アルベド二人旅   作:神谷涼

16 / 53
 カジット&ブレインがかなり省略されます。

 そして知らなかった……スティレットが正しかったなんて……。
 (ずっとスティンレットだとおもってた)



16:なんという冷静で的確な判断力なんだ!!

 黒い城塞の最上階に、寝室はある。

 外からは見えず、また破れない、特殊な大窓。

 城主のために築かれた、天蓋付きの大型寝台。

 その柔らかな布団の中、二人は多くの時間を過ごしていた。

 一糸まとわず、互いを黒い翼で抱き寄せながら。

 

「あの女らはエンリに任せたが……アルベドよ、どう思う?」

「モモンガ様が自ら触れるには穢れた雌どもでした。あの薄汚れた娘に任せたこと、良き判断かと」

 

 身をすり寄せ合い、時に唇を這わせながらの会話。

 指も飽きずに、互いの髪や肌を撫で続ける。

 彼女らとて、常に粘膜を擦り合わせているわけではない。

 クレマンティーヌを送り出した後は、肌の方が多かった。

 密着距離に変わりはないのだが。

 

「そうではない。この世界は美しい……私のいたリアルとは違う。だが、住人はそうではない。私のいた世界以上に過酷で、理不尽に満ちている」

「それは……」

 

 モモンガより知性に勝り、残虐なアルベドには。文明の進歩と関係のない、人間社会なら常につきまとう問題とわかっているのだが。

 主の言葉に、義憤とも言える感情がにじんでいれば、返す言葉を見つけられない。主はかつて搾取される側だったのだ。この世界には……その自然と同様、人間社会にも美しくあって欲しいと考えているのだろう。

 

「汚されたあの女ら。任務のため犯されたクレマンティーヌ。姉を連れ去られたニニャ。略奪を受けたこの村――そして、ゲームでは異形種として狩られ、リアルでは弱者として搾取されてきた私。彼女らも私も、なぜかくも理不尽に奪われねばならんのだ? 弱者だからか?」

「……はい。しかし、御身は力を得たがゆえ、今は奪う側に立たれました」

 

 安い慰めは求めていないと、わかる。

 だから、アルベドは敢えて真実で答えた。

 

「ならばアルベドよ、私が力を失っていれば……あの草原で、弱い私からお前も奪っていたのか? 私が強いから、お前は私に従うのか?」

「そのような! 力がどうであろうとも、私はモモンガ様のシモベです!」

 

 忠義を疑われることは、NPCにとって死より恐ろしい。

 アルベドは狼狽し、ひしとしがみついて訴える。

 モモンガは布団の中、身を転がして……彼女を組み敷いた。

 布団がめくれ。

 今はモモンガ自身と同じ、黒い髪、白い肌、艶やかで均整の取れた肢体が露になる。

 そんな彼女の体……鏡写しの肉体を、じっと、モモンガは見つめた。

 

「アルベドよ。お前は美しい。そして賢く、強い」

「御方にそのように造っていただけたこそ、です」

 

 主の言葉から、不安定な精神状態に気づき。

 いたわるように、そっと囁くに留める。

 傷つけてしまわぬよう、そっと。

 

「お前は、私の記憶から――かつての骸骨でない、リアルにおける私も見ただろう」

「……はい」

「お前の言う、この世界の脆弱で薄汚れた連中と……何も変わらなかったろう?」

「…………」

 

 答えられない。

 

「そんな私が、お前から理不尽に体を奪い……お前の力まで、我がものとした。お前は理不尽を感じないのか?」

「モモンガ様に我が身を捧げる以上の幸福などありません!」

 

 その返答ではいけないと、内心わかっているのに。NPCとして、そう答えるしかない。

 

「私が上位者として、お前をそう、書き換えたからな」

「そんな、私は――」

「わかっている。今、私はまさに上位者として理不尽を……お前に振るっているのだろう。お前は心から私を愛してくれている。それはずっと、感じられるし……わかっているのだ」

 

 アルベドの顔に、雫が落ちる。

 己と同じ顔で、彼女の主たるモモンガが、涙をこぼしていた。

 

「私はな、アルベド。上下に関係なく、お前を美しく感じ、お前を求め、お前を愛している。だからこそ、お前の在り方を書き換えてまで、我がものにした。お前が欲しかったのだ」

「……ありがとう、ございます」

「だが、もし一人の人間としての私が、お前に出会ったなら。お前は私を愛してなどくれまい」

「…………」

 

 愛する、とは言えなかった。

 もし頷けば……ふと目にした人間に、いつ心奪われるともしれぬ程度の身と、宣言したも同然だ。

 

「アルベド。私は悔しい。私は悲しい。お前にこんなに愛されているのに、お前に愛されるに足る存在と、己を認められんのだ」

「……モモンガ様。どうか、己を卑下なさらないでください。ご存知でしょう……私も、モモンガ様がおっしゃる程に良き女ではありません。常に下劣な欲望に支配され、歪んだ愛により、御身を穢さんとする淫魔です」

 

 冷静な、客観的に見た己を知らぬアルベドではない。

 

「……なら、示せ。お前を今、理不尽に苦しめた私を罰しろ。本当に愛しているなら、貪って見せろ。私だけでなく、お前が私に夢中だと示し……安心させてくれ」

 

 悲痛に、自虐を込めて、モモンガは言うが。

 全てはアルベドの掌の上だった。

 

「くふーっ、いいんですね! やめてって泣いても止めませんから!」

「えっ、ちょ――んんんんー!?」

 

 ここまで言った以上、アルベドは本性を隠さない。

 そのまま、唇で返答を封じ。

 めんどくさい状態に陥ったモモンガが、難しいことを考えなくなるよう、せねばならない。

 これは主の精神衛生を思いやる、シモベとして当然の配慮であり。

 

(ええ! 私の欲望とはまったく関係ありませんし! 罰を求めるモモンガ様が自虐に走らぬよう、私が加減した罰をしっかりと与えるまでです! ああ! 心苦しい! でもしなきゃ!)

 

 己の愛情が、疑問の余地などありえぬほど深いのだと、身を以て思い知ってもらわねばならない。

 至高の御方自らねだった以上、アルベドは全身全霊手加減抜きで応え、しゃぶり尽くさせてもらうのだ。

 アルベドには、都合よく御方の言葉を解釈する知性がある。

 すべては有言実行。

 不眠不休で主を貪るなど……褒美以外の何であろう!

 

 そして、そのまま幾日かが過ぎた。

 

 

 

 王都のアダマンタイト級冒険者パーティー、蒼の薔薇。

 本来なら、王都を拠点とする彼女らが、エ・ランテルから帝国よりの開拓村――カルネ村に向かって街道を進んでいた。

 カルネ村は事実上、街道の突き当り。トブの大森林沿いに築かれた開拓村の、最も奥まった場所だと言う。

 辺境も辺境、ほとんど帝国領に近い。

 ある意味では存在自体が、帝国への挑発とも言えなくはないが。

 帝国とて、大森林に面したこの村を獲得しようとはすまい。

 

「アンデッドが多数確認できたらしいけどよ……こんなのどかな場所にいんのか?」

「カッツェ平野に近いとはいえ、白昼に地上をうろつくとは思えんな」

 

 ガガーランとイビルアイが、緊張感なく語り合う。

 横に見える大森林には、多くの亜人や魔獣も暮らすだろうが。

 街道側に押し寄せてくる様子もない。

 

「けど、村人の安否を確認に行った銀級パーティーは戻って来ないんでしょ? ミスリル級冒険者は軽く確認しただけらしいし……」

 

 リーダーであるラキュースが、首をかしげる。

 

「数日程度だろう? 普通に村にいてもおかしくあるまい」

死者の大魔法使い(エルダーリッチ)が複数いたってのは気になるけどねー」

 

 突然、要塞が築かれていた……とは、さすがに信じられない。

 

「鬼ボス、この先に襲われた村の跡がある」

「アンデッドはヤバイかもしれない」

 

 斥候に出ていたティアとティナの忍者姉妹が戻ってくる。

 帝国兵がこの辺りの開拓村を襲って回ったと聞いている。

 そして戦士長ガゼフ……いや、女神とやらが退けたとも。

 

「村の遺体は葬っていないと……戦士長も、都市長も言ってたわね」

 

 ラキュースが痛ましく聞いた話を思い出す。

 だから、遺体が残っているはずなのだ。

 一行は姉妹の調べた開拓村の焼け跡へと、向かった。

 

 

 

 相当の被害者が出たのだろう。

 未だに血痕や肉片があちこちに残っている。

 

「崩れた家を、中から持ち上げた跡」

「足跡も多数。どれもよろめいてる」

 

 ティアとティナがあちこちを指さして示す。

 間違いなく、多数のアンデッドが生まれた痕跡だ。

 

「魔獣っぽい足跡もあるが……おそらく骨の竜(スケリトル・ドラゴン)だな」

 

 イビルアイが、周囲をさらに調べる。

 

「っ……襲撃で生まれた犠牲者をアンデッドにして連れてったわけね」

「こりゃ、すげー数のアンデッドがいるのは間違いねーな」

「女神とやらが、そいつらを使って急ごしらえのバリケード……いや、砦を築いている可能性はあるか」

 

 襲撃された村に異常なしと、ミスリル級冒険者パーティーのクラルグラが報告している。事実、彼らの調査時は遺体も転がっていて、異常などなかったのだが。蒼の薔薇は、そこまで細かな報告書に目を通していない。

 城塞というのが、まず眉唾だ。

 常識的に考えて、そんな巨大建造物が突然に現れるはずがない。

 

「他にも複数の村が襲われたのよね……」

「襲撃者はその女神サマが倒したんだろ?」

「けど、最低でも数百のアンデッドがいる」

「なるべく手前で野営し、目的地は朝方に近づいた方がいいな。高位アンデッドが複数いるなら、夜は連中が有利すぎるぞ」

 

 村の痕跡を調べつつ、アダマンタイト級に恥じない冷静で的確な判断力を示す蒼の薔薇であった。

 

 

 

 翌朝、蒼の薔薇は出発する。

 そして、そろそろかという頃……小さな丘の向こうに偵察に出たティアとティナが、真っ青になって帰って来た。

 

「帰ろう」

「帰るべき」

 

 すわ状態異常かと、〈獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)〉をかけるラキュースだが。

 震えながら言う、二人の言葉は変わらない。

 見ない方がいいと繰り返し言われながら、丘の上に向かった一行が見たのは。

 

「マジで城塞じゃねーか」

「な、何あの濠……それに、あの場所だけ霧?」

 

 のどかな平原に突如現れる、霧に包まれた漆黒の城!

 そして霧の中を飛び回るのは、明らかに死霊(レイス)

 十代前半の妄想にしかありえぬ如き威容であった。

 

「むう、あれはまさか……ぎるど拠点!」

「知っているの、イビルアイ!?」

「うむ」

 

――ぎるど拠点

 この世界に100年に一度現れる“ぷれいやー”。

 時に彼らは集団で、巨大な建造物と共に現れると言う。

 これを彼らは“ぎるど拠点”と呼び、自らの本拠地と扱う。これら“ぎるど拠点”は、多数の従属神に守られる無敵の要塞であり、また世界に大きな影響をもたらす起点ともなる。彼の八欲王もまた、強力無比の要塞あらばこそ、絶大な力を振るったのだ。

 浮遊都市や海底神殿もまた、かつて“ぎるど拠点”であった事実はあまりにも有名である。

    アーグランド評議国刊『ぷれいやー発見伝』より

 

「……なお、過去の“ぷれいやー”とは、六大神や八欲王。それに十三英雄のリーダーだ」 

「マジで神じゃねーか」

「帰ろう」

「偵察はした。生きて報告するのが大事」

「その方がいいかもしれん。どうする、ラキュース……ラキュース?」

 

 ラキュースは呆然と、その城を見ていた。

 彼女が今まで何度も思い描いて来たと同じ、霧に包まれた黒い城を。

 

「これは……魔王城!」 

 

 彼女の中の中二回路が、熱く稼働を始めたのだ。

 

「なんだ魔王城ってのは。その魔剣キリネイラムと関係あるのか?」

「よくぞ聞いてくれたわ! そう、魔王城とは――」

 

 だが、説明が最後まで続くことはなく。

 

「もう少し泳がしておいてもよかったが……我らが神を魔王呼ばわりは許せんな」

 

 空間が揺らぎ、黒い穴が開く。

 一人の男――いや、アンデッドを先頭に、一団が現れた。

 戦闘態勢を取ろうとする蒼の薔薇だが。

 すぐに絶望を知ることとなる。

 男に続いて現れた、十体を超える死者の大魔法使い(エルダーリッチ)と。

 見たこともない巨大な天使。

 さらに。

 

「はい。偉大なるモモンガ様をそのように呼ばれては、黙っていられません」

 

 見た目からして、邪悪の化身の如き女神官。

 さらに彼女を守るかの如く立つ、巨体のアンデッド。

 

「な……死の騎士(デス・ナイト)だと!」

「あの男、前に戦った法国の隊長じゃねーか!」

 

 イビルアイとガガーランが驚愕する中。

 邪悪なる女神官エンリは、高々と宣言した。

 

「貴方たちが偉大なるモモンガ様を愚弄する、王国の走狗ならば。その耳目を穢す前に、ここで散っていただきます」

「逃げられるとは思わんでくれたまえ」

 

 背後には、いつの間にか多数の眼球が集まった肉塊の如きアンデッドが浮かび。

 上位死霊(ハイレイス)が包囲している。

 巨大な天使は上に浮かび、メイスを振り下ろさんばかりの姿勢だ。

 

「おとなしく縛についていただければ、怪我はしませんよ? 彼らは既にモモンガ様の祝福を得ています。ただのアンデッドとは思わぬことです」

 

 メイスからおぞましいオーラを立ち昇らせつつ、女神官が微笑む。

 垢ぬけない村娘のような笑みは、人の命を雑草程度にしか見ていない。

 

「くっ……仲間には手を出さないで!」

 

 取り囲む無数のアンデッドの前に抵抗は無意味、と。

 ラキュースが魔剣を手放し、浮遊する剣群も地に落とす。

 ティア、ティナ、ガガーラン……ついにイビルアイも悔しげに、従った。

 かつての法国の聖典隊長が、恐るべき力を得ているとわかる。

 巨漢のアンデッドや、肉塊のアンデッド、巨大天使も……イビルアイなら一対一で何とかというところ。

 しかも、これらを率いる女神官の実力は、まったく底が知れない。

 

「ふふ、皆さんが頭のいい方で助かりました。この丘は、モモンガ様の城からも見えていますからね」

「偉大なるモモンガ様に、血生臭く汚れた風景を見せるわけにはいきませんからな!」

 

 二人――エンリとニグンは上機嫌で笑いつつ。

 アンデッドたちに、蒼の薔薇の武器を回収させる。

 戦いの結果より、ただ“丘を汚す”ことを恐れていた二人に、蒼の薔薇は心底恐怖を覚えた。

 

「では、さっさと戻りましょう。ニグンさん、お願いします。皆さんも――逃げようなどと考えず、ついて来てくださいね?」

 

 ニグンが見たこともない魔法――〈転移門(ゲート)〉を唱え。

 エンリが快活に笑い、蒼の薔薇に話しかけるが。

 いつも不敵な彼女らに返答はなく。

 

「だから帰ろうって言ったのに……」

 

 誰にともなく呟く、ティアの声だけが響いたのだった。

 




 モモンガさん、メンタルは変わってないので前作と同じくめんどくさいモードにちょいちょい入ります。
 でも、アルベドさんは今回、モモンガさんに全力ラブなんで、めんどくさい精神状態になったら、体で言うこと聞かせてくれます。他の人員もいないし、ガチ一途なんで、アルベドさんは相当なベッドヤクザです。
 主人をメンヘラ化させないためだから、仕方ないですね!

 蒼の薔薇、少なくともイビルアイはプレイヤーについて多少知識あることにしてます。
 原作的にはギルド拠点とか知ってるか微妙な気もしますが、単に知っているのかイビルアイをやっておきたかったので……デスナイトでやってもインパクト薄いかなと。
 ラキュースの中二病もちょっと強めになってますね。

 エンリはごく自然に真面目な言動してるつもりですが、見た目がアレなのと周りがアレなせいで、めっちゃ怖がられます。周りのアンデッドも、威厳強化のため誤解を解いてくれません(元村人アンデッドらはンフィーレアに対してのみ、ある程度気を許してましたが)。
 当人はそこまでガチなパワーレベリングをする暇もなく、未だプリースト2レベルになったかな程度。装備抜きだとダインより弱いです(装備があれば強い)。

 ニグンさんのなった種族「地下聖堂の主(クリプトロード)」は指揮能力に優れる……としかわからないのですが、聖堂とついてるので信仰系魔法使えると扱ってます。天使召喚もできるし、タレントも持続。上位アンデッドとして作成されてるので、〈転移門(ゲート)〉を使える扱いにしました。シャルティアも使ってましたし、指揮役が持ってると実際便利な呪文ですからね。あと、かつて最上位だと思ってた威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)も使役できてます。
 まあ〈転移門(ゲート)〉が第9位階くらいの可能性もけっこうあるので、どうかなと思わなくもないんですが。
 とりあえず原作ナーベより一段上くらいの実力。蒼の薔薇相手なら、準備なしでも互角以上。準備しとけば十二分に勝てます。
 でも、誤解によりエンリのことを対等かそれ以上の存在と思ってます。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。