな。気に入らん奴らと同格に、堕する気などない」

「けど、法国は……それに、王国も、この村に接触してくるよー? 帝国だって気づいたら接触してくるんじゃないかなー? 何より、評議国の竜王が気づくと厄介だよー?」

 

 二人で一つの体とか、かりそめの体とか。

 まるでわからないが、神だからいろいろあるのだと、クレマンティーヌは己を納得させ。

 現状の懸念を投げる。

 彼女自身が法国へのトラブルの種だ。ニグンの存在がある以上、己が放り出されるとも思わないが。主の方針は知っておきたい。

 

「はは、親切だなクレマンティーヌ」

 

 ただ、モモンガは笑い。二人を撫でる。

 

「己を強者と考える愚か者には罰を。真の強者には敬意を。すがりくつ弱者には慈悲を――私の方針はそれだけだ。己の分を知り接してくるならばよし。わかっておらねば、相応の報いを与える。他のプレイヤーは過去に訪れたか、あるいは未来に訪れるか……だろうしな」

 

 彼らは、自ら動きはしない。

 だが。

 世界は。

 

 

 

 都市エ・ランテル。

 都市長パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアの邸宅。

 

「ミスリル級冒険者パーティー、クラルグラによれば、村には巨大な城塞が建ち、強力なアンデッドが多数警備していたとのことです。大きな黒山羊のような魔獣もいたと。内部の調査は断念し、戻ってきております」

「ぷひー、城塞? 戦士長殿の報告にはなかったが……隠れて建造していた報告も聞いておらんぞ」

 

 冒険者組合長プルトン・アインザックの報告を、パナソレイは信じられない。

 農民が反乱に、急ごしらえの砦を建てたと言うのか。

 だが、続く報告は、予想を完全に打ち砕く。

 

「城塞は黒い石造り、複数の高い塔あり。本城は三階建て。全体に高度な意匠が施され、城門は強固。鉄柵もあったそうです」

「待ちたまえ! あの草原と森のどこから石材を持ってくる! 近隣の村を含めても、鍛冶屋だってなかったはずだ!」

 

 パナソレイは暗愚ぶるのも忘れ、叫ぶ。

 あんな場所に突如、巨大な城塞が生まれるなら。

 都市はインフラ整備や建造物補修に苦労していない。

 

「幻術じゃないのか? 気づかれて、一時的にそんな幻を出して見せられたとか」

 

 魔術師組合長テオ・ラケシルが疑問を挟む。

 

「クラルグラは、監視できる距離で一泊している。忍び寄って砦壁に触れたり、石を投げてみたりもしたそうだ。感触と音は間違いなく石。少なくとも見張っている間に消えた様子はない」

「高レベルの魔法なら実体を錯覚させ……いや」

「そんな魔法を一昼夜持続させる魔法詠唱者がいたら、城塞以上の脅威だよラケシルくん!」

 

 帝国の“逸脱者”フールーダ・パラダインとて、できるか疑問だ。

 

「城塞は、街道側のおよそ半分を覆うのみだそうです。ただ、裏側も丸太柵を築いており、見張り台も建造中だったとか」

「戦士長殿の言っていた女神とやらは確認できたのかね?」

 

 アインザックは左右に首を振る。

 

「いえ……ただ、裏側の柵は、村人とアンデッドが協力して行っていたと。確認できたのみで骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)が数十以上、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)が最低四体、見たこともない巨漢の戦士型アンデッドが一体。それに先刻も言った黒山羊型の魔獣」

「アンデッドを使った武装蜂起……ズーラーノーンか?」

 

 ラケシルの呟いた悪名高い秘密結社の名に、他の二人も沈痛な面持ちとなる。

 それが最も可能性高く思えた。

 

「代官や兵士に見に行かせては、争いにしかなるまい。カルネ村方面への依頼を伝手で出す。適当な冒険者を村人に接触させ、調査してもらえるか」

「それなのですが……私の方で、カルネ村へ向かう依頼を今一つ止めております」

「おお、ならちょうどいいじゃないか」

 

 アインザックは溜息をついた。

 

「その……バレアレ商会からです。近隣での薬草採取について、護衛が欲しいとのことで。どうやら当人はカルネ村に知人がいるらしく。先日の帝国騎士による襲撃被害を気にしておりました」

「彼には悪いが、事情も合致するな。信用のできる……ただし、あまり上級でない冒険者を紹介してやってくれるか」

 

 本来は抗議すべき立場だが……この事情では仕方ない。

 アインザックは苦悩しつつも頷いた。

 古くからの友の胸中を思い、ラケシルの表情も暗くなる。

 今回向かう冒険者は、カナリア役だ。

 村の状況、危険度を測る物差しに過ぎない。

 生きて帰って来れれば、儲けものだろう。

 

 

 

 同都市、共同墓地地下。

 

「クク……まったく王国は魔法への対処を知らんでやりやすいわい」

 

 この都市を拠点とするズーラーノーン十二高弟が一人カジット・バダンテールは、にやにやと笑っていた。

 都市長の屋敷に潜ませていた死霊(レイス)を通し、会議内容を知ったのだ。

 

「カルネ村とやらに高位アンデッドがおるなら、挨拶に向かわねばなるまい。弱者ならば協力させ、強者ならば乗り換えてもよかろうて……我が目的のためにもな」

 

 死の宝珠により、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を支配下に置いたカジットは、この世界において間違いなく強者の一人。弟子らも、初歩的な呪文なら使える。

 

「ふふ、とはいえ相手次第か。そのカナリア共を、儂も利用させてもらうとしよう」

 

 自ら接触する危険性を避けられるなら、好都合。

 墓場の地下に、邪悪な哄笑が響いた。

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国、同名王都、ロ・レンテ城。

 第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフの部屋。

 

「……クライム。もう夜に悪いけど、明日の朝一番で、この書状をラキュースに渡して来てくれる?」

 

 珍しい命令だった。

 アダマンタイト級冒険者パーティー蒼の薔薇への依頼はいつものことだが。

 呼び出しではなく書状とは。

 怪訝そうな従者に気づいたか、ラナーが言葉を重ねる。

 

「明日はまだいるはず……呼んで話し合う暇はないの。可能なら即座に行ってもらわないと」

「何か八本指について、緊急の案件が?」

 

 ラナーは首を左右に振る。

 

「戦士長の話は聞いたでしょう? カルネ村を至急、調査してもらわないといけないの」

「えっ……しかしあの話は」

 

 確かに今日の夕方、戦士長が早馬で戻り、緊急の報告をした。

 だが、女神の降臨などありえないと、貴族らの失笑を買い。

 戦士団と戦士長の正気が疑われ。

 流れの魔法詠唱者(マジックキャスター)に惑わされたともっぱらの噂だ。

 重要な秘密の報告とされたはずなのに、今や王城内の誰もが知っている。

 戦士長の失脚も近いとされるほどに。

 

「私は戦士長を信じているの。お願い……ラキュース達なら見極められるはず」

「わ、わかりました! 明日の朝に一番で!」

 

 ラナーが距離を詰め、悲しそうに願えば。

 クライムは慌ててそう言い、書状を預かって退出する。

 

(クライムもわかってないのね……今回、戦士長は殺されにいったのよ。生きて帰って来ただけで、大事件じゃない。法国は戦士長を二回……いえ、三回は殺せる戦力を用意していたはず。村に現れた女神とやらが、それを退けたなら……女神は法国と対等あるいはそれ以上の力を持っている。そして、女神が属する勢力もわからない。人間ではなかったとも聞くし。村を救い、戦士長を殺してもいない以上、敵対的ではないはずだけど。村の襲撃を見て、村を守ったのだとしたら。王国貴族を皆殺しにだってしかねない……王族の私だって危ないわ。状況によっては、さっさとこの王都を落ちのびた方がいいかも……)

 

 ラナーは昏い瞳で窓の外を眺めつつ。

 思案を続ける。

 

 

 

 スレイン法国、最奥。

 連絡の途切れた陽光聖典に対し遠見の魔法儀式を行い。

 法国首脳部は、カルネ村の状況を知っていた。

 

「我が神殿の巫女姫に発動させた次元の目(プレイナー・アイ)によれば、カルネ村には黒い城塞が出現。陽光聖典隊長ニグンは強力なアンデッドに変えられ、城塞の門番となっていた。魔法的防御があるらしく、城塞内部の確認は断念。村人は無事。ただし死の騎士(デスナイト)が1体に死者の大魔法使い(エルダーリッチ)が複数に――」

 

 読み上げられる報告に、大神官らの顔が歪む。

 

「ぷれいやーの来訪に間違いない……」

「しかし、アンデッドを使役とは」

「城塞がギルド拠点か?」

 

 口々に飛び交うのは推測と感想の域を出ない。

 

「村人を保護している以上、邪悪な神とも思えんが……ニグンの境遇から見て、我らへの心証は最悪であろうな」

「ただ現れただけなら、平和裏に接触できたであろうに」

 

 後悔の色は強い。

 今回は法国としては、例外的な作戦だった。

 そんな作戦の実行中を“ぷれいやー”……神に見られ。

 神は犠牲となるはずの民を助けた。

 おそらく、作戦実行に出ていた者らは神を妨害者と見なし、無礼な態度で接しただろう。

 

「やはり、平民を犠牲とする作戦を執行した天罰ではないか?」

「貴様とて賛同しておったろうが!」

「私は反対だったぞ!」

 

 言い争いが起きるもやむなし。

 

「ともあれ、現状では様子見をし、王国を通して情報収集すべきでしょう」

「確かにな……王国のバカどもで、今回のぷれいやーについて測るべきか」

災厄の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)とは、あれのことかもしれんしな……」

「そういえば漆黒聖典第九席次……あのクインティアの片割れも、あの方面に逃げていたのではないか?」

 

 問題は山積みである。

 いずれにせよ、うかつに手出しできる状況ではない。

 スレイン法国は、王国とその近隣の作戦の大半を、ひとまず凍結させた。

 これは少なくとも短期的に見れば……とても賢明な判断だったと言えるだろう。

 




 あれ? エロの気配どこ……?

 クレマンティーヌはペット枠で入り込みました。
 基本的に、モモンガは外部に対してアクション起こすつもりありません。
 移民してくるのがいれば受け入れるし、崇めてくるなら一応守る。
 強者のつもりでマウント取って来るのがいたら思い知らせる。

 アイボールコープス作成は忘れっぱなしなので、周辺警戒かなりザルです。
 おかげで、イグヴァルジさん生還。彼はちょっとひねくれてるだけで普通の人の範疇と考えます。よって、クレマンさんみたいに、クロマルに感知もされず。エルダーリッチ複数いる状態で、スケルトンを数体破壊しても、危険になるだけですからね。普通にベテランムーブしてます。名前が出ただけで、特に今後登場したりは……しないはず。

 カジットさんは何年も潜伏してたんだから、それなりに要所に密偵とか使い魔を派遣してると想定。社会戦もこなせなくはないと考えてます。レイスを使役できてるのはまあ、それくらいできてもいいだろ……という適当な配置。

 ニグンの水晶は放置されてた上、モモンガさんはニグン本人すら放置してたので、連絡途切れた法国側が例の儀式で覗いてます。当時、モモンガ&アルベドは城塞の玄関でひたすらヤってました。
 城塞は魔法による構造物なので、魔法では中を見れないものと扱っています。
 おかげで、攻性防壁も発動せず、漆黒聖典も来ません。法国は様子見に回ったので延命。

 叡者の額冠は、クレマンティーヌの装備といっしょにエルダーリッチが剥ぎました。武器ともども、神官になったエンリに預けられてます。
 このため、カジットは特に儀式を早めたりしてません。
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