アルベド二人旅   作:神谷涼

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ちょっと体調崩してました。



15:べっ別にあんたのことなんて好きじゃないんだからね!!

 エ・ランテルでは“親切な”情報屋から近隣の悪人情報をさらっと聞き出し。

 都市内では数人を殺すに留めたクレマンティーヌ。

 彼女はそのまま、夜の間に飛び出し。街道沿いに巣食っているという盗賊団だか傭兵団だかの拠点に、立ち寄ったのだが。

 

「はー……なーるほどねー。これだけ戦闘力に差があると、刺突より斬撃の方がいいかもー?」

 

 スティレットで逐一突き殺すのがだんだん面倒くさくなり。

 盗賊の粗雑な剣を奪い、振り回している。

 

「モモンガ様やアルベド様はこれのもう一段上かー。そりゃー、相手するのもめんどくさいよねー」

 

 クレマンティーヌを囲む盗賊たちは、何かわめいているが。

 虫の羽音か、鳴き声かといった風情。

 むしろ体が大きい分、虫より簡単に殺せる。

 なんといっても、ふざけ半分で剣を持ってぐるぐる回れば、全員真っ二つになっていくのだ。

 敏捷性が格段どころでなく上がっており、返り血すら一滴も受けていない。

 

「はー。武技とか使う必要もないなー。あーの番外席次もこんな気分だったのかねー」

 

 筋力と敏捷性と反射神経しか、使っていない。

 最初の数人は、かつてのように“殺す”攻撃をし。

 派手に悲鳴をあげさせたのだが。

 拠点からわらわらと出て来た盗賊を見ると、逐一“殺す”のが面倒で。

 身体能力任せの“伐採”に変えた。

 ついでに武器も、盗賊から奪った剣に持ち替えている。

 

「オーガとかが、たいした武器使わないのもわかるなー」

 

 圧倒的な筋力があれば、たいした武器は必要ないのだ。

 盗賊が持っていた、数打ちで手入れもろくにされていない剣だが。

 それで十分だった。

 やや薄めの金属の塊を高速でぶつければ、なまくらだろうが“斬れる”のだ。

 ついでに言えば、今のクレマンティーヌは、つまんで引っ張るだけで人間の肉をたやすくちぎれる。エ・ランテルで試してみたから間違いない。

 

「なーんかいろいろ変な能力も手に入れたっぽいけど……使う意味あるのかなー……っと、減ってきちゃったねー♪」

 

 考え事をしつつ適当に剣を振り回して。

 ふと我に返ると、敵が随分と減っていた。

 残るは五人。

 まだ十人近くいるつもりだったが。

 

「奥に逃げてるかー。はー、裏口も用意してるかなー?」

 

 動死体(ゾンビ)の基本スキル〈暗視〉、首無し騎士(デュラハン)のスキル〈生命感知〉と、ケンセイのスキル〈殺気感知〉〈気配察知〉により、盗賊たちの動きは面白いほど把握できる。

 

「とりあえず……後で遊んだげるねー♪ 〈疾風走破〉」

 

 剣をもう一本拾い……両手に持って、加速疾走。

 速度は以前の比ではない。

 すれ違いざまに、残る連中全員を、脚のみ切断できてしまう。

 

「うーん、拷問も楽しめなくなってないか、心配だなー♪ よーっく味わって確認しなきゃねー♪」

 

 背後に脚を斬られた連中の悲鳴を聞きつつ。

 にやにやと笑いながら“死を撒く剣団”の拠点たる洞窟に飛び込もう……として。

 

「おっと、あぶな〈疾風走破〉っと」

 

 落とし穴に落ちかけて、慌てて加速。

 蓋が落ちる前に渡り切る。

 

「そりゃ罠はわっかんないかー。油断しちゃいけないねー」

 

 言いつつも、そのまま進んでいく

 彼女のスキルに、罠対策はない……が、反射神経でたいてい何とかなるとわかった。

 しかもケンセイのパッシヴスキル〈明鏡止水〉――集中力を高める効果により、武技の使用可能回数が爆発的に増えている。肉体負担もほぼない。

 

(感覚もビンカンになってるもんねー。紐とかワイヤーに引っかかっても……発動前に回避はじゅーぶん♪)

 

 上機嫌に鼻歌混じりで進んで行く。

 意外と深い。

 入り込めば即座に囲んで来るかと思ったが。

 奥まで誘い込む気だろうか。

 

(めんどくさいなー……ん?)

 

 一人の、剣士らしき男が立っていた。

 用心棒と言ったところだろうか。

 

「おいおい、マジで女一人かよ」

 

 南方風の剣――刀を構えている。

 以前のクレマンティーヌなら、わりと本気になったであろう相手だ。

 それなりに武技も使えるだろう。

 王国でそんな人物は限られる……首をかしげて訊ねてみた。

 

「んー? もしかして、ブレイン・アングラウス?」

「そうだといったら?」

 

 にやりと挑発的に、男が返してくる。

 妙に恰好つけた態度。

 その様子にクレマンティーヌは……なんとも言えない脱力感を味わう。

 随所に、過去の己を重ねてしまうのだ。

 

(あー、格下相手によくやったなー、こういうの。こいつも、あたしより上とか思ってるんだろなー)

 

 羞恥、後悔、憐憫、安堵。

 いろんな感情が湧き出して、嗜虐的な気分が萎えてしまう。

 

「……はぁ。これは恥ずかしい。あー……そう考えると、モモンガ様に直接挑んだりしなくてよかったー。これは恥ずかしいもんねー。やっちゃってたら黒歴史確定だよー……たぶん、直接だとやっちゃったろうし」

「なんだ? 俺に剣で挑むのを恥じるほど、あんたが弱くは思えねぇがな」

 

 ブレインとしては何を言われているかわからず、断片的な言葉から適当に察したのみだが。

 どこまでも己が上と信じるがゆえに出る言葉。

 たまらず、クレマンティーヌは噴き出した。

 

「ちょ、剣でとか言っといて、その殺し方は卑怯wwwwwww」 

「なんだお前……いかれてんのか?」

 

 既に抜刀して構えている目の前で、無防備に笑い転げる相手が……ブレインには理解できない。

 このまま斬ってやろうかとも思うが。武器を構えもしない、それなりの強敵たりうるであろう相手を、一方的に斬る気にはなれなかった。

 

「はー、いやー……元同格のよしみってことで見逃したげるからさー、このまま外に出てってくれない? 見てていたたまれないっていうか、笑い死にしそー」

 

 クレマンティーヌはけらけら笑いつつ、涙を拭って。

 ろくに武器を構えず、馴れ馴れしく……ブレインの肩をぽんと叩いた。

 そして、そのまま彼の横を歩き、通り過ぎて行こうとする。

 

「な! 見逃すだと! どういう意味だ!」

 

 ガゼフに敗れて以来、己の剣を磨き続けた天才剣士ブレイン。

 彼は確かに剣について、天賦の才能があり。

 敗北以来は努力も欠かさず、魔法やアイテムの力も借り、最高峰の力を得ていた。

 だが、それでも。

 一度の敗北につまづき続けてしまうように。

 ブレインはプライドが高く、視野が狭かった。

 

 だから今も。

 刀を構えた己の横を、あっさり通り過ぎた女。

 ごく自然に肩を叩いた女に。

 違和感を抱くより前に――。

 

「こーゆー意味だってば」

 

 振り向きざまに斬りつけた刀を、あっさり弾かれて。

 懐に入られ。

 そして。

 気がつけば、洞窟の壁に背中をぶつけていた。

 

「は……あ?」

 

 何が起きたかわからず、呆けた声しかでない。

 

「あたしみたいになりたかったら、カルネ村に行くといいよー♪ 帰りにいたら、殺しちゃうからねー」

 

 ひらひらと手を振って奥に向かう女の声と……後ろ姿が酷く遠い。

 10メートル以上あるだろう。

 さっさと奥に進んだのだろうか。

 刀はまだブレインの手の中にある。

 背中をしたたかに打ち付けたが、後頭部は無事。

 背後から挟み撃ちにしてやれば、どれだけ腕の立つ剣士だろうと勝てるはずがない。

 

「待て、俺はま……だ……?」

 

 言いかけて、気がついた。

 女が去り行く足元には、己が戦闘態勢前の強化に使ったポーションの壜が落ちていた。

 つまり、女がいた場所が……ブレインが刀を構えていた場所。

 

「なんだと……」

 

 明らかに体格で勝るブレインが、10メートル以上を吹き飛ばされ。

 背中を壁にぶつけたのだ。

 およそ人間技ではない。

 剣で斬られた様子もない以上、素手だろう。

 

「剣を持ってたのに……修道僧(モンク)だったのか?」

 

 ふと首を横に向ければ、外が見える。

 ここはもう、拠点の出口なのだ。

 女――クレマンティーヌの姿はもう見えない。

 出口の外は血の海で……一部は未だに呻き声をあげていた。

 バラバラに切り刻まれて。

 

「……いや……違う……やはり剣士……単に手加減されたの、か……?」

 

 呆然と呟く。

 確かに鍛えられていて、隙もなかったが。

 これほどの力量差がありえるのかと、自問自答する。

 そしてようやく、クレマンティーヌに接近され、肩を叩かれても反応できなかったのだと……気づいた。

 

「は……はは……」

 

 乾いた笑いしかでない。

 格が違う。

 なるほど。

 

(恰好つけて戦うつもりの俺が、あの女には粋がったガキの戯言に見えたわけか……滑稽だったろうな)

 

 ほどなく、奥から女の笑う声と。

 見知った連中の悲鳴が聞こえ始めた。

 圧倒的な強者。

 殺しを楽しんでいる気配。

 

「弟子入りさせてくれるタイプじゃなさそうだし…………お言葉に従う、か」

 

 ブレインは、空ろな声で己に言い聞かせ。

 ふらふらと立ち上がると。

 そのまま、“死を撒く剣団”の拠点を離れた。

 呻きながら助けを求める者たちにも、目を向けず。

 

「カルネ村……だったか……」 

 

 ただ、呟きだけを残して。

 

 

 

 一方その頃、エ・ランテル郊外。

 ちょうど共同墓地に面した外壁の外側には。

 

「よしよし、これで全てか! 夜明け前に、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を飛び立たせておいて正解であったわ!」

 

 カジットとその弟子、そして二百近いアンデッド。

 巨大な骨の竜(スケリトル・ドラゴン)がいた。

 

「夜明け前に街道を迂回し、カルネ村に向かう! クレマンティーヌに力を与えたという女神に謁見するのだ!」

 

 彼自身も、死の宝珠も。

 ズーラーノーン盟主を上回るであろう存在に胸を高鳴らせ。

 日の昇るより早く、カルネ村を目指し始めた。

 カジットは骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に騎乗して上空を。

 弟子らがアンデッドの群れを率いて地上を。

 エ・ランテルを滅ぼすに十分な数のアンデッドが、人知れず都市を去った。

 

 

 

 そして、夜明け近く。

 ちょうど“お楽しみ”も終わりつつある頃。

 クレマンティーヌに、主の声が聞こえた。

 

「あ、連絡って〈伝言(メッセージ)〉なんだねー……いや、別に問題ないけど。今は明らかに外道な盗賊団を皆殺しにしたトコだよー♪ 捕まってた女の子がいるけど、ちょーっと社会復帰は厳しいかもねー? え? この子ら連れて近隣都市に戻ると、貴族ぶっころすのが遅れちゃうよー?」

 

 そう伝えた瞬間。

 クレマンティーヌの目の前に、〈転移門(ゲート)〉でモモンガとアルベドが姿を現す。

 足元の惨状を見ると、翼をはためかせふわりと浮かんだ。

 血だまりを踏んで、足を汚したくないのだ。

 

「やれやれ、気軽に呼んでくれるな。先が思いやられるぞ」

「このような汚らわしい場所にモモンガ様を……」

 

 盗賊らの性処理用に囚われていた女たち。

 共有財産として、最低限の清潔さは保たれていたが。

 いずれも心は砕け、体は雄の臭気をこびりつかせている。

 

「つっても、さすがにあたし一人でこの子らを助けてらんないでしょー」

「魔法の使える協力者が必要か……」

「一応、エ・ランテルにいた魔法の使えるのを、そっちに行くよう誘っといたし……そこそこ名のある剣士にも声はかけたんだけどねー」

「手駒が増えるなら悪くないか……アルベド、とりあえずこの娘らはカルネ村へ連れ帰るぞ」

「承知いたしました」

「では、クレマンティーヌ初仕事ご苦労だったな。また明日の深夜に連絡する」

 

 モモンガがぽん、と金髪の頭に手を置き撫でながら、再び〈転移門(ゲート)〉を起動し。

 怯える女らを、アルベドが放り込むと。

 モモンガもまた、アルベドの肩を抱いて、仲睦まじく消えていった。

 クレマンティーヌはそんな様子をなぜか呆けたように見送ってしまう。

 二人が消え、囚われていた女らも消えた後には。

 さんざん玩具にした連中の死にきれないうめき声だけで。

 

「……クソ……ああ、クソッ」

 

 ばしゃっと、まだかろうじて生きていた頭目の頭を蹴り、破裂させた。

 頭に残る、モモンガの手の感触が消えない。

 

(なんで、このクレマンティーヌ様があんなので喜んでんだよ! クソ! あの女、〈魅了(チャーム)〉かけたんじゃねーだろな……っ!)

 

 苛々する。

 また会いたい

 また撫でられたい。

 そう思ってしまうのが、悔しい。

 

「クソがぁ! とにかく任務をこなしゃいーんだろ! 貴族連中をむごったらしく殺してやるよ、クソッ!」

 

 何に苛立っているかもわからないまま。

 じっとしているのが酷く苦痛で。

 クレマンティーヌは駆けだした。

 この盗賊どもの拠点の外へ。

 街道へ。

 標的たる貴族のいるところへ。

 早朝の冷たい空気が、アンデッドとなったクレマンティーヌの体を冷やし。

 感覚を冴えさせていくが。

 

(あああああ、チクショオオオオオオオオオオ!!)

 

 髪に残った、モモンガの手の感触は、決して消えなかった。

 




 法国はモモンガさんの存在を知って、活動自粛中なので、漆黒聖典と遭遇イベントは起きません。
 まあ、時系列的にも、原作のアレより少し前なんですが。

 カジット>カジット弟子+アンデッド>ブレイン>蒼の薔薇 の順番でカルネ村に来ます。
 ンフィーレアと漆黒の剣が滞在中に。

 クレマンさんは一晩でここまでやって、夜明け前に決着つけてるので優秀です。
 ちょっとスピード速すぎた気もする……。
 戦闘スタイルは、原作モモンよりはテクニカル。
 でも、数の多いザコ相手なら無理矢理剣を振り回した方が強いわって気づいた状態。
 なお、精神支配をしっかり受けてないせいで、妙なもやっとした感情を抱いてます。
 べったべたなアルベドさんに比べて、自覚しきれないクレマンさんの方がラブコメ味ある……。
 なお、貴族の皆さんは、クレマンさんの照れ隠しでムゴく激しく殺されます。

 首無しの剣聖(デュラハン・フェンサー)は、モンスターとしてのデュラハンの名称と言う扱いです。
 オーバーロードの、オーバーロードジェネラルとかああいうやつ。
 種族としてはデュラハン、その他剣士系クラスいっぱい、という構成で。
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