アルベド二人旅   作:神谷涼

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 思えば、タイトルに反して全然旅をしてない……。
 なんかカルネ村で定住しそうなんすけど。



11:オイオイオイ 死ぬわアイツ

(なんでこんな場所に私、いるの……?)

 

 エンリは身を固くして座っていた。

 己の過酷な運命について、思う所は多い。

 恩人たる女神を呪えなければ、人のせいにするしかない。

 

(神様……は目の前にいるし。あの時、ベリュースとか言う騎士に人質に取られなければ、モモンガ様が私の名前を覚えたりも……うう、ベリュースとか言う騎士が悪い……あと、私の名前を叫んだお父さんも……)

 

 エンリは今、選ばれた者しか入れぬ聖域。

 黒い城塞の中にいた。

 玄関ホールだが、エンリにとって初めて見る豪奢さ。

 ありえないほど柔らかく座り心地のいい、黒いソファ。

 正面にはモモンガと、その隣に座るアルベドとクレマンティーヌ。

 エンリの隣には、ニグンがいる。 

 なお、絨毯は敷かれていない。

 

「――と、法国ではこの二つが世界に匹敵する品と言われております」

「名前が少し違うが……傾城傾国と聖者殺しの槍(ロンギヌス)か? 騙りの可能性も高いが、本物ならまずいな。正面からの敵対は避けたい」

 

「――で、番外席次ってめっちゃ強い子が一人だけいてねー」

「個の力はさほど考えずともよかろう。人数がいて、特殊な能力を持っていれば脅威だったが……強いだけの戦士系なら、いくらでも打つ手はある」

 

 ニグンとクレマンティーヌが、スレイン法国の機密事項を語っているのだ。

 エンリとしては、何を話しているのかよくわからないし。

 二人がチラチラと、エンリに聞かせてよいのか気にしているのもわかる。

 聞いてもわからないのだから、正直帰りたかった。

 

「他の漆黒聖典も、世界級(ワールド)アイテムがなければ、アルベド一人で……いや、お前たちでも今なら勝てるだろう」

「ははっ! 今ならば、漆黒聖典とて破って見せましょう!」

「あたしも、隊長をかるーくひねっちゃえそうなんだよねー。番外ちゃんとも渡り合えるかも?」

「はいっ! モモンガ様の聖地を荒らすならば、何者であろうと許しません!」

 

 よくわからないまま、ニグンたちに合わせてエンリは答える。

 モモンガに救われ、信仰を捧げる身としての模範解答。

 許さないだけで勝てるとは言ってない。

 ニグンとクレマンティーヌが、えっこいつそんなに強いの?って顔をしているが。

 エンリは気づかない。

 

「ふっ、頼もしいな。お前たちならば愚か者を誅するに不足ないと、私は確信したぞ!」

 

 モモンガも気にせず、そのまま流した。

 

「「「ありがたきお言葉!」」葉!」

 

 堂に入った二人に遅れて、エンリも慌てて頭を下げる。

 

「では、エンリよ。私が作ったアンデッドの指揮権を、お前に預ける。特に死の騎士(デス・ナイト)は、個人的護衛として使え。村では、エンリが私の代行だ」

「ははっ、ありがとうございます!」

(い、いらないよ~っ!)

 

 女神の言葉である。

 心の声は口に出せない。

 

「ニグンは十分な装備があり、クレマンティーヌにも相応のものを与える予定だが……エンリ、お前も相応の装備が必要だろう〈上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)〉」 

「え……わっ」

 

 エンリを黒い法衣が包む。

 深いスリットと胸を強調するデザインが恥ずかしいが。

 素晴らしい生地であり……全身から力が湧きあがる。

 さらに、手には異形の頭蓋骨を模した、黒いメイス。

 禍々しい瘴気を立ち昇らせるそれを手にした姿は、まさに邪教の女神官だ。

 

「よし、あとはアンデッドと模擬戦で修業を積むがいい。馴れれば、森のモンスター等と戦えば、力を高められよう。クロマルを連れて、パワーレベリングしてきてもいいな」

「身に余る品を、ありがとうございます!」

(え? 戦うの? 私が? ぱわーれべりんぐって何?)

 

 誠心誠意の礼を言う姿は、悪の女幹部と言った様子。

 周りもこれに、エンリへの認識を改めたのだった。

 

(なんと……御主の祝福を得て、既に私程度の力を得ていたということか!)

(へー、ぜんぜん強そーに見えないのに、隊長よりすごい装備じゃん……それだけの実力はあるってことかー)

(あれはルプスレギナの衣装……モモンガ様のお心にまだ、ナザリックの女どもの記憶が……!)

 

 

 

 その後、モモンガは改めて城塞を出ると、様々な奇跡を為した。

 狼やカラスに漁られ、ほぼ骨になっていた陽光聖典の死体から、かろうじて一体の集眼の屍(アイボール・コープス)を作る。これはニグンの支配下に置かれ、近隣情報収集に使う形となった。モモンガが報告を逐一聞くのが面倒と感じたがゆえである。

 残った骨は12体の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)、20体の骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)として神官エンリの指揮下に入る。緊急時の指揮権はニグンに渡されるが……日常生活、土木作業や農耕、狩猟警備などはエンリの差配だ。

 クレマンティーヌは城塞内に詰め、モモンガの近衛……というかペットになった。得た力を振るいたい彼女には不満もあるが、王国や法国の出方を知らねば、安易に動けぬ状況である。

 農耕活用、襲われた村からの移民勧誘など、いくつかの指示を出した後。

 女神モモンガは最大の奇跡を為す。

 

 村人は広場に集められ、中央に広い直線を開くよう二列に並ばされる。

 ちょうど、村の中心たる井戸で二分する形だ。

 

「さて、超位魔法の実験もしておきたかった……私なりの防衛支援でもある」

「発動前後の護衛はお任せを!」

 

 黒翼を広げ、上空に舞い上がったモモンガを、甲冑のアルベドが追う。

 白昼ゆえに白いドレスは透けて。

 下からはいろいろと丸見えである。

 村人たちは跪きつつ、女神様の女神様を見上げ祈る。

 かつてなく真剣に崇拝の念を込めて。

 

「では、ゆくぞ」

 

 浮かぶモモンガを、球形の巨大な魔法陣が包み込む。

 魔法陣が輝き、目まぐるしく形を変えながら回転する。

 

((く……見えない!))

 

 村人(主に男)の心が一つとなり、強固な信仰が捧げられた。

 

「我が神官エンリよ! 彼らの信仰を束ね、我に捧げよ!」

 

 スカートのガードは忘れても、エンリへの気遣いは忘れない。

 

「は、はい! 今こそモモンガ様が奇跡を為されます!」

 

 ごくりと、村人たちの喉がいろんな理由で鳴る。

 

「いざ――〈天地改変(ザ・クリエイション)〉!!」

 

 瞬間。

 井戸は消え。

 村は両断される。

 村人たちは女神様の女神様を拝むことすら忘れ。

 口を開けたまま、その神話を超える奇跡を見ていた。

 

 余談ながら、この時から神に倣い、カルネ村では男女とも下着を身に着けなくなったという。

 

 

 

「おいおい……なんだよあれ」

 

 ルクルット・ボルブは(シルバー)級冒険者パーティー、漆黒の剣のレンジャーである。彼の役目は斥候であり……それゆえ、仲間に先んじて襲撃を受けたカルネ村を目にしたのだ。

 そこにあった光景は。

 

「堀……いや、湖? それにあの城みたいのは何だ……村じゃなかったのか?」

 

 聞いた場所は、巨大な湖に浮かぶ島のようになっており。

 うっすらと霧に包まれていた。

 細い道のように、島へと道は続くが。

 その先に見え隠れするは、黒い城。

 明らかに村ではない。

 はっきり言ってゲームが――いや、世界が違う。

 牧歌的な平原に突如、悪魔城が現れたようなものだ。

 

「ま、周りも見とくか……」

 

 ミスリル級先輩冒険者であるイグヴァルジから、あの村は普通ではないとは聞いていた。

 女神を名乗る存在が現れたという噂も、事前調査で聞いている。

 せいぜい、妙な宗教団体がはびこっているのかと思っていたのだが。

 村ですらない。

 

「こんな所に湖なかっただろ……城もだけどよ」

 

 見る限り、左右どちらにも湖は続いている。

 城壁は途中でなくなっているようだが……うっすらと覆う霧が、村の細部を見せない。

 

「バレアレさんの好きな子って、この中にいるのか? 生贄になったりしてないだろな……」

 

 横に回り込んでいった時、さらに恐ろしい光景を見て、慌てて隠れた。

 

「なっ……」

 

 多数の骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)が、木製の簡易道具で穴を掘っていたのだ。

 それは溝であり……湖からの水路だとわかる。

 先を見れば、小さな開拓村とは思えぬ広大な農地が広がり。

 そこかしこで骸骨が耕していた。

 

「なんだよ……これ――」

 

 呆然としているしかない。

 そこには人間らしき影もいたが。

 アンデッドと行動を共にするような輩が普通とは思えない。

 早く戻り、仲間たちが近づかないよう言って撤退……そして組合に報告しなければ。

 と、ルクルットはそっと離れようとするが。

 

「ニグンさんの言った通りですね。冒険者の方ですか?」

 

 煽情的な黒い法衣をまとい、邪悪なメイスを手にした。

 絵にかいたような悪の女神官が、彼の背後にいたのだ。

 レンジャーである、ルクルットがまるで気づかぬ間に。

 

「ひっ! な、なんだあんた! どうして俺が気づかない!」

「さあ……どうしてでしょう? 事情を聞かせてもらえますか? 仲間の方にも迎えを送りましたので」 

 

 首をかしげて言う姿は、愛らしくすらあるのに。

 口調はどこか空虚で、台本を読んでいるよう。

 底知れない恐怖を感じる。

 強者には、まるで見えない。

 ただの仮装した村娘とも見える。

 それが、酷く不気味で恐ろしいのだ。

 いつもの彼らしく、口説こうと言う気すら起こさない。

 逃げ出そうとするルクルットだが……仲間にも、という言葉で踏みとどまる。

 

「く……!」

「武器を抜かないでください。みんな、あなたを霧の中から狙ってますから……」

 

 彼女を倒すか人質とし、仲間を助けられないかと考えたが。

 その背後、霧の中を見て、脚から力が抜けた。

 

「え、死者の魔法使い(エルダーリッチ)だと……」

 

 揺らいだ霧の中、見えただけでも三体の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)が魔法を構えていたのだ。

 一体でも、漆黒の剣では勝てない相手である。

 

「わかりました? じゃあ、ついて来てください」

「な、なあ……教えてくれ……あんたが、この村に現れた女神ってやつなのか?」

 

 その時、初めて女神官が感情を見せた。

 明らかな怒り、だ。

 

「不敬な言葉は止めてください。このエンリ・エモットは、あの御方に仕える神官の身にすぎません」

 

 まさしく狂信者の目、絶対忠義者の顔。

 そして何より……。

 道中で護衛対象から聞いた、思いを寄せているという村娘の名前。

 

「そんな……」

 

 ルクルットはこの日、真の絶望を知り……目の前が暗転した。

 

「あれ? ちょ、ちょっとなんで倒れてるんですか冒険者さん! モルガーさん、魔法使っちゃったんですか?」

 

 普通の村娘らしく慌てるエンリの声は、ルクルットにはもう届かない……。

 




 暗黒神官エンリの伝説開始。
 信仰系です、ネイアに近くもありますが。
 扇動者型ではないので、影響は少ないです。
 村長でこそありませんが、立場としては村長より遥かに上です。

 エンリさんは、エルダーリッチの皆さんに支援重ね掛けしてもらって、ルクルットと平和的交渉に臨んだつもり。
 不可視化と音消しで近づいてから解除してもらい、声をかけてます。
 かける言葉は事前に考えておいて、緊張しつつしゃべってました。
 ルクルットが来たのは、エンリが装備もらった翌日なので、まだまだエンリは装備に着られてる感満々です。パワーレベリングも、僧侶系1~2レベル上がったかな程度。信仰系第1位階呪文は使えるようになっているでしょう。

 アルベドは、相思相愛の余裕からエンリは気にしてません。
 クレマンさんについてのみ、彼女がいるせいでいちゃつきづらくなってるのでは……とお邪魔虫扱いしてます。
 実務的にはニグンさんめっちゃ働いてますが、地味な仕事ばかりなのであまり描写できません。
 ンフィーレア含む、他の漆黒の剣出迎えは、エルダーリッチとスケルトンウォリアー多数で行きました。ルクルットよりも絶望感パないです。

追記:最後のエルダーリッチの名前は当初イグヴァでしたが、その後登場しないしイグヴァルジは普通に生きているので修正しました。
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