アルベド二人旅   作:神谷涼

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 そういえば14巻が出ると、ガラッと設定の変わる可能性もあるのだった……。



20:マスク・ジ・エンド!!

 

 モモンガは蒼の薔薇の面々を見回し、イビルアイに目を止める。

 

「――話し合う前に、その者に仮面を取ってもらってかまわないか?」

「っ!」

「ど、どうしてでしょうか。失礼に当たるのでしたら、彼女は下がらせますが……」

 

 イビルアイが息を呑み、ラキュースが何とかとりなそうとする。

 

「いや。まだ幼い身なのだろう? 傷や呪いで容貌を損なっているなら、私が癒せるかもしれん」

「そそそんなわけないだろ!」

「っ、バカ……」

 

 食って掛かるように言うイビルアイに、ラキュースが頭を抱えた。

 

「モモンガ様の慈悲深きお言葉に何という態度!」

「これ以上失礼なきよう、取り押さえておきましょうか」

 

 エンリとニグンが、怒りを露にする。

 アルベドも二人に頷きかけた……が。

 

「やめよ」

 

 モモンガが三人を抑えるように手を挙げた。

 険しい視線を向けたままではあるが、三人が一歩下がる。

 

「確か、イビルアイ殿だったな。名といい、仮面といい、お前は私に正体を明かせぬ身ということか?」

 

 じっと見据えて言う。

 その目は冷たく、今にもあの威圧感を放ちそうに見えた。

 冒険者に過去の詮索は……などという言葉で言い逃れできる相手ではない。

 

「わ、私はっ」

 

 言い淀むイビルアイは、いかにも年相応の少女、いや幼女に見える。

 

「責めるつもりも、なぶるつもりもないのだがな。アルベドよ、兜を外せ」

「はっ、承知いたしました」

 

 初めて発されたアルベドの声は、モモンガと酷似している。

 まずい、とラキュースは焦った。

 彼女が顔を露にするなら……礼儀上、イビルアイも見せぬわけにいかなくなる。機嫌を損ねていい相手ではないのだ。

 

「っ、それには――」

 

 及びません、と言おうとしたが遅かった。

 アルベドが兜を脱ぎ……モモンガと同じ顔を露にする。

 

「モモンガ様と同じ顔……!」

「二柱は双子であらせられたのか!」

「双子でカップル……いける?」

「こっち見んな」

 

 元より、アルベドの素顔を知るのはニニャとニグンのみである。

 エンリも含め村人らは、騒然となった。

 

「……さて、これでこちらは隠した顔を晒したぞ。お前の素顔を見せてもらえないのか?」

 

 モモンガが小さく首をかしげた。

 あたふたと慌てるイビルアイだが、ラキュースも首を横に振って見せるしかない。

 ここで仮面をつけたままでは、信用など得られまい。元よりアンデッドを使役する神と、その信徒の村だ。イビルアイの正体をとやかくは……たぶん、言うまい。

 

「わ、わかった……素顔を、見せる……」

 

 イビルアイが震える手で仮面を、はずして見せた。

 紅い目と、八重歯めいた犬歯が明らかになる。

 美しい、と言っていい容貌だ。

 某階層守護者をふと思い出し、モモンガの顔がほころぶ。

 

(く……あのヤツメウナギ、まだモモンガ様の中に……!)

 

 シャルティアと、その創造主を思い出しているのだと気づき、アルベドの表情は険しくなった。

 

「なんだ、吸血鬼か。隠すほどの秘密でもあるまいに……いや、人間社会は吸血鬼を差別しているのか?」

 

 モモンガが呟いた。

 

「まあ、吸血鬼は人類の敵とされておりますからな。隠しておるのでしょう」

 

 ニグンが素早く、吸血鬼について補足を入れた。

 思った反応とは違うが、蒼の薔薇の面々は安堵の息をつく。

 

「そうだったか。では、人の名を捨て、異なる名を名乗るも道理だな。イビルアイよ、すまなかった。この通りだ。少々誤解していたらしい」

 

 モモンガが軽く頭を下げて見せる。

 

「モモンガ様、そのような者に頭を下げる必要は!」

「モモンガ様に間違いなどありません!」

「その者が紛らわしい姿をしていたせいですよ!」

 

 アルベド、ニグン、エンリが、叫ぶように言う。

 モモンガに頭を下げさせたイビルアイには、殺意とも言える視線が刺さった。

 カジット、ブレイン、ニニャ、村人、アンデッドらの視線も、剣呑極まりない。

 背を向けているモモンガは気づいていないが、イビルアイとしては先刻の威圧に迫らんばかりの恐怖である。

 

「っききき、気にしてないぞっ! 仮面を着けていた私が悪いのだからなっ!」

「そうです、モモンガ様に問題など!」

 

 慌てて、イビルアイも震え声で言い。

 ラキュースも、「様」を付けて敬意を示す。

 

「そうか。そう言ってもらえるとありがたい。良ければ、イビルアイ殿にはこの村では仮面を外して過ごしてくれたまえ。吸血鬼を差別する者などいない場所だ。私が保障しよう」

 

 子供にするように、イビルアイの髪を撫でる。

 サキュバスのスキル〈淫魔の愛撫〉を乗せたそれは、まさしくナデポ。

 イビルアイの強張った心も蕩かす……はずだったが。

 アルベドらのドロドロとした視線が、それを許さない。

 頭部に送られる快楽と慈愛。

 五感に送られる憎悪と憤怒。

 心弱き者ならば、その場でショック死してもおかしくない、相反する過剰感覚。

 

「ああああ、ありびゃとうごらいまひゅっ!」

 

 イビルアイは、吸血鬼になって初めて、失禁しそうになりながら屈し。

 ひれ伏して礼を言った。

 

「ふふ……しかし、読みも外れてしまったな。てっきり、正体は件の王女殿かと予想していたのだが」

「えっ」

 

 今度は、ラキュースが呆気にとられる。

 一国の王女がこの辺境に来ると思っていたのだろうか、と。

 

「有能な人物なのだろう? 直接現れて驚かせようとしているのかと思ったが。ふむ……名前は何と言ったか?」

「リ・エスティーゼ王国第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフですな」

 

 チラと横を見て問えば、即座にニグンが答える。

 

「ああ。そのラナー殿は、私に友好的な関係を求めていると聞いたのでな」

「は、はい。もちろんです。しかし、王国にはまだ情報が少なく……戦士長の報告も、法螺話扱いされております。私たちはモモンガ様について見定めるよう、言われて参りました」

 

 モモンガは首をかしげた。

 

「戦士長は王の信頼厚いと聞いた覚えがあるが……彼の言葉は思いのほか、軽いのだな」

「……申し訳ございません」

 

 王ではなく貴族の問題である。

 彼は平民出身というだけで、貴族から冷遇されている。

 たとえ、重視されようとも、女神の常識外れに過ぎる実力を信じたりはできまい。中途半端に信じて、愚かな貴族が暴走しなかったのは奇貨と言っていい。

 ニグンが言葉を継いだ。

 

「仕方ありますまい。モモンガ様は人類の想像を遥かに絶した力を持つ御方。何より、彼女ら蒼の薔薇は、クレマンティーヌとは入れ違いになったのでございましょう」

「ん? ああ……そういえば、そうなるか。確かに、アレを知っていれば、少しは反応も違うはずだからな」

 

 不穏な会話に、蒼の薔薇……それにカジットやブレインも顔を見合わせる。

 村人も含め、クレマンティーヌが姿を消した理由など知らないのだ。

 

「ニニャの嘆願に、エンリ、ニグン、クレマンティーヌの意見を合わせた結果、王国貴族があまりに下劣かつ邪悪であると判断した。よって、該当する貴族の粛清を始めている」

「はっ!? そ、それはどういう!?」

 

 貴族のラキュースは思わず問いただした。

 その場にいた大半も、驚愕し、唖然としている。

 

「民を不当に搾取する貴族、虐待する貴族、奴隷にする貴族が対象だ。他国との癒着、麻薬栽培などは……まあ、民の生活や、各貴族の立場もあるだろう。判断材料とはしておらん。要は人間として、あまりに道を外れた者を処罰させている。ああ、盗賊団の類も見かけたら、適当に潰すよう言っているぞ」

「す、すみません、それは王国がすべきことであって、モモンガ様がなさることでは……」

 

 明らかに内政干渉だ。

 ラキュースは最大限、穏やかな言葉で咎めるに留めようとするが。

 

「王国が彼らを咎めるとでも言うのですか!」

 

 魔法詠唱者の少年――ニニャが怒りをにじませ、口を挟んだ。

 

「私も相当の年月にわたり、王国貴族の所業を見てきたつもりだ。民への行いから処罰された貴族は皆無。少なくとも、一月ばかり前に見た法国の調書では、そうだったはずだが? 何か貴族を処罰する新法でも、発令されつつあったのかね?」

 

 ニグンも嘲りを隠さず、援護する。

 エンリを始めとする村人らも頷いた。

 

「失礼ながらモモンガ様、この者たちは御身を神ではなく、王国領土への侵略者と考えているのではないでしょうか」

 

 冷たく見据えるアルベドが、さらに言葉を重ねる。

 村人らの怒りが、さらに高まった。

 怒号すら響く。

 蒼の薔薇は、ここが完全な敵地だと思い知らされる。

 名声に憧れる者も、親切心から味方になってくれる者も、いない。

 

「いや、仕方あるまい。何の庇護も与えずとも、この村は王国の所有物と考えられていたようだからな」

 

 鷹揚に、モモンガが村人を諫めれば。

 彼らは瞬時に静まった。

 どれほど怒りがあろうとも。

 女神の言葉を妨げる理由にはならない。

 

「そうだな。当人の報告を聞いてみるとしようか」

 

 モモンガの慈悲だけが、頼りとなっていた。

 

「〈伝言(メッセージ)〉――クレマンティーヌよ。状況はどうなっている?」

 

 

 

 

「あの魔法、ホント便利だねー。王国中走り回った身としては、移動手段も欲しいなーって思ったりー」

「クロマルを貸そうか?」

「やめて」

「あの程度の連中相手なら、魂喰らい(ソウルイーター)で十分かと」

「それもそうか」

「ありがとー、アルベドちゃん!」

「誰がアルベドちゃんよ……」

 

 探索魔法で居場所を探り、〈転移門(ゲート)〉で一瞬にして帰還したクレマンティーヌ。

 彼女が神々と緊張感のない話をしている中。

 他の面々は、中空に映るそれを見て、ぽかんと口を開けていた。

 

 やがて、じわじわと。

 それぞれが、それぞれなりに。

 理解し始める。

 

 ニニャはドス黒い愉悦の笑みを浮かべ。

 カジットは、主の力に喜悦を露にして。

 村人らは多かれ少なかれ、留飲を下げた顔。

 蒼の薔薇……貴族の生まれのラキュースには絶望しかない。

 

「なんだよ……あれ」

「どれも……貴族ばかり。全員丁寧に、紋章や旗までつけて……」

「ただの動死体(ゾンビ)じゃないぞ。頑丈すぎる」

 

 モモンガの造り出した〈水晶の画面(クリスタル・モニター)〉には。

 遠く、王都を臨む街道を、ぞろぞろと進む貴族たちの動死体(ゾンビ)の姿があった。

 周囲を取り囲む松明で、それらは夜なお明るく照らされている。

 松明の持ち主……巡視兵らが矢を射かけ、槍で突いているが。

 まるで効いた様子もない。

 燃え上がらせようと火を近づけても、それらは松明を払いのけ、器用に火を避けていく。

 ただの動死体(ゾンビ)ではなく、70レベル台のクレマンティーヌが生み出した従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)

 特殊能力こそないが、死の騎士(デス・ナイト)と同じかそれ以上のスペックである。

 無抵抗でも、一般兵に傷をつけられる存在ではない。

 いや、傷だけなら見るも痛々しい拷問の痕跡が残っている。

 彼らは己の身分を喧伝するように紋章を掲げ。

 マントのように羽織った布には、血文字で大きく。

 

『この者、外道なり。女神モモンガの名のもとに天罰を下す』

 

 伝説級の強さを持つアンデッドが、紋章とマントだけを守りつつ、ひたすら前に進む。

 明日の朝には、王都の門からも見えるだろう。

 既に相当の騒ぎとなっているだろうに、王都側に兵が配置された様子もない。

 根拠のない自信に満ちた、王都の兵を思えば……たかが動死体(ゾンビ)と、ろくに調べもせず放置しているのだろう。

 どれほどその頑強さを報告しても、巡視兵たちは無能だと罵られているに違いない。

 きっと、あれらは王都の門に至るだろう。

 もし、蒼の薔薇があのまま王都にいたら……あれの対処に駆り出されたかもしれない。

 

「こっちに来て……いろいろ教えてもらってよかったな」

 

 こと“冒険者”としての経験は最も高いガガーランが、しみじみと呟いた。

 見た目に反して、一体でも相当の難敵だ。

 それが百体近くいる。

 王都に入り込もうとするそれを、城壁の外で押しとどめろと言われれば……正直、蒼の薔薇でも無理だろう。

 兵と冒険者をかき集め、一丸となればあるいは……という程度。

 倒しても動死体(ゾンビ)相手に苦戦したと罵られ。

 倒せなければ全責任をかぶせられかねない。

 貧乏くじどころではない……厄ネタそのものだ。

 

「叔父様……朱の雫も、今は王都にいないはず。すると対処は……」

「戦士長に同情」

「貴族から無能って言われるのに金貨一枚」

 

 戦士団でも食い止められまい。

 身元の証明までしっかりつけた、あの動死体(ゾンビ)が、王城までねり歩けば、貴族の権威失墜は免れない。

 貴族間は血縁でしっかりと結びついている。

 王都にも彼らの血縁者や、その配偶者がいるはずだ。

 ラキュース自身が、鼻持ちならぬ求婚者を多数袖にしたのだし。

 見覚えのある求婚者も……動死体(ゾンビ)の中には交じっていた。

 そんな風に、ようやく冷静に、分析をすれば。

 

「――とまあ、こんな次第だ。王国における私の認識も変わるだろう」

 

 気取りすらなく、当たり前のことのように。

 女神が言った。

 





 王都ゾンビ災害前夜。
 なお、ゾンビは押しのけて前に進むだけなので、人的被害はほとんど出しません。
 モモンガ様は慈悲深い女神ですからね!

 予定では、蒼の薔薇とのやりとりは今回で終わるはずだったのですが。
 イビルアイのマスク狩りで、文章量やたら増えてしまいました。
 一対一ならナデポ発動間違いなしでしたが、狂信者プレッシャーによって打ち消されてます。

 ティア&ティナは内心ビビってますが、顔には出さず平常運転です。
 これもリーダーたちの平常心を保つための心遣いなんだ……。

 こういうやり取りさせてると思いますが、ニグンさんめっちゃ便利で有能ですね。
 社会情勢とか常識とか、だいたいなんでも知ってるので、素早くフォローしてくれます。
 人間視点でのアレコレもできるので、たぶん転移後世界の補佐役としてはデミウルゴスより優秀。
 変な深読みもしないしね……。
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