アルベド二人旅   作:神谷涼

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 前話から24時間たってないので、前話未読の方はそちらからどうぞ。

 王国はスーパーラナータイム突入。
 でも暗躍なので、ストーリー上は出てきません。
 壁の華(肉片)になったランポッサⅢ世はもちろん蘇生不可です。



26:まだ慌てるような時間じゃない

 リ・エスティーゼ王国王城を襲ったアンデッドの群れ。

 拷問され惨殺され動死体(ゾンビ)と化した貴族ら。

 そんな動死体(ゾンビ)の我が子に、殴り殺された国王。

 王都上空を飛び回った、おぞましき悪霊の群れ。

 

 動死体(ゾンビ)が血文字で。

 悪霊がおぞましい声で。

 唱え続けた名――女神モモンガ。

 

 この異常な災厄と、女神の名は。

 王国内は無論。

 諸国に響き渡ったのだった。

 

 王国内では、貴族の在り様も変わる。

 否、変わらざるをえない。

 国王ランポッサⅢ世が没した後も。

 新たな王として第二王子ザナックが即位した後も。

 王都内で、各領地で。

 横暴な貴族は拷問の後に惨殺され、動死体(ゾンビ)に変えられる事件が起きた。

 この動死体(ゾンビ)は常に女神の名と神罰を血文字で書いた布や旗を背負い。

 王都まで、報告するが如く行進し。

 王都の門前にて、死体に戻るのだ。

 王都内で誅罰された者は、王城前で同様の運命をたどる。

 アンデッド化すれば、蘇生呪文でも蘇りはしない。

 

 その誅罰を行うは、骨の馬に乗った女剣士だという。

 女剣士は時に、少年とも少女ともつかぬ小柄な影を伴うとも。

 疲れ果てやつれ果てた様子の禿げた老人を伴うとも。

 貴族に苦しめられる民は、この女神の使いを歓迎し。

 己らを苦しめる貴族が動死体(ゾンビ)と化して王都を目指す様を、喝采した。

 その強力さを知った以上、巡回兵らもこれの相手はしない。

 今や、ただ彼女の名しか知らぬ者らが、女神モモンガを崇め始めてすらいる。

 聖地としてカルネ村に向かわんとする民も、増えていた。

 

 女神の使いは、訪れぬ場所には訪れず。

 来たとしても、評判の悪い末端の者のみ誅罰し、立ち去った。

 六大貴族ではレエブン侯、ぺスペア侯など未だ罰される気配はなく。

 女神の地に近いエ・ランテルの都市長パナソレイも健在。

 貴族や都市長が無差別で罰されるわけではないのだ。

 相当の犠牲者が積み上がれば、罰される貴族と罰されぬ貴族の違いも見えてくる。

 拷問され惨殺され動死体(ゾンビ)に変えられるとは。

 破滅願望者とて、ごめんこうむる最期。

 しかも、素行が悪ければ一族郎党が……子供を残し罰される。

 

 貴族らは、領主を失った隣接地へと次男三男を派遣した。

 隣を放置したために罰されるやもしれぬと恐れたのだ。

 かつてなら領地簒奪に血道をあげたろうが……今は女神の怒りが恐ろしい。

 彼らは可能な限り最大限、真面目に仕事に励んだ。

 領主を失った者を助けるように、派閥や血を越えて助け合った。

 それでも、過去の所業から時折粛清を受ける者が現れる。

 

 保身に長けた彼らは、保身に長けるからこそ。

 必死で“善き貴族”たらんとする。

 税を軽くし、蓄えた財を吐き、民に尽くして……命乞いするのだ。

 “善き貴族”の証とは。

 未だ女神に粛清されていないこと。

 それ以外にはない。

 

 

 

 

 王都の災厄から5日後。

 通信手段の限られる、この世界において、他国が状況を把握するにはそれだけの時間が必要となっていた。

 

 バハルス帝国、帝都アーウィンタール。

 その皇城にある会議室では、鮮血帝ことジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。

 そして逸脱者フールーダ・パラダイン。

 さらに帝国四騎士。

 皇帝の信頼する秘書官ら。

 帝国の首脳陣がそろい踏みであった。

 今、会議室では地図が開かれ。

 印をつけられた場所を、全員が注目している。

 エ・ランテルの南、トブの大森林に接する場所。

 少し東へ進めば、帝国の開拓村がある。

 

「カルネ村はこの場所だ……僻地とはいえ、ほぼ帝国領だな」

 

 皇帝ジルクニフがため息をついた。

 女神モモンガ、カルネ村……これらの情報は、王都のアンデッド災厄からいくらか遅れて入ってきた情報だ。詳細を知れば知るほど、なぜもっと早く報告されなかったのかと怒りを感じる。己の慢心や部下の無能ゆえではなく、王国貴族どもの愚かさゆえ――しかも今回の事件で死んでいる――ならば、なおさらだ。

 ジルクニフは深呼吸し、情報共有と自己確認を兼ねて言葉にする。

 これは彼がよく用いる思考法でもあった。

 周囲としても慣れたものである。

 

「もう一度事態を整理する。まず、スレイン法国が王国貴族と共謀し、戦士長を暗殺すべく我が国の兵に扮して王国領を荒らした」

「ええ。亡命を訴えてきた者によれば、ですが」

 

 秘書官ロウネが補う。

 ほぼ確定情報ながら、断定しては法国との関係上問題があるのだ。

 また、亡命者は女神の怒りを買うかもしれないとし、既に始末されている。

 

「法国の狙いは、王国が我が国に早期併合されること。これを我が帝国の利、ひいては己の利と考えたブルムラシュー侯ら王国貴族が迎合。協力して王国戦士長にはろくな装備を与えず、通常の兵士装備にて略奪者の討伐に向かわせた――我ら帝国側に一切の報告も相談もなく」

 

 ジルクニフの声に、再び怒りがにじむ。

 

「自主的に仕事を見つけ動くことは美徳。だが、それは有能な者に限ること。勝手に動く無能な味方は、敵より憎むべき手合い――ですね」

 

 四騎士の一人ニンブルが呟いた。

 ジルクニフの粛清の中、生き残った帝国貴族として、常々心がける点だ。

 

「まったくだ。あの連中の愚かさは重々承知していたつもりだったが。連中はいつも予想の下を行く」

 

 憤懣やるかたないといった様子で、皇帝がため息をついた。

 帝国軍による略奪の既成事実は、併合後の統治では害にしかならない。

 王国貴族による略奪以下の統治があらばこそ、ジルクニフは侵略の利益を見込んでいたのだ。

 己の民となる者らから、いらぬ恨みを買いたくない。

 事実無根の偽装部隊による工作など、なおさらだ。

 

「法国も法国だな。順当にやっていれば、あと数年で王国は破綻する。戦士長がいようといまいと変わらん。なぜ我々にいらぬ風評被害を与えてくるのだ」

 

 本来ならば、ジルクニフもここまで気にかける事件ではない。

 戦士長が死んでいれば、法国の望み通りに踊ってやってもよかった。

 僻地ゆえ情報封鎖も容易だからだ。

 だが、今や状況は大きく変わった。

 

「ともあれ、その帝国兵もどきは女神とやらに全滅させられ。王国戦士長と戦士団は女神に怯えて、王都に帰ってきた」

「戦士長の報告を、貴族らは法螺と笑ったそうです。無理もありませんが……そのまま話は市井にも流れ、笑い話の類になっております。戦士長の名を下げたのみに留まっておりました」

 

 だから、帝国には何の情報も来なかった。

 王都の密偵にも法螺話として流れ、王城内ではまるで重要情報と扱われておらず。戦士長暗殺計画があったが失敗したとだけ、報告されたのだ。

 

「はぁ……」

 

 疲れた顔で、ジルクニフは顔に手を当て、天を仰いだ。

 密偵を無能と切って捨てたいが。

 王国がおかしいのだ。

 指示通り動いているという意味で、密偵はそこそこ有能だ。

 

「法国側は王国戦士長を暗殺すべく来たのだ。戦士長と戦士団を始末して、十分おつりがくる戦力を用意したはずだ。法国からの兵站と隠密性を考えれば100人程度、それも相当の精鋭だろう」

 

 その場にいる者らを、ジルクニフは見回す。

 

「じい……いや四騎士の誰か――複数か全員でもいい。そんな戦力を全滅させ、かつ直後にガゼフ・ストロノーフと戦士団を無傷で、それも一方的に脅して逃げ帰らせることができるか? 最初の戦力と戦う様子を見せて、でもかまわんが。戦って疲弊していれば、ガゼフとも戦わねばならん状況だぞ」

 

 つまり、ガゼフと戦士団を2回相手にするようなものだ。

 

「無理ですな。有利をとって退却させるならば可能ですが。相当の犠牲を払わねばなりますまい」

 

 フールーダはあっさりと認めた。

 

「そんな状況なら、私は帝国軍から脱走します」

 

 レイナースも言い切る。

 

「俺も家庭持ちとしては、遠慮してぇなぁ」

 

 バジウッドも頷いた。他の二人も変わらない意見だ。

 要するに帝国の最精鋭でも不可能ということ。

 

「戦闘力か、魔法か、策略かは知らんが。女神は、それが可能だったわけだ」

 

 夢物語か、と言いたくなる。

 

「王都のあの事件を見れば明らかですな。アンデッドが召喚されたものならば伝説の第七位階魔法〈不死の軍勢(アンデス・アーミー)〉を使ったのでしょう。貴族から作られた頑丈な動死体(ゾンビ)というのも、実際はまったく別種のアンデッドやもしれませんぞ。単純に魔法詠唱者(マジックキャスター)として、この身を上回る者が複数おるやもしれませぬ」

 

 そう言ったフールーダの目は爛々と光っている。

 彼は王都の事件を聞いてから、独自に調査を進めていた。

 今回の事件を起こした者が、己の扱えぬ強大な死霊系魔法を使ったこと間違いない。

 ゆえに、ジルクニフに言われるまでもなく、王都の事件、現れたアンデッドの詳細を調べていた。

 

「第七位階――それにアンデッドか。女神とやらが、ズーラーノーン関係者の可能性は?」

「ありますまい。あれほどの術で呼び出したアンデッドをあっさり消しております。当時はアダマンタイト級冒険者も不在。そのまま王都を死者の都にもできた戦力ですぞ? 民を味方につける? 彼の秘密結社がそのような手段をとる理由がわかりませんなぁ」

 

 フールーダの口調が狂熱を帯びている。

 

「確かに……まさに立つ鳥跡を濁さず。鮮やかな粛清だった。王国貴族の意識をわずかな時間で大きく変えてみせたのだからな」

「命惜しさにってやつですがねぇ」

「王国領土の併合は、困難になったと見るべきでしょう」

 

 バジウッドとロウネがそれぞれ、頷いた。

 王都での事件はすさまじく派手だったが。

 犠牲者は、驚くほど少ない。

 動死体(ゾンビ)に払いのけられ打ち所の悪かった巡回兵一人。

 打ち破られた門で押しつぶされた門衛数人。

 パニックの中で死んだ市民数人。

 王城が破壊される中、瓦礫に潰され死んだ兵士や使用人が十人に満たず。

 アンデッドと化した我が子に殴り殺された国王。

 そして、動死体(ゾンビ)に変えられた貴族や犯罪者。

 合計で数百人といったところ。

 しかも、貴族子女や夫人などには、許され領地から逃された者も多い。彼らは女神の土地カルネ村へと流れているのだとか。

 王国人口は約900万。

 たった数百の犠牲で、支配者層の意識を変えたのだ。

 

「……悔しいが、一族郎党を粛清した私より、遥かに犠牲も少ない。しかも、今や連中は命惜しさに必死で“良き貴族”たらんとしている。確かにあの死にざまは、処刑などより遥かに恐ろしいからな」

 

 鮮血帝の汚名をかぶったジルクニフとしては忸怩たる思いだ。

 遥かに末期の国で、遥かに鮮やかな粛清を遂げられたのだから。

 

「本当の女神かもしれませぬな。あるいは強大な組織か」

 

 フールーダの目が、もの欲しそうに地図上のカルネ村を見ている。

 直接行きたくて仕方がないのだろう。

 女神などという胡乱な言葉でなく、魔法詠唱者(マジックキャスター)や冒険者を名乗っていれば、ここに来ず直行していたかもしれない。

 

「こうしておっても埒は明かんか。どのみち、これでは今年の王国との会戦は取りやめだ。女神殿の天罰が恐ろしいからな。それに帝国軍に偽装した兵に襲われたのだ。我ら帝国を敵視しているかもしれん」

 

 肩をすくめ、冗談めかして言う。

 王国貴族の粛清を優先した以上、可能性は低い。

 とはいえ、相手はあれほどの粛清を成し遂げた存在だ。水面下で思わぬ動きをされているかもしれない。

 

「ともあれ、隠密部隊をカルネ村に向かわせた。遠巻きに監視する程度なら、敵対ではなかろう。捕まれば情報は全て吐いてよいとも言いつけてある。まずは彼らの報告を――」

 

 その時、会議室が慌ただしくノックされた。

 返事を待たず扉が開かれる。

 緊急の伝令だ。

 その場の全員が身構えるようにした。

 

「報告いたします! 帝都正門――内側に、魔法の産物らしき異様な黒い穴が発生! その中から、巨大な山羊のような魔獣、邪悪な装いの女神官、軽装の女剣士、そして……その、あの」

 

 明瞭な報告を義務付けられた伝令が、珍しく口ごもる。

 うまく言葉にできない――というより、報告を届けてよいか迷っている様子である。

 

「なんでもかまわん。言え」

「……その、一言で申し上げて女神が! 女神がお二人、いえ二柱、現れました!」

 

 叫ぶように報告した。

 会議室全員の時間が止まった。

 




 ついにカルネ村から旅立ちました!
 ほぼデート気分なので、約一頭を除き女子組で。
 クレマンさんの休暇も兼ねてます。
 ニニャはツアレ療養を手伝いつつ、村でパワーレベリング中です。

 帝国の情報が遅く感じるかもしれませんが、関係者集めて対策考えられるくらい集まったのが5日後です。
 断片的情報はちょくちょく入っていますし、隠密部隊はおぼろげな情報の3日目くらいから動かしてます。

 ジルとしては、法国の作戦はなんで帝国兵に扮してそんなことするのに、報告しねーんだよってマジギレ案件です。しかも自分側についてる王国貴族が加担してるし。よかれと思って……で、自国が領土侵犯したことにされたら、そら怒ります。
 後で併合して統治するつもりのトコを、略奪焼き討ちした扱いにされたり。
 軍のイメージアップに努めてるジルとしては、原作でもこれは怒るなと思う案件でした。
 法国としては、帝国が調子に乗りすぎないよう適度に肘鉄しつつ……ってつもりだったかもしれませんね。

 フールーダ、相手が女神とか名乗ってるのでまだ冷静です。
 格上魔法使いの足ペロと、神に足ペロはちょっと違うのです(彼の中では)。 
 学術的に己の先を知りたいのであって、神の奇跡にすがりたいわけではない(たぶん)。

 実はレイナースさんがむしろ、会議後にカルネ村直行する気満々でした。
 報告は待とうかな、いや次の偵察は自分が名乗り出る?いっそ一人で行っちゃう?くらい。
 魔法使いにすがるより、神にすがりたい。

 ガゼフは凹み中。
 原作でガゼフに拾われた時のブレインみたくなってます。
 戦士団のみんなが慰め、面倒みてます。

 鮮やかな粛清は、ニグンさんプロデュース。
 その後の流れはラナーが調整中。
 モモンガさんは「王国貴族はやだから掃除しといて」って言っただけです。
 ……原作から考えると、すごい気楽な生活してるなこのモモンガさん。

 時系列メモ、更新してます。
 おさらいの時にはどぞー。
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