アルベド二人旅   作:神谷涼

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 冬コミ、無事に原稿完成。
 たぶんしばらくはペース戻ります。

 思えば、ここのエンリさんはハーゴンとかバラモスのポジションですね。



19:こりゃホンマ勃起もんやで……

 夕暮れ、城塞の前に全ての村人、客人が集まっていた。

 神官エンリは昼過ぎに城塞内に入り、事情を話して伺いを立てたのだが。

 慈悲深き女神モモンガは、奥から現れず、エンリをなだめた。

 日中は仕事もあるだろう、日が暮れてから姿を現そう……と言ったのだ。

 

(下々の仕事を配慮してくれるなんて!)

 

 直接に言葉を受けたエンリは無論、伝え聞いたニグンや村人も感激することしきりである。

 真に超越者たる御方が、くだらぬ己らの仕事を思いやってくれた。

 何も知らぬ王や貴族と違い、女神モモンガのなんと慈悲深きことか!

 無論、最中だったモモンガが、時間を引き延ばしただけなのだが。

 

(思ってたより人間臭いんだな……)

(なるほど強大な術師ではなく、実際に神やもしれん)

 

 ブレインとカジットも、クレマンティーヌ等から連想していたような存在と異なるものらしいと首をかしげ。

 

(信者は大事にしてるってことかしら)

(力はともかく、悪人ではない……のか?)

 

 蒼の薔薇の面々も、少しだけ緊迫感をゆるめる。

 夕暮れで空が紅く染まる中。

 集まった者たちの前に、黒い円形の力場が現れた。

 そしてその中から……白いドレスをまとった女神と。

 黒い全身甲冑をまとった女戦士が現れる。

 両者の共通点は、悪魔を思わす角と、黒い翼。

 だが、初めて見る者らとて、二人を悪魔とは思えなかった。

 モモンガの圧倒的な美貌と威圧感の前には、神か魔かなど……些細な差でしかない。

 

 〈転移門(ゲート)〉で現れたモモンガは、最初から〈絶望のオーラⅡ〉を発動していたのだ。

 この世界で最高位たる、アダマンタイト級冒険者が訪れたと聞いてのこと。

 己の実力の一端を示すべく、村人に害のない範囲に留めた……つもりである。

 

「わずかな間に、随分と来客があったようだな」

「「は、ははっ! 左様でございます!」」

 

 エンリとニグンが震えながら、声をそろえてひれ伏す。

 村人らも続いて、慌てひれ伏すが。

 その姿は崩れ落ちたようにしか見えない。圧倒的な威圧感に、腰が抜けてしまったのだ。よく見れば、下半身に沁みを作っている者も多々。

 それなりに戦えるンフィーレアや漆黒の剣も、震えが止まらない。

 神官という立場がなければ、エンリも下半身が悲惨な状態になっていただろう。

 そして、モモンガを初めて見る者たちも、その威圧感に膝を震わせていた。

 

「か……神だ、間違いねぇ……」

「な、なんという圧倒的な威圧感!」

「まままさか、ほほほ本当に神様なの?」

「くそっ、やべぇ……近づける気すらしねぇ」

「こ、こんな威圧は、魔神どもすら……」

「くっ、心の勃起は屈しない……!」

 

 彼らは、この世界でも相当の強者。

 だが、こんな威圧感は初めてである。

 もし立ち向かわんとすれば、意識すら奪わんばかりの恐怖。

 意識を手放したくなる、どうしようもない絶望。

 まあ……約一名は、モモンガの肢体を凝視して、妙なことを口走ってはいたが。

 

「……ふむ。村人らに配慮して抑えたつもりだったが。すまないな、怯えさせたようだ」

(Ⅱでもこれかぁー……アダマンタイトなんて柔らかい金属が最高級らしいし、あの戦士長と同じ程度ってことかな? この世界の人らホントに弱すぎない?)

 

 モモンガは周囲を見回し、肩をすくめて〈絶望のオーラⅡ〉を止める。

 恐怖に震える者らが、呆けた顔を見せる。

 

「ニニャ、ンフィーレア。神の御前である! 粗相した者らを即刻清めよ!」

 

 ニグンが慌て、〈清潔(クリーン)〉の呪文を使える二人に叫び、呼びかけた。

 神の前で不浄を垂らした者らを放置してはおけない。

 悪臭が届けば、村ごと消滅させられても文句は言えぬのだ。 

 二人が慌てて、腰の抜けた村人らの間を回り呪文をかけ始める。

 

「我らも手伝わねばならん、偉大なる御方の御前ぞ!」

 

 同じ呪文が使えるカジットも弟子らに呼びかけ、自主的に動いた。アンデッド――つまり死体を扱う彼らにとって、〈清潔(クリーン)〉は自身が病に侵されぬための必須呪文。

 村人らも礼を言う。

 腰を抜かして動けぬ村人らに、呪文をかけるカジットの姿は、手慣れたものがある。彼は元より農村出身。スレイン法国の神官時代には、民への奉仕活動もそれなりに経験しているのだ。実際、彼と弟子はこの数日はアンデッドを使った耕作や土木作業について、ニグンに師事し。ニニャとも交流していた。来客の中では、最も村に打ち解けつつある。

 そんな姿に、モモンガも感心し、声をかけた。

 

「おお、来客に働かせてすまないな。魔法を使える者は歓迎するぞ」

「モモンガ様にお褒めいただき、ありがたき幸せでございます!」

 

 己の予想を遥かに上回る、ズーラーノーン盟主などより遥か高みの存在に。

 カジットは感激と共に頭を下げた。

 無論、その間も民への奉仕は止めない。

 

 こうして不浄を清めるまで、神前報告はしばし中断された。

 その間に、彼はエンリを呼び、来訪者たちの名を聞き。

 特にカジットとその弟子がアンデッドを連れて来たと聞くと、満足げに頷いた。カジットの評価は既に相当高い。カルネ村を保護下に置いた彼にとって、村人と打ち解け、己の知らぬ〈清潔(クリーン)〉なる呪文を使えるというだけで、十二分に価値がある。アンデッドを大量に連れて来たことも、モモンガにとっては人口増加同然だ。

 

 

 

「私のせいで、いらぬ手間をかけたな。ニニャ、ンフィーレア。それにカジット殿と……その弟子の者たちも」

 

 モモンガが直接、呪文を使った者らを労う。

 村人やニグン、エンリは、彼らにかすかな嫉妬を覚えた。

 

「さて、来客には順に話を聞こう。まずは、多数のアンデッドを提供してくれた上、今も村人のために働いたカジット殿からにしようか」

「ははっ、ありがたき幸せにございます!」

 

 カジットが背筋を伸ばした。

 軽く自己紹介し、クレマンティーヌに紹介されたこと、ズーラーノーン十二高弟であること、己の目的、研究のためにアンデッド化を求めていること……包み隠さず言う。目の前の相手が、騙して利用などできる存在でないと見越してのことだ。

 蒼の薔薇は、ズーラーノーンという言葉にどよめくが。

 目の前にもっとヤバイ神がいるので、口は挟まなかった。

 というか、挟もうとしたイビルアイは、ティアとティナに抑えられていた。

 

「――なるほど。しかし、それは私ですら命を削らねばできぬ蘇生。不可能とは言わないが……たとえアンデッドと化そうとも、難しいぞ。わかっているのか?」

「ぐ……わ、わかっております! それゆえ、狂人と謗られつつ、これまでの人生を歩んでまいりました!」

「……お前を知性ある高位アンデッドに変えることはたやすい。お前の母も、亡骸があり、その霊魂が未だ地上に留まっていれば、知性あるアンデッドとして蘇らせられよう。それでは駄目なのか?」

「そ、それは……」

 

 カジットは言葉に詰まる。

 彼の目的はあくまで、母の完全なる蘇生。

 この世界において知性あるアンデッドとは“自ら成る”ものであり、他者が“造る”という考えはなかった。

 だが、目の前の女神は、知性あるアンデッドを“造る”。

 あの多数の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)、ニグンという最高位アンデッドを思えば、間違いない。

 おそらく頼めば、カジットも高位アンデッドにしてもらえるだろう。

 母の亡骸――遺骨の壺は、エ・ランテルの拠点を引き払う際に持ってきた。自身もアンデッドとなるなら、母もアンデッドでかまわないのでは……と思えてしまう。自慢だった母の容姿さえ損なわれなければ。

 悩む様子を汲んだか。

 慈悲深き女神は、いたわるように言う。

 

「急がずともよい。迷うなら、よく考えるのだ。今更、一日早かろうと遅かろうと、変わらん。それに、ぬか喜びさせてしまったが……お前の母の魂を呼び戻せる可能性は、かなり低い」

「あ、ありがとうございます……不敬は承知でございますが、しばし考えさせてください」

 

 魔術師は俯いた。

 今までを思えば、贅沢過ぎるほどの悩みだが。

 それでも……すぐには決断できなかったのだ。

 

「残酷な決断を迫ったようだな。しかし、お前の望みは……どのみち、いつか決断を迫られただろう」

「は……ありがとう……ございます」

 

 狂った目的のため、非道の行いを繰り返してきたズーラーノーン十二高弟が一人、カジット・バダンテール。

 だが、今。

 女神の慈悲に触れ。

 彼の中で何かが大きく、変わろうとしていた。

 

 一方で、その弟子たちは自らアンデッド化に即答する思いきりは持てず。師の決断か、他の者のアンデッド化を直接確認してから……と考えた。

 彼らはしばらくは、カルネ村に逗留し続けることが決まる。

 

 

 

「さて、蒼の薔薇の案件は少し時間がかかる。そちらの剣士殿の話を先に聞こうか」

 

 カジットに続き、話を振られたのはブレインである。

 ブレインもまた、軽い自己紹介の後に……ガゼフに敗北したこと。研鑽し腕を磨いたこと。己がクレマンティーヌに完敗したこと、彼女に紹介されたこと、剣士としての己を高めたいことを説明する。

 女神相手でも態度を変えぬブレインに、周囲がざわめき怒りを向けていたが。

 モモンガは特に気に掛ける様子もない。

 蒼の薔薇の面々は、逆に好感を覚えもしたようだが。

 

(あの天才剣士でも、同じような悩みはあるんだな。それにしてもクレマンティーヌってのは、どんなやつなんだ?)

 

 特に伸び悩みつつあるガガーランは、彼の言葉に少なからぬ共感を覚えていた。

 一方で、モモンガはカジットほどには容易に答えを出せずいる。

 少しばかり、彼は首をかしげた。

 

「まず言っておくが……クレマンティーヌは私の手で、高位のアンデッドに生まれ変わった。以前の彼女なら、お前も人間同士として納得のいく水準だったろう」

「種族の差だって言いたいのかよ」

 

 憮然とした様子で、ブレインが言う。

 モモンガは、母が教え諭すように続ける。

 

「お前は剣士として、剣の腕を磨いてきたのだろう」

「そうだ」

「あらゆる存在は生まれ持った力がある。お前は人間としては、十分に一流の剣士で、最高峰と呼べるのだろう」

「そのつもりだった。だが――」

 

 まるで足りなかったと、続ける前に。

 モモンガが言葉を遮った。

 

「力とは、同じ群れの中で競うものだ。お前は……そうだな。何の訓練もしておらん村人と戦うことをどう思う」

「戦う意味なんてねぇ。弱い奴をいたぶる趣味はないんだ」

 

 モモンガが微笑む。

 

「そうか。なら、熊と一対一で戦って勝てるか?」

「当たり前だ、熊くらいなら勝てる」

「何の訓練もしておらん、戦いの素人の熊にだろう」

「ぐ……」

 

 ブレインが、言葉に詰まる。

 

「ドラゴンでもいいぞ。巨大でブレスを吐くあれらは、強く見えるだろうな。だが大半のドラゴンは、村人と同じで戦いについてろくな訓練も研鑽もしておらん。ただ“食料を得る”技術を磨いているだけ。畑を耕す村人と、何も変わらん」

「……何が言いたい」

「仮にお前がドラゴンと一対一で戦って勝ったとしよう。お前は己の力を誇り、周囲はお前を英雄ともてはやすだろう」

「……そうだ、ろうな」

 

 何が言いたいか、察せてしまった。

 

「だが、それはお前の独り相撲だ。お前はただ、強い動物という“物差し”で、己の強さを示したにすぎん。それは、お前の言う“剣の道”とは違うのではないか?」

「……あれは、あの女は、ただの“物差し”なのか?」

「そうだ。クレマンティーヌは私の使徒であり、人間ではない。同じ言葉を話し、人間に見えたがゆえ、惑わされたに過ぎん。お前を同じように高位アンデッドに変えることは容易だが……」

「…………」

 

 ブレインの顔に懊悩が浮かんだ。

 己自身の魂を深く切り込まれて、取り乱してしまう。

 

(そうだ。アンデッドになりたいわけじゃない。しかし、魔法やアイテムに頼って、剣の高みを目指した……なら強さを求めてアンデッドにもなるべきじゃないのか? 王国の秘宝を身に着けたあいつは、おそらく今の俺より強い。だったら俺も、強い刀を手に入れるように、己の肉体自体を強くして何が――)

 

 ブレインの目に昏い光が灯る。

 だが。

 

「そうだ。奴に勝つために俺は、力を――」

「そうか。つまり、お前はそいつの“強敵”ではなく“物差し”になりたいのだな」

 

 ぽつりと、女神が言った。  

 

「あ――」

 

 愕然とし、ブレインが膝をつく。

 己のしようとしていたことの、あまりの情けなさ、恥ずかしさに、涙すら出た。

 顔を露にしていることすらできず、自然と身をまるめ、地に顔をこすりつける。

 

「ああああああああああ……」

 

 大勢の前にも拘らず、慟哭が……涙と共に溢れた。

 

「己の目的を見誤るな。しばらくお前は己を見つめなおせ。ただ力を求めても、お前の望みは叶わん」

「……あ。あ……、ありがとう、ございます」

 

 ブレイン・アングラウスは初めて心から……ひれ伏し。

 涙のにじむ声で女神に礼を言った。

 このやり取りを見る者たちは皆、女神の慈愛と偉大さに感動し。

 深くひれ伏す。

 蒼の薔薇すら、自然と膝を屈してしまっていた。

 女神もまた慈母の微笑みで、彼を見下ろす。

 

(ふふ、たっち・みーさんや武神建御雷さんを思い出すな。実力が僅差のライバルなら、チートを使っちゃダメだろ。お互いに納得いく戦いをしなきゃね。たっち・みーさんをメタ読みで完封したからって、素直に誇れないもんな)

 

 過去に想いを馳せた微笑む。

 背後に控えるアルベドが、ギリッと歯がみした。

 

(ファッキン! あの連中、まだモモンガ様の心を浸食するというの! くうううう、もう二度と思い出さず私のことだけ考えるように、城塞に戻ったらもっとぐっちゃぐちゃにしてさしあげなければ……!)

 

 そんなアルベドの胸中に、モモンガは無論のこと。

 その場も誰も気がつかない。

 いや。

 

(ん? 雌を狙う雌の視線……あの甲冑の女神はまさか同好の士……あの鎧の中はどんな姿か、妄想が捗る……)

 

 ただ一人、当初から女神を性的な目で見ていた忍者姉妹の片方が。

 アルベドの性的決意だけ、しっかり把握していた。

 

 

 

「さて、待たせたな。蒼の薔薇の者たちよ……王国について話をしたいのだったか?」

 

 ブレインを優しい笑みで、しばし見守ってから。

 モモンガが、蒼の薔薇へと視線を向ける。

 

「は、はい。その、この村と王国についてどのように考えてらっしゃるか、伺いたく……」

 

 ラキュースは何とか、当初の予定していた言葉を紡ぐ。

 もはや、目の前の存在が女神であることを疑えない。

 少なくとも尊敬すべき人物にして、超越的存在であることに変わりはないのだ。

 冒険者としても、貴族としても、王国民としても、人間としても。

 決して敵対してはならない存在だと。

 最初の威圧と、先の二人とのやりとりで思い知らされていた。

 




 モモンガさんのSEKKYOU回。エロ薄いよ、何やってんの!
 ギルマスの仲裁スキルを、超越者の立場から行使してる感じ。
 それぞれの反応は以下の如し。

カジット「神よ!」(信者化)
カジ弟子「突然アンデッドになれるって言われても心の準備が……」(消極的信者化)
ブレイン「ママー!」(信者化)

ラキュース「ほんとに女神だったんだけど!」(神承認&軽パニック)
イビルアイ「ぷれいやーヤバすぎる。生きて帰れるかな……」(空ろな目)
ガガーラン「引退したらこの村に住もっかな……」(信者化しつつある)
ティア「こりゃホンマ勃起もんやで……」(平常運転)
ティナ「ショタ不作……」(平常運転)

 おさらいも兼ねて、その他の現状。

エンリ「ンフィーもいるし、神官としてがんばらなきゃ!」(狂信者&新婚生活)
ンフィ「結婚前なのに激しすぎるよ……でも幸せ」(消極的信者&新婚生活)
ニニャ「モモンガ様に全てを捧げます!」(狂信者)
漆黒の剣「エ・ランテルに戻らなくていいのかな」(困惑からの適応過程)

ニグン 「モモンガ様降臨! 幸せ!」(狂信者)
クレマン「そろそろ王都に行こっかな」(天誅ツアー中)
クロマル「森のモンスターレベル低いなー」(森で無双中)

 国家や都市の首脳部は特に変化ありません。
 帝国には、スパイやブルムラシュー候経由でガゼフ帰還回りがそろそろ届くかな?程度。
 カルネ村情報はまだ、エ・ランテルで広まってないため帝国に届かず。
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