アルベド二人旅   作:神谷涼

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 更新遅くなっていて申し訳ない……。
 今回はカルネ村と蒼の薔薇の話。
 モモンガ&アルベドはまだまだベッドの上で忙しくしてます。



18:えっ

「ご苦労様です、ニグン様、エンリ様」

 

 蒼の薔薇を捕らえ、〈転移門(ゲート)〉で戻って来た一団を、痩せこけ、禿げた、いかにも悪の魔法使いと言わんばかりの男――カジットが迎える。

 

「おいおい、アダマンタイト級……それも蒼の薔薇の御一行じゃないか。あっさり捕まえちまったのかよ」

 

 青髪の剣士が、捕縛された女冒険者たちを見る。

 村の様子を少しでも探ろうと、見回していた蒼の薔薇だが。

 女忍者の片方、ティナだけは剣士を凝視していた。

 

「ブレイン・アングラウス……」

「負けたのに妙に名前が売れてんなぁ」

 

 顔をしかめつつ、ブレインがぼやく。

 

「げっ、あの戦士長と接戦だったってヤツかよ!」

「この魔法使ったのは、陽光聖典の隊長だったわよね」

「どういう顔ぶれなんだ……」

 

 もはや開き直ったと言わんばかりに、縛られたまま言葉をかわす。

 ブレインは、正面からでもガガーラン以上の戦士。

 武器を奪われ、これほどの精鋭に囲まれて、万に一つの勝ち目もないのだ。

 すぐに殺されない様子なら、露骨にでも会話に持ち込んだ方がいい。

 とはいえ、ブレインとの会話は、強者二人に止められる。

 

「さて、君たちとはまったく奇縁と言えるね」

「お話次第で、すぐに解放しますから。正直に答えてくださいね?」

 

 ニグンとエンリが、蒼の薔薇に笑いかけた。

 まったく心休まらない笑みである。

 どちらも圧倒的強者の慇懃無礼さ――いわば、見下し、小馬鹿にしたような気配が見て取れるのだ。

 ブレインは、二人に譲るように後ろに下がる。

 その態度は明らかに、二人を上位者と認めていた。

 

 

 

「――はぁ。第三王女が。国王じゃないんですね」

 

 隠しても得はないと、全て問われるままに答えた蒼の薔薇だが。

 エンリは、どうでもよさそうに首をかしげる。

 

「王は動きをとりますまい。戦士長殿が報告しても、本気にしてもおらんでしょう。逆に言えば、ラナー第三王女は相当に聡明な方と見てもよいでしょうな」

 

 ニグンが、ラナーについて情報の補足をする。

 

「そうよ! ラナーは奴隷制度を撤廃させたし、犯罪組織にも打撃を与え続けてるんだから!」

 

 エンリの態度に、ラキュースは強弁する。誰もが讃える王女、自慢の親友を軽く扱われた苛立ちがあった。

 単に辺境の村娘ゆえ、王女についてよく知らないだけなのだが。

 

「モモンガ様は貴族を既によからぬものと考えておられます。貴族を束ねる王についても、です。しかし、その王女が有能で、今の国の現状を改善できるなら……彼女を女王にした方がいいかもしれませんね」

「えっ」

 

 さらりと、王国の継承の話をするエンリ。

 単なる思いつきであり、王国の軍が来たりしないようにという程度の考えである。

 だが、貴族のラキュースにとってみれば、国王と他の後継者を排除すると言い出したに等しい。しかも「女王になっていただく」や「女王になってもらう」ではなく、「女王にする」だ。どうにでもなるコマとしか考えていない。

 一介の冒険者であるガガーランやイビルアイは何も気づいていないが。

 元暗殺者ティアとティナの眉は、ぴくりと動いた。

 

「ほう! さすがはエンリ殿。すばやい英断ですな。現国王ランポッサⅢ世は無能、第一王子バルブロは愚昧、第二王子ザナックは凡人と聞きます。モモンガ様にお仕えする我らが、王国民の統治に心を割いては本末転倒。民の管理は、本来の義務を持つ者にさせるに限りますな」

「えっ」

 

 はっはっはっ、と快活に笑って応じるニグン。

 ブレインとカジットも、後ろで頷いている。

 ラキュースには、まったく笑えない。

 少なくともこの二人は、王国を“いつでも排除できる面倒な障害”と考えているのだ。

 

「王女と仲がいいなら、この方たちを戦士長や他の地位を与えてもいいですね」

「見事ですな! 大規模な改革にあたり、わかりやすい英雄は重要です。冒険者と言うものの立場が問題視されますが、引退後に貴族に仕える者も少なくありますまい。引退させて国の要職につけさせれば……近衛騎士、戦士長、宮廷魔術師、諜報員と、華々しく――」

「ちょ、ちょっと待て!」

 

 この言葉に、イビルアイとガガーランも彼らの恐ろしさに気づいた。

 確かに己らをあっさり捕らえた力を考えれば。

 王国が軍を率いて来ても、容易に退けるだろうが。

 

「お、お前たちは、王国に内通者でも抱えているのか? この辺境から王城内に手出しなどできまい!」

「「は?」」

 

 イビルアイが、何とか口を挟み問いただす。

 至極当然の疑問なのだが。

 エンリとニグンは、苛立ちとも憐みともつかぬ顔を向けた。

 ブレインとカジットは、不安げに顔を見合わせている。二人も、まだモモンガに会っていない。使徒たる二人や、魔獣クロマル、無数のアンデッドから実力を察するのみである。

 

「……私たちは、あなたたち王国のために、今の計画を立てているのです」

「まったくだ。モモンガ様の安寧のためならば、我らは王国民を全てアンデッドに変えてもかまわんのだぞ」

 

 二人が冷たく威圧的な目を向けてくる。

 蒼の薔薇を、何の脅威とも思っておらず。

 王国が滅ぼうとも、気にかけぬ顔。

 

「でも、モモンガ様は慈悲深い御方ですからね。民が困窮すれば心を痛められるでしょう」

「心安らかでおられるよう、民にはほどよい幸福を与えねなりませんな」

 

 心配そうに祈るポーズをとるエンリ。

 黒幕然とした笑みを浮かべるニグン。

 異様な二人に、蒼の薔薇は呆然とするしかなかった。

 数日差とはいえ慣れたカジットとブレインは、黙って目を閉じている。

 

 そんな中、がらがらがらと音が響き始める。

 裏門が開き始めたのだ。

 骸骨(スケルトン)たちが綱を引き、木の落とし格子を上げる。

 村の外に渦巻く霧で湿った丸太壁と落とし戸は、火矢でも容易には燃えない。

 しかも二重に組まれている。

 たとえ裏手を攻めようと、容易に落とせはすまい。

 

 裏門を通って現れたのは、一台の荷車と少年、そして銀級冒険者たちだ。

 それを待っていたように、正午の鐘が鳴る。

 

「ああ、もうお昼なのね。ラナー王女とは仲良くする必要もありそうだし……モルガーさん、彼女らの拘束を解いてあげてください」

「人間には食事が必要ですからな。捕虜を虐待するような輩と思われては、モモンガ様の名に傷がつきましょう」

 

 エンリの指示を受け、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の一体が蒼の薔薇の拘束を解いていく。

 ボディチェックのつもりか、やたら体に触れてきたが。

 憮然としつつ、彼女らは立ちあがった。

 

「いいのかよ。武器がなけりゃ大丈夫だって思われてんのか?」

 

 捨て台詞同然に言うガガーランだが、二人は冷たく笑うのみ。

 

「親切で言っとくが、ここで暴れるのは止めた方がいいぞ」

 

 代わってブレインが言う。

 心配とか憐みとか、そんな顔だ。

 

「ともあれ、食事にしましょう。今回の件は、私たちだけで判断はできません。今日中に、モモンガ様へ伺いを立ててみます」

 

 凛とした様子で立ち、エンリが宣言する。

 

「おお、ついにお会いできるのですな!」

「やっとかよ。お前らが来たおかげで助かったぜ」

 

 モモンガの降臨を待っていたカジットとブレインが喜びを露にし。

 

「ご尊顔を拝せるとは、吉報ですな。村人らにも広く知らせ、畑の者らを帰って来させましょう」

 

 ニグンと、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)たちも嬉しそうにしている。

 

「神として扱われている……やはり、ぷれいやーなのか」  

 

 モモンガの降臨に湧きたつ者らにイビルアイが小さく呟いたが。

 聞く者はいなかった。

 

 

 

 昼食後の軽い休憩時。

 蒼の薔薇は、漆黒の剣に自己紹介し。

 その流れでンフィーレアも名乗ったのだが……。

 

「えっ、おばあちゃんが!?」

「ああ、すげー心配してたぜ。一度くらい戻った方がいいんじゃねぇか?」

 

 ンフィーレアの祖母、リイジー・バレアレが酷い取り乱しようだったという。

 

「村の中がどうなっているのか、まったくの不明だったものね。というか、村がこうなってからエ・ランテルに誰も行ってないし、帰ってもないんでしょう?」

 

 ラキュースが真面目な顔で言う。

 口には出さないが……蒼の薔薇が解放されるか不明な以上、馴染んでいる様子の彼らに、少しでもカルネ村の情報を持ちかえって欲しかった。現状では、カルネ村は正体不明かつ、恐ろしく危険な場所と考えられている。実際危険なのだが、断片的な情報であろうと持ち帰ってもらわねば、対策の立てようもない。

 

「で……でも、エンリを放って帰るわけにも……」

 

 チラチラと、ンフィーレアが窓の外のエンリを見る。

 村人らを集め、モモンガに伺いを立てること、降臨するかもしれぬこと、宣言している。

 装備も相まって、闇の聖女といわんばかりの姿だ。

 

「まさか彼女は闇の力に……」

 

 適当なことを言いかけるラキュースだが。

 

「ははーん、顔に似合わず童貞じゃねーと思ったら、そういうことかよ」

 

 ガガーランがにやにやと核心をついた。

 そう、神官と言うよくわからない大任を負ったエンリに相談される中……ンフィーレアは、彼女とそういう関係になっていたのだ。

 真っ赤になって俯くンフィーレア。

 細い体もあって、儚げで愛らしさを感じさせる仕草だ。

 

「惜しい。もう少し幼ければ」

「女装したらいける……?」

「あとちょっと早く会ってたら、美味しくいただいてやったのになぁ!」

 

 ティナ、ティア、ガガーランはそれぞれに、少年を品評する。

 

「あのエンリさんに……すごいですね」

「夜も怖いのか気になるよなー」

「愛の勝利であるな」

 

 漆黒の剣の面々も、感心している。

 なお、ニニャは外でニグンを手伝っていた。

 

「バカ言っている場合か! あの娘と関係があるならなおさら、お前自身も家族としっかり相談してこい! 心配をかけ通していい理由にはなるまい!」

「そ、そうですねっ!」

 

 強く言うイビルアイに、ンフィーレアは力強く頷いた。

 もっとも、全てはモモンガなる女神の意向次第。

 

「で、どうなんだ? あの暗黒神官娘は、激しいのか?」

「実際気になる」

「えええっ!?」

 

 いつもの調子を取り戻し、過度の緊張をすまいと。

 さっそく、ンフィーレアをいじり始める蒼の薔薇(の一部)。

 イビルアイは顔を背けて窓の外を眺めている。

 

(まあ……変に緊張して震えながら待つより、いいわよね)

 

 しっかり聞き耳を立てつつ、そんな仲間を心強く思うラキュースだった。

 




 エンリとニグンはすっかりビジネスパートナーです。
 基本、モモンガに提案したり、引きこもってるのを呼びに行くのはエンリの仕事。
 ニグンは、モモンガに聞かれた時や、助言が必要と感じた時のみ発言。
 ニグンさんは、エンリの適当な発想を、綿密に考えられた作戦と考えてます。自分の傀儡みたいにしたら、モモンガの不興を買うだろうと思って、エンリにも簡単な助言や理論的補助を与えるのみに留めてます。
 本人は知りませんが、カルネ村を現状運営してるのはエンリです。

 いろいろ重圧やストレスがあるエンリは、気心知れたンフィーに相談したり愚痴言ったり。
 無惨な状況だったクレマンティーヌの話もしたり。
 もし、モモンガが降臨しなければ兵士たちにぐるぐる回されて殺されてだろうとか言ったり。
 そんなの聞いたら黙ってられないし、二人きりだから誘われてる?とか思ったンフィーと結ばれたり。
 日々レベルアップして、鬱憤も溜まってるエンリが激しかったり。
 原作より遥かに素早く、二人はずっぷり肉体関係結びました。
 既に5日くらい経ってるのにンフィーがカルネ村に残ってるのは、エンリと離れたくないからですね! おかげで二人は今、神殿と称した別宅で暮らしてます。ギシアンうるさいし、ネムに見られると困るから……。
 そして、ンフィー視点では、エンリがニグンに取られるのではと、常にやきもきしてます。エ・ランテルに帰りたくない理由の一つです。いつも二人で話してるし、ニグンは頼りがいあるし、男性的にかっこよく見えますからね。完全にアンデッドだから、そんな心配ないんですけど(クロマルの方があぶない)。

 カジット&ブレインは、モモンガ様を呼ぶほどでもないなって保留されてます。
 そのうち降臨した時に報告でいいやってことで。
 ニグン&エンリ()だけで十分すごいので、二人は従順にやってます。
 とりあえず、カジットのおかげでアンデッド労働力はめっちゃ増えました。
 ブレインはデスナイト相手に戦闘訓練したり、ニグンに指導してもらったりして過ごしてます。

 蒼の薔薇はクレマンティーヌの存在知りません。
 エ・ランテルでの天誅殺人は知ってますが、犯人については不明。モモンガの狂信者が既にエ・ランテルにいるのかなと思ってる程度です(現状ではいません)。

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