モモンガの言葉を継ぎ、クレマンティーヌが報告していた。
「――とーりあえず、使用人とか子供特に殺す必要ないなーって人には、カルネ村に行くよう言っといたよー。そっちもそろそろ来るんじゃないかなー?」
「よくやった。礼を言うぞ」
「えへへー♪」
モモンガに頭を撫でられ喜ぶクレマンティーヌは、まるで子供のようだが。
ブレインは、彼女の恐るべき戦闘力を身にしみてしっている。
「さて……その上で、ニグン、エンリよ。蒼の薔薇の方々とした話を、教えてくれるか」
「「ははっ!」」
村人らの前で、王国の命運にも関わる話が……明かされた。
「……ふむ。どうなのだ? 王が変わってこの現状が変わるのか?」
一通りの話を聞き終えたモモンガが、蒼の薔薇に問いかける。
おかげで、ラキュースは思わぬ形で王国大使の立場になってしまっていた。
「王は現状を変えようと努力しておりますが、結果を出すには至っておらず……」
「毎年、戦争をしているそうだな。兵士は民を徴兵しているのだろう?」
「……その通りです」
「なるほど。以前にニグンが言っていた通りの状況か。いずれにせよ、その王女と話がしてみたいな」
「で、では会見できるよう、私から具申して……」
だが、神がそんな手順に従う必用はない。
「〈
「も、モモンガ様!?」
「貴様まさか……!」
モモンガは、ラナー王女を今すぐ呼び寄せるつもりなのだ。
ラナー王女の美貌に感心する村人はいない。
ここには、もっと美しく強く優しい女神がいるのだから。
「さすがに、食事前に呼ぶのは悪いか。就眠前など人のいない時間に――」
王女の美貌には無関心な村人たちだが、王女が前にした王宮の料理に――
誰かの腹が鳴る音が聞こえた。
モモンガが目を丸くし、きょとんとした顔を見せた。
「し、失礼いたしました!」
村人の代表であるエンリが急ぎ詫びる。
女神の配慮により、村人は精一杯働いて来たばかり。
今こそここに集まっているが……本来はそろそろ、夕食の時間なのだ。
だが、それが女神に失礼を働く理由になるか?
なるわけがない。
エンリは必要とあらば、腹を鳴らした村人を処刑し、自らも罰を受ける覚悟。
だが、慈悲深い女神はただ、顔をほころばせて。
「ああ、食事――そうだ食事だ。お前に夢中ですっかり忘れていたが、食事だぞ、アルベド!」
画面の映像が消え、画面自体も消失する。
変わってモモンガはいつになく、興奮した様子。
ぴょんぴょんと子供っぽく跳ねている。
無邪気な表情に反して、大きな乳房も跳ねる。
ティアの目は、獲物を狙う猛禽のそれになっていた。
「はい、ここに来た日に食べるはずが、随分と長くおあずけになってしまっておりましたね」
「ああ、楽しみにしていたのに、思えばお前とばかり――だったな」
人目に気づいて口ごもるモモンガが、酷く愛らしい。
そして、あの粗食とすら呼べぬ“りある”で枯れた舌を潤したのが己の体液なのだと思うと……アルベドの表情も蕩けてしまう。
モモンガを抱き留めたアルベドは、素早くエンリに指示する。
「エンリ、モモンガ様は地上の食事を楽しみにしてらしたの。今すぐ、食事の用意をなさい」
「私がですか! も、モモンガ様のお口にあう料理ができるか――」
エンリに限らず、村人らもざわめく。
わずかな間とはいえ、王宮の御馳走を見たばかりだ。
モモンガのおかげで余裕が出たとはいえ、村の食事は粗食である。
それも今すぐとなれば、作り置きの料理を温める程度しか……。
だが、偉大なる女神の慈愛は、人の想像など軽く超える。
「いや、かまわん。お前たちの食べる料理を出せ。せっかくの機会だ、皆で食事をしようではないか。カジットやブレイン、蒼の薔薇の者たちへの歓迎も込めてな。お前たちと共にする夕餉は、今見た王宮の料理にも勝るだろう」
上機嫌でモモンガが言う。
かつての食事よりは絶対美味だろうし、オーガニックな味を感じてみたい。
だから早くしろという意図だったが……。
「「も、モモンガ様…………ッ!!!!」」
村人らの忠誠心を天元突破させるに十分であった。
全員が感動の涙で視界をぼやけさせつつも、急ぎ駆けだす。
その場で鍋を温められるよう、石でかまどを作ったり、火を起こす者もいる。
レンジャーのラッチモンとルクルットは、そんな作業の陣頭指揮を始めていた。
女神との晩餐だ。
どんな英雄も王も神官も――これ以上の贅沢を味わえるはずがない!
(モモンガ様は天運をお持ちね……人間に関しては、よほどのことがなければ口出しする必要もなさそうだわ)
頭のいいアルベドはもちろん、主と村人のすれ違いに気づいているが。
良い方に転ぶならば、誤解は放置する方針である。
「これが神……」
「やべぇ……器が違う……」
「六大神や八欲王並みということか」
「しかも、村人の会話を信じるならパンツはいてない」
「別の意味で器が違う……!」
実際に村人らの様子は、蒼の薔薇が王国で……いや、他の国でも見たことがない。
イビルアイの長い人生の中ですら……ない。
真に生きる喜びに溢れ、活気に満ちた人間が、これほど輝けるのかと思うほどだ。
女神を見る前は、狂信者の類と見ていたが。
あの女神に仕え、守られて生きるなら。
きっと……すべてが輝き、己自身も輝けるだろうと、蒼の薔薇にも確信できた。
確信できてしまったのだ。
「神に比べれば英雄なんて……ほんとうに小さな存在なのね……」
ラキュースの呟きに答える者は、いなかった。
「すごい……おいしい……」
持ち寄られた各家庭のスープやシチューを口に運び。
モモンガはぽろぽろと涙をこぼしていた。
かなりこぼしてもいるが、もちろん咎める者などいない。
「うう……
「ゆっくり味わって食べてください、モモンガ様。食べながらしゃべらなくても大丈夫ですよ」
泣きながら言葉を紡ぎ続けるモモンガを、アルベドが抱き支え、髪を梳くように撫で続ける。
食事の準備中に、アルベドは黒いドレス姿になっている。
モモンガと寄り添う姿は……仲睦まじい双子のようだ。
「「モモンガ様……」」
至極一般的な……どちらかといえば粗食である。
ンフィーレアが魔法で作った香辛料を多めに使っている分だけ、ほんの少し贅沢ではあるが。
本当に、日常的な食事と変わらない。
周りの者は無論、目の前に湯気を立てる鉢を置いたまま……女神の様子をじっと見ている。
「神様の世界って、ごはんがおいしくないのー?」
クレマンティーヌが空気を読まず尋ねる。
「モモンガ様はこの世界に受肉され、今初めて“食事”し、“味”を知られたのです。私やクロマルは先に受肉していましたが……モモンガ様は、これが生まれて初めての食事なのですよ」
(まあ実際は私のいろんな汁が、最初の食事なんだけどねー!)
口に出さず、内心で勝利の雄叫びをあげつつ。
女神の従者にふさわしい口調で言う。
モモンガは夢中で味わい、食べている。
「これがモモンガ様の初めての食事ッ……!」
「お、お姉ちゃん!」
最初に料理を口に運んでもらう栄誉を得たエンリと、その母が光栄のあまり失神した。
まだ幼いネムが、父と共に何とか支える。
「さあ、皆さんも食べてください。モモンガ様は、皆さんと共に食事するとおっしゃったのです。モモンガ様一人に食べさせてはいけませんよ」
アルベドが落ち着いた様子で言う。
皆が歓声をあげ、女神との晩餐を味わい始めた。
その料理はいつもなにげなく食べているもので。
味は何も変わらなかったが。
それに女神が感じ入り、涙まで流してくれたのだ。
いつもと同じはずなど……なかった。
「なぁ……正直、俺もうここで定住したいくらいなんだが」
「そうね……私もいろいろ忘れてここにいたいって思うくらい。これは信仰なのか忠誠なのか愛情なのか……いえ、きっと全てを抱いてしまってる」
ガガーランとラキュースはすっかり、その場の空気に呑まれていた。
いや、モモンガと言う神に惚れこまされたと言ってもいい。
同じく聡明で慈愛と徳に満ちた(と思っている)ラナーとは何かが根本的に違う、絶対的な安心感。そして相矛盾しながら同居する庇護欲。
彼女に守られ、彼女に奉仕し、彼女の姿を見て生きていけるなら。
何もかも捨ててここにいるべきでは……と思わされるのだ。
モモンガは英雄でも王でもない。
まさしく神だと、魂で理解させられた。
「お、おい、ラキュース!」
「わかってる。私は王国の貴族だし……ラナーの親友だもの」
慌てて口を挟むイビルアイに、ラキュースは己の頬を叩き、気合を入れる。
「ただ……ラナーも、飲まれてしまうかもしれないわ。その時は……」
思いつめた顔……すらできない。
目に移る女神は今も、粗末なスープを本気の涙を流して食べている。
同じ顔の黒衣の従属神が、そんな彼女をあやすように食べさせる。
どんな宗教画よりも、どんな空想よりも美しい情景。
貴族のラキュースがここにいれば、彼女にもっと美味しいものを味わわせられるのではと。
そんな風に考えるだけで……離れたくないと思えてしまうのだ。
「あのな、モモンガのヤツはあの
イビルアイがラキュースに言おうとした時。
黙って食事していたティナが反応する。
明らかにわざと剣呑な気配をまき散らす人物が。
蒼の薔薇の傍……ラキュースのすぐ背後に立っていた。
「あーあー、すーっかりオチちゃってるねー。カジッちゃんにブレイン・アングラウス、続けて蒼の薔薇。モモンガちゃんてばホントーに人たらしー♪」
あの惨禍を起こした主……クレマンティーヌ。
他の面々も慌てて身構える。
なお、ティアはチラリと視線を向けただけで。
動かずじっと、モモンガとアルベドを見つめ続けていた。
引きこもってたモモンガさんの、溜めてたイベント処理が終わらない……!
さっさと性欲に屈して、引っ込んじゃいましたからね。
久しぶりに外に出て来るとやること……というか、やってなかったこと多い!
フリーダムに動ける立場を得たクレマンティーヌは、いろいろ好き勝手します。
モモンガさんが、初ごはんに感動するのはお約束。
今までアルベドの体中をしゃぶり尽くしてましたが、普通の食事はまた違うものですからね!(当たり前だ)
既に下地ができてしまった以上、モモンガさんが何しても、好感度と信仰心を高めるばかりです。