二日目から、ツアーはほとんどを本体に意識を戻して過ごした。こんな発情期の牧場みたいな場所で、真面目に警戒し続けていられるものではない。罠の可能性もなくはないが、こんな酷い罠は本人の品位を下げるだけだろう。色に溺れた八欲王とて、こんな妙な状況は作っていなかった。
一方、素顔を晒していたキーノ――イビルアイが村でやたらと告白されたりナンパされたりして、モテ期を味わったり。リグリットが同程度の外見年齢の老人に誘われたりもした。
村の異常性について一応教えたので、二人が流されたりはしなかったが。
もっとも、カジットなる人間と、デイバーノックなるアンデッドが、別の意味で熱心に二人に通って来た。至極真面目な魔法談義のためである。外見に反して邪悪な目的でもなかったらしく、実りあるものだったらしい。
そして、肝心の女神との会談は。
三日目の夕方、エンリが城塞に入ったものの、今日は無理と言われ。
四日目も明日にするようとの伝言。
結局、モモンガが城塞から出てきたのは五日目の夕暮れであった。
場所は城塞の前。
簡素な机や椅子が並べられ、料理や飲み物も用意されている。
鎧を遠方から操作しているという点に、モモンガは驚き感心していたが。
女神の反応はそれだけである。
とりあえず、さんざん待たされた文句くらい言いたい。
竜王じゃなくたって、誰でも文句は言うだろう。
「……三日って聞いてたんだけど?」
「すまないな。どうにも長引いてしまった」
「昂ぶってたの間違いじゃないかい?」
「昂ぶりだって長引くのだぞ。というかエンリが来なければ、しばらく出てこないつもりだったのだが」
「くふーっ! 私は何日でもOKです!」
嫌味はまったく通じない。
モモンガは嬉しそうに食事を口にしつつ、ツアーに受け答えする。
横にいるもう一人の同じ顔をした女神――アルベドは、モモンガにぴったりとくっついたまま歓喜の笑みを浮かべている。
(本当にそういう種族なのかぁ……他に何もしないなら、心配ないかもね)
正直、真面目に警戒していたのが馬鹿馬鹿しい。
それを狙ってる気配が欠片でもあれば違ったのだが。
二人とも、頭がおかしいのじゃないかというくらい、お互いのことしか考えていない。
まあ、モモンガという白いドレスの女神は、食事に夢中ではあるが。
(人間基準じゃ美人だろうってわかるけど……洗練された作法じゃない。そういえば、リーダーも随分とこの世界の食事に執着してたっけ。ぷれいやーの共通点なのかな?)
観察しつつ、とりあえず会話を続ける。
「じゃあ、単刀直入に聞きたいんだけど。キミたちは“ぷれいやー”なんだよね? この世界を汚すつもりかい?」
「意味がわからんな。お前の言う世界とは何だ?」
食事する手も止めず、視線も料理に向けたまま言う。
「世界は世界だよ。強すぎる影響を与えたり、暴君になって振舞われちゃ困るんだ」
「だからお前の考える世界の定義を言え。私はお前ではないのだぞ。具体的に言え。お前の国か? お前の共有する文化圏か? ドラゴンという種族か? この大陸か? この惑星か? この宇宙か? この次元か?」
「えっ? えええっと、その定義だと……一応この惑星?かな? 要するに、世界の法則そのものを乱さないでほしい」
「ニグン、お前の考えを言え」
背後に控えていたアンデッドの男に振る。
当人はそのまま食事を続けた。
「モモンガ様、頬についております♡」
「あ、すまないなアルベド……んっ♡」
というか、食事以前に二人で絡み合っている。
手足に限らず、舌とかも。
(一応会談中なんだから、その間くらい控えてくれないかなぁ)
「失礼ながら、モモンガ様に代わりお話させていただきます。過去の“ぷれいやー”の事例から鑑みまして、モモンガ様が八欲王の如き振る舞いをされては困る……とお考えでしょうか?」
ニグンが双方に敬意を払いつつ話を継いだ。
ツアーとしてもほっとする。
五日間の調査によれば、この村ではアンデッドの方が“まとも”なのだ。
ある意味、衝撃的な真実だった。
「まあ、そうだね。六大神や十三英雄のリーダー、口だけの賢者なんかは、特に問題はなかったよ。けど、八欲王は世界の法則自体を大きく歪めた。それこそが“世界を汚す”ってことだね」
「なるほど。では現時点のモモンガ様は“世界を汚す”には至っていないと見ていいのでしょうか? 我々のしてきたこと、可能な限りは既に説明させていただいたつもりです」
実際、ニグンとクレマンティーヌ、ついでにエンリも、こと細かにモモンガのしてきたことを教えてくれた。
途中で教典として書き記しておこうとか言いだし、必要以上に詳細化されていたほどだ。
「そうだね。特に問題ないよ。王国の人間が皆殺しにされてたら考えるけど、動機や状況を見る限り、悪意を持ってしたわけじゃない。悪意があっても、相手を選んで世界を歪めなければ、私は気にしないかな」
その基準で言えば、他種族を執拗に滅ぼそうとしているスレイン法国の方が、よほど問題なのだ。
「では、モモンガ様が六大神に連なる立場になろうとも、特に問題はありませんか?」
「キミたち人間が崇める分には気にしないよ。六大神は、私も認めているしね」
言いくるめられている気もするが、現状で敵対する気にもなれない。
というか、いちゃつきを邪魔したから殺し合いとか、体裁が悪いというレベルではない。
「ありがたきお言葉でございます。ただ……認識をすり合わせるためにも、質問させていただいてよろしいでしょうか?」
「かまわないよ。くだらないことで遺恨を残したくもない」
深々と礼をし、ニグンが切り出す。
なお、女神は一応程度に耳を傾けつつも、二人で食事を食べさせ合っている。
テーブル下では脚も絡めており、およそ真面目な態度でない。
(うーん、実際まだ昂ぶってるのかな。興奮状態なのも間違いない。帝国にも、向こうの部隊が来たから行ったみたいだし。放置しておけば、ずっとこもってた気もするなぁ)
来ない方がよかったかなぁ、とも思ってしまう竜王。
「私はかつてスレイン法国にて、六色聖典が一つ陽光聖典隊長を務めておりました。その身としての質問でもございます」
「……初耳なんだけど」
「あ、すまん。言うの忘れてた」
横にいたイビルアイが、軽く言う。
「…………」
「あだだだだ! ちょっと忘れただけじゃないか!」
ツアーは、イビルアイの頭をぐりぐりと白金鎧の拳で挟み、仕置きした。
重要な情報である。
わかっていれば滞在中、ニグンにいろいろ聞けたのだ。
「こほん、法国と評議国の不仲は亜人種や異形種への姿勢によるものと考えておりますが、間違いありますまいか?」
「国としてはそうだね。私個人としては、スレイン法国には他にもいろいろあるけれど」
「そのいろいろについて……この場で教えていただかずともかまいません。私以外にも、クレマンティーヌが元漆黒聖典の身。またアンデッドとなった者には元陽光聖典も多数おります」
「ああ、この村を帝国兵に偽装した法国兵が襲ったんだっけ?」
「はい。私がその指揮官でございました」
経緯自体は聞いてる。
ニグンは村人らに詫びるように、周りを見回して一礼する。
村人らもすっかりニグンを受け入れているのだろう。文句を言ったりする者もいない。
「こうした経緯ゆえ、法国がここに接触してくるのも時間の問題でしょう。正直、竜王殿がいらっしゃる間に来てはくれまいかと期待もしておりましたが」
「……すると、キミたちは法国と対立するつもりかな?」
「我々は多数がアンデッド。また
「ふぅん……多種族国家がここにできてくれるのは、私としても歓迎するよ」
「その言葉、我らにとって何より心強き支援です」
法国と不仲なら、ツアーにとっても評議国にとっても、いいことだ。
彼の国の現状は正直、受け入れがたい。
「ああ、私からもいいか?」
ぴったりと横のアルベドに抱き着くようにしながら、食事を終えたモモンガが口を挟む。
「何かな? キミが世界を歪めない限り、私はキミたちの邪魔はしないつもりだけど……」
「八欲王は、具体的に何をしたから“世界を歪めた”と認定されたのだ?」
「ああ……それは簡単だよ。彼らはこの世界にあった魔法を消し去り、“位階魔法”という法則を持ち込んだんだ」
モモンガとの会見後、三人はニグンの〈
竜王が望むなら、ニグンの知る範囲でより遠方まで送ってやるよう言ってある。
既に消えた一行を軽く見送り、二柱の女神は再び城塞内に戻った。
「モモンガ様、あれでよかったのですか?」
「何がだ?」
浴室前の脱衣所で服を脱ぎつつ。
問いかけるアルベドに、モモンガが首をかしげる。
「いえ、世界を歪める力があると誤認させておけば、あれに対して今後の抑止力になったかと……」
「あれは、我々と同程度かそれ以上の力を持つと考えた方がいい。私よりは下だと思うが……アルベドに、もしものことあらば、私は生きておれん」
「くふーっ! そ、そうですかっ。いざとなれば私は、モモンガ様と同じ体に戻ってもっ」
「いや、法国がいつ覗いておるとも限らん。あれはなるべく見せたくない……お前に触れることもできんしな」
この世界が初心者エリア同然とわかってはいても……それなりの慎重さはある。
話からすれば
最悪、モモンガの使う呪文やスキルを無効化されるかもしれない。防御系スキルを貫通される可能性も高い。
とはいえ、アルベドとて、モモンガの心配は理解している。
その上で。
「だからこそ、こちらも一定の手札を備えておくべきかと愚考しましたが……んっ♡」
真面目に問いかけるアルベドのドレスを、モモンガが脱がせる。
「敵を増やしても仕方あるまい。私はアルベドとこうして過ごすためにいるのだぞ?」
「あっ♡ そ、それはありがたい、ですが……っ♡」
裸体になった肌をすり合わせつつ、四肢を絡み合わせる。
外に出た後はまず身を清め。
互いの匂いしかしなくしてから、貪り合うのが常。
「我々は神を名乗った。神は謀らぬ。神は企まぬ。人々の願いを時折、聞いてやればよい。それ以外は……な?」
モモンガが、アルベドだけに見せる蕩けた笑みを浮かべる。
「……はい♡」
アルベドも、熱に浮かされた笑みを返し。
互いに唇を重ね、口の中を味わいながら。
浴室に向かった。
隅々まで、奥まで、清め合い、弄り合い、味わい合うために。
リグリットとイビルアイは王都に残り。
ツアーはニグンの〈
はずだった。
「やあ、助かったよ。遠隔操作で延々と戻るのは面倒だし。転移させるにも、力を使うからね」
「いえ、竜王たる御身を案内できたこと、光栄に存じます」
ニグンは少しばかり慇懃無礼に、頭を下げた。
「……で、評議国にしては随分と僻地だけど。首都には行ったことがないのかい?」
口調は柔らかだが、いくらかの威圧が込もる。
「少しばかり、竜王殿とお話させていただきたく」
「キミの主は知っているのかな?」
「いいえ。しかし、我が偉大なる主があのように判断を為された以上、私に可能な補佐を行なっておくべきと考えます」
「密約とかの類はやめてほしいんだけど」
手下の勝手な判断が間に入れば、モモンガとの関係が面倒になる。
「いえ。先ほど別れた彼女らには聞かせるべきでないと判断した……ただの情報です」
「情報?」
予想外の言葉に、首を傾げた。
「陽光聖典隊長としての私が持つ、スレイン法国の機密についてです。無論、確認は随意になさってください」
「……聞こうじゃないか」
答える竜王の声に、温和な色はなかった。
ツアーとしては、わざわざ来ない方がよかったんじゃ……って気分でしたが。
察したニグンさんが、お土産をくれました。
カジット&デイバーノックは、魔法研究がんばってます。
アルシェも学院にいた魔術師(アカデミック・ウイザードのクラス)なので、後々二人に質問攻めに会いますが、今は帰っちゃうってわかってるリグリット&イビルアイを重点。
ンフィーレアとニニャ、他のエルダーリッチさんたちも、ちょいちょい参加してます。
女神二柱は、初デート後なので昂ぶってました。
ジルとのあれこれから、二人で相互に恥ずかしいプレイしてました。
ツアーに聞かれてたとか気づいてません!
本編で書かれなかった内訳はだいたい以下の感じ。
帰宅0日目:モモンガ赤ちゃんプレイ(ツアー来た夜/ツアー監視中)
帰宅1日目:アルベド赤ちゃんプレイ(ツアー監視中)
帰宅2日目:普通にセクロス(ツアー監視中……もういいや)
帰宅3日目:普通に……→エンリ来る→竜王に会うとかめんどくさいアルベドとセクロスしてたいってごねるモモンガ(ツアー:私も来たくて来てるんじゃないよ)
帰宅4日目:もう一日!もう一日だけだから!(ツアー:帰ろうかなぁ)
帰宅5日目:夕方に出るからってやたら激しくなる(ツアー:あ、出て来るつもりはあるんだ。一応待とう)
蒼の薔薇やラナーの時と違って近所でもないし。
ツアーがけっこう強いので、神様ぶらずに素直に普段の己を見せてます。
普段の己ってつまり、二人でひたすらいちゃいちゃしてるってことですけどね!
賢いアルベドは並列思考で、ツアーの思考感知もすり抜けてます。
読心系能力効かないユニークプレイヤースキル。
余談ですが、エンリもフールーダ討伐後は戦闘の昂ぶりをンフィーにぶつけました。
翌朝(ツアー1日目)、ンフィーは回復魔法がなければ起きられませんでした。
でも、その夜もまたエンリに夜戦を挑まれてました。
回復魔法使える人が多く、アンデッドだらけでMP消費する機会少ないため、カルネ村において回復魔法の主対象は腰と粘膜と精巣です。