クロスでもござらん!
なぜかさらに数日経ってさらに次の朝。
草原で二人を背に乗せ、魔獣が歩いていた。
その背には甲冑の女騎士が跨り……さらに背後に、横座りで乗るドレスの
「……無事に乗れるようになりましたね」
「……アルベドとだけならよかったんだがな。おい、わかっているのか?」
モモンガが〈絶望のオーラV〉を放ち、騎乗する獣を睨む。
魔獣――
100レベルだけあって即死耐性こそ持っているが、怖いものは怖い。
しかも、オーラに合わせて周囲の草が枯死し、虫が死に、鳥が落ち、土中ではミミズだって死んでいる。
密着中のアルベドだってきつい。
「ま、まあ、私たちがそれだけ魅力的だったということですし……」
「こいつが雄で、しかもあんな所まで双角だとはな……」
あれこれした結果、二人が貞操を失った途端……興奮した魔獣に襲われ。
後脚部の間にあった双角で、二人いっしょにいただかれてしまったのだ。
乗る前に乗られた二人である。
そもそも。
知性の高い魔獣の前で、盛って見せたのが問題であった。
彼は会話こそできないが、人の言葉をしっかりと理解できるし。
不浄を好む知的魔獣として、美的感覚も人間と同じなのだ。
一日以上耐えただけでも、讃えられるべき自制心だろう。
だが、憑依で得たモモンガの絶対的格差が、反論を許さない。
騎乗後……というか、モモンガがむくりと起き上がって以来、魔獣は己の愚行を後悔することしきりである。
「とにかく、あのような関係になった以上、名なしではいかん。アルベドはこれにどんな名を与えているのだ?」
「は。ナザリックでも最強級の魔獣として、トップ・オブ・ザ・ワールドと名づけるつもりでした」
「長っ! 呼びづらいだろ!」
「た、確かに……ではモモンガ様に名付けてはいただけませんか?」
この会話に、
「ふむ、そうだな……やはり二本あるのが最大の特徴……山羊……黒い……」
一応は馬っス、と抗議しても魔獣の心はモモンガに届かない。
「ヤギスケ……フタマタ……うま波兵……」
ぶつぶつと名前候補を並べるモモンガ。
アルベドは上機嫌で、己に密着する主を堪能している。
そんな中。
冷や汗を流し、身を震わせ、精一杯抗議する
彼はあくまでアルベドに帰属する存在であり、モモンガに直接の従属はしていない。
センスはアルベド準拠なのだ。
「まあ、モモンガ様に名付けてもらえるからって、こんなに喜んで」
ちがう!といななくが、振り落としたりすれば殺されかねない。
「よし! 決めたぞ。お前の名前はクロマルだ!」
「まあ、kuromaru! 素晴らしい命名かと!」
アルベドが絶賛する。
なぜかローマ字表記で。
「MUUUUGEEEEEEENN!!」
「ふふ、この子もこんなに喜んで」
「その名に恥じぬよう、あんなことはもうするなよ!」
必死の抗議の叫びすら、喜びと受け止められてしまう。
魔獣は、心の底から己の愚行を後悔した。
というか、その名前で他に何をしろと言うのか。
「それにしても、アルベドの肉体を二つ同時に味わうとか……羨ましい」
「モモンガ様……♡」
そんなクロマルの背で二人はいちゃついていた。
「ずっと待たせた
「どうなさいました?」
発見したという村を監視させていたのだが。
「村が襲われているな。相手は武装した兵士らしいが……ずいぶんみすぼらしいな」
「あら……どういたしますか? 情報収集の予定でしたが」
じっと、
村人がろくに抵抗できず虐殺される様子を眺める。
戦士の肉体を得たモモンガの目で見ても、たいした連中ではない。
「ふむ。村人を助け、騎士を数人拘束しよう。弱者についた方が、恩は売れる」
「は。では……適度にタイミングを見ますか?」
「いや、急いでやれ。村人は簡単に死んでいる。遅れると全滅しかねん……」
「では! kuromaru、行きますよ!」
アルベドが手綱を引く。
やっと戦闘の役目が訪れたと、クロマルは疾駆した。
「MUGEEEN!」
未だ、命名への抗議のいななきを続けながら。
元より、たいした距離だったわけでもない。
一瞬と言ってもいい時間で、彼女らはカルネ村に至る。
最後の跳躍は、天に至らんが如くであり。
二人の超越者を乗せた、超級魔獣の接近に……村の誰もが気づかなかった。
襲撃者たちも含めて。
「エンリ! ネムを連れて逃げ――」
その日、必死に襲撃者に抗っていた男は奇跡を目にした。
「〈
数十もの輝く矢が天より降り注ぎ、襲撃してきた兵士どもを撃ち抜いたのだ。
今にも男の背に剣を突き立てんとした兵士は吹き飛ばされ。
男の命は、すんでのところで守られていた。
逃げろと言った娘らも立ちすくみ。
妻にのしかかっていた兵士など、頭を撃たれ首が折れて転がっている。
兵士らとて何が起きたか理解できない。
空から聞こえた声は〈
彼らはこれでも、特殊部隊の末端。
魔法についても少なからず知っている。
初歩的な攻撃呪文であり、己らなら数回は耐えられるはずなのだ。
最高位の使い手でも数本が限度……それが数十本。
威力も桁違い。一撃で明らかに数発分の威力がある。
何ごとか、と。
誰もが天を仰いだ。
そして、黒き獣と騎士を伴い、女神が降臨した。
「……おい。〈
「最強化したとはいえ……10レベルなさそうですね」
「弱すぎないか?」
「そうですね……」
50レベルくらいかなと思い、己にヘイトを集中させるつもりで放った第1位階魔法が。
思わず、相手を半壊させているのだ。
モモンガもアルベドも、クロマルすら唖然としていた。
しかも、これで襲撃者側は戦意を失ったらしい。
「フレンドリーファイア有効っぽいし、村人らは味方ですらない。範囲攻撃は控えるか」
「絶望のオーラだけで、村ごと滅ぼせるでしょうしね」
昨夜、子宮口で思い知ったフレンドリーファイアである。
「〈
撃ちきれなかった兵士らをさらに撃つ。
逃げ出し始めた。
「〈
逃げようとしている兵士らをさらに撃つ。
倒れ呻く兵しかいなくなった。
「……弱すぎるだろ」
「連携テストになりませんでしたね……」
クロマルも含めた三体での連携テストのつもりで挑んだのだ。
チャージングバッシュや、ランページの使用も想定していたのに。
初手のヘイト稼ぎで半壊&戦意喪失など、想定外である。
強化スキルこそ使ったが、1レベル呪文3回だ。
消耗とも言えない。
二人で溜息をついていると。
「うおおおお! 武器を捨てろッ! 魔法を使うなァッ!」
「きゃあーっ!」
「え、エンリ!」
「お姉ちゃん!」
一人の村娘を後ろから捕え、一際下卑た兵士が現れる。
モモンガは少しだけ関心を向けるが。
「このスレイン法国貴族ベリュース様が! こんなところで終わるわけか――ひっ」
しかし、瞬時にびくびくっと身を震わせながら倒れる。
いつの間にか背後に、目玉だらけの巨大な肉塊がいた。
不可視化で伏兵として配置されていた
「不可視化を見破れない。麻痺の魔眼に抵抗できない、か」
「ありていに言って、ザコ以下ですね……」
ため息をつき、麻痺した兵士――ベリュースにトドメを刺す。
「〈
悲鳴もあげられぬベリュースに集中した十発の魔法弾は、その体をひしゃげさせ、巨獣に踏みつぶされたように変えた。
「本当にもろいな」
「まさしく虫と呼ぶにふさわしいかと」
全力で蹂躙した方が早いのでは……と思えるが。
まだまだ一つの村で全てを判断すべきではない。
「増援が来るかもしれん。一応、護衛を作っておくか……〈中位アンデッド作成〉」
おぞましい音を立て、死んだ兵士の骸が、武装した巨漢のアンデッドとなる。
防御力について信頼できる
その光景に、村人らはひれ伏し。
かろうじて生き残った兵士らは絶望と共に目を閉じる。そして、多くは希望と共に、命すら失ってしまった。
「死体に乗り移るのか……グロいエフェクトだなぁ」
思わぬ仕様変更に、モモンガ当人は困った顔をしていた。
「女神様! ありがとうございます!」
「女神様!」
「女神様!」
救われた村人たちは一斉にひれ伏し、モモンガを拝み始める。
無理もあるまい。
虐殺は止まり、村人の犠牲はほぼなく終わったのだ。
しかも、モモンガは白いドレスに身を包んだ、まさに天上の美と呼ぶにふさわしい美女。
角や翼は人ならざる存在と示すが……同じ人間に殺戮されんとした者らには、些細な問題にすぎない。
「ええ…………ああ、うん、とりあえずまだ生きている兵を縛り上げなさい。それから、重傷を負った村人を連れて来るように」
うろたえつつ答えるモモンガに、村人らが我先にと動き出す。
救い手たる女神に、己の働きを見せんとしているのだ。
「モモンガ様、人間風情にこのような……よろしいのですか?」
甲冑姿のアルベドが具申する。
適当な個体に〈
「我々はこの世界について何もわかっておらん。味方を作っておくべきだろう」
アルベドをなだめ。
連れてこられた兵士――数人しか生きていなかった――を、クロマルに見張らせ。
傷ついた村人らを、アルベドに回復させる。
村人らの死者は四人……襲撃を考えれば、案外と少ないと言えるだろう。
(ふむ……そうすると、HPが0になったからと死亡するとは限らないか。頭を狙わず、腕や足を狙えば、兵士も全員生きたまま無力化できたかもしれんな。まあ、多数の捕虜など邪魔にしかならんが……)
「村人らの死体をこちらへ。我が祝福を与えよう。そして兵士の死体も集めよ。悪しき行いの罰を与える」
わずかな村人は警戒を見せるが。
多くの村人が、率先して死者を並べて行く。
「悪しき者に蹂躙されし子らよ、未だ怒りあらばこの地に残れ」
(……ちょっと厨二すぎるか?)
モモンガ(アルベドの肉体)が、黒い翼を広げ、死した男を黒い光で包む。
その肉体が急激に失われ、目に赤い光が宿る。
衣服はローブに変わり、手には杖。
生前の面影を残しつつも、それは強大な力を見せていた。
「こ、これは……俺は、兵士に襲われ死んだはず……! それにこの溢れる力は……!」
生前の声、仕草で“それ”は言葉を発する。
村人たちは目の前の奇跡に息を呑んだ。
その姿は恐るべきアンデッドだが、意識は当人のもの。
「お前を蘇らせたるは、お前自身の未練。理不尽に対する怒りが、その姿で蘇らせたのだ。その力は村を守り、敵を討つ力と知れ」
「ああ……偉大なる主よ! ありがとうございます!」
復活した男――
(知性あるアンデッドなら、当人の記憶が戻るのか……〈中位アンデッド作成〉もかなり使えるな。効果時間で消えたなら、成仏した扱いでいいか……記憶は死亡後時間にもよるかもしれん。残った兵士も殺して、時間差を試してみるべきだろうか……ああ、呪文でも死体に移るのか?)
かくして、カルネ村に四体の
多数の
これらは彼の地を守護し続け、将来の聖地を守る存在となる。
生き残った兵士らも、女神の威光に撃たれ、知る限りのことを話した。
帝国の仕業に見せかけんとした、スレイン法国の卑劣な行いは明らかとなり。
この地を発信源として、反法国の機運が高まった。
黒翼の女神モモンガ。
黒き守護騎士アルベド。
暗黒の神獣クロマル。
偉大なる三柱による、新たな神話の始まりであった。
原作より少し早く来たので、エンリの両親は無事です。
村人は犠牲者少ないですが、全員が全力でモモンガさんの信者になりました。
さすがに毎回
アルベドはなぜかkuromaruってローマ字呼びします。
ふっしぎー。
(詳細を知りたい方は kuromaru mugen でググってください)
原作モモンガ様に比べるとフツーのネーミングですが、露骨にエロ用語から名前つけるわけにもいかず……。モモンガさんのエロ知識を高くすると、それはそれでアルベドにリードさせづらいので。
呪文やスキルの解釈、一部適当になってます。
〈
呪文強化スキルに使用回数制限があるとすれば、ウカツすぎる使い方の気もしますが……1回目は「一番軽い魔法で様子見しよ」、2回目は「え?今のでホントに?」、3回目は「もうこれでいいや」って感じです。気が抜けちゃってついつい……と思ってくださいませ。
主な理由は、乱戦状態で多数の敵を選んで攻撃できる適切な呪文が、他に思いつかなかったからでもあります。召喚系ですとタイムラグ発生しますし。
死体を媒介に作ったので、エルダーリッチその他は原作と同じく効果時間ナシで永続します。スキルと呪文で作ったため、最終的な命令権はモモンガさんが握ってます。彼ら自身、モモンガさん第一主義で、ナザリックNPCみたいな思想です(生前記憶持ちエルダーリッチも)。