アルベド二人旅   作:神谷涼

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 前回に比べて進みが遅い……。
 実は転移後、まだ一週間程度です。



14:さっすが~ ○○様は話がわかるッ

「……お前の物語はそれで終わりか」

「そう、です」

 

 貴族に見初められた姉が連れ去られたこと。

 すぐに飽きられた姉が、売り払われたこと。

 今も奴隷以下の扱いを受けているだろうこと。

 ニニャは私情を抑え、可能な限り客観的に、全て語った。

 

「ニグン、クレマンティーヌ。どう考える」

 

 モモンガには、話の客観性がわからない。

 誇張した騙りかもしれないし。

 貴族と対立させたいだけかもしれない。

 

「真偽はともかく、王国ではよくある話ですな」

「売られた先の扱いもだいたいわかるけど、聞かない方がいいよー」

 

 二人とも、頭ごなしの否定はしない。

 十分にありえる事情と言うことだ。

 

「お前たちも王国貴族は腐りきっていると、言っていたな。エンリや村長も肯定していた」

 

 曖昧な情報について再定義すべく、二人に尋ねる。

 

「ここは王の直轄領だから、まだマシだよー。酷いトコじゃ、平民は貴族の家畜以下だからねー。気に入らないから殺すとか、気に入ったから手籠めにするとか、小遣いほしいから奴隷として売り飛ばすとかー。そんなのフツーだよー? 税も八割くらい? 酷いトコは九割いってるんじゃないかなー。若い男は兵士に連れてかれるし。食うに困って盗賊団してたりで、地域一帯が治安最悪だよー?」

「私としては、そこまでされて反乱を起こさぬ民にも、問題があると思いますが」 

 

 二人の補足は、モモンガには衝撃的だった。

 リアルにおける、支配層以上の酷さである。

 過労死、事故死はありふれていたし。

 セクハラもパワハラも当然で。

 治安だって悪かったが。

 ここまで酷くなかった。

 餓死する人間はごく一部だし、少なくとも表向き露骨な性暴力はなく。男女雇用機会は均等で。ローンや保障支払いはあれど、せいぜい六割。なんだかんだで、ゲームだって遊べた。

 しかし、カルネ村には娯楽もなく、エンリも生きるためずっと働き続けているという。

 

「アルベド。お前はどう考える」

「虫にも劣る愚かな生物かと。ただ……」

 

 アルベドが珍しく口ごもった。

 

「どうした。言ってみよ」

「……我々は、連中が己の所有物と考える村を接収しました。おそらく、身の程知らずにモモンガ様に兵を向けるでしょう」

「何の問題がある?」

「姿を見せれば、奴らはモモンガ様に不快を味わわせるかと」

「ん?」

 

 よくわからず、モモンガは首をかしげた。

 

「……その者の姉は、容姿を見初められて連れ去られたのです。連中はおそらく、見染めた者はすべて己の自由にできるとでも考えているのでしょう」

「はぁ?」

 

 呆気にとられる。

 

「何か? 私に――アルベドの体に欲情して、我がものにせんとしてくるってことか?」

「間違いなく」

「はぁぁぁ?」

 

 ぶわっ、とモモンガの全身から黒いオーラがあふれ出た。

 周囲の草が一瞬で塵と化す。

 ニグンが慌てて、ニニャを下がらせる。

 即死耐性を持つアルベドや、アンデッドの二人でなければ。

 全ての命をかき消す〈絶望のオーラV〉。

 

「ひ……!」

 

 ニニャは震えて歯も噛み合わず、ニグンに押しのけ転がされたまま失禁してしまう。

 

「……ああ、すまないな。怒りを抑えきれなかった」

 

 そんなニニャに、慌ててオーラを消すモモンガ。

 それでも、肩で息をするしかない。

 ニグンとクレマンティーヌも、アンデッドなのに冷や汗をかいていた。

 

「御身に不快な進言をし、申し訳ありません……私は常に、モモンガ様のものです」

 

 アルベドが甘えるように身をすり寄せ、詫びる。

 

「いや。突然、面と向かって言われれば、罪なき者も殺戮していただろう。先に言ってくれたお前の行いは正しい」

 

 アルベドの髪を、モモンガが撫で。抱き寄せる。

 二人が周囲を忘れつつあるなと気づき、クレマンティーヌが注意を向けさせた。

 いちゃつき始めて最後までいたされると、状況説明が面倒くさい。

 朝になって、村人が起き始めても続けていそうでもある。

 

「ま、まあ、アイツら頭おかしいからねー! 二人を見たら、ぜったいろくでもないこと言いだすよー。あたしも、内通してるクソ貴族に伝言役で来ただけで、当たり前みたいにヤられたからさ」

「は? そいつ殺さなかったのか?」

 

 モモンガは素で聞いてしまう。

 一応程度についた、彼女のキャラクター的に……いや、彼女じゃなくてもそんな奴は普通殺すか訴えるかするのじゃないかと考えたのだが。

 

「まー、任務だったし。内通者を消しちゃうわけにもねー。法国の使いで来たあたしを平気で犯して、高貴な血を受け入れて光栄に思えとか言うしー。最中に平気で殴ってくるしー。王国貴族の大半は、ほーんと、そんな連中ばっかだよー」

「お、お前も苦労してるんだな……」

 

 モモンガは、少し優しくしようと思った。

 同時に、怒りも忘れる。

 アルベドの舌打ちは、他の全員が聞かなかったことにした。

 

「連中の大半が、横柄と愚昧が服を着たような輩ですから……」

 

 ニグンも溜息混じりに言う。

 

「そいつらは、何かすごい戦闘力や特殊能力、アイテムなどを持っているのか?」

「財力と権力が少しある程度ですな。いつでも暗殺で始末できますし」

「…………バカなのか?」

 

 リアルの管理職でも、そんなのがいたら即、社会的抹殺される。

 

「……アルベド。思った以上にこの世界は汚いな」

「あくまで住人の問題と考えます。モモンガ様に帰依したこの地に、斯様な穢れはもはやありえぬかと」

「無論です! これほど愚かな貴族が揃った国は、他にありません!」

 

 失望したように呟くモモンガを、アルベドが慰め。

 ニグンは他の国についてフォローする。

 失望のあまり、世界を滅ぼすとなっては大ごとに過ぎる。王国貴族を基準に、この世界を判断されたくもない。

 

「はぁ……掃除が、必要か。ニニャと言ったな。お前の望み、全てではないが……叶えてやろう」

「ありがとうございます!」

 

 未だ残る恐怖に震えていたニニャだが……名前を呼ばれ、慌ててひれ伏した。

 

「とはいえ、移動は面倒。人員を割くにもな……クレマンティーヌよ」

 

 先の逸話を思い、命じる。

 

「お前を犯した貴族をとりあえず、好きに始末しろ。ニニャの姉をさらった貴族もな。死では慈悲深いと思ったなら、好きに地獄に落とせ。そいつらから同類や奴隷販売先を探り、王国内を適当に掃除してこい」

「えー♪ いーの? 王国貴族殺戮祭りスタートしちゃうよー?」

「下衆なら、貴族に限らず、好きに始末しろ。邪魔する輩も、私に不快を与えそうなら好きにしてこい――〈魔法二重化(ツインマジック)〉〈上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)〉」

 

 クレマンティーヌを、黒い軽装鎧が包み。

 濃紺のマントが羽織られる。

 

「武器は使い慣れた品がいいだろう。朝に、エンリから返してもらえ」

「お? おおお? これ、めっちゃすごい鎧じゃなーい?」

「たいした鎧ではない。精神耐性、神聖耐性、敏捷上昇、幸運上昇を与える程度だ。マントは一日に3回、〈透明化(インヴィジビリティ)〉と〈静寂(サイレンス)〉を発動できる」

「……普通に国宝級じゃん」

 

 漆黒聖典にいた頃でも、装備したことがない水準の装備だ。

 というか、王国貴族を殺すには過剰武装ではないかとも思える。

 70レベル級アンデッドを刺客に使う時点で、何をいわんやでもあるが。

 

「あまり遊ばず、迅速にやってこい。始末はともかく、関係ない者は殺すな。私の名は出してもかまわん」

「へー? じゃあ、『女神モモンガの名のもとに天罰を下す』とかメッセージ残して来ちゃったりして?」

「ほう……いいな。血文字で大きく書いてやれ。無実の者は一切殺すなよ」

「子供とかに、逆恨みされちゃうんじゃないのー?」

「その時は、お前の仕事が増えるだけだ」

「いひひひ……さっすが~、モモンガ様は話がわかるッ!」

 

 歪んだ笑みを浮かべ、クレマンティーヌはくるりと踊るように回る。

 彼女自身が慣れつつあったより速く、鋭く。

 精神を集中すれば音が消え、姿が消える。

 

「すっごー! これなら、魔法への備えもろくにない王国貴族なんて、らっくしょー♪」

「魔法への備えもないのか……」

 

 呆れ切って、怒りを覚えたことすら馬鹿馬鹿しくなる。

 

「……ああ、さらわれた女子供がいたら助けてやれ。死者の大魔法使い(エルダーリッチ)たちから〈伝言(メッセージ)〉で定時連絡させる。保護すべき者が多ければ、私が迎えに行ってやろう」

「りょーかい♪」

 

 クレマンティーヌが即座にまた姿を現し、満面の笑みで答えた。

 そして、モモンガは再び、ニニャを見る。

 

「さて……ニニャよ。私ができるのは、この程度だな。礼に思うならば、都市に戻った後、この村について包み隠さず話すがいい。移民も歓迎だ。望むなら、貴族どもを始末する件も、好きに喧伝してかまわんぞ」

「え……帰れるんですか?」

 

 ニニャとしては、モモンガへの信仰に一生を捧げる覚悟だった。

 

「お前たちが戻らねば、ここがどのような場所か誰もわかるまい。ここに移り住みたい者がいれば、歓迎しよう。我が力の一端を知ってなお、身の程知らずにも挑むというなら……相応の見せしめをせねばならんが」

 

 いかなる権力も気にかけず。

 淡々と述べる様子に、ニニャはこれこそ神だと確信した。

 

「それとニグン。王国が軍を向けて来るなら、堂々と相手してやるつもりだったが……気が変わった。お前の方で監視し、愚かな指揮官ならば先手を打って、夜襲なりで追い散らせ。兵士はなるべく傷つけるな」

「承知いたしました!」

 

 奇襲夜襲殲滅は、元陽光聖典隊長として得意中の得意。

 己の能力を買ってくれたのだと、ニグンは忠誠を新たにした。

 実際は、王国と交渉するのが嫌になっただけだが……。

 

 

 

 翌朝。

 クロマルを使っていいという、ありがたい言葉を断り。

 武器のみ受け取って、クレマンティーヌはカルネ村を出る。

 中途半端なアンデッド化とはいえ、寝食不要、肉体疲労無効を持つ。

 通常の馬より遥かに早く移動できるのだ。

 

(そーいや、カジッちゃん忘れてたなー。勝手に来そうだけど、軽く挨拶だけしとこっか。後で知り合いってバレるほーが、めんどくさそーだもんねー)

 

 一時間程度で見えて来たエ・ランテル。

 今のクレマンティーヌは、跳躍で城壁を簡単に登れる。

 マントの効果も発動すれば……白昼堂々と入り込む彼女に気づく者はいない。

 

 夕刻、彼女がエ・ランテルを発つまでに。

 評判の悪かった徴税吏と衛兵が、無惨な死体と化した。

 限界まで痛めつけられ、残虐に為された殺人。

 その犯行現場には――

 『女神モモンガの名のもとに天罰を下す』

 という血文字が、壁一面に書き残されていたという。

 




 クレマンさんの王国全土拷殺ツアー開始。
 特に監視役もいないので、かなりやりたい放題やっていきます。
 あまり無法を働くと後で怒られるから、可能な限り命令を遵守しつつ。

 カジッちゃんは、アンデッド化したクレマンさんの紹介でカルネ村へ。
 エルダーリッチいっぱいとか聞いたら黙ってられないので。

 ニニャは、すっかり信者化しました。
 エ・ランテルに戻ってから、また来るかも。
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