アルベド二人旅   作:神谷涼

13 / 53
 つくづく二人の旅が、草原→カルネ村で終わってしまった気が……。
 どないしよ……。



13:親方!

 

 夜。

 モモンガとアルベドは転移門(ゲート)で城塞の屋根に出て。

 翼を広げて、夜空を高く高く飛ぶ。

 うっすらとかかる雲さえ足下に。

 煌めく星々の中に浮かんで。

 輝く世界、輝く空を眺めた。

 

「星と月だけで、こんなに明るいなんて……キラキラと輝いて、宝石箱みたいだ。いや夜空だけじゃない、この世界そのものが……()()()()()とは比べ物にならない、美しさだ」

 

 初めて見る星空に、うっとりと手を伸ばす。

 星は遥か遠く、触れられはしないけれど。

 光を通す、この空気すら美しく輝いて。

 白い指の隙間からこぼれゆくようで。

 

「全てはモモンガ様を飾る宝石を宿すがゆえでしょう」

 

 体を共有した折、主の記憶――リアルの、常に厚い覆われた空を知っていたから。

 美しい光景への感動を邪魔すまいと、アルベドは背後に控える。

 

「それは違うぞ、アルベド」

 

 振り向き、モモンガはアルベドを見つめた。

 彼女の背後、広がった黒い翼の向こうに煌めく星明かり。

 月光で照らされた肢体。

 今のアルベドは甲冑でなく、上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)による黒いドレスをまとう。

 輝く夜空の中に浮かぶ彼女は、まさに夜の女神と見えた。

 

「星々も世界も、この肉体――アルベドを飾る宝石だ」

 

 星空を見ると同じ、うっとりとした目でアルベドを見る。

 モモンガの目に彼女は、確かにこの世界にも比肩する美しさ。

 骨じゃなくてアルベドの体でよかったと、心から思えるほど。

 

「そんなアルベドに愛される以上の幸福があるものか」

 

 心からの、感謝と愛情を込めた言葉。

 魂のつながりが、言葉が真実と伝えてくる。

 たとえ嘘でも感激しただろう。

 でも、心からこんなことを言われては。

 魂に愛を刻まれたアルベドは。

 

「モモンガ様……!」

(ヤバイヤバイヤバーイ!)

 

 歓喜のあまり脳内語彙力も崩壊していた。

 己の肉体に宿った主――モモンガに、ひしとしがみつく。

 本来のモモンガの体なら、骨の一部が折れかねない抱擁だが。

 同スペックのアルベドの体ゆえ、情熱的に思うのみだ。

 

「~~~~♡♡♡」

 

 星空の中、与えられた言葉を何度も咀嚼しながら……最愛の主にしがみつき、身をすり寄せるだけで。アルベドはとめどない快楽に押し流され、達する。

 黒い翼がピンと伸びて、身が震えた。

 飛行能力が途切れ、モモンガの腕にのしかかってしまう。

 そんな彼女がなお愛おしくて。

 モモンガは心から……愛情を吐き出す。

 

「在り方を書き換えてしまうほどに……アルベド、愛している」

 

 それは、情事の合間ではない。

 冷静な中、真剣に紡がれた告白。

 

「も、モモンガ様っ♡ 私も、私も愛してまひゅっ!」

 

 口から出た言葉は実際には「みょみょんがしゃま」で。

 思考回路はショート済、子宮経路は準備済。

 びくんびくんと身を跳ねさせながら、アルベドはすがりつく。

 モモンガもまた、きつく抱きしめ返し。

 間に入れば、全身甲冑もプレスされる抱擁のままに。

 二人はくちづけ合い。

 そして。

 指を互いの背面に這わせ、互いのドレスの中をまさぐり始めた。

 

 

 

 その頃、地上。

 警備責任者たるニグンは、夜間外出者に気づいた。

 だが、その人物が先刻の少女と知れば、軽く舌打ちし。

 夜間も止まらぬ、アンデッドらによる要塞化指揮を続ける。

 歓迎できぬ事態ながら、主の判断を仰ぐと言われたのだ。

 自由行動を許された同僚の指針である以上……ニグンに、妨げる権限はない。

 もっとも、後を追って来た、少女の仲間らはしっかりと帰らせた。

 

 黒い城塞の門前に、小柄な影がそっと駆け寄る。

 門の前では、クレマンティーヌが棒を振るい、己の力を確認していた。

 

「ふんふーんっと♪ ホントに来たんだー?」

 

 にんまりと笑って、上機嫌で来客を迎える。

 来客――ニニャは必死の形相。

 いつものおとなしそうな魔法詠唱者(マジックキャスター)ではない。

 力に飢えた、一人の復讐者。

 

「ほ、本当に、わたしに力を与えてくれるんですかっ!?」

 

 夜、他の村人の目がない時に叶える……と言われ、抜け出してきたのだ。

 

「んー、本当かどうか、あたしにはわかんないなー。そこはモモンガ様次第だしー? けーどー、ニニャちゃんの祈りが届けば、優しーいモモンガ様は、きーっと力を貸してくれるんじゃないかなー♪」

「…………」

 

 ニニャは、覚悟を決める。

 夜に抜け出すだけがリスクではあるまい。

 最初から理解していた。

 クレマンティーヌは、城塞へ入るよう、そそのかしているのだ。 

 神官エンリが、決して入ってはいけないと言った場所。

 最大の禁忌だと言った場所に。

 

(女神の怒りを買えば、わたしは死ぬか……死ぬより酷い末路を迎えるんだよね……ひょっとしたら、みんなも巻き込まれるかも。でも、それでも。この、力があれば……姉さんを……あいつらを……)

 

 目に見えぬ憎炎が、小さな体から噴き出していた。

 震えながら、真剣に祈り。

 憎悪の実行を神に頼もうとしているニニャ。

 

 その姿に、クレマンティーヌは舌なめずりする。

 生前も好きだったが、首無し騎士(デュラハン)になった今はもっと、好きになった。見ているだけでも、ぞくぞくと愉悦を感じてしまう。ドス黒い、死んだらいいアンデッドになりそうな……歪んだ強い憎悪。

 

(いいねー、いいねー♪ モモンガちゃんの邪魔したら、アルベドが怖いけどさー。この子が勝手に行く分にはいいよねー? 邪魔じゃなくって、助けてーってお願いなら、モモンガちゃんは無下にできないでしょー♪)

 

 ニニャの願いが叶えられれば、楽しい殺戮の始まり。

 断られれば、絶望するニニャが見れる。

 アンデッドにされて、同僚になるかもしれない。

 ついでに、城塞内で絡み合ってる二人の邪魔もできる。

 どう転んでも、クレマンティーヌは得しかないのだ。 

 

(そーれーにー♪ モモンガちゃん、王国貴族は好きじゃないよねー♪ この村が税金断るなら、アイツら絶対身の程知らずに噛み付いて来るよー。こっちから踏み潰す名分ができたほーが、嬉しいよねー♪ つーまーり、ニニャちゃんはともかく、あたしが怒られる可能性は、ほーぼゼロ。完璧なけーかくだよねー! アンデッドになって、頭までよくなっちゃったかなー? 取れちゃったけどさー……おっと、肝心の二人は城塞のどこでネチョってるのかなー♪)

 

 城塞の門に向かって歩き始めたニニャを見て。

 とりあえず向かうべき場所くらい、ニニャにも教えてやろうと。

 クレマンティーヌは主の居場所を探る。

 アンデッドになってから、モモンガの居場所だけは、何となく感じ取れるのだ……が。

 

(あれ?)

 

 モモンガは頭上から今まさに、ここに降りて……。

 

「「え?」」

 

 ニニャとクレマンティーヌが、ほぼ同時に間の抜けた声をあげた。

 夜空から、黒い翼を持つ女が二人、共に舞い降りたのだ。

 ふわりと空気を孕んだドレスが押さえられ、優雅に降りたつ。

 この世ならぬ色香を漂わせ、月光に照らされる姿は、まさに女神。

 白いドレスの女神と、黒いドレスの女神が、互いを抱きしめ合う。

 周囲には甘い芳香が漂い、世界すら変わったように思えるほど。

 その様子は、どんな神殿や神話よりも神聖で。

 神すら呪うしかなかったニニャに、信仰の念を目覚めさせた。

 

「……っと、危ないところだったな。空中でするなら意識を要しないアイテムが必要か」

 

 感動するニニャに、女神の呟きは聞き取れなかった。

 だが、感覚も鋭くなったクレマンティーヌは、しっかり聞いており。かつ、この甘い香りが二人の淫臭だと……知りたくもないのに知っていた。

 

(こ、こいつら空中でしてたのかよ……で、二人してイッたからって落ちて来た? バカだ……真面目に計画たてるのもアホらしくなるバカだ……)

 

 馬車でいたしている最中、急に馬車が止まり、噛み千切られて死んだ不名誉すぎる貴族の逸話を、クレマンティーヌは思い出す。持っている力を考えなければ、モモンガたちは大差あるまい。もっとも、落下したって平気なのかもしれないが。

 他に、力の使い方がないのだろうかと、呆れるばかり。

 とはいえ、タイミングがタイミングだ。

 

「ああ……女神様……わたしの祈りに応えてくれたのですね……」

 

 女神のアホらしい実態を知らないニニャは、感涙しながらひれ伏している。

 

「…………ああ。お前の真摯なる祈りが、私に届いたのだ」

 

 モモンガが重々しく言いつつ。

 

(おい、なんだこいつは)

 

 チラチラとクレマンティーヌに視線を送ってくる。

 祈りなど知らない。

 というか、漆黒の剣やンフィーレアの存在自体知らない。

 アルベドはと言えば、ニニャが女性と見て、警戒の視線を向けている。

 

(あ、これ、あたしが説明しないといけないのかなー?)

 

 クレマンティーヌは計画の崩壊を感じた。

 実質、己が直訴するとなれば……アルベドの怒りを買ってしまう。

 その場に、微妙な空気が流れるが。

 

「ど、どうか! お願いです! 王国貴族どもに鉄槌を! そして、わたしの姉を救ってください!」

 

 ニニャが己の願いを叫んだ。

 クレマンティーヌはほっとしつつも、モモンガの背後に控える。当人から聞いてください、自分も詳しくは知りませんとの意思表示だ。二人が互いしか眼中にないバカップルと知るがゆえの機微。

 そう。城塞の中での、いちゃつきっぷりを知るがゆえ、クレマンティーヌは最も二人を理解していた。

 実際、着陸してから未だに二人はまったく離れておらず。アルベドに至っては、モモンガの脚に己の股間を擦り付けている。

 そしてモモンガは、アルベドに恰好つけるためだけに。

 女神らしく振舞うのだ。

 

「お前の物語を私に語るがいい。興を覚えれば、助けよう。くだらぬ話ならば、罰しよう……ああ、待て」

 

 冷たく言い。

 何か思い出したように、ニニャの言葉を止める。

 

「(〈魔法無詠唱化(サイレントマジック)〉〈伝言(メッセージ)〉)我が忠実なる僕、ニグンよ。来い。お前も立ち合うのだ」

 

 ぼそりと、ニグンにはとうてい届かぬ声で言う。

 

(こ、こいつ恰好つけるためだけに無詠唱化した……!? そっかー、空でヤってたのも、いいムードっていうよりもー、そうした方がかっこよさそうだから、かー。で、さっき着地でちょっと焦ったのも、コケたり叩きつけられるとかっこ悪いから……はー……なるほどねー)

 

 呆れつつも、モモンガを分析するクレマンティーヌ。

 行動原理を知っておけば、生存率は高まる。特にアルベドの怒りを避けるためには、モモンガに守ってもらえるよう立ち回らなければならない。

 そんな風に考えている間に、ニグンも来て。

 エンリを除く首脳部(?)が、ニニャの事情を聞くのだった。

 





 空から女の子(?)が!
 世界なんかより君の方が大事だよって、ナチュラルに口説き始めたので、世界征服ルートには進みません。
 夜空でロマンチックにキスして、そのままコトに及びましたが、二人同時に羽根ピンして落下。
 よく考えると、ぺロロンチーノ&シャルティアがやらかしそうな事故ですね。
 実際、脱童貞(?)後のモモンガさんは、全能感に酔ってます。慎重さも、原作よりぐっと低いです。
 アルベドのためなら空も飛べる(もう飛んだ)テンション。
 よって、パンドラズ・アクターに近い黒歴史な一面……彼なりのかっこよさ追及が前に出てきてます。

 ニニャを追って出て来たのは他三人全員。
 神に直談判するつもりらしいと、ニグンさんは知ってましたし。
 貴族にさらわれた姉を助けたいニニャの目的を支持してる三人は、普通に説得されて引っ込みました。無理に押し通るのはダメって70レベルアンデッドになったニグンさんに言われるとどうしようもないんで……。

 余談ですが、ニグンさんは洗礼名捨てたのでニグン・ルーインになってます。
 モモンガ様に帰依しましたからね!
 絶対、自分で忘れそうな設定っすな……。
 今回の最後で、ニグンさんはアルベドの素顔を初めて見ましたが、モモンガをマスター登録してるので、たいして驚きません。NPCが至高の御方を見分けられるのと同じで、己の主であるモモンガさんを明確に区別できてます。おおよその居場所とかも近くにいればわかります(今回のクレマンティーヌがしてたように)。

 組織としては、神官がエンリ、将軍がニグン、近衛がクレマンティーヌです。
 人口はカルネ村の百人ちょいのままなので、特に政治機構はありません。エンリが困ったら、ニグンさんが助けてくれます。あと、元村人エルダーリッチも助けてくれます。なので、エンリはジェネラルのクラス取得せず、信仰系魔法詠唱者として成長中。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。