アルベド二人旅   作:神谷涼

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 上京の用意等あるため、コミケ後まで投下は止まります。
 今年最後の投下になってしまうかも(汗)。
 感想レスもできない期間あります。



28:あ ひょっとして犬語じゃないと駄目かな?

「よい買い物をしたな!」

 

 店を出てからも上機嫌でくるりと回り、モモンガが背後に顔を向ける。

 

(うぉっ、まぶしっ)

 

 闇属性()のクレマンティーヌは思わず顔を背け。

 背後にぞろぞろとついて来ていた野次馬らは、またも見惚れる。

 白いサマードレスに身を包んだモモンガは、逆光に映えた。

 背後から溢れる太陽の光はまさに後光。

 白いドレスが透け、魅惑的な脚線が見える。

 クレマンティーヌに限らず、周りの誰もがモモンガ自身の放つ輝きと幻視した。

 

「次はどうしましょう? 食事処を探しますか?」

(くふーっ、モモンガ様っ♡ 脚が透けてっ♡ 舐めまわしてさしあげたいっ♡)

(これほどの人目に視姦されながら無防備……本当にモモンガ様ってば小悪魔っ♡)

(うっ……ふぅ……また達してしまったわ)

(御方の姿に不埒な目を……この人間どもを皆殺しにできれば、どれほどに)

(おおっぴらに歩いても、探る気配は特になし。皇帝が干渉してこないなら何よりだけど)

 

 にこやかに次の予定を訊ねるアルベドだが、そのニューロンは焼ききれんばかりに加速。常時、複数の分割思考によってモモンガを余すところなく愛で味わい、内なる悪意を封じ込め、また危険はないかと索敵も怠らない。

 

「確かに帝都の味は気に……うん? 美味そうな匂いがしているが、あれは露店か?」

「そーだよー。仕事場に出てる人は、露店で昼食を済ませる場合が多いからねー」

 

 クレマンティーヌが説明する。

 帝都各所にある広場には、多数の露店。

 いずれも大衆的な料理を売る店だ。

 ユグドラシルでも生産系クラスや商人系クラスによる露店は多々あったが。料理ばかりがこれほど売られているなど、ユグドラシルでは見ない光景である。もちろん、合成食品ばかりのリアルには、食料を売る露店など存在しない。

 

「ほう……夜は料理店が中心なのか?」

「それと酒場だねー。夜でもやってる露店は限られるかなー。お昼はみんな仕事があるから、職場から露店に出て食べてー、そのまま働くんだよー」

「なるほど。露店はこの時間帯の醍醐味と言うことだ。ならば昼食は露店でいろいろと食べてみよう」

「えー? 豪勢にいかなくていいのー?」

「もっと高級な料理店もあるはずですが」

 

 エンリも口をだす。 

 露店の料理はその場での立ち食いや、広場のベンチで食べるもの。

 女神たるモモンガの食事として、大いに疑問である。

 

「高級料理が美味なのは当然だろう。再現には、相当の手間や食材を使わねばなるまい。カルネ村の食糧事情をより良くするならば、こういった店の味こそ知るべきではないか?」

「それはそうですが……モモンガ様自ら食さずとも」

 

 食い下がるエンリだが。

 

「何より私はこの露店らに食欲を刺激された。私が食したいと言っているのだ」

 

 女神に拗ねたような上目遣いをされて、抗えるはずもない。

 

「ははっ! 失礼をいたしましたっ!」

 

 急ぎ周辺の露店のものを買って回らねばと、クロマルから降りる。

 

「待て待て。手づから買うのも楽しみだろう。それに列為す店なら、並ぶのも醍醐味だ」

「えっ、並ぶつもりー?」

 

 クレマンティーヌがちらっと周りを見てから。

 アルベドに目を合わせる。

 多数の野次馬を引き連れてそんなことをするのかという、護衛としての言葉だ。

 アルベドが何らかの折衷案を出してくれると期待したのだが。

 

「はい♡ ここならば我々の懐事情にも問題ないはず。モモンガ様の望むままに買って食べましょう♡」

 

 アルベドは1ミリも役に立たなかった。   

 

 

 

「ほう、これが焼トウモロコシ……本当に黄色いのだな」

「焼きたてだったから、熱いよー。ドレスにタレが落ちないようにねー」

「はふ……はふ……ん? ぐむ……甘くて美味だが、思った以上に硬いぞ」

「芯は食べられないんだよー」

「むむ。値段の割に量が多くて、お得だと思ったのだが」

「芯は歯で削り取るみたいに食べるといいよー」

「なるほどな……(うまうま)」

「ちょーっと卑猥な食べ方だねー(はむはむ)」

「くっ、タブラめぇ……なぜ撮影系アイテムを持たせなかったのかっ(ぶぉりぶぉり)」

「トウモロコシは収穫も簡単らしいですし、カルネ村でも作るようにしましょう」

 

 

 

「コロッケ? 変わった名前だな」

「あー、コロッケ。法国じゃよく食べるねー」

「パンにはさんで食べるといいと聞いたので、パンも買って参りました」

「ほう……中身は芋と肉か!(うまうま)」

「そういえば、カルネ村で揚げ物は見かけなかったわね(もぐもぐ)」

「油が貴重なので……」

「揚げ物は衛生面でも、料理のバリエーションでも重要。油の量産も命題ね」

「うん、美味だぞ。クロマルも食え」

「MUGMUG……EN」

 

 

 

「おお、狩場で調理している様はさんざん見たが、本物の串焼肉は心躍るな!」

「さすがにボリューミーすぎなーい? だいじょぶー?」

「(まぐまぐ)……んむ。確かにこれを一人で食べるにはな……エンリ、お前も見てばかりおらずもっと食ってよいのだぞ」

「えっ、モモンガ様の食べかけを……!(チラッ)」

「ふふ、どうしたの? 貴方は十分に働いてくれているのだもの。その程度は受け取ってかまわないのよ?」

(今日も来る前、直接に口を味わわせていただいてるのだし!)

(はー、舌で直接食後のモモンガ様の歯磨きしてさしあげたい♡)

(クレマンや周りの野次馬なら殺してたけど、エンリは安牌よね)

「ん? アルベドちゃんも私の残りでよかったら食べるー?」

「はいはい。いただいとくわよ」

 

 

 

「粥にしても、帝都の屋台のものは違うな」

「あはは……カルネ村だと、ほとんどスープですから」

「納税がなくなっても、蓄えは急に増えないものね」

「ううむ。保護した子女も増えているからな。食料事情改善は急ぐべきか」

「ダインさん以外にも森司祭(ドルイド)がいれば違うのでしょうが……」

「森に人材を探してみるべきやもしれんな」

「(ずぞぞ)それにしても糊のように濃い粥だ。具も多く味付けもよい」

「濃厚ですよね」

「…………(クロマルをチラ見)」

「…………(クロマルをチラ見)」

「どうしたんですか、お二人とも」

「いや、なんでもないよー」

「そうそう、なんでもないわ」

 

 

 

 この間、モモンガの買った露店に客が殺到したり。

 露店の主が、感激のあまり調理中に火傷をしたり。

 そんな露店主にエンリが回復呪文を使ったり。

 エンリの無料回復を咎めた神官がクロマルに蹴られたり。

 女神を囲む一部の者らが、食事姿から卑猥な想像をしたり。

 いろいろとあったわけだが。

 

 女神の昼食は満足の内に終わりつつあった。

 帝都市民はこの大いなる目の保養で、当分は幸福に包まれるだろう。

 語り草となるかもしれない。

 

 とはいえ、そんな時こそ問題が起きる。

 問題が起きた……いや。

 とても、非常に、間の悪いタイミングで彼が現れたのは。

 きっとその日頃の行いゆえだったろう。

 

 そして、誰もが女神に目を奪われていたからこそ。

 彼が現れても、その宣言まで、気づく者はほとんどいなかった。

 彼の声は朗々とし、堂々とし。

 食後の女神たちには――見惚れる市民たちにも――よく響いた。

 

「さあ、今日はいつもと違うメニューにしてあげましたよ。汚らわしい亜人らしく、漁ってきなさい」

「あ、あの、食事を買う代金を……」

 

 弱々しく怯えた、複数の女の声。

 その直後に打擲音。

 

「はぁ? 森妖精(エルフ)如きの餌を、なぜ私が支払わねばならないのです! 亜人らしく残飯を漁って来る間、待ってやると言っているのです!」

 

 涼やかな美しい声だが。

 言葉は汚く、籠った心はなお汚い。

 鞭うつような、嗜虐心と優越感をにじませ。

 相手の全てを踏みにじらんとする本性が透けて見える。

 

 市民らが不快げに顔をしかめた。

 声の方を見て、露骨に舌打ちする者もいる。

 輝くようだった女神の微笑も消え、無表情となった。

 

「……どこにも悪しき点はあるか。クレマンティーヌよ。帝国において森妖精(エルフ)は差別されているのか?」

「うーん、差別はあるっていえばある、程度かなー。たぶんスレイン法国から売られた奴隷だと思うんだよねー。あんな露骨に差別されてるの、私は初めて見るし聞くかなー……あ、法国だと、けっこうあるよ?」

「そうだな。確かに誰もが不快がっている」

「あーゆーのは、禁止はされてないけど、普通はしないこと、って考えていいと思うよー」

「法の抜け穴と言うわけか。それにしても随分と堂々としたものだな」

 

 女神が、明らかに機嫌を損ねた様子でいれば。

 野次馬らの中から進み出て、声をかけてきた女がいた。

 

「ね、ねぇ……えっと女神様、でいいのかな」

 

 珍しい紫の髪の、冒険者らしき女性である。

 森妖精(エルフ)の血が混じっているのか、その耳は尖っている。

 

「何を勝手に――」

「よい。私はモモンガだ。何か言いたいことがあるのか?」

 

 慌てて立ちふさがるエンリを、モモンガが抑えた。

 少しきつい目をした女は、なぜか申し訳なそうに言ってくる。

 

「えっと、モモンガさん。私はイミーナ。知らない種族だけどきっと、モモンガさんも……亜人なのよね? アイツに見つかる前に、離れた方がいいわ。きっとその、嫌な目に遭うとおもうし」

 

 それは、周囲の市民らの代弁でもあったのだろう。

 近くの露店の主や、女神を下劣な目で見ていた連中も含め。

 ほとんど全員が申し訳なさそうに頷いていた。

 

「……ふふ。いや、すまぬイミーナ。私は嫌な顔を見せていたようだな」

「えっ」

 

 ぽん、とイミーナの髪に、女神の手が乗っていた。

 

「あっ、ちょっと」 

 

 そのまま子供にするように撫でられる。

 なぜか、ひどく心地いい。

 気の強そうなイミーナの目が、蕩けてしまう。

 親に抱きしめられているような……生まれる前に戻るような心地。

 

「あれは王族や貴族なのか?」

「えっ、違うけど……」

「では豪商か?」

「ち、違うわ。あの男エルヤー・ウズルスは闘技場でも最強格の――」

「そうか。ただの腕自慢か。なら何も問題はない」

 

 黒い翼をはためかせ、モモンガは軽く浮遊する。

 安心させるように、イミーナを軽く抱きしめ、その額に唇を当てた。

 

「あ――」

 

 同性のくちづけに、イミーナは全身が火照り、呆然としてしまう。

 

「確かに私は怒っている。良き時間、良き縁に泥を塗られたのだからな」

 

 ふわりと、囲んだ者らの頭一つ上に浮かぶ。

 

「だが、これは私のみの怒りではない。私に良き時間をくれた、ここにいる全ての者の怒りだ――アルベドよ、今回は譲ってもらうぞ」

「御身の望まれるままに」

 

 さらに高く、モモンガは飛翔。

 アルベドもこれに従う。

 二人は野次馬らの頭の上を超え、空を滑る。

 白いサマードレスは、白い大輪の華となり。

 その花弁の内まで透かしていた。

 

「見え……た」「はだいろ?」

「はいてない」「下乳まで……」

 

 野次馬らの唖然とした声を後に。

 よたよたと残飯を漁らんとする三人の森妖精(エルフ)らの前へと、舞い降りた。

 

「おやぁ? 帝都にこのような――」

 

 それを見たエルヤーが言い終えるより早く。

 

「〈魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)〉〈支配(ドミネート)〉口を閉じて、這いつくばれ」

「んがっ!? ぐっ!」

 

 唸り、もがくようにしながら彼は広場の石畳に這いつくばる。

 

「お前は弱者にのみ噛みつき、汚物を公道にまき散らす、下劣な野良犬だ」

「ぎっ! ぐぎぎぎ!」

 

 必死に言葉を発しようとするが、女神の命令には逆らえない。

 

「ああ。野良犬らしくなら口を開いてよいぞ。ほれ」

「わうっ! わんっ! わんっ!」

「まさに野良犬だな。不快を感じさせられたが、時間をかけては、なお不快だ」

「左様でございます。モモンガ様」

 

 アルベドが主をなだめるように、ぴったりと寄り添い侍る。

 

「さて、犬が奴隷を持つなどおかしな話。そうだな?」

 

 モモンガがエルヤーに問いかけつつ、距離を詰める。

 その身から黒い炎の如く〈絶望のオーラⅠ〉が溢れだす。

 

「ぐるるる――ぎゃんっ! きゃいんっ! きゃいんっ!」

 

 近づかれたエルヤーが、びくんと身を跳ねさせ怯える。

 

「犬なのだから、奴隷など持たないよな?」

「ぎゃいんっ! わんっ! わんっ!」

 

 〈絶望のオーラⅡ〉。

 

「そうか。いらないか。ああ、私は野良犬の言葉がわかるのだ。安心するがいい。お前が奴隷を手放したこと、私が保証する」

「ぎぎぎぎ――きゅーん」

 

 抗議するように唸っても。

 モモンガは冷たく見据え、微笑み。

 一方的に断言する。

 

「さあ。お前は自由だぞ、野良犬。犬らしく走って寝床に帰るがいい。ここは人が飲み、食い、楽しむ場所だ。野良犬の来る場所では、ない!」

 

 〈絶望のオーラⅢ〉。

 

「ぎゃいいいんっ!!!!」

 

 怯え切った犬の声で鳴きながら。

 犬のような四つん這いで。

 汚物で下半身を汚しながら。

 帝都に知らぬ者なき天才剣士エルヤー・ウズルスは逃げ去った。

 〈支配〉の効果時間が切れるまで、彼は犬の如きまま帝都を走り回るしかない。実力に裏付けされた彼の名誉は、大きく損なわれた。

 

「……〈魔法三重化(トリプレットマジック)〉〈上位道具破壊(グレイター・ブレイク・アイテム)〉」

 

 森妖精(エルフ)らを縛る奴隷の首輪が、消滅する。

 

「どうぞ、こちらへ」

「はいはーい、もう大丈夫だからねー」

 

 エンリとクロマルが素早く森妖精(エルフ)らを保護する。

 念のため、回復魔法も使う。

 さらに、手際よく追加の露店料理を買って来たクレマンティーヌが、森妖精(エルフ)にそれを与えた。

 その様子に、ようやくモモンガの顔に微笑が戻る。

 彼女の表情だけで、冷え固まったような広場の空気が、再びあたたかな空気で包まれた。 

 

「はぁ……まったく、デートに悪漢が現れるのもお約束ということか」

「ふふ、ハプニングも楽しみの内、でしょう?」

 

 モモンガはアルベドの髪に顔を埋め、溜息をつき。

 アルベドはモモンガをしっかりと抱きしめ。

 互いにぴったりと身を寄せ合わせる。

 

((尊い……!))

 

 帝都市民らはそんな二柱にその場で跪き……拝んでしまう。

 話しかけた半森妖精(ハーフエルフ)のワーカー、イミーナもまた。

 女神のスカートの中を真剣に覗いていた相方ヘッケランへの抗議も忘れ。

 二人ともただ、跪いていた。

 

 

 

 

 一方、広場の端ではこの光景と――広場の上の異様な存在を見た一人の少女が嘔吐し。

 ふらつきながら逃げるように、仲間の拠点たる酒場に向かった。

 

 

 

 広場に訪れつつあった、ある馬車の中では……一人の老人が失禁しながら、すごい表情で絶叫していた。

 皇帝ジルクニフは、老人を落ち着かせて事情を聴くべく、皇城に戻り始める。

 この時、四騎士の一人が何も言わず離脱したが……仲間らも含め敢えてこれを放置した。

 




 露店巡りはダイジェストでやってみましたが……。
 昨日書いた別の話のモモンガさんと、すごい落差っすねこれ。
 人数は同じ5人(こっちは4人と1頭だけど)なのに。

 食材とか言ってますが、ユグドラシルの影響で現代的料理普通にあるという……この作品限定での設定と思ってください。
 トウモロコシとジャガイモの存在についても、まあこの話ではあるということで……。焼トウモロコシにかぶりつくモモンガさんを書きたかったのです……あと肉以外の揚げ物といえばってことでコロッケ。
 このあたりの作物ないと、肉しか食ってねぇ!みたいになるんで……。
 トマトもたぶん出します。

 イミーナが、帝都市民代表でモモンガさんと縁を結びました。
 心配して声をかけてきたイミーナに、モモンガさんはかなり好感度高いです。アルベドやエンリもいい人評価してます。
 というかエンリ(偶然名前覚えてた子)、クレマン(なんか馬が犯しちゃった実験台)……という認識に比べると、イミーナへの評価は凄まじく高いような。ニニャやカジットも、能力見て願い事言って来たわけで、いわば利用しようとしてきた人ら。
 モモンガに私心なく親切で接してきたのって、現状ではイミーナが初めてでは……!
 というわけで、モモンガ自身嬉しくて、初対面から即おでこキス。
 彼氏持ちだからアルベドにも睨まれません。

 そんな彼氏のヘッケランは野次馬の中にいて、女神をスケベな目で見てました。もっとも、イミーナも見惚れてたので、肘鉄や足先踏みつけは受けてません。クレマンさんから、比較的戦える奴って採点受けてますが、他の一行メンバーからは野次馬A以上の認識をされてません。

 エルヤーさんはこれで退場です。女神を怨んで何かしようとしたら、上空にいるヤバイ護衛が処分します。
 エルフ奴隷の三人はレンジャー、ドルイド、神官で、最低でも第2位階は使えるレベルだから、かなり優遇してもらえます。ちょうどドルイドほしーって言ってたトコですしね。
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