アルベド二人旅   作:神谷涼

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 蒼の薔薇とのアレコレが終わらない……!



21:モノを食べる時はね

 モモンガの言葉を継ぎ、クレマンティーヌが報告していた。

 

「――とーりあえず、使用人とか子供特に殺す必要ないなーって人には、カルネ村に行くよう言っといたよー。そっちもそろそろ来るんじゃないかなー?」

「よくやった。礼を言うぞ」

「えへへー♪」

 

 モモンガに頭を撫でられ喜ぶクレマンティーヌは、まるで子供のようだが。

 ブレインは、彼女の恐るべき戦闘力を身にしみてしっている。

 

「さて……その上で、ニグン、エンリよ。蒼の薔薇の方々とした話を、教えてくれるか」

「「ははっ!」」

 

 村人らの前で、王国の命運にも関わる話が……明かされた。

 

 

 

 

「……ふむ。どうなのだ? 王が変わってこの現状が変わるのか?」

 

 一通りの話を聞き終えたモモンガが、蒼の薔薇に問いかける。

 おかげで、ラキュースは思わぬ形で王国大使の立場になってしまっていた。

 

「王は現状を変えようと努力しておりますが、結果を出すには至っておらず……」

「毎年、戦争をしているそうだな。兵士は民を徴兵しているのだろう?」

「……その通りです」

「なるほど。以前にニグンが言っていた通りの状況か。いずれにせよ、その王女と話がしてみたいな」

「で、では会見できるよう、私から具申して……」

 

 だが、神がそんな手順に従う必用はない。

 

「〈生物発見(ロケート・クリーチャー)〉〈次元の目(プレイナー・アイ)〉――王宮だというのに、まったく対策をしていないな」

「も、モモンガ様!?」

「貴様まさか……!」

 

 魔法詠唱者(マジックキャスター)のラキュースとイビルアイにはおおよそ、呪文の見当がついた。

 モモンガは、ラナー王女を今すぐ呼び寄せるつもりなのだ。

 動死体(ゾンビ)を映していた〈水晶の画面(クリスタル・モニター)〉のそれが切り替わり、王宮内で夕食を前にした王女を映す。

 ラナー王女の美貌に感心する村人はいない。

 ここには、もっと美しく強く優しい女神がいるのだから。

 

「さすがに、食事前に呼ぶのは悪いか。就眠前など人のいない時間に――」

 

 王女の美貌には無関心な村人たちだが、王女が前にした王宮の料理に――

 誰かの腹が鳴る音が聞こえた。

 モモンガが目を丸くし、きょとんとした顔を見せた。

 

「し、失礼いたしました!」

 

 村人の代表であるエンリが急ぎ詫びる。

 女神の配慮により、村人は精一杯働いて来たばかり。

 今こそここに集まっているが……本来はそろそろ、夕食の時間なのだ。

 だが、それが女神に失礼を働く理由になるか?

 なるわけがない。

 エンリは必要とあらば、腹を鳴らした村人を処刑し、自らも罰を受ける覚悟。

 

 だが、慈悲深い女神はただ、顔をほころばせて。

 

「ああ、食事――そうだ食事だ。お前に夢中ですっかり忘れていたが、食事だぞ、アルベド!」

 

 画面の映像が消え、画面自体も消失する。

 変わってモモンガはいつになく、興奮した様子。

 ぴょんぴょんと子供っぽく跳ねている。

 無邪気な表情に反して、大きな乳房も跳ねる。

 ティアの目は、獲物を狙う猛禽のそれになっていた。

 

「はい、ここに来た日に食べるはずが、随分と長くおあずけになってしまっておりましたね」

「ああ、楽しみにしていたのに、思えばお前とばかり――だったな」

 

 人目に気づいて口ごもるモモンガが、酷く愛らしい。

 そして、あの粗食とすら呼べぬ“りある”で枯れた舌を潤したのが己の体液なのだと思うと……アルベドの表情も蕩けてしまう。

 モモンガを抱き留めたアルベドは、素早くエンリに指示する。

 

「エンリ、モモンガ様は地上の食事を楽しみにしてらしたの。今すぐ、食事の用意をなさい」

「私がですか! も、モモンガ様のお口にあう料理ができるか――」

 

 エンリに限らず、村人らもざわめく。

 わずかな間とはいえ、王宮の御馳走を見たばかりだ。

 モモンガのおかげで余裕が出たとはいえ、村の食事は粗食である。

 それも今すぐとなれば、作り置きの料理を温める程度しか……。

 だが、偉大なる女神の慈愛は、人の想像など軽く超える。

 

「いや、かまわん。お前たちの食べる料理を出せ。せっかくの機会だ、皆で食事をしようではないか。カジットやブレイン、蒼の薔薇の者たちへの歓迎も込めてな。お前たちと共にする夕餉は、今見た王宮の料理にも勝るだろう」

 

 上機嫌でモモンガが言う。

 かつての食事よりは絶対美味だろうし、オーガニックな味を感じてみたい。

 だから早くしろという意図だったが……。

 

「「も、モモンガ様…………ッ!!!!」」

 

 村人らの忠誠心を天元突破させるに十分であった。

 全員が感動の涙で視界をぼやけさせつつも、急ぎ駆けだす。

 その場で鍋を温められるよう、石でかまどを作ったり、火を起こす者もいる。

 レンジャーのラッチモンとルクルットは、そんな作業の陣頭指揮を始めていた。

 女神との晩餐だ。

 どんな英雄も王も神官も――これ以上の贅沢を味わえるはずがない!

 

(モモンガ様は天運をお持ちね……人間に関しては、よほどのことがなければ口出しする必要もなさそうだわ)

 

 頭のいいアルベドはもちろん、主と村人のすれ違いに気づいているが。

 良い方に転ぶならば、誤解は放置する方針である。

 

「これが神……」

「やべぇ……器が違う……」

「六大神や八欲王並みということか」

「しかも、村人の会話を信じるならパンツはいてない」

「別の意味で器が違う……!」

 

 実際に村人らの様子は、蒼の薔薇が王国で……いや、他の国でも見たことがない。

 イビルアイの長い人生の中ですら……ない。

 真に生きる喜びに溢れ、活気に満ちた人間が、これほど輝けるのかと思うほどだ。

 女神を見る前は、狂信者の類と見ていたが。

 あの女神に仕え、守られて生きるなら。

 きっと……すべてが輝き、己自身も輝けるだろうと、蒼の薔薇にも確信できた。

 確信できてしまったのだ。

 

「神に比べれば英雄なんて……ほんとうに小さな存在なのね……」

 

 ラキュースの呟きに答える者は、いなかった。

 

 

 

 

「すごい……おいしい……」

 

 持ち寄られた各家庭のスープやシチューを口に運び。

 モモンガはぽろぽろと涙をこぼしていた。

 かなりこぼしてもいるが、もちろん咎める者などいない。

 

「うう……来てすぐに食べたらよかった(ひへふふにはふぇははよはっは)……でもアルベドと離れたくないし(へもあふへほふぉはふぁへはふはひ)……」

「ゆっくり味わって食べてください、モモンガ様。食べながらしゃべらなくても大丈夫ですよ」

 

 泣きながら言葉を紡ぎ続けるモモンガを、アルベドが抱き支え、髪を梳くように撫で続ける。

 食事の準備中に、アルベドは黒いドレス姿になっている。

 モモンガと寄り添う姿は……仲睦まじい双子のようだ。

 

「「モモンガ様……」」

 

 至極一般的な……どちらかといえば粗食である。

 ンフィーレアが魔法で作った香辛料を多めに使っている分だけ、ほんの少し贅沢ではあるが。

 本当に、日常的な食事と変わらない。

 周りの者は無論、目の前に湯気を立てる鉢を置いたまま……女神の様子をじっと見ている。

 

「神様の世界って、ごはんがおいしくないのー?」

 

 クレマンティーヌが空気を読まず尋ねる。

 

「モモンガ様はこの世界に受肉され、今初めて“食事”し、“味”を知られたのです。私やクロマルは先に受肉していましたが……モモンガ様は、これが生まれて初めての食事なのですよ」

(まあ実際は私のいろんな汁が、最初の食事なんだけどねー!)

 

 口に出さず、内心で勝利の雄叫びをあげつつ。

 女神の従者にふさわしい口調で言う。

 モモンガは夢中で味わい、食べている。

 

「これがモモンガ様の初めての食事ッ……!」

「お、お姉ちゃん!」

 

 最初に料理を口に運んでもらう栄誉を得たエンリと、その母が光栄のあまり失神した。

 まだ幼いネムが、父と共に何とか支える。

 

「さあ、皆さんも食べてください。モモンガ様は、皆さんと共に食事するとおっしゃったのです。モモンガ様一人に食べさせてはいけませんよ」

 

 アルベドが落ち着いた様子で言う。

 皆が歓声をあげ、女神との晩餐を味わい始めた。

 その料理はいつもなにげなく食べているもので。

 味は何も変わらなかったが。

 それに女神が感じ入り、涙まで流してくれたのだ。

 いつもと同じはずなど……なかった。

 

 

 

 

「なぁ……正直、俺もうここで定住したいくらいなんだが」

「そうね……私もいろいろ忘れてここにいたいって思うくらい。これは信仰なのか忠誠なのか愛情なのか……いえ、きっと全てを抱いてしまってる」

 

 ガガーランとラキュースはすっかり、その場の空気に呑まれていた。

 いや、モモンガと言う神に惚れこまされたと言ってもいい。

 同じく聡明で慈愛と徳に満ちた(と思っている)ラナーとは何かが根本的に違う、絶対的な安心感。そして相矛盾しながら同居する庇護欲。

 彼女に守られ、彼女に奉仕し、彼女の姿を見て生きていけるなら。

 何もかも捨ててここにいるべきでは……と思わされるのだ。

 モモンガは英雄でも王でもない。

 まさしく神だと、魂で理解させられた。

 

「お、おい、ラキュース!」

「わかってる。私は王国の貴族だし……ラナーの親友だもの」

 

 慌てて口を挟むイビルアイに、ラキュースは己の頬を叩き、気合を入れる。

 

「ただ……ラナーも、飲まれてしまうかもしれないわ。その時は……」

 

 思いつめた顔……すらできない。

 目に移る女神は今も、粗末なスープを本気の涙を流して食べている。

 同じ顔の黒衣の従属神が、そんな彼女をあやすように食べさせる。

 どんな宗教画よりも、どんな空想よりも美しい情景。

 

 貴族のラキュースがここにいれば、彼女にもっと美味しいものを味わわせられるのではと。

 そんな風に考えるだけで……離れたくないと思えてしまうのだ。

 

「あのな、モモンガのヤツはあの動死体(ゾンビ)を……」

 

 イビルアイがラキュースに言おうとした時。

 黙って食事していたティナが反応する。

 明らかにわざと剣呑な気配をまき散らす人物が。

 蒼の薔薇の傍……ラキュースのすぐ背後に立っていた。

 

「あーあー、すーっかりオチちゃってるねー。カジッちゃんにブレイン・アングラウス、続けて蒼の薔薇。モモンガちゃんてばホントーに人たらしー♪」

 

 あの惨禍を起こした主……クレマンティーヌ。

 他の面々も慌てて身構える。

 なお、ティアはチラリと視線を向けただけで。

 動かずじっと、モモンガとアルベドを見つめ続けていた。

 




 引きこもってたモモンガさんの、溜めてたイベント処理が終わらない……!
 さっさと性欲に屈して、引っ込んじゃいましたからね。
 久しぶりに外に出て来るとやること……というか、やってなかったこと多い!

 フリーダムに動ける立場を得たクレマンティーヌは、いろいろ好き勝手します。

 モモンガさんが、初ごはんに感動するのはお約束。
 今までアルベドの体中をしゃぶり尽くしてましたが、普通の食事はまた違うものですからね!(当たり前だ)

 既に下地ができてしまった以上、モモンガさんが何しても、好感度と信仰心を高めるばかりです。
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